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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
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初夢

「三、二、一、ハッピーニューイヤー!」


 十二月も終わりをつげ、いよいよ演習まであと僅かとなった大晦日。この日俺たち三年一組は年越しパーティーを開いていた。


「あけましておめでとうございます!」

「おめでとうございます!」


 本来、俺たち救世主組にこんなことをしている余裕などなかった。だが、誰かが言った『祝い事も祝えぬ輩に大事は成せん』という格言の元、大みそかくらいはという感じで俺たちは満場一致し、この日だけは普通の学生へと戻った。


「リーパー、お年玉下さい!」

「なんで俺に言うんだよ! おばさんに言え!」

「お母さんからはもう貰いました。それにフィリアのおじさんにも貰いました。後はアルバイン家だけです」

「じゃあじいちゃんに言え!」


 毎年お年玉を貰うのは、リリアが言った以上の三家だ。もちろん俺もその三家からしかもらえない。


「だってリーパーのおじいちゃんは日本にいるじゃないですか! だから代わりにリーパーがくれないといつもより少ないです!」

「それを俺に言うな! 大体よ! じいちゃん今入院してんだから、逆にお前がお見舞金出せよ!」

「それは無理です!」


 なんか、WSOの人の話によれば、じいちゃんコロナに罹ったらしくって、年も年だから入院したらしい。それに、もしかしたらそのまま限界迎える事もあるらしくって、ぶっちゃけ今俺こんなことしている暇は無い。だけどクリスマスは何故か登山して一泊させられたし、帰ってきたら演習前の最後の詰めみたいな感じでハードなトレーニングさせられたりで、日本に帰っている場合でもなかった。


「そんな事よりも、もう寝る時間です!」

「忙しい奴だなお前」

「何を言ってるんですかリーパー! 明日……いえ! 今日は魔法の授業があるんですよ! お正月なのに!」

「そうだけどよ……」


 マジで超時間が無い俺たちは、元旦の今日もいつもの如く授業がある。お正月なのに!


「それに、初夢を見るには今日しかありません! お年玉は今度にして、先ずはもう帰りましょう!」


 実際今日も半日だがトレーニングがあって疲れているし、眠いのは事実だった。それに早い奴に関してはもう帰り支度をしている始末で、スクーピーはもういないし、アドラは寝てるしで、この場合リリアの主張の方が正しかった。


 そんなリリアの声が聞こえたのか、もうちょっとやってこう的な雰囲気だった大人たちも自制が効いたのか、ほんといきなりフィリアのおじさんが声を上げた。


「よし! 新年も迎えたし、明日も普段通り訓練がある! 今日はこの辺でお開きにしよう!」


 この鶴の一声で、色々あった大晦日パーティーは、特に何の見せ場も無く終わった。お正月なのに。

 そんな感じで、今年も……いや、今年は例年以上に何もないお正月になるのだと思っていたのだが、今年は違った。


 その日、俺は不思議な夢を見る。


 それは、魔法に関しての物だった。なんか知らんがゲームみたいな感じで魔法が扱える俺は魔物と戦っていたのだが、なんか徐々に敵が強くなっていって最後は全然で、なんかこれじゃ駄目だってなって魔法の練習をすると、背中から泡みたいな魔力が出て、それが汚い黄ばんだ色してて、酸っぱい臭いがするという、ここまでだとただの今年もダメダメそうな夢。

 だけど流石初夢だけあってこれじゃあ終わらなくて、なんかファウナみたいな人が出てきて、『その汚ったない泡の上澄みが本当の魔力』だと教えられた、っていう話。


 それは本当にただの夢だったのだが、早朝から嫌がらせのように連発で来たリリアたちの“あけおめ”LINEで目が覚めてもはっきり覚えていて、何かの啓示だと感じた。そして今日は丁度魔法の授業だったため、今朝見た夢を皆に語ると、それは本当に天の啓示だった。


「それは凄い夢です。見たという夢は事実です」


 いつものように先生が来るまでの時間、雑談の中で話すとフウラが驚いたように言った。


「事実って?」

「皆さんが知っている魔力は、炎のようであったり、水のようであったり、中にはアメーバのように粘性がある生体物質だと感じている人もいるのではないでしょうか?」


 俺たちが想像する魔力とは、体から溢れるオーラくらいしか目視できないから、フウラのいうイメージは凡そあっている。

 実際俺には炎のような物質に見え、体内を走る感覚から質量の無い水のように感じる。それこそ体を纏う動きから粘性体にも見え、フウラは的確に想像を言葉にしていた。


「しかし実際は違います。魔力は一つ一つが独立した物質で、分かりやすく言えば小麦粉のように“粉”のようになっています。それを生体エネルギーなどで繋ぐため、そう感じるだけです」


「なるほど。つまり小麦粉に牛乳や卵を混ぜると、ドロドロになるという感じか?」

「そうですクレア。だから魔法や錬金術は料理に例えられるのです」


 なるほど。流石賢者。説明が分かりやすい。


「つまりだ。フウラが常に独特の魔力を纏っているのは、それを理解し習得したからというわけか?」

「そうです」


 クレアは、やる気を出せば魔力の流れを目視することが出来る。そんなクレアの事を知らないマリアたちが驚く。


「えっ⁉ クレアって魔力見えるの⁉」

「あぁ。集中力はいるがな。調子が良ければ空気中を流れる魔力も見える」

「凄い!」


 やはり魔力が見えるという特技は相当レアらしく。それを知らなかったクラスメイトは“さすが学級委員長!”的な眼差しを向ける。しかしさすがクレアに付き合っていては先生が来てしまうので、さっさと話を進める。


「フウラが纏う魔力が独特ってどういうことだよ?」

「フウラの魔力は冷気のように床に向かって流れている。それをフウラはレインコートのように纏っているんだ」

「ん?」


 ちょっと何言ってんのか分からなかった。そこにクレア以上に常に魔力が見えるパオラが加わり、もっと何言ってんのか分からなくなった。


「フウラってね。いつも寒そうにしてるの。なんかね、冷凍庫開けたみたいに白くって、服着てるみたいになってるの」

「え?」

 

 クレアの表現では何となく分かりそうな感じだった。しかしパオラのせいで、サランラップに包まれてカチカチに冷凍された肉しか想像できなくなり、皆急に訳が分からなくなった。


「ドライアイスの煙は分かりますね? フウラはそれを常に頭から被り、レインコートを着たような状態で体を防護しているという事です」


 サンキューヒー! 分かりやすい!


 危うくカチカチのお肉で話が終わるのかと思っていたが、賢いヒーが分かりやすく説明してくれたお陰で、事なきを得た。


「そこまで濃い煙とは違いますが、ヒーの言うような感じです。私が纏っているのは“ドレス”という技術で、魔力の触れる範囲の感知に優れ、即座に硬化させることで高い防御力を出すことが出来ます」

「おお! さすが賢者!」


 ドレスと聞いた瞬間は、地上最強の生物が息子をヌンチャクのように振り回す想像が頭を過りヤバかったが、ちゃんとした高等技術なのだと分かると、流石としか言いようが無かった。


 しかし何故そんな高等技術を俺が夢で見たのか謎で、ウイラが訊く。


「それを何故リーパーさんが夢で見たのでしょう? もしやリーパーさんの加護印と何か関係があるのでしょうか?」

「それは分かりません」


 フウラきっぱり。知らない物は知らないとはっきり言う性格は素晴らしいが、折角ウイラが俺を引き立たせようとしたのに、あっさりスルーされてしまった。


 ウイラは、俺、キリア、エヴァのエロ同盟の一員で、結構良い奴。そして超スケベでいやらしい奴。本来ならウイラと色々仲良くなった話をしていこうと思っていたが、こいつは僧なのにめっちゃエロいからウイラの威厳のためにもしないつもり。

 ただ一つ言えるのは、ウイラはあのキリア師匠を上回るスケベで、ウイラとキリアと俺で、クラスで誰が一番可愛いかと言う話をしたことがあったのだが、ウイラはスクーピー以外のまさかの女子全員なら誰でも構わないと言うほど見境が無く、それこそ下着の統一に関してもキリア師匠を大いに称賛するくらいで、エロ神様の聖刻を与えられてもおかしくない存在だった。


 そんなエロ同盟国のウイラが折角俺の凄さをアピールしてくれたのだが、五十嵐家の血を引くフウラにあっさり潰されてしまった。


 しかし捨てる神あれば拾う神ありで、ここでファウナが擁護してくれる。


「おそらくリーパーがその夢を見たのは、私たち加護者へ、神様からの啓示なのかもしれませんね」


 おお! 流石ファウナ! 夢に出て来たのはやっぱりファウナだったんだ!


「え? リーパーはアズ様の加護者だぞ? リーパーに見せる意味ねぇから。アズ様の聖刻貰っても魔力いらねぇから」


 エヴァー! お前同盟国じゃないのか⁉ 何裏切ってんだよ!


 エヴァは本当に良く分からない。基本良い奴だけど、こういうときは何故か俺を貶める。所詮エロ同盟!


 ウイラからファウナに繋いだ手助けで、流石リーパー! 私たちのリーダー! 的な、女子たちの熱い視線を期待してたのに、ここでまさかの裏切りで完全にそれは無くなった。


「しかしだ。リーパーがその夢を見たんだ。何かこれは俺たちへのメッセージの可能性がある」


 おお! 流石我が同士! 我が師! キリア、なんかサンキュー!


「フウラ。そのドレスという技、俺たちに教えてもらえないか?」

「それはおそらく無理です。これは超高等技術で、魔力を粉として捉えるところから始まります。既に魔力に対してイメージを抱いている者がそれを払しょくするにはかなりの時間を要します。実際私もドレスだけを習得するのに五年以上掛かっています」


 賢者の称号を与えられたフウラだからこそ出来る技。やはりそう簡単には習得できるわけではなさそうだった。


「ですが、もしこの夢が何かしらの意味があるのなら、もしかしたらリーパーさんなら習得が出来るのかもしれません」

「え?」

「それに、リーパーさんはまだ魔力を感知してから日が浅いのもありますし、夢でドレスを体感したと言いましたから。先生が来るまでまだ時間はありますので、リーパーさん、やってみましょう」


 まさかの、実は俺すげぇイベント⁉ もしこれで俺が一瞬でドレスを習得すれば、女子たちの好感度爆上がり! 


「分かった。頼むフウラ」

「分かりました」


 ドレスを習得したところでどんなメリットがあるかなんて全く知らないが、ここに来てまさかの俺が主人公的なイベントの襲来に、当然答えはOKだった。

 しかしこれがちょっとしたトラブルを引き起こすとは、思ってもいなかった。


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