お兄ちゃん
「私のおじいちゃんは、エドワード・アルバインって言う元英雄で……」
「えっ⁉」
来年一月の模擬演習に向け合流したメンバー。そこで佐藤麻利亜と名乗った少女の自己紹介で、まさかのじいちゃんの名が出た事で波乱が起きる。
今エドワード・アルバインって言った⁉ えっ⁉
聞き間違いかと思った。だって俺には兄妹も従姉もいない。今までずっとそう聞いていた。なのに今マリアはじいちゃんの名前を出した。あり得ない言葉に嘘を付いているとさえ思った。
「あ! じゃあやっぱりお兄ちゃんがお兄ちゃんなの!」
「えっ!」
俺が驚き声を上げると、マリアは指さして俺をお兄ちゃんと呼んだ。
「私ね、お父さんは同じだけどお母さんが違うの! だけどお父さんは同じだから、私たち兄妹なんだよお兄ちゃん!」
「はぁ⁉」
もう驚きすぎて戦慄くほどだった。それこそ無意識に口を手で覆うほどで、さらに俺と同じくらい驚くフィリアやリリアたちのせいで、もう訳が分からなくなっていた。
「ねぇお兄ちゃん! 抱っこしてよ! 私お兄ちゃんに抱っこしてもらうの夢だったんだ!」
そう言うとマリアは立ち上がり、俺の方へ向かってきた。
「こっち来んなっ!」
大パニックだった。嘘か本当かは知らないが、あれだけ欲しがっていた血の繋がった兄妹が目の前に現れても、突然の事にただただ恐怖しかなかった。
「せっ、先生っ! ほほ本当ですか!」
「本当ですよ、リーパーさん」
「ねぇ抱っこしてよお兄ちゃん!」
「おいお前! こっち来んなっ! フィリア助けて!」
なんか知らんが超こぇ~! いきなり現れた兄妹とかいう女の子だけでも怖いのに、それが抱っこしろって近づいて来んの超こぇ~! 助けてフィリア!
もう先生の声も聞こえないくらい恐怖する時は不思議なもので、一番嫌いなはずなのに一番頼りになるフィリアに守ってもらおうとする。それこそフィリアの後ろに隠れ、頭を低くして盾にするほどに。
「フィ、フィリア! とにかくあいつを何とかしてくれ! あいつなんなんだ!」
「リーパーの異母兄妹だって先生も言ってましたよ!」
「本当なのかよ! お前俺に兄妹なんているなんて聞いたことあんのかよ!」
「ありませんよ! じゃあ誰なんですかあの子!」
「知るか!」
突然現れた俺の妹と名乗るマリアに、フィリアもパニック状態だった。
「おい! こっち来んな!」
「え~? 何でお兄ちゃん?」
「その呼び方もやめろ!」
お兄ちゃんと呼ばれると虫唾が走った。それは見ず知らずの女の子に言われたからというわけではなく、そう呼ばれること自体が気持ち悪かった。
俺とリリアたちは血は繋がっていないが、昔から名前で呼び合っていた。それこそリリアたちは昔から敬語口調だったが、それはほとんどタメ口と変わらず、俺も年上のフィリアたちを呼び捨てにしていた。だからお兄ちゃんとかお姉ちゃんとかいう言葉は萌え系のアニメというイメージがあり、超気持ち悪かった。
「お、おい! リリアたちも助けろよ! おい! ジョニー! 俺を護れ!」
もうなりふり構っていられなかった。今こそ俺たち兄弟の絆を発揮して、突然現れた訳の分からない妹をやっつける必要があった。するとリリアたちも兄である俺の危機を察したのか、助太刀に入ってくれた。
「ちょっと待ってください! 貴方は本当にリーパーの妹なのですか⁉」
流石頼れる妹。なんだかんだ言って一番俺に懐いていたヒーが先陣を切る。
「本当だよ? それより君の名前は?」
「あ……失礼しました。私は、五十嵐……妃美華・ブレハートと申します。私の名前は呼びづらいので、ヒーと呼んでください。よろしくお願いいたします」
「よろしくヒーちゃん」
「よろしくお願いします」
五十嵐姉妹は、幼い頃より挨拶や礼儀だけはしっかり教育されている。しかし今はそれが仇となり、ヒーは俺を守る事を忘れたかのように普通に挨拶をする。そしてそうなると当然リリアが続く。
「私は、五十嵐理利愛、じゃなくて、理利愛・ブレハートと申します。私と妃美華・ブレハートは双子の姉妹で、私は姉です。よろしくお願い致します」
「よろしくリリアちゃん」
「よろしくお願いします」
まんまとマリアの策にハマった二人だったが、反射的に挨拶をしたことで一時の猶予ができ、今のうちに体制を立て直すチャンスを得た。だが何を思ったのか、ここで今度はジョニーが挨拶を始めた。
「俺はジョニー・ライハートだ。よろしく頼むマリア」
「あ、よろしくお願いしますジョニーさん」
「あぁ」
何で⁉ 何でジョニーはこのタイミングで自己紹介したの⁉ それもなんで握手までしてんの⁉ こいつ一応兄の癖に弟の俺を守る気無いよね⁉
なんか良い雰囲気で挨拶をするジョニーは、まるでマリアと結託したかのようだった。そんなジョニーを見て、ここがチャンスだとでも思ったのか、まさかのフィリアまで自己紹介を始めた。
「私は、フィリア・ライハートと言います。よろしくお願いしますマリアちゃん」
「よろしくお願いしますフィリアさん」
俺を見捨てたフィリアは、ジョニーと同じように握手をし、なんか良い感じだった。
ま、まさかっ⁉ こいつらまた俺を裏切るつもりか⁉
もう何回裏切られたか分からないが、それだけ裏切られてきたからこそ、こいつらは本当に駄目な兄弟だった。それでも自己紹介をしたことでフィリアは落ち着きを取り戻し、マリアの動きを止めた。
「マリアちゃんはリーパーの異母兄妹だと言いましたよね?」
「うん。そうだよ。私のお父さんと、お兄ちゃんのお父さんは同じなの」
「ぁ……そうなんですか」
「うん」
俺の父さん事を知っているフィリアは、改めて父親は同じと言われると苦しそうな目で俺をちらりと見た。
おい! そんな目をすんな!
俺はもうそんなに気にしていないが、フィリアたちの中では父さんもそうだが、俺の親に関しては禁句とされていた。そんなタブーにガンガン触れてくるマリアに、愛想よく自己紹介した四人だが、逆に気を使いすぎて結局わなわなするだけだった。
「でもね、私お父さんの事全然知らないの。お母さんの話だと、私が生まれる前に離婚しちゃったらしくって、お母さんに聞いてもそれからお父さんがどうなったか知らないんだって」
「そ、そうなんですか……」
「そ、それは大変だな……」
「だだ大丈夫ですよマリアさん。お、お父さんはきっと元気……」
「リリア……」
「あ……大丈夫です。いつか会えますよ」
「そ、そうですマリアさん」
オメーら気を使いすぎだ! 逆に俺が心苦しいわ!
「だと良いけどね?」
「だ、大丈夫だ、きっと会える」
「そうですよマリアちゃん! 頑張っていればいつか会えます! そうですよね皆!」
「そ、そうです!」
「そうですよ!」
「そうだ!」
もうやめてくれ! そんなチラチラ見ながら気を使うなら、いっそ『オメーの親父は死ぬまで刑務所だ!』って言ってくれ!
マリアから俺を守ろうとしてくれていたはずなのに、結局四人は俺を裏切り攻撃を加えてきた。これには違う意味で心が折れそうだった。
そんな俺の惨めさに哀れみを感じたのか、ここで新たに加わったメンバーの一人が助けに入ってくれた。
「もう良いだろう? それ以上リーパーをいじめるなよ? それより早く自己紹介の続きをしようぜ?」
助けに入ってくれたのは、俺と同い年くらいの男子だった。
「俺はエヴァ・エレクトリックって言うんだ。よろしく頼む」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「よし。じゃあ次はファウナ。お前が自己紹介しろ」
「……はい」
助けてくれたエヴァはとても頼もしく、このままでは埒が明かないと判断したのか、クレアもフウラもマリアも無視して、引っ張るように進行役を務める。
その姿はとても頼りがいがあり、なんだか直ぐにでも仲良くなれそうな気がした。
そんなエヴァの指名を受け、ファウナが自己紹介をする。
「私は、ファウナ・シャルルという者です。私とエヴァは、皆様のようにご英雄様の血縁ではございませんが、どうかよろしくお願いいたします」
ファウナという女子は、とてもおっとりした気品があり上品で、フラヴィ王子並みにお嬢様という感じだった。それこそ貴族ばかりの三年一組だが、その中でも群を抜いてお嬢様という感じで、並み居るお嬢様を一瞬で駆逐する勢いだった。
「じゃあ次はそっちのB班の……侍みたいな髪した、ポニーテールの君」
「え? 私? ……じゃあ」
エヴァは頼りになる兄貴という感じで、次々指名して進める。そこには有無を言わさぬ堂々とした風格があり、まるで大人の男性みたいな雰囲気に、進行役を奪われたクレアでさえ口を出せなかった。
ただ、ファウナが血縁ではないと言った事や、エヴァがフウラたちをB班と言ったことから、この二人が一般選考で合格したのだと分かると、その理由には納得だった。
「私は、佐々木九十九って言うの。私はそこにいるフィリアとジョニーの従妹で、一応ミカエル様から聖刻を貰う予定。それと……まぁ、よろしく」
黒髪で苗字は佐々木、そして見た目もほとんど日本人なのだが、フィリアの従妹という話からアメリカ人のハーフだと思うと、意外と遺伝というのは人それぞれなのだと思った。
ツクモの事は来るかもしれないと言っていただけに、フィリアとジョニーは今まで驚く素振りは全く見せず、ツクモの挨拶が終わるとフィリアたちは久しぶりという感じで手を上げて挨拶していた。
これには当然俺は驚いていたが、フウラとマリアの件の後という事もあり、ちょっと驚いたくらいだった。
「そう言えば聖陽……」
「じゃあ次。君」
ツクモの挨拶が終わると、フィリアは久しぶりの再会に雑談でもしようとツクモに何かを問いかけようとした。しかしエヴァは結構せっかちなのかそれを遮った。その風格はフィリアでさえ逆らえないオーラがあり、これはもしや新たな学級委員長の誕生かと少し波乱を感じた。
その何とも言えないオーラに完全に場は支配され、次に当てられたB班最後の男子も逆らう事など一切せず素直に自己紹介をする。
「私は、ウイラ・リィムです。私にはご英雄の血脈はありませんが、アルカナにて幼少期より修行を重ね、加護印を発現させました。本職は僧でありますが、今は世界を救うため皆様の学友として苦楽を共にします。よろしくお願いします」
なんという天才。英雄の子孫である俺たちの中にもまだ加護印を発現させられてないメンバーがいるのに、既に発現済みだと言うウイラには感服した。何より僧だというだけあって、頭を下げたとき両手を合わせる姿は美しく、大人しそうだが経験も豊富そうでとても頼もしそうだった。
そんなウイラには色々と聞きたいことがあったが、エヴァはもう面倒臭くなったのかあっさり流し、今度はアドラを指名して一気に自己紹介を進めた。
そんな感じで全員の自己紹介が終わると場は落ち着き、やっとレクリエーションらしい感じでの雑談となった。




