表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
三章
40/176

成果

 一週間ほどの里帰りを終えた俺たちは、たくさんの思い出というお土産を持ち、アルカナに帰国した。ラクリマの予言通りトラブルもなく実家を満喫した俺たちは、存分にリフレッシュができ、またキャメロットでの生活が始まると分かっていても意外と平気で、とても良い休日を過ごせた。

 しかしラクリマにとっては悲しい別れであり、飛行機の中で涙を流す姿はなんだか切なく、まるで卒業式にでも出たような旅でもあった。


 そんなラクリマとだが、あの晩のせいでかなり距離を感じてしまう事態になったが、逆にそれが功を奏したのか、ラクリマは次の日から俺にべったりくっつき、何とか俺との仲を取り戻そうとしてくれた。そのお陰で俺は、ラクリマの本心を知ったような気がして、前以上に仲良くなれた気がした。

 ただ、心が読める力のせいで、途中から気にせずラクリマと話す内に俺の本性は全て知られ、ラクリマの中では俺はキモイ奴かエロい奴のどちらかで一線を引かれたのは否めなかった。


 それでもラクリマと仲良くなれたのは事実で、俺たちは全員電話番号を教え合いLINEグループも作った。まぁ、ラクリマ自身はスマホを持っていないからバイオレットさんを通しての会話になるが……。


 そんな感じで、当初の目的の加護印の発現も既に持っていたし、なんだかんだ言ってラクリマとも仲良くなれたしで、俺たち日本チームは予想以上の収穫を得て、大成功と言える成果を出した。それに対し……


「今回の件は全て私にある。私は自分の力を過信し、リーダーであることに慢心していた。それがこのような結果を生んだ。本当に済まなかった」


 アルカナ城に到着すると、既にクレアたちは帰還しており、俺たちを待っていた。だが、そこにはキリアの姿は見当たらず、エリックとスクーピー以外の三人は体中のあちこちに包帯を巻いていて、正に傷だらけだった。

 

 ラクリマの予言通り、クレアたちは何の成果も上げられず帰国する際、襲撃を受けたらしい。


 これは事前にラクリマから情報を得ていただけに、それほど驚きはしなかったのだが、クレアたちのあまりに痛々しい姿と、その相手がたった一人の男だったという話には、驚きを隠せなかった。


 話によると、クレアたちは帰国するため、六人で景色の良い農道を空港へ向かい歩いていると、日本刀を持った一人の男が道の真ん中で待っていたらしい。

 その男は、白髪に赤い瞳をしており、明らかにアドラたちと同じ黄泉返りだったらしく、自分も加護印を持っていると言い、左目の周りに加護印のような紋章を浮かび上がらせたという。 

 だが男の顔に現れた加護印のような紋章は黒く、赤い光を発し、どう見ても加護印とは違うものだったという。

 

 フィリアやジョニーが持つ加護印は、白色に青白い光を発する。それは俺たちが習っていた色と同じで、実際クレアたちもフィリアとジョニーの加護印をその目で見ている。そのためクレアたちが見たという紋章は加護印とは別の物で間違いなく、見間違えや勘違いではなかったと断言出来た。


 そしてその後だが、男は名を名乗ることもせず、ただ自分の紋章の力とクレアたちの力を見たいと言い、戦闘になったらしい。

 

 この時クレアたちも、護衛している人たちも、ラクリマの試練という言葉を聞いていただけに、戦いはクレアたち六人で行われたという。


 男が紋章を見せた時点で、あり得ないほどの殺意を感じた事で、男が構えるよりも早くアドラとパオラが反応し、直ぐに戦いが始まったらしい。だが同じ黄泉返りで、戦闘能力も上だった男は、アドラとパオラの二人が飛び掛かっても歯が立たず、直ぐにクレアとキリアも参加しての戦いとなったらしい。


 その男は異常に強く、特に剣速は光のように速く、太刀筋は振り抜いた後の閃光くらいしか見えなかったらしい。そんなアドラたちでさえ敵わない相手に、クレアたちは苦戦し、遂にはフィオラさんも含む警護の人間全員が参加しての戦いになったのらしいが、そのフィオラさんたちでさえ相手にならず、クレアは死をも覚悟したという。


 そんな中、キリアが腹を突き刺されながらも命がけで男の剣を止めた事で、アドラとパオラが何とか男に深手を負わせ撃退できたと言っていた。ただ、その時のキリアの怪我はかなり酷く、病院に運ばれると緊急の手術が必要となり、同じく大怪我を負ったフィオラさんも現在もフランスの病院で治療中だという。

 それでもこのままフランスにいれば更なる危険に晒されると判断したクレアたちは、そのまま二人をフランスに残し、現在に至るという。


 あくまでこれは、襲われた傷もまだ癒えぬ今の状態のクレアから聞いた話で、詳しくはまだはっきりとは分からないが、そのあまりにも衝撃的な話と、それがさも自分のせいであるかのように虚ろな表情で話すクレアを見ていると、今は男の存在よりも、クレアたちのケアの方が先だと思い、これ以上込み入った話は今必要なかった。


「別にクレアのせいじゃないよ。だから今は怪我を直すことを考えよう?」


 左目の上を真っ青にして腫らし、いつも綺麗に整えている髪は野良犬のように艶が無い。それに体中のあちこちに包帯を巻き、肌が見えるところには痣が沢山ある。それだけでも痛々しいのに、気持ちまで滅入ってしまっている今のクレアを見ていると、とても心が痛んだ。


「しかし……」


 もう何を責めれば良いのか分からないのだろう。ただクレアは俺の慰めを拒むように、否定的な言葉を漏らすだけだった。それがとても心苦しかった。


「とにかく一回休もう? そうすれば少しはどうすれば良いのか分かるはずだから」

「…………」


 おそらく今のクレアは、立っているだけでも体中が痛いだろう。それほどの怪我を負っているが、やはり自責の念の方が強いのか、俺が声を掛けても俯いたままだった。


 アドラは左腕を骨折。パオラは右手首と左足を骨折。エリックは怪我をしていないが心の傷は深く、瞳に力が無い。スクーピーも怪我はないが、怖い思いをしたのは間違いなく、元気が無い。そのうえキリアも手術が必要なくらい大きな怪我をしており、フィオラさんも入院中だ。

 クレアたちは里帰りを楽しんでいた俺たちとは違い、満身創痍だった。唯一の救いは、こんなことには慣れているのか、アドラとパオラは怪我をしていても普段と変わらず、ケロッとしている事くらいだった。


 そんな状態のクレアたちを前に、リーダーという形で報告を受けた俺以外は容易に声を掛ける事など出来る状況ではなく、どうすれば良いのか分からなかった。


 その沈黙の時間はしばらく続き、重たい空気の中立ち尽くしていると、俺の心を読んだのか、ラクリマが見兼ねて声を掛けてくれた。


「クレア・シャルパンティエ様、並びにご盟友様、無事戻られましたこと、大変敬服致します。この度のご活躍、誠に見事でございます」


 アルカナに戻ったラクリマは、正装に身を包みとても丁寧で上品な言葉を使う。それは正に法女様で、その変わりようには感服だった。しかし満身創痍のクレアたちに掛ける言葉としてはあまりに不適切で、法女様となったラクリマの考える事は分からなかった。

 

 この嫌味とも取れる言葉には、当然クレアたちも癪に障るはずだが、もうその気力もないのか、エリックもクレアも睨むことすらせず虚ろな表情を浮かべていた。


「この度のご活躍により、キリア・レオンハルト様、またはフィオラ・メドゥエイーク様に加護印が御発現なされました」

「えっ⁉ 本当なのラク……本当ですか法女様?」


 あっぶねぇ! いきなり言うからラクリマって呼びそうになった!


「はい。詳細はお二人がお戻りにならなければ判明致しませんが、新たな加護印の御発現は感知致しておりました。大変困難な試練となられたようですが、よくぞ克服されました。ガブリエル様、並びにミカエル様はお喜びになられております」


 ラクリマはガブリエル様から直接力を与えられた存在。そして法皇家は、遠い昔にミカエル様の聖刻を与えられた元英雄の家系。だからラクリマは、ミカエル様とは直接の関係は無いが、二つの大天使様の名を持つ。


 そんな二つの大天使様の名を出し称賛するラクリマに、最初は嫌味を言っているようだと感じたが、それも法女様としての役目だったと分かると、やっぱりラクリマは俺が知る優しい女の子だったと温かさを感じた。

 

「そうか……」


 それでも今のクレアたちにはそれすらも喜ぶ元気はないのか、まるで独り言のように言葉を零すだけだった。


「今はお休みになられて下さい。キリア・レオンハルト様、並びにフィオラ・メドゥエイーク様は必ず元気なお姿でお戻りになります。この先幾度もの困難や試練が待ち受けております。今はただ、お体を御自愛下さい。貴女方には笑顔が必要です。どうぞそのためにも、今この時は己が掴んだ成果を喜び、来るべき時に御備え下さい」


 ラクリマなりの優しさなのだろう。自責の念で落ち込むクレアを励ますかのような言葉を掛けると、今はただ何も考えず休めと声を掛けた。


 それを見て、再び自分も激務に追われ、辛い日常を送ることになっても変わらないラクリマに、友として感謝した。


 クレアもまた、法女様からの激励に少しは気持ちが軽くなったのか、最後に悔しさと喜びが混じったような疲れた表情を見せると指示に従い、俺たちはそれ以上の会話をすることなくその日を終えた。


 休載します。おそらく来週一杯休載します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ