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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
四章
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犬猿の仲

 月曜日。今日から新たにメンバーが加わり、三年一組は一月に行われる演習に向けて動き出す。そんな日だが、全てはここキャメロットで行われるため、俺たちキャメロット組は普段と変わらず、いつものように登校していた。


「はぁ~……フウラが来るんですか……」

「はい……」


 新たにクラスメイトが増えるというのは、友達の少ないリリアたちにとっては嬉しい事のはずだが、余程従姉であるフウラという娘の事は嫌いなようで、今日のリリアとヒーは朝からテンションが低かった。


「従姉なんだろ? 兄弟みたいなもんじゃねぇか。別に何言われたって気にしなければいいじゃん」

「そうはいきません! フウラは卑怯な奴ですから、無視してもロシア語なんだかフィンランド語なんだか分からない言葉で、怒りながらほにゃらららコップンカーとか言ってバカにしてきますから!」

 

 バカにし過ぎだろ! 大体コップンカーってロシア語じゃねぇし! 違う国の人に飛び火してんじゃねぇか!


 相当ヒーも嫌っているようで、そうだそうだと頷く。


 俺はフウラには会ったことは無いが、リリアとヒーの話では、英雄の孫としてのプライドが高く、それを放棄して日本に逃げたような五十嵐家をバカにしており、さらに英雄の子孫として何の努力もしていないリリアたちの事を見下しているらしい。特に大きかったのは、昔町で開催されたミニバレーボールの大会で、俺たちが三位になって貰ったトロフィーをバカにされたのが相当悔しかったらしく、それ以降完全に嫌いになったようだった。


 確かにあれは、町で開催された小さな大会だったが、俺たち五人とリリアたちの友達で掴んだ栄光で、初めて俺たちでもやればできると感じさせてくれた勲章。リリアとヒーにしてみれば一生思い出に残る宝物と言えた。それをフウラが『こんな物ゴミと変わらない』とか言ったらしく、それで大喧嘩してコップンカーになったようだった。それ以降はもう恨みのような感情を抱いているようで、あの二人がここまで人を馬鹿にするのは初めてだった。


「でもフウラが来るとはまだ分からないだろ?」


 襲撃の件もそうだが、元々俺たちは重要人物のため、個人情報は例え従妹同士でも教えてもらえない。だから俺たちは誰が来るのかは全く分からず、下手をすれば向こうも誰がいるのか分からない可能性がある程、厳重に情報は管理されていた。


「いえ。絶対来ます!」

「そうです! あのフウラですから、必ず来ます!」


 嫌いだからなのか、フラグという言葉を知っているからなのかは知らないが、二人は力強く否定してもフウラを認めている辺りに、なんだかんだ言っても性格が良いのは変わらないと思った。それにしてもあのヒーまでもが力強く言う姿に、逆にちょっとフウラと話がしてみたくなった。


「まぁ二人ともそう言わず、仲良くして下さいよ? もしかしたら私の従妹も来るかもしれないんですから」


 フィリアとジョニーにも二人の従姉がいる。その二人とも会ったことは無いが、こっちは普通の従妹という感じらしく、問題はないらしい。ちなみに俺にはそんなシャレオツな存在などいなく、もしフィリアたちの従妹もくれば、男もいるらしく、なんかちょっと……なんて言うか……俺血の繋がった兄妹もいないし、なんかちょっと恋する乙女のような気分。


 しかしリリアたちにとっては全くそういうわけにもいかないようで、さらに熱くなる。


「それは無理ですフィリア! フィリアたちの従妹とは仲良くできても、フウラとは無理です!」

「そうです! フウラは協調性がありません!」


 何が二人をそうさせるのか、まだ来るかどうかさえ分からないフウラ一人に熱を帯びる。これにはジョニーも呆れたようで、珍しくため息を付いていた。


 そんな感じで登校していると、今日は久しぶりに皇太子さまの愛猫、ミィアを発見した。


「あ、あれは! ミィア! 今日こそ奴から情報を聞き出してやりましょう!」


 アルカナで俺たちを襲った四名の護衛は、キャメロットで選ばれた精鋭だった。そしてその精鋭を選んだのは、キャメロット王と皇太子さまで、それを知ってからリリアは、二人が俺たちを殺そうとしているスパイではないかと疑っている。だがあの二人の情報などそう簡単に手に入る訳もなく、リリアはミィアから聞き出そうとしていた。


 ちなみに、リリア曰く、ミィアは実は猫の姿に化けたスパイらしく、ああやって猫の振りをして情報を集めているらしい。当然そんなことは無い。


 ミィアを見つけたリリアは、フウラの事など一瞬で忘れ、尋問するため駆け寄る。そして動物大好きのヒーももちろん付いていく。


「おはようございますミィア、今日の調子はどうですか?」

“にゃ~”


 ミィアは結構賢い、と言うか、多分生まれて目も開かないうちから人に育てられて沢山話しかけられてきたのだろう。だから名前を呼んだり話しかけたりすると、声による意思の疎通を知っているようで、返事をするように鳴く。


「そうですかミィア。それは良かったです」

「おはようございます。今日はどこへ行く予定ですか?」

“にゃ~”

「なるほど。ですが、今日は天気も良いので、中庭が見える場所ですと温かいですよ?」

“にゃ~”


 今日の調子を聞くリリア。今日の予定を聞くヒー。二人はただミィアと触れ合いたいだけ。ただ二人の会話を見ていると本当に言葉が通じているようで、ある意味あの二人が人に化けた猫に見えた。


「で、では。きょきょ今日は、ささ触っても良いですかミィア?」

「今日もダメですリリア! ミィアの目を見て下さい!」

「くっ!」


 ミィアは相当人慣れしている。それこそ自分が人間だと思っているほどに。そんなミィアだからこそ、人にしつこく構われると面倒になるのか、ああやって声を掛けていると、最後は何故か鳴き声でなく眠たそうに瞬きをして返事をする。

 それをリリアたちは拒否反応だと思っているらしく、今日も残念ながら二人はミィアからは情報を聞き出すことは叶わなかった。


「分かりましたミィア。お忙しいところ引き止めてしまい、申し訳ありませんでした。今日もキャメロットの平和を守るためパトロールよろしくお願いします。それでは」

「失礼します」

“んゃ~”


 リリアたちが別れを告げると、ミィアはそのタイミングで口を大きく開けて欠伸をした。それは完全にリリアたちをバカにしているようで、その姿を見ると、ミィアが猫に化けているスパイだとリリアが言う気持ちが、分からないでもなかった。


 そんな寄り道をしながら教室へ向かうと、今日はやはりリリアたちにとっては嫌な日のようで、教室の前で立ち止まった。


「どうした?」

「いえ。もしかしたらもうフウラが教室にいるのではないかと思って……」


 それを聞いて、まだ来ねぇよ! っと思ったが、なんかこの教室に始めて来た時の事を思い出し、嫌な予感がした。


「まさか? 普通転校生みたく、先生と一緒に来るだろ?」

「フウラなら、多分一人で勝手に先に教室に行って、私たちの机に落書きをしているはずです」


 本当に嫌いなのだろう。それはもうただの問題児だと思ったが、リリアとヒーはあり得るという感じの険しい表情を見せ、息を呑んだ。


 大丈夫なのこの二人? 嫌い過ぎておかしくなってね?


 リリアとヒーは、人も動物も植物も、生きとし生けるもの全て大好きだ。そんな二人がこれほど嫌うとは非常に珍しく、俺とフィリアとジョニーは目を合わすと、病んでいるなと首を傾げた。


「とにかく教室に入りましょう。私たちが先に入って確認するので、その後リリアたちは入って来て下さい」

「分かりました……お願いしますフィリア」

「はい」


 この二人に構っているとまた長くなると思った俺たちは、リリアとヒーを置いて先に教室に入った。すると一時限目のレクリエーションのために増えた机が真ん中を向くように準備されているくらいしか変化はなく、いつものようにクレアとキリアが先に来ているだけだった。


「おはようございます」

「おはよう」


 フィリアが挨拶をすると、クレアとキリアは挨拶する。それに続いて俺とジョニーも挨拶した。

 アルカナで絆を深めた俺たちは、前以上に仲良くなり、今では普通に会話できるほどの仲になった。ただまだ俺はクレアとはなかなか雑談というレベルまでは達していなく、仲は良くなったがエリック達ほどじゃなかった。


「おい。まだクレアとキリアしか来てねぇぞ。お前らも早く入れ」

「本当ですか? 私たちの机は落書きされてませんか?」


 こいつらどんだけだよ! 仮にもしされてたら、フウラと血の繋がるお前らも信用できねぇよ! 


「されてねぇよ! 机がレクリエーション用に準備されてるだけだよ! 早く入れ!」

「じゃあ入りましょうヒー!」

「はい!」


 何がこの二人をそうさせるのか。フウラが来た痕跡が無いと分かると途端に明るい笑みを零す二人に、そう感じざるを得なかった。


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