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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
四章
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新たな発現者

「なっ⁉」

「ほんとかよパオラ?」


 朝、いつものように登校して、皆で雑談をしながら先生が来るのを待っていると、おじさんが危篤状態だと知り急遽帰国したアドラたちが普通に登校してきた。


「ほんとだよ師匠? 起きたら出てた」


 帰って来たアドラたちはいつもとは変わりなかった。それもそのはず、心配して俺たちが話を聞くとどうやらそれはおじさんの嘘だったらしく、エヴァの話では、未だに加護印すら発現させられないアドラたちに腹を立てたおじさんが、自らニ人に加護印を発現させる稽古をつけるために呼び戻すための口実だったからだ。

 そして見事ニ人は加護印を発現させたらしいのだが、道中二人の紋章を持つ男女に襲撃を受けたとか、寝て起きたら加護印が出てたとか、おじさんが若くなっていたとか、アドラとパオラだからほとんど要領を得ない状態だった。


「それ、もっと前に出てただけじゃないの? パオラとアドラが気付かなかっただけで?」

「違うよ師匠? 朝起きて、歯磨きしながらお腹掻いたらあったよ? ほら」


 そう言うとパオラは、ブラウスを捲りお腹を見せた。すると腹部左側に綺麗な加護印が出ていた。


 ウホッ! パオラのおへそ超セクシー! 朝から良いもん見た!


 白い素肌に小さなおへそ。それはとても柔らかそうで、とてもおいしそうで、顔をうずめて匂いとか……じゃなくって! 発動させたのは本当のようで、正真正銘の加護印があった。


「でもそれって……」

「お、おいパオラ……その前の夜何をしていた?」


 二人が加護印を発現させた事に、一番驚いていたのはクレアだった。


「え? う~……ん……分かんない!」

「なっ⁉」


 三年一組で加護印を発現させていないのは、クレアとエリックとスクーピーとエヴァとファウナだけ。その中でも、自他ともにどう見ても真っ先に持っていないといけないだろうという自覚があるクレアは焦りを感じているようで、もう完全にヤバイ状態だった。


「な、何でも良い。何か思い出してくれパオラ」

「え? う~……ん……あ!」

「何か思い出したのか!」

「寝る前に、手の匂い嗅いだら大根の匂いした!」

「くっ!」


 クレアにとっては喉から手が出るほど欲しい加護印。だけど聞く相手が悪く、見ていて痛々しかった。

 そこで少しはクレアに協力しようと思った。


「アドラは加護印出たときの事覚えてるのか?」

「え? 頭ぶん殴られたとき出た」

「そ、そうか……」

「うん」


 そんなびっくり箱みたいな感じで出るの加護印って? この二人に聞くのだめだわ……


 もう分け分からんアドラに、もう誰に、どんな状況でそんな事になったのかなんて聞く気にもならず、このままではクレアの助けにはなれないと悟った。しかしクレアとしてはどうしても諦めきれないようで、それでもなお少しでも加護印の出し方を知ろうと、アドラたち相手に頑張る。ちなみにアドラは背中に加護印が出たらしい。


「それはモルドル様との稽古中かアドラ⁉」

「食べてた肉落として、手で拾って親父にあげたとき」


 そりゃぶん殴られるわ! って言うか全然関係ないところで加護印発現してんじゃん⁉ 加護印って強い意思が必要なんじゃないの⁉


 この二人が分け分からな過ぎるのか、それとも黄泉返りだからなのかは全く分からないが、これ以上二人から話を聞いても何も得る物は無いと悟り、諦めてエヴァに聞くことにした。


「なぁエヴァ? 済まないけど詳しく教えてくれる?」

「あぁ」


 普段ならエヴァもアドラたちのような感じで冗談交じりに話すが、さすがに二人の話を聞いて駄目だと思ったようで、茶化すことなく普通に詳細を教えてくれる。


「そうだな……じゃあ先ず、ニ人が加護印を発現させた所から話す」


 アドラたちのせいで、襲撃やらおじさん若返り事件やらで滅茶苦茶ややこしい状態だが、話し上手のエヴァに聞いたのは正解で、分かりやすいところから教えてくれる。


「アドラは親父さんとの稽古中に普通に発現させた」


 普通だ!


「パオラは、ファウナとの訓練中に発現させた」

「えっ?」

「だからそこはファウナに聞いてくれ」

「えっ⁉」


 ファウナとの訓練中という言葉に、話を聞いていた全員が驚いた。

 そんな事お構いなしにファウナは普通に説明を始める。


「パオラは……」

「ちょっと待ってファウナ⁉ ファウナと訓練中って、なんでファウナがパオラに加護印の出し方教えられるんだ⁉」

「あら? アニー先生から聞いたのではないのでしょうか? 私たちはWSOの特別養子縁組だと」

「え……知ってたんだ……」

「はい。アニー先生には、何か聞かれたらそう答えるように頼みましたから」


 あの状況では、収拾がつかないと判断してアニー先生は二人の秘密を話したのかと思っていたが、どうやら二人が事前にお願いしていたようで、この辺のケアも考えて行動していた二人はとても大人に見えた。


「そうだったんだ……」

「はい。ですけれど、私たちもそのことについて聞かれても困りますから、それ以上は聞かないで下さい」


 やはり二人にとっても養子縁組という事実は隠しておきたい秘密のようで、先生が俺たちを止めるように問い掛けたのは正解だった。先生は上手く誤魔化していたが、あの時先生の言葉が無ければ俺たちは二人を裏切っていた。そう思うと、良い先生に巡り合えたことに感謝した。


 このファウナの言葉に、自分たちの選択は間違っていなかったと感じたのか、全員が分かったと頷いた。ただその表情は十人十色で、後ろめたい感情を抱いた奴らの表情は誤魔化すのが下手過ぎて、特にヒーの顔は逆にすんとし過ぎて怖いくらいだった。


「ただ、私たちはそう言った教養も受けておりますので、そういう事だと思って下さい」

「まぁそう言う事だ。俺たちゃ一回魔王倒したくらいは勉強してる」

「エヴァ、余計な事は言わないで下さい」

「はいはい」


 真面目な話で少し暗い雰囲気になったが、エヴァが茶化しファウナが応えると場はまた明るい雰囲気に包まれた。

 

 この二人のこういった所には大人のような安定感があり、同じ世代の俺たちの中でも、やはりこの二人は一目置かれる存在だった。


「それで話を戻しますが、パオラは、私とフィオラさんと料理の訓練をしているときに加護印を発現させました」

「はぁ⁉」


 これに一番喰いついたのは、もちろんクレアだった。それこそ料理とか全く加護印とは関係なさそうな状況には納得のなの字も納得できないのか、あり得んくらい口を開けて驚いていた。


「ど、どういうことだファファファウナ⁉ パパパ、パオラは、りょりょ料理をしていて加護印を発現させたのかヵ⁉」


 落ち着けークレア! お前の気持ちは分からんでもないが、一旦落ち着け!


 もうクレアの中では何が何だか分からないようで、クレアの動揺を初めて見るツクモが“大丈夫なのこの人?”という顔になる程取り乱していた。


「落ち着きなさいクレア。クレアの気持ちは分かりますが、加護印とはその者にとっての大切な物が必要になるのです。ですから加護印が発現するタイミングは、時に想像も付かない状況で発現する事もあるのです」

「そう言う事だ。この二人はお前らと違って常に死を身近に感じて生きて来た。だから普通のやり方じゃ加護印は出ない」


 ファウナの言う事も、エヴァの言う事も納得だった。だがエヴァの”二人が常に死を身近に感じて生きて来た”という言葉は重く、また雰囲気が一気に暗くなった。それを敏感に感じ取ったのか、エヴァとファウナは上手く雰囲気を戻す。


「まぁどちらにせよ、追い込まれてやっと加護印を発現させてるようじゃ駄目だけどな。加護印なんて生き物なら元々持ってるもんだからな、糞みてぇにいつでもひねり出せなけりゃ魔王様なんてとても倒せねぇ」

「エヴァ。余計な事は言わない。貴方は私を困らせたいのですか?」

「お、おぅ……もう黙ってるわ……」

「よろしい」


 たまに見せるファウナのイライラはとても上品で、笑っているが目は笑っていない。そしていつもファウナをそうさせるのはエヴァで、怒られると直ぐに静かになる。その光景は正におしどり夫婦のようで、漫才のような掛け合いは場を明るい空気にする。


「それでもエヴァの言う事は一理あります。加護印とは追い込まれて発現するわけではありません。元来生物が持つ心。その奥底に眠る必要とする心です。良いですかクレア。クレアが未だに加護印を発現させられないのは、その心を見つけられていないだけです。大切なのは振り絞る力や呼び起こす力ではなく、己の心に素直になる事です。その心は貴女の手の中にあるはずです。暗闇を探すのではなく、己を見つめなさい。そうすればきっとパオラのように、朝目覚めたときに加護印があったという気持ちが分かるはずです」


 そこまで言うとファウナはクレアに近づき、左手で自分の胸に触れ、右手で優しくクレアの胸に手を当てた。


「貴女は私に似て少し頑固なところがあります。もっと素直になりなさい。それが貴女を大きく成長させます。少しだけ私の言葉を信じて見て下さい」

「ファウナ……」


 ファウナにとってもクレアはとても大切な仲間のようで、そう諭す姿は同級生同士の会話だがまるで親子のように見え、母親のいない俺にはそれが凄く羨ましく、なんだか少し二人が遠く感じた。


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