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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
四章
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先ずは飯

 アドラとパオラが帰国した話は先生が来ても終わらず、重要な話だったため一時限目は授業内容を変更してそのまま続行されていた。


「なぁ? ちょっと良いか? おじさんおじさん言ってるけどさ、お爺ちゃんだろ? アドラのおじさん何歳だよ?」 


 教壇にはエヴァとファウナが立ち、授業形式で行われるアドラとパオラの話。ここからは襲撃についての重要な話になるのだが、その前に超引っかかっていた疑問をエヴァにぶつけた。

 

「え? なんだリーパー? お前知らないのか? アドラとパオラの父親は三百歳くらいだぞ?」

「ええっ⁉」


 マジで言ってんの⁉ バケモンじゃん⁉


 多分誰も質問しなかったことから、どうでも良いか、知っていたのだと思うけれど、あまりにも皆が無神経にスルーするから気になって聞くと、思わぬ答えに驚いた。


「黄泉返りは人それぞれだが、一度地獄を見ただけあってかなりの恩恵を受けてるんだ。特にアドラとパオラの父親のモルドルは、地獄の十丁目にある商店街まで行ったって言うから、並みの黄泉返りじゃあ貰えん色々な力を持ってるんだ」


 えっ⁉ 地獄って商店街とかあんの⁉ 


「えっ⁉ 地獄って何丁目とか何番地とかあんの⁉」

「あぁ。俺も地獄一丁目の商店街まで行った事あんけど、あれは人間じゃ一丁目の真ん中まで行ったら普通は帰って来れん」

「マジで⁉」

「そこをモルドルは十丁目の商店街まで行ったって言うんだから、ありゃもう人間じゃない」

「マジでか⁉」


 エヴァの冗談だが、エヴァは真実と嘘を混ぜて冗談を言うから、どこからどこまで本当かは分からない。それこそ本当に行った事があるような言い方をするから、俺もそうだが、リリアやヒー、フウラにスクーピーとか、純粋組にはもうほとんどが真実に聞こえた。


「エヴァ、冗談はその辺にして、詳細をお話なさい」

「あ……わりぃ……」


 エヴァが脱線させ、それをファウナが修正する。この二人がどういった経緯で関係を築いたのかは分からないが、毎度こういった二人のやり取りを見ると、本当に二人は相性が良いのだと思った。


「で、何の話だったっけ?」

「……分かりましたエヴァ。ここからは私が説明致します」

「…………」


 ファウナの目力は豊富で、横目でエヴァを睨む視線は言葉にしなくても何を伝えたいのかが分かる程で、それを受けて毎度見せるエヴァの表情はなかなか好きだった。


 そんなエヴァを他所に、ここからはファウナが詳細を教えてくれる。


「私たちが襲撃を受けたのは、エジプトに到着して、メドゥエイーク家に向かう道中でした」


 あ、アドラとパオラん家ってエジプトだったんだ……


「最初に気付いたのはアドラでした。車で移動中にアドラが“誰か付いて来ている”という旨の話をし、それに対しフィオラさんとパオラも気付いたことで、私たちは車を停めました」


 どうやらそういった索敵能力はアドラが一番優れているようで、何気ないファウナの話だが、貴重な情報を得た。


「車を停めたのは人気のない広い荒野で、その時には後ろを付いてくる車に私たちも異変に気付いていたため、戦闘を覚悟して場所を選びました。そして私たちが車を降りると、後ろの車から二人の男女が降りて来て対峙しました」


 ファウナの説明は詳しく、とても分かりやすい。だけどちょっと語り部口調で、なんか紙芝居を見ているような気分だった。


「男は、二十代ほどのやせ型で、スカベンジャーと名乗り、右肩に謎の紋章を持っていました。そして女も二十代ほどでフローラと名乗り、右足の太腿にある紋章を見せてきました」


 ファウナってこういう話上手だよね~。もっと簡潔に話してくれてもいいけど、なんか聞いてて引き込まれる。


 時間的にはもっと掻い摘んで話してくれても良いが、上手に話すファウナに誰も口を挟むことなく聞き入っていた。


「そこでエヴァが目的を尋ねると、二人は“自分たちは英雄を目指しており、私たちが邪魔だ”と言い、戦闘が始まりました」

「私たちが邪魔? それはどういう事だファウナ?」


 話に聞き入っていた俺たちだったが、ここでさすがにクレアも黙っていられなくなり、質問をぶつけた。


「彼らが持っていた紋章は、聖刻を模倣して人為的に作り上げられた物だと言っていました」

「模倣⁉ そんなことが可能なのか⁉」

「可能かどうかは、実際に彼らが持っていた以上論議する意味はありません。それに男が持つ重力を操る能力と、女が持つ空気を操る能力は明らかに人知を超えていましたので、聖刻とまでとはいかなくても、それに近い力を秘めていました」


 重力と空気⁉ それほとんど神の力じゃん⁉


 アズ神様の、触れるものを一瞬で死に至らしめたり死者を蘇らせたりする生命を司る能力。フィーリア神様の、無からなんでも作り出し、また有を無に帰す創造を司る能力。アテナ神様の、時間や重力、温度や時空さえも意のままに操る摂理を司る能力。


 この三柱の中でも、アテナ神様の能力に近い力を持っていたというのが事実なら、二人の襲撃者はほとんど聖刻を与えられた聖者と変わらない存在だった。


 これには対峙したアドラとパオラ以外の全員が愕然としていた。


「彼らの話では、その紋章は与えられた物だと言っていました。しかし彼らはその裏にいる組織の中では末端に位置するメンバーだったのか、いくら問い質しても“英雄の子孫を始末しろと言われただけ”や“覆面を被った幹部にしか会っていない”としか言わず、有益な情報はまだほとんど得られていない状態です」


 末端メンバーでその能力。ファウナの口ぶりや話からは謎の組織が絡んでいるのは明らかだが、聞けば聞くほど恐ろしい事が裏で起こっていると驚愕だった。そしてファウナがエヴァに視線をチラチラ送りながら確認し合い話す姿に、より事の重大さを知り、もう俺たちでは手に負えない相手だと悟った。


 そんな俺たちとは違い、冷静に状況を判断出来たのか、キリアが全く動揺することなく適切な質問をする。


「ちょっと良いかファウナ」

「何でしょうかキリア?」

「そんな力を持つ二人だが、一体どうやって捕らえた?」


 恐ろしい話に俺たちはすっかり紋章や組織に目が行っていたが、このキリアの質問で俺たちは我に返った。


「それはもちろん、メドゥエイーク家の三名のお力です」


 えっ⁉ アドラたちってそんなに強いの⁉ それなら逆に黄泉返りばっかり集めて英雄に育てた方が早いんじゃね⁉


 確かに黄泉返りであるアドラたちの能力の高さは異常だ。それでも重力や空気を操る奴を相手に勝てるとまでは思っておらず、まさに天下無双だった。

 しかし今のキリアはもう俺たちとは一つも二つも上なようで、俺たちとは違いファウナの話を鵜吞みにせず、冷静に言葉を返す。


「嘘だな。前回俺たちが対峙した男も紋章を持っていた。その時はどんな能力を持っていたかは定かではないが、それでもアドラたちが勝てるような相手ではなかった」

「お言葉を返すようですが、実際キリア達は無事に生還しているのではないでしょうか?」

「それは、あの男が俺たちを本気で殺すつもりは無かったからだ」


 またまた驚愕。話を聞いた限りでは、キリアが決死の覚悟で刃を止めた事で何とか勝てたと思っていたが、ここに来て衝撃の事実に驚くばかりだった。


「なるほど……どうやら真実をお話しなければいけないようですね」


 ええっ⁉


 もうこれだけでも十分だったのにまだまだ秘密があるようで、キリアの鋭い質問にファウナも観念して、エヴァを見つめると真実を話し始めた。


「実は私とエヴァには、特殊な力があります。それは幼少期よりの特殊な訓練にて得た能力です」


 マジか⁉ 


「エヴァには、超治癒能力と生き物の動きを止める念動力。私には肉体を一時的に超人化させ、光速に近い動きが出来る能力があります」


 アベンジャーズ⁉ 念動力と光速移動⁉ この二人だけで魔王倒せんじゃね⁉


 もう驚きに驚きが重なって、訳が分からなくなっていた。ただ一つだけ分かったのは、それだけの能力を持つからこそエヴァとファウナはこのクラスに選ばれたという事だけだった。


 しかしまだ飽き足らないのか、キリアはさらに俺たちを満腹にさせる。


「それはつまり、ファウナたちの他にも同等の力を持つ仲間がいるという事か?」

「……全く。キリアは前回の魔王討伐に参加していても不思議ではありませんね。そうです」


 そうなの⁉ 一体俺たち三年一組って何の意味があんの⁉


 謎の紋章を持つ組織。人知を超えた力を持つ特別養子縁組。ヨボヨボだが現存の元英雄たち。ウイラが所属していた加護印を持つ僧たち。英雄第二世代。

 ただ英雄の子孫という理由だけで集められた俺たちだが、話を聞く限りでは俺たちが最も役立たずだった。


「私たちの他に、絶対障壁を張れる者や、物質を変化させ、己や他者にそれを魔力として分け与えられる者もいます」


 もうあれだ……俺たち地球人には付いていけない次元の話だ。後はサイヤ人たちに任せて、俺たちヤムチャ組は大人しく未来を願い、震えて眠る毎日に専念した方が良い……


 元々俺たちは結局のところダメダメ子孫だった。それでも苦難を乗り越えなんとか世界を救おうと頑張って来た。しかし今、突然ナメック星どころか全王様とか出てくる超の方の話になり、俺たちの役目は終わった。


 そんなもう、余程の事が無い限りキャラクター人気投票にさえ名を見せなくなった俺たちだが、どうやらフウラたち合流組は想像以上に能力が高いのか、質問をぶつける。


「それは聖刻に属する能力という事ですか?」

「そうです」


 聖刻を与えられる可能性がある者には、所謂その聖刻に属した系統があるらしい。

 例えば、物を作り出せるフィーリア神様の系統なら、魔具の形成や物質化しない魔法が得意だったり、アテナ神様の系統なら、ファウナのように光に近い動きや重力を無視したように宙に浮く事が出来るらしい。

 実際リリアとヒーも、おばさんの影響だが、魔力体に触れると鎖になるという拘束魔法を習得していて、フィーリア神様の系統だと言われている。


 それを知るフウラの質問のせいか、これ以上誤魔化すのはマズいとでも思ったのか、エヴァが訂正を口にする。


「あ、一つ言っとくわ。ファウナが言った俺の力だけど、正確には生物の体に干渉する力だから」


 もうこれ以上は本当に話すことはできないのか、話の腰を折るように言うエヴァは今までになく真剣な表情をしており、“もう喋るな”という感じでファウナを見つめた。すると普段は主導権を握るあのファウナでさえ逆らえないのか、ここでエヴァは教壇に立ち、ファウナは下がった。


「まぁこれ以上は聞いてくれるなや。こちらにもいろいろあんだ。ただ言えるのは、俺たちゃお前らの味方だ。だからよ、おいおい話す。今はこれくらいで勘弁してくれ」


 誤魔化さず、無理だとはっきり言うエヴァは本当に話し上手だった。こう言われればさすがに誰もこれ以上は詰められない。そしてさらに雰囲気を作るのも上手く、そこまで言うと手を叩き、いつもの気の抜けた表情で柔らかく締める。


「ま、そういう事で、とにかくアドラとパオラが無事加護印を出したんだ。面倒くせぇ事考えんのやめて喜ぼうぜ。面倒くせぇ事は面倒くせぇ事が起きたとき考えりゃいい」

 

 面倒臭い事は面倒臭い事が起きたときに考えればいい。とてもいい加減で適当な発言だが、なんだかとてもエヴァらしく、教室の重たい空気は一気に軽くなった。


「それよりも腹減ったな。まずぁ~飯にすんべ?」

「まだ一日は始まったばかりですよエヴァ?」

「時間は関係ねぇよ。腹が減ったら飯を食う。人間たぁそんなもんだ」

「そうですけど……」


 エヴァとファウナは本当に空気を作るのが上手い。あれだけ重たい話をしていたはずなのに、一気にここまで気の抜けた事を言って皆を呆れさせ、完全に聞く気を削いだ。こうなると今何の話をしていたのかさえ忘れるほどで、エヴァの巧みな話術に全員が嵌っていた。


「とにかく。まずぁ~飯だ」


 結局核心に迫る話は聞き出せなかったが、この日俺たちはまた一つ世界で今何が動き始めているのかを知った。そしてそれと同時にまだまだ知らない互いの秘密に興味を持ち始め、俺たちの絆はさらに深まりを見せる。


 明日より正月休みのため休載です。お年玉下さい。

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