アニー先生の言う通り
エヴァの迅速な進行のお陰で全員の自己紹介が終わり、場が落ち着くと絆を深めるために俺たちは雑談を始め、レクリエーションというか、まるで晩餐会のようなレクリエーションが始まった。
「お兄ちゃんはどこに住んでんの?」
「お兄ちゃんって呼ぶな! 気持ち悪い!」
「え~! 私ず~っとお兄ちゃんが欲しくって、お兄ちゃんに会ったらお兄ちゃんって呼ぼうって決めてたんだよ!」
「何回お兄ちゃんって言うんだよ! お前わざとだろ!」
自己紹介が終わると、さすが現三年一組の学級委員長だけあって、クレアはレクリエーションのためにお菓子や飲み物を準備していて、中央に集めた机をテーブル代わりにしてパーティー会場を作った。そしてそれに合わせ全員が立食を始め、各自好きな人同士での会話がスタートした。
「大体よ、本当の兄弟ってのはお兄ちゃんとか言わねぇんだよ! なぁそうだろリリア?」
立食が始まると、当然と言っちゃ当然だが、こういう場もそうだし、フウラがいるしでリリアとヒーは俺に近づき、それにつられてフィリアとジョニーもくっ付き、俺たちはいつもの五人で固まった。そしてそこにこれも当然と言っちゃ当然だが、先ずマリアが俺を標的に接近し、従姉であるツクモがフィリアとジョニーと会話を始めた。そしてさらに悪い事に、マリアとフウラは仲が良いのか、フウラまで一緒に近づいてきたため大変な事になっていた。
これにより俺はエヴァやウイラと話がしたかったが逃げられなくなり、とにかくマリアをどうにかしなくなくてはいけなくなった。
「と、どうなんでしょうか……? ねぇヒー?」
「……はい」
リリアたちとマリアは同い年だ。しかしフウラはいるし、リリアたちは人見知りするし、フィリアとジョニーはツクモと話してるし、俺もマリアにどう対応して良いのか分からないしで、リリアたちは余計に委縮してしまい、もう手に負えない状態だった。
くそっ! なんなんだこのマリアって子は! 義理の妹だか何だか知らんが邪魔だ!
お兄ちゃんと呼ぶからか、同色嫌悪なのかはよう分からんが、何故か無性にマリアの事は好きになれなかった。それにリリアとヒーも怖がっているし、とにかく今はマリアを遠ざけたかった。
「とにかくもういいからお前あっち行けよ!」
「なんでそんな事言うのお兄ちゃん?」
マリアがお兄ちゃんと呼ぶたびに嫌悪がして、今では吐き気すら感じるくらいだった。それにいくら兄妹だからといっても、初対面でいきなり慣れ慣れしいマリアには、嫌気がしていた。
そんな俺たちがあまりにも騒がしかったのか、ここでエヴァとファウナが場を取り持つように声を掛けて来た。
「どうした? 何騒いでんだよ? 少しは仲良くしろよ」
「あ、エヴァ君とファウナさん」
「君は止めろ! 気持ち悪い!」
「あ、ごめん……」
「エヴァで良いよ。俺も呼び捨てにするから」
「分かった。ありがとう」
「あ、ついでにファウナにもタメ口で良いから」
「分かった。よろしくファウナ」
「はい。よろしくお願いします」
エヴァとファウナは、本当に同じくらいの歳なのかと思うほど大人びた雰囲気をしていた。それこそアニー先生より年上に見えるほどで、この二人が一体どれほどの経験を得てここに来たのかと思うと、とても頼もしいクラスメイトだった。
「それよりも、リーパーとマリアは兄妹なんだろう? 何で喧嘩してんだよ?」
「別にケンカなんかしてないよ。ただマリアがしつこいから困ってんだよ」
「別に私しつこくないよ! お兄ちゃんがずっと私の話無視するから悪いんだよ!」
「お前がお兄ちゃんって呼ぶから悪いんだろ!」
「だってお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃん!」
マジでマリアはしつこい。これだけ言ってもまだお兄ちゃんと呼ぶ。血の繋がっていないリリアたちでも嫌がることをしつこくしてこないのに、それを続けるマリアを兄妹だとはとても思えなかった。
「そりゃさっきから聞こえてる。マリア、お前なんでそんな相手が嫌がる事をすんだ?」
「べ、別に嫌がらせしてるわけじゃないよ! お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだからそう呼んでるだけだよ!」
エヴァにとってもマリアのしつこさは頂けないのか、エヴァは俺の味方に付いてくれた。しかしそれが悪かったのか、マリアは一気に熱くなる。
「兄だとしても、お前とリーパーは今日初めて会うんだろう?」
「そうだけど! でもそれはエヴァには関係ないでしょう!」
「関係ある。兄弟は仲良くしなけりゃならん。マリアが本当にリーパーを兄だと思うなら、リーパーの嫌がる事をするんじゃない」
まるでお父さんのような事をいうエヴァは、お父さんだった。だが俺もマリアもお父さんなどいなかったため、それが余計にマリアに火を点ける。
「エヴァには関係ないでしょ! 私にはお父さんも兄弟もいなかったんだよ! それにおじいちゃんにだって会ったことないし、ずっとお母さんと二人っきりだったんだよ! その気持ち分かるの! それを何で兄弟でもなんでもないエヴァに言われなきゃなんないの!」
どうやらマリアも俺とほとんど変わらないようで、ずっと寂しい思いをしてきたようだった。ただマリアにお母さんがいて、俺にはリリアたち兄弟がいた。それを天秤にかける事は出来ないが、お母さんの温もりを知るマリアにはちょっと嫉妬してしまった。
そんな話を聞いて、やっぱりここは俺とマリアの問題は俺たちで解決しなければいけないと思ったのだが、どうやらエヴァの方にも火が点いたようで、ここからはやっぱり先生の言う通り喧嘩が始まった。
「ちょっと悪いファウナ。ここからは俺たちの問題だから、お前はリリアたちを連れてあっちの連中と話でもしてきてくれ」
「分かりました。ここは学び舎ですから、ほどほどにお願いしますよエヴァ」
「分かってる!」
「では参りましょう。私たちはクレアさんとでもお話いたしましょう」
この二人は相当仲が良いようで、エヴァが熱くなってもファウナは柔らかい笑みを見せるだけで全く止める事もせず指示に従い、リリアたちを引き連れてこの場を去って行った。
その姿に夫婦という言葉が良く似合う気がしたが、既に熱くなったエヴァとマリアはそれどころの騒ぎではなく、もうボルテージ最高で喧嘩をおっ始めていた。
「良いか良く聞けマリア! お前とリーパーは兄妹だ! だけどそれは血がつながってるってだけで、今までずっと生活して来たってわけじゃないんだぞ! それを……」
「そんなの分かってるよ! だけど兄妹は兄妹じゃん! 私だって本当は生まれたときからお兄ちゃんと一緒にいたかったよ! だけどそれは無理だったじゃん! だけど今こうして会えたんだよ! 今日から私たち一緒に生活できんだよ!」
えっ⁉ マリアって今日から俺の部屋で一緒に暮らす気してんの⁉ おい! こいつ頭おかしいんじゃないの⁉
嘘か本当かは分からんが、マリアの発言には驚愕だった。しかし俺が間に入る隙など一切なく、エヴァが返す。
「だったら尚更リーパーの嫌がる事をするな! お前のお母さんはそんな事も教えてくれなかったのか!」
エヴァは禁句に近い事を口走った。そのせいでマリアは一気に血が上り、半泣きのような表情になった。
「お母さんの事はバカにするな! あんた何も知らないでしょ!」
「そりゃ知らんさ! だけどリーパーには母親さえいなかったんだぞ!」
さっきから思っていたが、エヴァとファウナは全員の名前や呼び方、誰が誰の子孫かなどを熟知している節があった。それはおそらく英雄の血縁ではないからこそ、少しでも俺たちに負けないようにするための努力なのだろうが、あまりにも知りすぎているような感じに、一体どれほどの努力をしたのかと思うと、尊敬に近い感情を抱いてしまった。
だがさすがにエヴァの母親発言には黙っていられず、マリアの味方をするわけじゃないが口を挟んだ。
「ちょっと待てよエヴァ。それは言い過ぎだ。マリアにとって母親は特別な人なんだぞ? それをエヴァが言うのは間違ってるよ」
エヴァが俺の味方をしてくれるのは嬉しい。だからこそエヴァには間違った事を言って欲しくは無かった。それが通じたのか、エヴァは素直に謝る。
「そ、そうか……それは済まんかった。お前のお母さんの事を悪く言って済まなかったマリア。俺はマリアのお母さんの事を何も知らない。許して欲しい」
流石エヴァ。きちんと俺にではなくマリアに向かい謝罪を口にし、頭を下げた。するとマリアも悪い子ではないようで、あれだけ怒っていたが睨むだけでエヴァを許し、それ以上は責めなかった。だが悔しい気持ちは消えないようで、許しはしたが治まりはしないようで、益々泣きそうな表情になった。
「俺も悪かったよマリア。俺には母さんはいないけど、リリアやフィリアたちが兄妹みたいにずっといてくれた。だからマリアの気持ちは同じだとは言わないけど、その気持ちは分かる。わりぃのは全部じいちゃんと父さんだから、今のエヴァの言葉は忘れてやってくれないか?」
そう。諸悪の根源はじいちゃん! そして悪の元凶は父さん! あの二人のせいで俺たち兄弟だけでなく、関係ないエヴァまで傷つくのは間違いだった。
「そんなの、分かってるよ……」
悔しい気持ちが治まらないマリアもそこは共感しているようで、俺の言葉に少しだけ表情が和らいだ。ただ、いくらタメ口でも良いと言われても今の言葉遣いは悪かったのか、それとも裏切りだと感じたのか、今度はエヴァが衝撃を受けたような顔を見せ、シュンとした。
ごめんエヴァ! 折角助けてくれたのにちょっと言い方悪かった⁉ 今度から気を付けるから!
マジじいちゃんが起こしてくれたトラブルのせいで犠牲者ばかり増え、じいちゃんを呪った。
「まぁそれでもさ、やっぱお兄ちゃんって呼ぶのやめてくれない? やっぱ兄弟は名前で呼び合うのが良いからさ」
「…………」
傷ついたマリアをこれ以上責めるのはズルいとは分かっていた。それでもやっぱりお兄ちゃんと呼ばれるのは難しい物があり、そこだけはどうしても譲れなかった。
「なぁ頼むよマリア。マリアだって妹って呼ばれるの嫌だろ? ……ん?」
お兄ちゃん、お姉ちゃんはあるが、自分より下はなんと呼ぶのだろう。妹よ? 愚かなる弟よ? ん? ブラザー?
「うん」
あっ! ちょっと待ってマリア! 今ちょっと分け分かんなくなってるから!
「それは嫌」
「そ、そうだろう?」
「うん」
ああっもう! まぁいいや! そのうち寝るときにでもいつか思い出すから!
自分で言っていて疑問を感じたのだが、今はそれは本当にどうでも良い事で、マリアがやっと分かってくれそうな雰囲気に、先ずは話をまとめることにした。
「じゃあこれからは俺の事、リーパーって呼んでくれよ? リリアたちだけじゃない、俺呼ぶの皆リーパーだから」
「……分かった……じゃあ私の事、マリアって呼んで……」
「あぁ。初めましてマリア。俺はお前の兄のリーパーだ」
そう言うと、マリアは目を大きくして俺と目を合わせた。そしてやっと笑顔を見せてくれた。
「うん! よろしくリーパー!」
「よし。それでいい」
「うん!」
エヴァの助けもあり、やっとマリアを理解すると、ここで初めて俺はマリアを妹なんだと認め、ずっと求めていた存在が愛おしくなり優しく頭を撫でることが出来た。こうしてなんだかんだあったが大きなトラブルもなく俺とマリアの問題は解決し、また一つ成長出来たような気がした。
ただ、あれだけ世話を焼いてくれたエヴァだが、最後は兄妹の絆のせいで逆に邪魔者みたいになり、それを敏感に感じ取りしょんぼりする姿には大変申し訳なかった。
ストックは終わりです。また一週間ほど空く予定です。
我らは英雄だ‼ かなり長くなってきました。こうなると毎回思うのですが、読んでくれている人は何が面白いのか分からなくなってきます。バトルは無いし、魔法も無い、これは魔王を倒す物語なのに、ただの学園モノになっています。かと言って無理矢理バトル系にして面白くしようと思っても、リーパー曰く『馬鹿言ってんじゃないよ。リアルでそんな学校あったら誰が行くんだよ。大体命がけの戦いしたい奴なんていねぇだろ? 現実を見ろ!』と言われ、ファンタジー路線は無理です。
※ この物語は、現実世界とは少し違う、魔法があり魔王がいる現実世界のお話です。現実世界でもそうであるように、命がけの戦いなどそうそうある物語ではありません。