新たなクラスメイト
「では……先ずは自己紹介から始めよう」
ホームルームが始まり、いつも通り終えると、早速アニー先生は本日から合流する新たなメンバーを教室に招いた。
今回合流するメンバーは全部で六名のようで、男子二人に女子四人と、かなり女子の比率が高いメンバーで、男の俺としては悪くはなかった。その中にはどうやらリリアたちの予想通りフウラがいるようで、向こうのクラスの先生の次に先頭で入って来た女子はリリアたちと同じくらいの年齢で、同じ銀髪をしており、瞳も赤く、背も小さくて顔や雰囲気まで似ている様に、直ぐにあの子だと分かった。ただ、リリアがボケ~っとした顔、ヒーが眠そうな顔をしているのに対し、めちゃめちゃ凛々しい顔をしているフウラは気が強そうで、二人が苦手だと思う気持ちも何となく分かった。
そして六人が教室に入ると、アニー先生は本当に全部俺たちに任せるようで、自己紹介もさせずに速攻でレクリエーションに入った。
「私はクレア・シャルパンティエという者だ。私はジャンヌ・シャルパンティエの孫で、アテナ神様の聖刻を目指している。どうかよろしく頼む」
流石一軍の学級委員長。クレアはいきなり丸投げにされた状態でも華麗に進行を務め、自己紹介を始めた。
「では、次は……」
「私がします」
クレアは次に、隣に座るキリアに自己紹介をさせようとした。しかしフウラと思われる女子が割り込んだ。
これには、どうやらリリアたちが言っていた通りフウラはプライドが高いのか、交互に自己紹介をするのがマナーというより、進行をクレアに取られたのが気に食わないという感じに見え、なんだか性格が悪そうだなと思った。
それでも向こうもどうやら貴族で学級委員長のようだし、初めてクレアを見たときの事を思い出すと、英雄の子孫だ! というプライドがある人達は大体こういう人なんだろうなと思い、勝手な印象を抱かないようにした。
「私は、フウラ・岬・ブレハートという者です」
「え……やっぱり……」
自己紹介を始め、フウラだと判明すると、何故かリリアたちではなく、隣に座っていたエリックが小さな声でぼそっと言った。それが聞こえていた俺は、何故エリックが? と思ったが、フウラがそのまま続けるので先ずは自己紹介を聞くことにした。
「私の祖母は、フィーリア神様より聖刻を授かった、ファウナ・ブレハートです。私は我が師、岬憲清より賢者の称号を頂き、アイアース学園においてグレードⅥ(シックス)を獲得しました」
アイアース学園は、確かエリックがここに来る前にいた学校の名前。アイアース学園は世界的に有名な魔法学園で、俺はよう知らんが、エリックの話ではホグワーツみたいな学校らしい。
ぼそっと言っていたことから、どうやらエリックも知っているようで、まさかリリアたちの他にも知り合いがいた事に少し驚いた。
それにしてもフウラは本当にリリアたちが言うイメージ通りの子のようで、自己紹介なのにとにかく喋る。
「私は……」
そう言うとフウラは襟を少し下げ、首の左側に加護印を発現させた。その仕草はちょっとセクシーで、ちょっと良い物を見た気がした。
「このように加護印を既に発現させています。我が家は三代続く英雄の家系で、私は四代目の英雄を目指しています。そしてそこにいる、理利愛・ブレハートと妃美華・ブレハートは私の従姉にあたり、母の代まで同じ血統を引き継いでいます」
敢えて母親まで同じ英雄の血統を引き継いでいると言ったフウラの言葉は、明らかにリリアたちと自分は違うと言いたげで、フウラもまたリリアたちに対し良い感情を抱いていないのだと分かった。
「私は高魔族と呼ばれる人種の人間であり、生まれつき魔力は一般の方よりも優れています。そして魔法の扱いも幼少期より岬師匠の元精進しており、僭越ながら賢者の称号を授かるまでになりました」
要は自分は生まれつき魔力も凄いし、凄い師匠の元修行して賢者と呼ばれるまでになったという自慢話で、リリアとヒーの前情報が無ければ物凄くプライドの高い嫌な奴という印象を抱いたかもしれないが、リリアたちの前情報のお陰で、それは全てリリアたちへの当て付けのために言っているのだと分かった。
だって自己紹介なのに完全にリリアとヒーの方向いて言ってるし、リリアたち唇尖らせて悔しそうに目を反らしてるもん! 完全にリリアたちに言ってるもん!
“お前たちが嫌い!”というより、“私は一杯努力してここまで来た!”という風に見えるフウラは、憎しみよりも叱責という言葉の方が近く、寧ろ今まで不仲だったのはリリアたちの方が悪かったんじゃないのかと思った。
それに、リリアたちと同じくらいの年齢で賢者の称号を得ているとは余程の天才で、お父さんは違うけどリリアたちも同じ血が流れてるんだから、怒られても仕方ない。まぁ俺には賢者がどれくらい凄いかは分からないけど、賢者だからね! 多分将棋とかで言ったら藤井君くらい凄いんだからね!
全く全然賢者の凄さは分からないが、リリアたちのお陰でフウラは意外と嫌な奴という感じはしなかった。ただ、それにしてもよう喋るフウラに、リリアとヒーを足して二で割って、社交的にしたらああなのかと思うと、この三人が三つ子だったらどんな感じだったのだろうと少し温かい気持ちになった。
そんなよう喋るフウラには、同じクラスの仲間も喋り過ぎだと思ったのか、ここで隣に座っていた、これまたリリアたちと同じくらいの歳の女子が止めに入る。
「私は……」
「フウちゃん? ちょっと喋りすぎ~」
「……すみませんマリア。少し熱くなり過ぎました……」
「良いよ別に。じゃあ次は私に喋らせて?」
「分かりましたマリア。では、私の自己紹介は終わります」
向こうは向こうでそれなりに交流を深めていたようで、かなり気の強そうなフウラ相手でも全く物怖じせず会話するマリアと呼ばれる子とは仲が良いようで、熱くなっていたフウラは少し恥ずかしそうにすると、すんなりバトンを渡した。
それを受けて、マリアは立ち上がると元気よく自己紹介を始める。
「私は、佐藤麻莉亜と言います! 十四歳です!」
黒髪で名前も日本人だが、ハーフかクォーターなのか、麻莉亜はどこか外国人のような面影がある。しかしそれ以外は日本人という感じで、フウラと同じくらい背も小さく、愛嬌のある子だった。ただ、最初に見たときから、日本人という事以外見覚えも会った事も無いはずだが、どこかで会ったような気ばかりしていてフウラ以上に気になっていた。
「私の事は皆マリアって呼ぶから、マリアって呼んで! そして皆同じクラスだから、敬語は無しでお願いします!」
表情豊かで可愛い声をしているマリア。だけど全然マリアに会った記憶など探してもどこにもなく、これだけ積極的そうな子なのに全く覚えていないという感覚は不思議だった。
その不思議な感覚は、気のせいではなかったようで、マリアの自己紹介で不思議な感覚の正体が判明する。
「私は日本生まれの日本育ちの日本人で、外国なんて来たの初めてだったから、日本語以外喋れません!」
俺たちと同じような育ちのマリアは、貴族でもなんでもなく本当に一般人という感じの少女だった。そして活発で社交的そうで、俺たちと同じくらいに集められたのにも関わらず手慣れたように話す姿に、直ぐにでも仲良くなれそうだった。ところが次の言葉で仲良くどころの騒ぎではなくなった。
「私のおじいちゃんは、エドワード・アルバインって言う元英雄で……」
「えっ⁉」