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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
52/186

料理上手の沙汰

 十二月に入り、今年も残すところ僅かとなった。この頃になると、俺たちは一月に行われる演習へ向けて再び一緒に授業を受ける形にシフトし、絆を深める事を最重要課題として励んでいた。

 

 そんな本日。より絆を深める事を課題としている俺たちは、調理実習の授業を受ける事となった。


「それでは、各班調理を開始して下さい」


 もう演習まであと僅かとなり、仕上がってないけど仕上がってなければいけない三年一組は、こういった共同での作業が必要な授業が多くなっていた。っというか全然仕上がってないが、もう皆と歩調を合わせていかなければいけない時期で、これまた強引な状況だった。


 それでも今更慌ててももう遅い状況なのは確かで、まぁ~半分諦めたというか、なんとかなるだろう精神というかとにかく付け焼刃で、もう駄目だからせめて適当に楽しもうと目の前の課題を必死にこなす感じだった。


「よし。じゃあパオラ頼んだぞ」

「任せて師匠!」


 今回の調理実習は、アニー先生の元、三班に分かれ昼食を作るという物で、俺たちの班はカレーとサラダと飯だった。そしてそのメンバーは、俺、パオラ、アドラ、ツクモ、フウラ、マリアの六名。


「じゃあ先ず、野菜から切るんでしょうパオラ?」

「うん。そうだよマリア」

「じゃあ私は、フ~ちゃん(フウラ)とニンジン切る」

「じゃあ私は、ジャガイモ切る」


 マリアは結構人付き合いが上手なようで、もうパオラとはかなりの仲良しになっている。


「じゃあツクモは玉ねぎ切って? ツクモなら玉ねぎ切っても涙出ないでしょ?」

「もちろん! 任せてマリア!」

 

 マリアは人を繋ぐ能力に長けていて、前のクラスでも中心的人物だった。そしてこういった事には特に能力を発揮するようで、料理が得意なパオラを差し置いてテキパキと指示を出す。


「じゃあ、リーパーとアドラは、お米炊いて?」

「分かった。じゃあアドラ、一緒にやろうぜ?」

「分かった」


 この各班のメンバーは、事前に皆で決めた事だった。っというのも、当初は好きな人同士で班を組む予定だったのだが、先ず、マリアが俺と組みたいと始まると、仲の良いフウラも一緒が良いと始まり、そうなると仲の悪いリリアとヒーは嫌だとなって、それが通用するなら、皆は料理が得意なパオラと一緒に組みたいという話になって、それならパオラはアドラと一緒が良いとなって、『そんなに揉めるなら止めるか?』ってエヴァが言い出すとファウナが駄目だってなると、ただ昼飯作るのに大騒動になりだして……結局こうなった。


 ちなみに、一班はクレア、ウイラ、エヴァ、ファウナ、エリック、スクーピー。そしてもう一班は、リリア、ヒー、フィリア、ジョニー、キリア。そしてもう一つちなみに、キリアの好きな人はどうやらヒーのようで、これだけ大揉めして結局一番得したのは我が師、偽うちはのキリアだったというオチ。


 まぁそんな感じで何とか決まったメンバーだったが、どうやら俺は当たりの班に入れたようで、今日の昼飯は安泰のようだった……のだが……


 “バンッ! バンッ!”


「えっ⁉」

「ちょっ⁉ 何してんのパオラ⁉」

「え?」


 開始早々トラブルが発生した。


「野菜切ってるだけだよツクモ?」


 調理が始まると突然大きな音が鳴り響いた。その音は大きく、視線を送るとクラスの全員が驚いたような表情でパオラとツクモを見ていた。


「野菜切ってるって……本気で言ってるのパオラ……?」

「うん」

「うん、って……」


 突然響いた音も、二人が揉めているのも、音の発生時に見ていなかったから訳が分からなかった。そしてさらに、パオラが担当していたジャガイモがもう既に皮が綺麗に剥かれ、何故かぶつ切りでまな板から零れるほど飛び散っており、二人が喧嘩しているような調理場にはもっと意味が分からなかった。


「おいどうした? 何かあったのか?」


 ツクモは、俺の知る限りではとても話しやすい快活な女子だ。マリアと同じく人懐っこいし、剣道をしているだけあって結構男子とも話が合う。だけど決して喧嘩っ早いとか短気とかではないし、普通にモテそうな女子だ。ちなみにツクモは、兄と共に剣道世界一になる程の腕前をしており、なんと佐々木小次郎の子孫らしい。


 そんなツクモでも、今の状況ではまるでツクモがパオラが切っているジャガイモを払い喧嘩を仕掛けているようで、早急に間に入った。


「いや、パオラが……」

「パオラ? 何かあったのかパオラ?」

「ううん。私がジャガイモ切ってたら、ツクモが話しかけて来ただけ?」

「ん?」


 ツクモは怒っているわけじゃないし、パオラも普通にしている。それは喧嘩という感じではなく、益々意味が分からなかった。

 そこへ一部始終を見ていたのか、マリアが詳細を教えてくれる。


「あのねリーパー。別に喧嘩じゃないよ」

「え?」

「何かね、パオラが……まぁ一回見た方が良いよ。そしたら分かるから」

「え?」


 マリアが何を伝えたいのかは分からなかった。だが見た方が良いというのは本当のようで、それを聞いてツクモとフウラもそうだと頷いていた。


「ねぇパオラ? もう一回ジャガイモ切って? この新しいの」

「え? まだ切るの? そんなにジャガイモいらないよ?」

「ううん。皆ね、パオラがジャガイモ切るの上手だから、見たいんだって」

「え~……私切るの上手じゃないよ~?」

「だめ~?」

「良いよ~」

「ありがとうパオラ」


 何が起きていたのかは分からないが、マリアは上手に言葉をかけ、上手くパオラを誘導した。それを見て、マリアは本当に人付き合いが上手いのだと感じた。そして褒められて照れるパオラもまた可愛く、ちょっと料理は置いといてパオラを抱きしめたくなった。


 そんなマリアの誘導で気を良くしたのか、パオラは快諾すると新たにジャガイモを手に取り、皮を剥きだした。


「おおっ!」


 超速で剥かれるジャガイモの皮。それは正にマシンのようで、あっという間にジャガイモは生まれたての赤ん坊のような綺麗な肌を見せた。それこそ剥かれる皮も見事に薄皮で、流石黄泉返り、流石料理が得意というパオラという感じで、他の班のメンバーからも称賛の嵐だった。そしてさらにパオラはそこから高速で芽を取り、瞬く間に皮むきを終了させた。


 これには教室中に拍手が起き、なんかパオラは優勝でもしたかのように皆に囲まれるほどだった。だが問題はここから先にあったようで、それを知るマリアたちは冷めたような視線を送り、パオラに次の工程を指示する。


「じゃあパオラ、次はジャガイモ切るとこ見せて?」

「分かった。じゃあ切るよ?」


 そう言うとパオラは、何故か今使っている包丁を置き、魚とかを切る分厚い包丁を持ち出した。

 これには何も知らない全員はさすがだと感心したようだった。“おそらくパオラは相当ハイレベルな料理人なのだろう。皮むきとカットで包丁を変えるとは最早プロだ”正にそんな感じだ。


 もうパオラはクラスのアイドルだった。そんなパオラの巧みな技を一目見ようと、他の班のメンバーは自分たちの調理をそっちのけでパオラの包丁捌きに胸を膨らませる。


 あれだけ超人離れしたパオラの包丁捌き。さっきの音は一体何だったのかは不明だが、ここまでは何の問題も無かった。しかし、いざパオラがジャガイモを切り出すと、途端に実習室には狂気が満ち溢れた。


 “バンッ! バンッ! バンッ!”


 え⁉


 もう恐怖だった。パオラはジャガイモを切ろうとすると突然何を思ったのか、いきなり包丁をジャガイモに叩きつけた。


 “バンッ! バンッ! バンッ!”


 まな板に叩きつけられる包丁。飛び散るジャガイモ。楽しそうなパオラの表情。そこにはサイコパスがいた。


 えっ⁉ 何やってんのパオラ⁉ 超怖ぇ~……


 あまりに衝撃的な光景に、初めてこれを見た誰もが声を発せなかった。


 “バンッ! バンッ!”


「ちょっ! もう良いよパオラ!」

「え?」

「も、もう十分だよパオラ! ありがとう……」

「え? まだ残ってるよ?」

「う、ううん。み、皆も料理しなくちゃ駄目だから、も、もう良いよパオラ」

「え? うん。分かった」


 飛び散ったジャガイモ。ずたずたのまな板。凍り付くクラスメイト。もしマリアが止めなければ誰かが死んでいただろう。


 初見で良く止めたよツクモ⁉ お前凄ぇよ!


 パオラによる狂気の沙汰は、恐怖以外の何物でもなかった。それこそあのまま放っておけば誰かが犠牲になった。それを初見で、それも隣で見ていたツクモが止めた功績は、ほとんど偉業だった。


 そんなツクモは、本当に肝っ玉が据わっているようで、ジャガイモバラバラ殺人犯のパオラに助言を飛ばす。


「どうだったマリア?」

「う、うん。流石パオラだね。皆勉強になったって」

「本当?」

「う、うん」


 マリアは自分から言った手前、本当の事は言えないようで、上手く誤魔化す。しかしそこへツクモが入る。


「ダメだよパオラ。あんなんじゃ危なくて怪我するよ?」


 怒ってはいるが、パオラを傷付けないように優しく諭すようにツクモは言う。


「ご、ごめんなさい、ツクモ……私切るの下手だから……」

 

 パオラは基本、フィオラさん以外に怒られてもぼ~っとしている。だが今回は得意という料理だけあって、そこを指摘されるのは辛いのか、珍しく暗い表情を見せた。

 その委縮した姿はとても切なくて、可愛いパオラをいじめるツクモがちょっと嫌な奴に見えた。


 そう思っていたのだが、どうやらツクモも料理が得意なようで、パオラをいじめているわけではなかった。


「別に謝らなくても良いよ別に。誰にだって苦手なことくらいあるから」


 いやあれは苦手ってレベルじゃないから! 大丈夫なのお前⁉


 ツクモは結構サバサバしたところがある。それでも一応女の子。言葉はあれだけど、エプロンを締め直しまな板の前に立つととても似合い、飛び散ったジャガイモを片付ける姿は女の子だった。

 しかしツクモもまた三年一組に選ばれるだけの人材だけあって、刃物を持たせると凄い奴だった。

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