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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
四章
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男たちの戦い

 突然好きな人はいるのかと尋ねたキリア。そんなキリアにもこのクラスに好きな人がいた。しかしその秘めたる想いを焦がす相手を互いに秘密にすることで友情が生まれ始め、俺たちはここから親友へと向かう激闘へと歩み出す。


「良いか、良く聞けリーパー。もしもだ。もし仮にお前の好きな人が、今日どんなパンツを履いているのか分かるとすれば、お前はどう思う?」


 なっ⁉ 何を言っているんだこいつ⁉ もしそんなことが分かるのなら、この世の男子は誰も不幸を知らない!


 好きな人から始まり、どんなパンツを履いているという突拍子もない話だったが、あまりにも突拍子が無さ過ぎて、その魅惑の言葉に疑念のぎの字も無かった。


「何を言っているキリア⁉ そ、そんな事分かる訳ないだろ⁉ そんなことが出来るのなら……」


 分かるはずが無かった。いや、分かる事など永遠にあるはずが無かった。もしそんなことが可能であれば、俺は毎朝パオラを見るたびに“今日は積極的な日”とか“今日は甘えたい日”とか、ほとんどパオラの心の中が読めているのと変わらないじゃないか⁉ そそ、そんな事……


「本当に可能なのか?」


 超神速で回転する俺の思考は、ほぼノータイムと言っていいほど早く結論に達した。


「あぁ」


 この時、キリアがうちは一族の末裔でも血継限界の継承者でも何でもない偽うちはだったなんて、全く関係なかった。あったのは、キリアもまた俺と同じ血継淘汰という同じ志を持った存在だったというだけで、俺たちの間にそれ以上の物は必要なかった。


「協力しよう」


 交わす固い握手。ただそれだけで俺たちはこの時親友となった。


「フッ。お前には俺と同じ匂いを感じていたんだ。これからよろしく頼む」


 何と嬉しい事を言ってくれるのだろう。俺はずっとキリアとは全く別の次元を生きる男だと思っていたが、キリアは俺を認めてくれていたようだった。そしてその臭いは神までも、いや神さえも動かしたようでそれだけでは収まらず、さらなる恵みを運んでくれる。


「なんか面白い話してんな? 俺も混ぜてくれよ?」


 なんと神は俺たちに光り輝く道を示したようで、話を聞いていた隣に座るエヴァが、まさかの協力を仰ぎ見た。


「本当に協力してくれんのかエヴァ?」

「当たり前だろ? 男子たるものそれくらいして当然だ」


 これには俺とキリアは歓喜し、迷わず握手を交わした。


「よし。じゃあ先ずは俺が先陣を切る。だからお前たちは援護してくれ」

「ちょっと待てよキリア。俺たちはお前が何をしようとしてるのか知らないんだぞ? 先ずそれを教えてくれ?」

「何を言っているリーパー。お前たちならすぐに分かる。感じるんだ」


 ドント シンク フィール!


 何という心強い言葉。感じろと言われ、キリアが何をするのかは分からないが、必ず道を切り開くと分かると、後はそこへ飛び込めば良いのだとそれこそ感じた。


「分かった。お前を信じる。後ろは俺たちに任せろ」

「あぁ。頼んだ」


 ここまで来ると後は出たとこ勝負だった。だが必ずやキリアの作る隙間をこじ開ける。それぞれの想いを秘めながら頷き合うと、時は動き出した。


「皆! 聞いてくれ!」


 エヴァのパンツ発言で盛り上がる教室内は騒がしく、キリアは先ずはそれを収めるために声を上げる。すると三年一組ではかなりの発言力を持つキリアだけあって、女子たちは直ぐに大人しくなった。


「さっきのエヴァの発言だが、俺は賛成だと思う。下着なら経費も時間もそれほど掛からない」


 なるほど! 確かにこれなら毎日何を履いているのかが分かる……しかしだ。それだと学校指定のもっさいパンツとなり、仮に分かったとしてもあまり意味がない。

 

 ただ分かれば良いというだけならキリアの案には賛成だったが、あまり深読みしていない感じに少しがっかりだった。


「それはそうだが……見えない所を合わせても意味があるのか?」

「ある。同じ物を身に付けているというだけでも十分だろうが、それがより肌に近く、誰にも知られない場所だからこそ合わせれば、それは強い連帯感を生むと俺は思う」

「なるほど……」

「それとも何か他にこれ以上の案があるのか? 俺たちはこんなことで無駄に時間を費やしている暇は無いはずだ」

「それもそうだ……」

 

 なかなかの策士。クレアは一瞬下心のような物を感じ取ったようだったが、キリアの“こんな無駄な事に時間を使うな。とにかく俺は訓練がしたいんだ。だからパンツでもなんでもいいからとにかく早く終わらせよう”という真面目な感じにまんまと騙された。その上強制的に終わらせようという圧力で他の案まで潰し、完全に主導権を獲得した。


 この短時間でここまでの策を練り実行したキリアには、流石としか言いようが無かった。しかしやはりまだもっさりパンツ感というのはどうしても否めなく、まだまだ様子見という感じだった。


「では下着の統一で問題ないな?」

「どうする皆? …………分かった。ではそれでいこう」


 あのクールイケメン偽うちはのキリア君が圧を掛けた以上、女子たちは頷くしかなかった。それに断る理由も無く、フィリアとヒーも納得したような表情だったことから、意外とまともな案であることは間違いないようで、先ずは第一関門突破という感じだった。だがやはり問題はここからだった。


「良し。決まりだ。では……七枚は……枚数はどうする? 俺としては、男子は五枚ほどでその日その日で合わせるのが丁度良いと思うのだが、女子はどうだ?」

 

 何っ⁉ こいつまさか!


「そうだな……やはり私としては、七枚は欲しい。どうだ皆?」


 クレアの呼びかけに、女子たちは七枚が良いようで、全員が頷いた。


「やはり女子は七枚欲しい」

「そうか。では女子は七枚、男子は五枚で決めよう」

「ちょっと待ってくれキリア。男女共に同じ枚数にしなければ合わせられないだろう?」


 キリアはやはり凄い。こいつは言葉巧みに真実を隠し誘導している。おそらく俺が考える全て、いや、キリアはそれ以上を考え計算している。

 正にキリアの思考を感じてしまった俺は、もっさりパンツでキリアを疑った自分を恥じた。そしてそれはエヴァも同じだったようで、すぐさま援護を飛ばす。


「おいおい。俺たちにもお前ら女子と同じパンティー履けって言うのかよ?」


 見事な援護。エヴァのこの野次で、教室内には笑いが起き、和やかな空気が出来た。そんな援護を受け、キリアがさらに突き進む。


「そういう事だ。下着を合わせるといっても、男子と女子でだ。いくら俺たちが一つにならないといけないと言っても、いきなりは無理だ。先ずは小さなことから始めて行こう」

「そうだったな。済まなかったキリア」


 この時、女子どころか、俺たち三人以外は完全に術中に落ちた。こうなると後はキリアの土俵となり、ここからキリアの華麗なる猛追が始まる。


「では女子は女子で、男子は男子で下着を決めてくれ。もちろん下着であればどんなものでも構わない。ただ、全員が納得した物にしてくれ」


 こいつはやはり天才だ! これならもっさりパンツは無い! 


「それと、男子は形は五枚でも、色や柄だけは複数枚選ばせてくれ。一日に複数回の着替えがあると間に合わなくなる。もちろんそれは女子も同じで良い」

「分かった」


 なんと⁉ 本当に天才だ! クレアたちは気付いてないけど、パンツの形なんて七種類くらいしかないはずだ! つまり女子は毎日全員が同じパンティーを履いているが、毎日違うパンティーを履いてくるという事か!


 女子全員が同じ下着だが、それを除けばほぼ無限にあるパンツの中から自由に選べる。つまりパオラは今履いているパンツも選択可能。

 キリアがここまでを考えていたのかと思うと、正に脱帽だった。しかしキリアはやはりそれ以上の存在で、クレアのちょっとした質問にさらに驚愕する。


「あ、一ついいか?」

「なんだ?」

「その……女子はもちろん上も一緒で良いのか?」

「もちろんだ」


 そそそそこまで⁉ そうだ! キリアは下着と言った。俺はずっとパンツばかりを追いかけていたから忘れていたが、女子にはブ、ブラジャーもある!


 最早キリアが神にすら見えた。しかし物凄いのはキリアだけではなかった。


「おい。選ぶ前にちょっと良いか?」

「なんだエヴァ?」

「いや、選んだとしてもよ。毎日皆同じパンツ履いてるのどうやって調べるんだ?」


 こいつプルスウルトラ狙うつもりか⁉ それは無理だエヴァ! 止めておけ!


 キリアも凄かったが、エヴァも物凄かった。もし仮に、もし仮にだ。もし仮にその確認をすることが可能なら、もう本当に大変な事だった。

 しかしこれはかなり危険な賭けだった。もしここで女子たちが俺たちの下心に気付けば、全てが台無しになる可能性があったからだ。


 そんな危機を、これまた華麗にキリアが一瞬でひっくり返す。


「そんなもの調べる必要はない。皆が同じ物を履いている。それは当然で、そう信じるからこそ、絆なんだ。そうだろうクレア?」

「あぁ。そうだ」


 キリア超かっけぇ! ただ女子が毎日何のパンツ履いてるか知りたいだけの変態なのに、こいつそれをさもアニメの名シーンみたいにしちゃったよ! 天才だよこいつ!


 完全に女子たちから疑心を消し、尚且つ未来につなぐ希望の光を示したキリアと、それをアシストしたエヴァ。もう俺なんかが太刀打ちできる相手ではなかった。それでも俺も同士として何かしなければならず、とにかく俺もプルスウルトラを狙おうと思った。


「あ、あの……」

「どうしたリーパー?」

「選ぶって言ってもさ、今選ぶの? なんかパンフレットみたいなの必要じゃない?」


 俺が出来る唯一の抵抗は、女子たちがどんな下着を選んだのか、実物もしくは写真などで目視することくらいだった。もしこのままでは絵に描いたパンツくらいしか見せてもらえない可能性があり、せめて写真だけでも見たかった。


 そんなキリア達にとってはほぼ戦力とならない援護だったのだが、どうやらこここそが最重要ポイントだったらしく、キリアは目で“よくやった”と褒めてくれた。そしてすぐさまそれが正解だったようで、先生が手を貸してくれる。


「それは問題ありませんよ。少々お時間は頂きますが、直ぐにこちらで手配いたします」

「ありがとうございます先生! よし、では下着の件は、後日男子女子で発表しよう」

「分かった」

「よし、ではクラス会は終わりだ」

「あぁ」


 選択下着の確認はキリアにとっては最難関だったようで、それが決まるとキリアはあっさりクラス会を終了させた。これにより、後日開かれたクラス会で男女それぞれ写真にて下着の確認が行われた。そこで勝利をもぎ取った俺たちは存分に楽しい学園生活を送るはずだったのだが、女子全員が同じ下着という事はフィリアもまた同じ下着という事をすっかり忘れており、俺だけはそれ以降、例えパオラを前にしてもパンツの事を考えるとフィリアの姿が真っ先に思い浮かび吐き気に襲われ、しばらく俺は逆に女子の下着がトラウマになってしまった。


 下らん話で二話も損した!

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