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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
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育ちは違えど同じ血筋

「ふぅ~、美味かったな?」

「うん。パオラのジャガイモ意外と美味しかったね?」

「あぁ。あんな風に切ったのにな」

「うん。あんな風に切ったのに」


 なんだかんだあった調理実習だが、無事カレーが完成すると意外と美味しかった。特にツクモが切った玉ねぎとパオラのジャガイモは逸品で、俺たちの班は成功と言えた。


「じゃあ後は片付けだな。って言っても、皿くらいだけか」

「うん。後はカレー入ってた鍋とご飯の釜くらい」


 パオラとツクモは料理が得意というだけあって、カレーが完成する頃には使用した全ての調理器具を綺麗に洗い終えていた。そんな二人のお陰で俺たちの班の洗い物は少なく、全班の中で最も素晴らしい成績を残した。

 だが、今回の調理実習で最も素晴らしい成績を残したのは俺たちだが、最も楽しんだリリア班に比べれば、大したことは無かった。


 リリアたちの班は、山男の料理という訳の分からないテーマでの実習だった。その内容は、ステーキとご飯とお茶というシンプルな物だったが、実習室の裏庭で石をフライパンにして焚火で肉を焼き、ご飯は飯盒で炊き、お茶も焚火で沸かすという、圧倒的アクティビティを見せて来た。

 そんな素ん晴らしい調理には、当然俺たちも羨ましかったのだが、リリアたちはさらにフランベとか言ってファイヤーしたり、勝手に焼き芋を焼いてみたりやりたい放題で、現代科学の力など目じゃないくらい良い匂いさせて旨そうだし楽しそうで、滅茶苦茶羨ましかった。その上皆気になってちょっかい出しても、『絶対にあげないです!』とか頑なに肉くれないし、カレーを叩きつけてやりたくなった。


 結局こういう事は流石遊びの達人リリアには勝てないようで、調理実習の勝者はリリア班だった。ちなみにクレアたちパスタ班は普通で、テーブルクロスとかで食卓を飾ったが普通で、高級そうで美味しそうだったが一番普通だった。


「じゃあ皆も食べ終わったし、片付けしよっか」

「あぁ。早く終わらせて昼休みにしようぜ?」

「じゃあ私はパオラと鍋洗うから、ツクモはアドラとお釜洗って」

「任せて」

「リーパーはフーちゃんとお皿洗って」

「……分かった」


 この班ではもはやマリアがリーダーだった。そんなマリアが、きちんと組み合わせを変えて配置した事で、フウラとは全くと言っていいほど会話した事が無いが、俺はフウラと皿洗いをすることになった――


「…………」

「…………」


 マリア隊長の指示に従い、皿洗いを始めた俺とフウラだったが、案の定全く会話の無いまま無言の時間が続いていた。


 フウラは見た目や雰囲気は本当にリリアたちと変わらない。それこそ三つ子じゃないかというほど背丈も似ていて、喋り方も似ている。そんなフウラだが、リリアたちと犬猿の仲であり、そのリリアたちと仲良くする俺の事を敵対視している感があり、今までどんなにマリアと一緒に近くにいても、会話という会話はしたことが無かった。


「なぁフウラ?」

「……はい」

「マリアとはどうやって仲良くなったの?」


 マリアが、全く仲良くしようとしないフウラたちをどう思っていたのかは分からない。それでも折角マリアが与えてくれた機会。このまま無言で終わらせるより、少しでもフウラを知ろうと話しかけてみた。


「……覚えていません。ただ、マリアは誰とでも直ぐに仲良くなりますし、クラスでも人気者でしたから、その影響が一番強いのかもしれません」

「そうなんだ?」


 どうやら敵対視されていると思っていたのは、俺の勝手な勘違いのようで、フウラは普通に応える。


「はい。マリアはまるで魔法使いのようです」


 賢者の称号を持つフウラが、マリアを魔法使いと言ったことには、なんだか粋なジョークに聞こえた。


「私たちが集められた当初は、クラスはなかなかまとまりがありませんでした」

「そうなんだ?」

「はい。年齢もそうですが、既に役職を与えられて就職されている人や、跡継ぎが決まっており忙しい人ばかりで、とても今の三年一組のような雰囲気ではありませんでした。それをマリアがまとめたくらいですから」


 俺たちの貴族、不良、芋侍の三つ巴とは違うが、フウラたちのクラスもそれはそれで色々あったらしい。


「あ~そうだったな。マリアもそんな事言ってたっけ」


 フウラたちのクラスは、俺たちとは違い、二十代の人たちもいたらしい。その上クレアの従兄は次期社長、キリアの従兄は時期病院長の立場にあり忙しかったらしく、現に合流時点で辞退するほどの勢いだった。ちなみにツクモにも聖陽という名の兄がいるのだが、斬鉄が出来るほど強いため、俺たちのクラスにいても効率が悪いという事で、現在はフィリアたちのおじさんと一緒に訓練している。



「でもそれは俺たちも同じような感じだったよ」

「そうなんですか?」

「うん。クレアとかキリアとか貴族組と、俺たち日本から来たメンバーで揉めたり、アドラとパオラなんて最初いきなり教室のドアぶち破って大変だったんだから」

「それは本当ですか?」

「あぁ」

「でも、それをどうやってまとめたんですか?」

「え? う~ん……いつからだろう……なんか気付いたら知らないうちにそれなりに仲良くなってた」

「そうですか……」


 一体いつからだろう。エリックやアドラたちとは結構すんなり仲良くなれた気がするが、クレアやキリアに関しては何が最初のきっかけだったのか全く思い出せない。


「でもフウラたちは凄いよな。エヴァやファウナは聖刻並みの力持ってるし、ツクモは剣道で世界一になったことあるし、ウイラは修行で加護印出したし、フウラなんて賢者の称号持ってるんだろ? 俺たちと違ってエリートばっかりじゃん」

「そ、そんなことはありませんよ……」


 褒められたことが嬉しいのか、フウラは口を少し尖らせて、照れ臭そうに視線を反らした。その姿はまるでリリアとヒーを足して二で割ったようで、本当に三人は血が繋がっているのだと思った。


「黄泉返りもいて、加護印は八人も発現させた人がいて、パオラなんてオッドアイまで持っているじゃないですか? どう考えても元三年一組の方が凄いですよ?」

「まぁ……そう言われればそうかもしれないな……」


 そう言われれば、確かにそうかもしれない。だがそれは外側だけで、内を知れば知る程才能の無い輩ばかりで、肩書や見た目って意外と大事なんだと思った。


「でも、やっぱ賢者には敵わないんじゃないのか? それも最年少でしょう? フウラはほんと凄いよ」


 これは本心から出た尊敬の言葉だった。しかしこれがいけなかった。


「そんな事はありません。ブレハート家は、代々魔力に長けた高魔族であり、フィーリア神様の加護を受けた一族です。そんな家柄でありながら、全く努力もせず凡人になったリリアとヒーたちが情けなさ過ぎるんです」


 あ、やっちまった……触れちゃいけないとこ触っちゃった……


 リリアが天然、ヒーが天性なら、フウラは努力の子だ。そのどれもが天才と呼べる才能なのだが、流石ブレハート家の娘だけあって馬鹿ほど努力したフウラにとっては何もしない五十嵐家はやはり許せないようで、急に愚痴のような事を言い始めた。


「もし二人がきちんと英雄の子孫として鍛錬を怠らなければ、私はきっと二人には敵わなかったと思います。なのに二人は遊んでばかりで、学業だって平凡だし、未だに基礎的な魔法くらいしか使えません」


 基本的に二人を認めている。なんだかんだ言って結局根が良いのは血筋のようで、この辺りも流石だと思った。


「どうなんだろうな? 確かに二人がきちんと努力してればそれなりになってるだろうけど、フウラみたいに賢者にはなれなかったと思うぞ?」

「そんなことはありません。現に二人は私には無い物を持っています」

「それだよ。リリアは確かにひらめきみたいな才能はあるけど、基本バカだからしょうも無いイタズラとか下らない魔法ばっかり覚えて駄目だろうし、ヒーは真面目過ぎるから基礎的な事しかしないと思うぞ? 応用とか苦手だから」


 基本二人はそう。リリアは遊ぶことに一生懸命だし、ヒーはそれに付いて行くのに必死で、とにかくリリアが怒られないように基本的な事を無難に覚える事しかしない。だから二人は今まで上手くやって来れたのだろうけど、それ以上は無かった。まぁ、こんなことを言うのもあれだけど、もしリリアとヒーが双子でなければ、ヒーは賢者に成れる可能性はあったがそれはタラレバでしかなく、いつもリリアが楽しそうにしているから、それで良かったのかもしれない。


 そんな俺の話を聞いて、フウラも思う所があるのか、ちょっとムスッとした表情を見せた。


「それは分かっています。それでもいつも二人でいるのなら、もっとちゃんとすべきです」


 この時、フウラは何気なく言ったつもりだが、俺にはフウラが何故二人を嫌う理由が分かった。おそらくフウラは、リリアとヒーがいつも一緒にいる事が羨ましいんだ。そしてさらに言えば、二人の周りには俺やフィリアやジョニーがいる。

 フウラがどういった家族関係を築いているのかは知らないが、二人を尊重するフウラがここまで毛嫌いするにはそれが一番納得だった。何よりブレハート家は基本的に人見知りをするし、未だフウラがマリアとくらいしか楽しそうに会話しないことからも、大体俺の予想は当たっていると感じた。


「じゃあフウラから二人に直接言ってやれよ。従姉妹なんだし」

「それは駄目です! 二人は卑怯ですから! 私が何か言えば『ほにゃにゃにゃにゃございます~』とか言って難しい日本語を使ってきますから!」


 オメェもリリアたちと同じ事言ってんのかよ⁉ オメェら姉妹以上に姉妹なんじゃねぇの⁉


 驚くべきブレハートの血筋。ここまで思考が同じだと、どれほどブレハートの血は強烈なのかと感心だった。それどころか熱くなると本当にフウラがリリアかヒーに見え、なんか物凄い親近感が沸いた。


「それでもよ。ちょっとは仲良くすれよ? 俺からも二人には言っておくから?」

「余計なお世話です! 私は別に二人と仲よくする必要は無いと思っています!」


 本当にリリアとヒーを足して二で割ったような性格。話していてリリアたちの新たな面を見ているようで、ちょっと楽しかった。


「そう言うなよフウラ。もしフウラが二人と仲良くなったら、俺の部屋とかで一緒にゲームとかできるじゃん。あいつらズルいからいつも手を組むから、力貸してくれよ?」


 三人が仲良く話す姿を見てみたいと思った。そこで変則的だが理由を付けて何とかフウラの気持ちを動かそうと思った。するとこれが効いたのか、フウラの態度に変化が起きる。


「そ、それは……マリアも一緒という事ですか?」


 リリアは遊び、ヒーはリリア。目の前にニンジンをぶら下げられると一目散に飛びつく。やはりブレハートの血を引くだけあって、温もりを求めているフウラは飛びついた。


「もちろん! マリアならいつでも呼べば来るよ。だけどフウラが来ないって言ったら、マリアだって考えるよ」

「そうなんですか?」

「当たり前だろ? マリアだぞ? マリアだっていきなり俺たちの部屋で遊ぼうって言ったって一人じゃ来づらいだろ?」

「そうですけど……」


 多分マリアなら誘えば一人でも来る。だけどフウラをその気にさせるため嘘を付いた。


「まぁ別に今すぐって言ってるわけじゃないよ。だけどちょっと二人とも仲良くしてみろよ。俺も協力するから」

「本当ですか?」

「あぁ」

 

 本当はフウラも二人と仲良くしたいのだろう。協力すると言うと、意外にも素直な応えが返って来た。


「分かりました。少し考えてみます」

「頼むよ。俺からも二人にはそれなりに言っとくから」

「お願いします」


 俺の助言で歩み寄りの姿勢を見せたフウラ。こうして少しずつだが、三人は仲良くなっていくのだが、両者の間にある溝は予想以上に深いようで、三人が仲良くなるのはまだまだ時間が掛かりそうだし、なかなか大変だった。


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