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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
四章
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欠席

 この日、いつものように登校すると、アドラとパオラと、エヴァとファウナが登校してこなかった。何も知らされていない俺たちは、四人はコロナにでも罹ったのではないかという話になり、教室内には不安が広がった。だが前日の様子から、四人の中に体調の優れない者は見当たらず、先生を待つしかなかった。


「昨夜、アドラさんとパオラさんのお父様である、モルドル・メデゥエイーク様が危篤状態となられたとの連絡がありました。そのため、本日よりアドラさん、パオラさんはしばらくお休みとなります」


 何という事だ。これから魔王が復活するというのに、元英雄であり現聖刻保持者の一人が危篤とはとても手痛い。これでもしアドラとパオラがお父さんから加護印や聖刻について何も聞き出せなければ、それこそ多大な損失となる。


「それに伴いまして、エヴァさんとファウナさんが、メデゥエイーク家の警護として同伴しており、お休みとなります」


 何で? もう俺たちには時間もなく演習さえも迫っているのに、なんであの二人が一緒に? 大丈夫なの?


 とても不思議だった。エヴァとファウナは、英雄の血縁でもなく加護印さえまだ持っておらず、一番鍛錬を必要としている。その二人がこの大切な時期にキャメロットを離れるのには、疑問しかなかった。

 それはクレアも同じで、皆の意見を代弁するかのように先生に訊く。


「先生、一つ良いですか?」

「はい。どうしましたクレアさん?」

「何故エヴァとファウナが付いて行ったのですか?」

「英雄の子孫である皆さんは、依然何者かに命を狙われているからです」


 アルカナで俺たちを襲ったスパイ。フランスでクレアたちが襲われた男。これについてはまだ調査中で、二つの関係性や目的も分かっていない。だからこそ、英雄の子孫でもなく、加護印も持たないエヴァとファウナが同伴したのは納得がいったが、二人は黄泉返りでもないことから、なんだか捨て駒のような扱いをするキャメロットに疑問を感じた。


「ですが何故二人なのですか? エヴァとファウナは訓練を積んでいるのは分かりますが、それでもフィオラさんもいるあの三人の護衛というのは腑に落ちません」


 やはりクレアも同じ思いだった。おそらくフィオラさんもいるあの三人なら、そう易々と攻撃しようと考える者はいない。確かに前回襲われたときはやられたが、それでもクレアたちには悪いが、足手まといのいない状態なら、息の合うあの三人に勝つのは至難だろう。


 前回はクレアたちが悪いと言っているわけではないが、誰かを守りながら戦うというのは特にアドラには難しいだろうし、優しいパオラには周りを巻き込まないで戦うというのは難しいだろう。実際あの場にいたわけじゃないからどうかは分からないが、あの時三人が全開で戦えていたかといえば、そうだとは断言できなかった。


「そうでしたね。皆さんはまだ深い絆を結ぶというには、あまりにも時間が短すぎました。本来ならお二人が皆さんに全てをお話しするのが最良でしたが、私がご説明します」


 俺たちが合流してから、まだ四日ほどしか経っていなかった。そして授業内容もそれぞれが目指す聖刻に合わせたグループとなり、互いの絆を深めるというにはあまりにも短すぎた。


「エヴァさんとファウナさんは、WSOの特別養子縁組に所属しています」

「特別養子縁組……? ですか?」

「はい」


 二人は一般選考で選ばれたと聞いていた。だから俺たちは、二人はかなりの才能を持った逸材だと思っていた。


 これには全員が首を傾げた。


「簡単に言うと、英雄候補が見つからなかった場合を想定して、幼少期よりそれに代わる人物を育てるプログラムの事です」


 プログラム⁉ それって……


「それはつまり……」

「はい。皆さんが考えているとおり、お二人は幼い頃から特殊な訓練を積んでいる。という事です」


 ニコニコはしていないが、いつもの調子で話すアニー先生の言葉は、突然なんか怖い話が始まったようだった。


「すみませんが先生。詳しく教えて頂けますか?」


 クレアの言葉を聞くと先生は、表情はそのままだが悲しそうな目をした。


「本当に宜しいですか? 簡単な説明は私の口からは致しますが、それ以上は本当に私の口からでも構いませんか?」


 これはとても重要な事。だからこそ先生は自分たちから……いや、俺たちが二人ともっと仲良くなって、二人が話しても良いと思える絆を得てから初めて聞ける話。そして多分二人としてもあまり知られたくない話。

 

 これから命を預け合う仲間だからこそ、先生の問いかけに俺たちは簡単に答えを返せなかった。


「どうしますか?」

「…………」


 仲間として知っておくべき。だが仲間として勝手に聞いて良い話ではない。俺としてはそこまで分かっているなら聞かないと答えるべきだったが、先生の問いかけは俺たちを試しているようで、何が正解か分からなかった。


 そんな重たい空気のせいで誰も相談することも出来ず、時間だけが過ぎて行った。それを嫌がったのか、ここでキリアが声を上げる。


「先生」

「はい、キリアさん」

「どうやら皆の答えは“知る必要はない”です」


 それぞれが自分と問答を繰り返している中での発言だったようで、このキリアの声にまだ答えの出ていないクレアたちは騒めく。


「ちょっと待ってくれキリア。まだ私はそうは思っていない」


 これにエリック、ツクモが続く。


「私ももう少しだけ時間がほしいです」

「私も!」


 そしてこれに、フウラと、まさかのジョニーとヒーが続く。


「私は知るべきだと思います!」

「俺もそう思う」

「私も知っておくべきだと思います」


 反論しないのは、俺、リリア、マリア、フィリア、ウイラ。後はスクーピーだが、スクーピーにはまだ難しすぎる話だからノーカンとして、結局聞くべき側と、聞かぬべき側で意見が分かれた。


「聞くべきことではない。だがそれはずっとというわけではない。今は先生の口からは聞くべきではないと俺は言っているんだ」

「それはそうだが……しかし……」


 クレアも本心では聞くべきではないとは分かっているようだったが、話が話だけにキリアが説得しても聞いておくべきだという感じだった。

 そんなクレアとは違い、明確に知るべきだとフウラが主張する。


「私は今知るべきだと思います! ですが、勘違いしないで下さい! それは二人の生い立ちを知るということではなく、黄泉返りの護衛にまで選ばれる存在である、養子縁組についてです!」


 何がクレアたちを迷わせていたのか、フウラがはっきり言ってくれたお陰でその理由は分かったが、結局そこを知れば全て同じじゃないかと思うと、やはり俺は意見を変えるつもりは無かった。にも関わらずジョニーとヒーも同じような事を言う。


「俺も同意見だ。その養子縁組とやらは何なのかは知っておくべきだろう」

「はい。私もそう思います。これは二人を知るというより、知識として養子縁組について知っておけば、今後の私たちの活動に役立つ可能性があります」


 ヒーは、というより、リリアもヒーも未だにフウラとは仲が悪い。それこそ『一切口を利いてません!』と未だにリリアが言うくらいで、三年一組で一番仲が悪い。ちなみに三人は同じクラス。そして今何を重点的にやっているかというと、戦車や重機の操作方法を学んでいるらしい。分け分からん!

 

 そんなヒーがフウラの味方をしてまで聞くべきだと言うくらいだから、養子縁組については本当に知っておくべき事項なのかもしれないが、それでもこの三人の考えについては賛成できなかった。


 そこで俺が意見を述べる。


「ちょっと待てよ。それ知ったら結局同じだろ? エヴァと同じクラスの俺だから言うけど、エヴァってなんでも教えてくれるけどそれだけは教えてくれなかったんだぞ? それがどういうことか分かるだろ?」


 俺とマリアとエヴァは、アズ神様の聖刻の獲得を狙う同じクラスだ。だからこそプライベートはどうか知らんが、俺たちがファウナに続いて最もエヴァと深い関係にあるはず。

 それは皆も分かっているようで、俺が意見を述べると口を紡いだ。するとファウナと同じクラスのクレアが言う。


「確かにそうかもしれない……私もファウナと一緒だが、ファウナはそれだけは一切口に出さなかった。やはりリーパーとキリアの言う通り、今は知るべきではないのかもしれない……」


 クレアはファウナと二人きりのクラスだ。そんなクレアだからこそ、俺の言葉は刺さったようだった。だがこれで収まるはずが無いのがヒーだ。


「ですが、今の私たちには時間がありません。それに、おそらくこの話は二人の口からは、こちらから聞いてもなかなか出てこないと思います。私たちは別に二人がどういう人生を送って来たかを知りたいわけではありません。もし仮に、その特別養子縁組に他にもエヴァやファウナと同じような人物がいるのであれば、その方たちと私たちは無関係のままではいられないと言っているんです」

「どういう事だよヒー?」


 頭の良いヒーが、簡単な理由で知りたがっているわけじゃないのは良く分かったが、結局何が知りたいのかは全く分からなかった。


「エヴァとファウナは、ウイラと同じような立場でありながら、まだ加護印も発現させずに私たちと合流しています。それがどういう事かは良く分かりますよねウイラ?」

「はい。私は代々続く僧の家系でありましたから、幼い頃より修行を得て今に至ります。その過程はとても大変な日々でありました。そんな私だから言えるのは、あの二人はどのようにしてこのクラス、黄泉返りであるメデゥエイーク家の護衛に選ばれるのか。それが正しき判断ならば、彼らはここに居るべきです」

「そう言う事です」


 どういう事⁉ ウイラお坊さんだから言ってる事良く分からん⁉ ヒー、ズルくない⁉


 時折見せるリリアのような意味不明。これはヒーが相当熱くなっているときに見せる癖だが、結局いつも分け分からんまま終わる。

 そんなピンチに、写輪眼を持つキリアが幻術に惑わされず応戦する。


「しかしそれを知ってどうするヒー? これはとても言い辛いが、それは他力本願ではないのか? 俺たちは確かに負けられない戦いをしなければいけない。だからこそ誰かを望んではいけない」

「ですが、それでも得られる物は多い方が良いに決まっています」

「そう言う事を言ってるんじゃない。周りを見ろ。ヒーにはもう十分与えられている。ヒーもそうだが、このクラスにいるほとんどがそれに気づいていない。俺たちは俺たちで戦うんだ。厳しいようだが言わせてもらう。お前たちには覚悟が足りない」


 相当キツイ一言だった。これは俺にも言えた事だが、正直俺たちには命を賭ける覚悟が足りていなかった。おそらくこのクラスで覚悟が出来てるのは、アドラ、パオラ、エヴァ、ファウナ、そしてキリアだけ。


 一度死線を潜り抜けたキリアだからこその言葉に、あのヒーが苦い顔を見せるほどだった。


「だからアニー先生は、常に自分たちで考え判断を下せと教えてくれているんだ。それは何かするなどという簡単な意味じゃない。常に考えなければ誰かが死ぬ。判断を即決しなければ自分が死ぬ。そういう状況を想定した言葉なんだ。ヒーはエヴァたちのような人物を知りたいと言ったが、それを知ってどうする? ただ自分の代わりがいつでもいると思いたいだけじゃないのか?」


 そう、俺たちにはいつでも変わりがいる。そういう考えは常にある。だからこそ俺たちは、こんな漫画の主人公のような生活を送っていても、誰も自分たちは主人公だとは本心では思っていない。


 死線を越え、加護印を発現させたキリアだからこそ学んだ英雄としての気構え。これを痛烈に叩きつけられ、全員が視線を落とした。そんな中で、最も見くびっていた人物の声に、俺たちはさらに自分たちの不甲斐なさを思い知る。


「そうだろ? スクーピー?」

「うん! スクーピー、さいごまでたたかう! おかあさまとおとうさまと、エニックと……み~んなのため!」


 誰もがそうだとは思っていなかった。だけどキリアには分かっていたようで、声を掛けるとスクーピーは情けない俺たちとは違い、力強く拳を掲げた。

 

「さぁどうする? もう一度だけ訊く。今先生の口からエヴァたちに付いて聞くか?」


 一度死の淵に立つべきだ。そんな圧力のあるようなキリアの声には、逆らえる者などいなかった。ただ先生だけが嬉しそうな笑みを見せ、スクーピーだけが強い光を瞳に宿しているだけだった。 


 この日、私用で休んだアドラたちから始まった問答。それは些細な物だったが、自分たちに最も足りていない物を見つめる機会を与えた。これにより、少しずつだが皆の気持ちも変わり始め、俺たちはやっと本気で英雄について考え始めるようになった。


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