親睦
新メンバーを加えてのレクリエーションは、マリアとのトラブルでまさかの終わりを告げた。これにより俺は、フウラ、ツクモ、ウイラとは全く会話することが出来ず、親睦を深めることはできなかった。さらに言えば、エヴァとファウナとは会話こそしたが何も聞けていない状態で、俺とマリアとエヴァだけが陰キャポジションに収まった感じだった。
それでもファウナのお陰でリリアたちとフウラがもめる事も無く、フィリアとジョニーのお陰でクレアとツクモも揉めず、向こうは向こうでそれなりに良い感じでパーリィーしたようで、なんか腑に落ちなかった。
そんな感じでレクリエーションは終わってしまったのだが、なんか俺たち陰キャが悪かったか何だか知らんがもういじめは始まったようで、このままではクラスが一丸となるには時間が掛かるとか言い出して、まさかの二時限目はそれを解決するため急遽クラス会が始まる事となった。
「それでは、クラス会を始めたいと思う。議題は皆も承知の通り、私たち三年一組が如何に絆を深め、互いに信頼を得るためにどうしたら良いのかというものだ」
急遽開かれたクラス会は、急遽という事もあり、クレアの司会の元そのまま三年一組の教室で行われた。
何で? 俺ちゃんとフィリアたちに言ったよね? マリアとはちゃんと和解したって? マリアだって言ってたよね? 『私たちは兄妹だから仲良いよ』って。それにリリアたちだってフウラと喧嘩して無いじゃん? 何でこんな面倒くさい事すんの? こいつらほんとクラス会好きだな。
確かに時間の無い俺たちにとって、どれだけ早く互いに信頼を得て絆を深めるかは、非常に重要な課題だった。それでも俺とマリアが揉めた程度でクラス会を開こうとか言い出す輩には、“本当はこいつら過負荷トレーニングしたくねぇんじゃね?”と思ってしまった。
それでもやると言ったらやるのが三年一組。もう俺とマリアは問題ないが、とにかく参加するしかなかった。ただ、今回は絆を深めるというのがテーマのためか、珍しくキリアが一緒に座ろうみたいな事を言い、隣に座った。
実際今までの三年一組の中では、キリアとの会話が一番少なく、正直お互い一番遠い存在だった。そんなキリアの歩み寄ろうとする姿にはなんか俺も青春を感じ、本心ではパオラの隣が良かったが、今回の俺は一味違った。
「では、これについて誰か良い案がある者はいるか?」
「はい」
今日はキリアも頑張り見せたし、ちょっと本気を出して率先して手を上げた。なのに……
「⁉ よ、よし。リーパー」
「…………」
えっ⁉ 何⁉ 俺が手を上げるのダメだったの⁉
もうマジでそんな感じ。そんな感じで、俺が手を上げると何故かクラス中が驚いたような感じになり、なんか俺が手を上げたのが悪いみたいな感じになった。だけどマリアだけは“流石お兄ちゃん”的な顔をしてくれて、怒りは心頭しなかった。それでももうそんな感じになるならもう今後一切喋らないと思ったが、手を上げて指名されてしまった以上やっぱ無しはできず、とにかく意見を述べることにした。
「……全員の制服を、刑務所で着るような縞々のつなぎにするのが良いと思います」
「⁉」
本当はミニバレーと言おうと思っていた。ミニバレーというか、スポーツなら何でも良かったが、ミニバレーならそれほど激しいわけじゃないし、同じコート内で仲間も常に近くにいるからコミュニケーションも取りやすい。なにより経験上これが一番仲良くなるには丁度良いと思っていたが、なんかこいつら俺が手を上げたのが悪いみたいな空気出したから、腹いせにユニフォームの統一を提案した。
当然これにはお洒落を気にする女子たちは渋い顔を見せ、クレアは阻止しようと理由を問う。
「そ、それは何故だリーパー? そんなことをして何の意味がある」
「何効果とかいうのは良く分からないけど、人間って同じ服を着た者同士を仲間と認識すると聞いたことがあります。それです」
集団効果みたいな、同調効果みたいな、なんか良く分からんがそんなことを昔テレビとかで聞いたことがあり、良く分からんが説得力を持たせるために適当に言った。すると女子たちは、“おいおいマジかよ”みたいな顔をし出した。
「た、たしかに、それはあるかもしれんな……じゃあ、他に案のある者はいるか?」
おいおいマジかよこいつ。こいつ俺の意見無視して進めだしたよ。
余程クレアの中では無しだったようで、まさかのスルーをかましてきた。これには少しムッとなったが、今日のキリアもまた一味違うようで、俺に加勢してくれる。
「はい」
「よし! キリア!」
おいおい。よし! の言い方あからさま過ぎない? 何としてでも囚人服着せてやりてぇ!
「俺もリーパーの案には賛成だ」
「何を言っているキリア⁉」
おお! キリアどうした! お前本当に俺と友達になってくれるつもりなのか!
キリアの心変わりは何が原因かは分からないが、あのキリアと友達になれるのなら大歓迎だった。このキリアの行動に、それこそクレアの暴挙も気にならないほど感銘を受けた。
「落ち着けクレア。俺は囚人服を賛成と言ったわけじゃない。だが皆同じ服を着るというのは統一性が出て、心理的には有効だと言っているんだ」
「な、なるほど……」
確かに囚人服は言い過ぎだった。それでもキリアが俺の意見に賛成してくれるのは嬉しかった。それどころか、キリアは俺の案に訂正を加え説得を試み始め、なんだかキリアに友情を感じた。
「しかしだ。現在女子が着ている制服は、俺から見てもなかなか可愛いと思う。それをわざわざ男子と同じパンツに変えるというのは少し勿体ない気がする。そこで、これに似合う何か別の案を誰か出して欲しい」
さすがキリア。ただゴリ押しをしても無理だと判断し、敢えて女子の制服を褒めて引きを見せた。これにより女子たちはなんか嬉しそうにして緊張感が和らいだ。
やるなキリア。やはりこいつイケメンだ! こういうさり気ない事を言えるのは流石としか言いようがない。キリアと友達になれば、それだけで俺は勝ち組だ!
そう。俺がキリアと最も仲良くなりたかった理由は、キリアがイケメンであるという事だ。そしてキリアと最も遠い関係であったのは、またそのイケメンが理由だった。
彼はスポーツ万能で、勉強もでき、無駄口は一切叩かない。それでいて例え相手が誰であろうと時に叱責に近い力強い言葉を吐く。だからいつもクレアの傍にいても下僕という感じは一切なく、知れば知る程ナイトという言葉が似合う。何より彼は、ここキャメロットの在学生で、後輩や他クラスの女子にモテる。もはやこのうちは一族の生き残りの彼と友達にならない理由は無かった。
そんなキリアの写輪眼の餌食になった女子たちは、最早瞳術からは逃れられず、益々罠に嵌る。
「な、なるほど。それなら仕方ないな……どうする皆?」
丁度席的に、クレアの周りには女子が固まっていた。そんな彼女たちはキリアの言葉を聞いて、なんかヒソヒソ会議を始めた。
「……どうする?」
「私は……」
「え~! ……でしょう?」
「なら……でしょう?」
クレア、フィリア、ツクモ、マリアが話し始めると、余程女子たちにとっては一大事なのか、フウラが加わるとクレアが皆を呼び寄せ、結局スクーピーまで加えて女子全員での会議が始まった。
そんなに大事なの? 確かに女子の制服は可愛いけどさ、そんなに重大事項なの?
こういう女子のお洒落に対する団結力には、恐れ入った。そしてしばらく掛かると思っていた結論までの時間も早く、その団結力にも恐れ入った。
その時間凡そ二分。大騒ぎになる様相を呈していた女子たちだったが、案外あっさり答えが出たようで、クレアが答える。
「その件に関してだが、やはり時間的にも金銭的にも制服の変更は無い方が良い。案としては悪くは無いのだが、もっと時間的に効率の良い物は無いか?」
やはりそう来た。向こうにはフィリアとヒーがいる。あの二人がいる以上、誰が聞いてもこれだという意見を出さない限り正論では簡単にひっくり返される。しかし逆に屁理屈を言ってもリリアがいる以上それも難しい。
さすがに万華鏡写輪眼くらいは持っていても、輪廻眼までは持ち合わせていないキリアではその壁は越えられないようで、折角キリアが俺を助けてくれても女子たちの圧倒的力の前には無力だった。そんな危機に、横に座っていたエヴァがまさかの援護射撃をする。
「おいおい。折角二人が良い案出したんだぞ? 制服は無理でもせめてパンツくらいは揃えろよ」
ほとんど野次に近いエヴァの砲撃だった。しかしこれが意外な活路を開く。
「おいリーパー」
「ん?」
エヴァの野次で教室が一時騒がしくなると、その隙をついてキリアが話しかけて来た。
「お前このクラスに好きな人はいるのか?」
「え?」
え?
「このクラスに好きな人はいるのかと聞いているんだ?」
「え?」
え?
「どちらなんだ?」
「え……ま、まぁ……そりゃ……」
パオラだけど……って、どうした急に⁉ 今それ関係あんの⁉
何故キリアが今好きな人がいるのかを聞いてきたのかは謎だった。しかしキリアにとってはこの質問は重要な要素だったようで、いると答えると一気に空気が変わった。
「そうか」
「え……」
「いや、誰かは言わなくてもいい。だが、俺も同じだ」
「え?」
「とにかくだ。リーパー、ここからは俺に力を貸してくれ。策がある」
なんか知らんが、ここで急にキリアが本気になったことで、俺たちはここから本当の戦いを繰り広げる。