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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
三章
39/176

ラクリマの秘密

「……パー? ……パー?」

「あん?」


 久しぶりの日常の生活に戻り、その日じいちゃんに合わせ午後九時に寝た深夜。誰かの呼ぶ声に目を覚ました。


 目を開けても、ぶら下がる電気がうっすら見えるくらい暗く、まだまだ眠い体感的には深夜という時間だった。

 そんな中で俺を呼ぶ声は夢ではなかったようで、しっかりと起きていると認識すると再び聞こえて来た。


「リーパー?」

「ん? ラクリマ……?」


 声は完全にラクリマの物だった。そして絶対に外すなと言われていたスマートウォッチを付けているのも覚えていた。そのためスマートウォッチで電話を掛けて来たのだと思い、まだ寝ぼけているが目を閉じてそのままスマートウォッチを耳に当て会話した。


「何?」

「聞こえるのリーパー?」

「聞こえるよ?」


 電話をしているのだから当然聞こえる。だが不思議な事にラクリマは驚いたように言い、聞こえる声もそこにいるかのように鮮明だった。


「目を開けてリーパー?」

「え? なんで?」


 こんな時間に起こされたせいでかなり眠い。それこそ直ぐにでも寝落ちしそうなくらい眠い。そんな俺の状況が声で分かるのか、ラクリマは目を開けるように言う。


「こっちを見て?」

「え~?」


 え? シアーハートアタック? 


「良いから目を開けて。私ここに居るから?」


 ラクリマが何を伝えたいのかは全く分からなかった。ただ『こっちを見ろ』というワードに、いるわけが無いが一応目を開けてみた。するとギョッとして思わず飛び起きた。


「ワッ⁉」

「お、落ち着いてリーパー。大きい声出さないで」

「え? え?」

「私だから大丈夫」


 目を開けると、視界の右側に白い仄かな光が目に入り、それを追うと、幽霊みたいに半透明で、元々白いが、マジで幽霊みたいに白いぼやけたラクリマが立っていた。


「え? え?」

「落ち着いてリーパー。これ私の力だから」

「え? え? ……力?」

「そう。だから落ち着いて。話をしよう?」


 いるのは完全に幽霊。だけど姿形、声や喋り方は完全にラクリマだった。そして力という言葉に、なんとなくだがあり得ると理解すると、やっと気持ちが落ち着き始めた。


「は、話?」

「うん。今日、リーパーの大切にしているコレクション、私のせいで無くなっちゃったでしょう? だから謝りに来た」

「え?」

 

 謝りに来た……? 


 こんな時間に、わざわざ力を使って、こんな姿で謝りに来たというラクリマの大袈裟な行動に、幽霊は理解できたが、行動が理解できなかった。


「あれは本当に予知した事だったの。でも……リーパーは……あれだから……」


 アレって?


「外れちゃったの。本当にごめんなさい!」


 どういう事⁉ あれって何⁉ 俺が臭いから外れちゃった的な嫌味なの⁉


 謝りに来た以上、ラクリマはそういう意味で言っているわけではないことは分かっていた。だがラクリマの性格や言い方のせいで、なんか俺がキモイから外れちゃったという意味に聞こえた。


「アルカナに帰ったら同じ物返すから、ごめんなさいリーパー!」


 こんな時間にこんな力まで使って申し訳なさそうに謝りに来たラクリマに、本当にあれはワザとではなかったのだと分かった。


「良いよラクリマ。俺は気にしてないから。それに返さなくても良いよ」

「でも、私のせいでずっとリーパー元気無かったし……本当にごめんなさい」

「もう謝らなくても良いよ。ラクリマがこんな力まで使って謝りに来てくれたんだもん。それだけで許すよ」

「本当に⁉」

「あぁ。だからもう謝らなくても良いよ」

「ありがとうリーパー!」


 ラクリマは本当に気に病んでいたのだろう。これほどの力を使ってまで許しを請うために俺の部屋に来るとは、なんだか俺の方が申し訳なかった。


「それよりラクリマ。ラクリマのその姿って、どうやってんの?」

「え? あ、あぁこれ? これ……」


 まだラクリマの中では俺への謝罪は終わってなかったのか、急に俺が話題を変えたため、少し混乱したように言葉を詰まらせた。


「これね……その……」


 気持ちの整理が上手くできないのか、ラクリマは指をもじもじさせてまだおどおどしている。それでも俺はこれ以上ラクリマに嫌な思いをして欲しくはなく、少し強引だがそのままラクリマの言葉を待った。


 するとラクリマは少し考え、やっと気持ちの切り替えが出来たのか、小さく息を吐くと表情が変わった。


「そ、それじゃあね……リーパーに私の秘密を教える……」

「秘密?」

「……そう。秘密」


 俺としては、法女様以外ラクリマの秘密は無かった。それほどラクリマは性格に裏表が無いと感じており、隠し事も上手いようにはとても見えなかった。

 そんなラクリマの秘密という言葉に、これほど秘密という言葉が似合わないのはリリアかラクリマくらいだろうと思ってしまった。


「秘密って?」

「そ、それはね……私……聖刻あるの……」

「はぁ?」


 超驚きの発言だった。現在聖刻を持つのは前英雄だけだと聞いており、歴史上も魔王の復活の兆しがなければ聖刻を与えられる者はいないと社会の授業で教えられていたからだ。それがまさか前英雄とは全く関係なく、まだ魔王も復活していないのにラクリマが与えられているというのは驚愕だった。


「ほっ、ほんとに⁉」

「うん……」

「ど、どこにあるの⁉」

「う、うん……」


 ラクリマがこんなしょうもない嘘を言うわけは無いと分かっている。だがラクリマは何故か言い辛そうに口籠る。その矛盾が何を躊躇わせているのか分からなかった。


「どうした? もしかして言っちゃいけない事だったの?」

「違う。だけど……」

「だけど?」

「まだ誰にも見せたことないから……恥ずかしい……」


 恥ずかしい⁉ それもまだ誰にも見せた事が無い⁉ それって⁉


「えっ⁉ 誰にも見せたことないって、バイオレットさんにも?」

「……うん。誰も知らない」


 誰も知らない⁉ えっ⁉ ちょっと待って⁉


 なんかエロい話なのかと思ったが、誰も知らないという事は、まだ誰にも教えていないという事だと分かると、そんな重大な話を聞いたのは非常にマズいと思い、同時に何故俺に教えたのかと非常に嫌な予感がした。


「えっ⁉ ちょっと待ってラクリマ⁉ なんで俺にそれ教えたの⁉ それって本当は法皇様とかに最初に教えないといけないんじゃないの⁉」

「私が最初に教えるのは、次の魔王を倒す人って予知で決まってるから」

「えっ⁉ ちょちょちょ待って⁉ 俺魔王倒すの⁉」

「うん……」

「で、でも、ポケカは外れたよ? それ本当にあってるの?」

「あれは……ごめんなさい。リーパーはあれだから……」


 だよね~。じゃあ違うわ。っていうかアレって何? いい加減はっきり言って!


 ほぼ百パーセントの的中率。だけど俺はあれだから外れる。ラクリマが聖刻を持っている事を知ったのはヤバいが、黙っとけばなんとかなるとちょっと安心した。


「ポケカは良いよ。それより、多分それ外れるから、俺には見せない方が良い。多分魔王倒すのはクレアとかだから、クレアに見せた方が良いよ」


 恥ずかしいと言っていたから、ちょっとは見たい気持ちもあったが、それほど大切な聖刻なら、きちんとした人に見せるべきだ……って、あれ?


「って、あれ? ラクリマ聖刻あるんでしょう?」

「うん」

「だったらラクリマ次の英雄じゃん? って、あれ? それなんの神様の聖刻?」

「ガブリエル様」


 あれ? ガブリエル様の聖刻貰った英雄の子孫って誰だっけ? ……フィリア? キリア? エリックだっけ?


 正直誰が誰の子孫だったかなんて覚えていない。ただ自分の聖刻の神様ではない事に、少しがっかりだった。


「まぁ~……とにかく、ラクリマは次の英雄なんだから、次の英雄たちが集まったら、その時見せればいいよ」

「ダメだよ。私の聖刻最初に見せるのは、リーパーって決まったから」


 決まったから? なんだかんだ言って、やっぱりラクリマはまだ日本語が苦手なようだった。


「落ち着いてラクリマ。俺は確かに加護印は持ってるけど、聖刻なんてもらえるとは思ってないから。それに、ラクリマが聖刻持ってるんだから、俺たちのクラスの誰かが落ちるんだよ? もしかしたらそれは俺かもしれないんだぞ?」


 俺はガブリエル様とは関係ないが、現在誰かが脱落決定している以上、そのうち俺も脱落するという意味で言った。それは日本語が苦手なラクリマにも通じたようで、突然法女様らしい知識を披露する。


「違うよリーパー。ガブリエル様は、人間を導く立場の大天使様だから、戦いには参加しないよ?」

「え? じゃあ一人足りなくなるじゃん?」

「悪魔ルキフェル様の使いが代わりに戦うの」

「悪魔ルキフェル?」

「サタンの子供。リーパーたちのクラスメイトなら、黄泉返りの子孫」

「えっ⁉」


 えっ⁉ そうだったの⁉ アドラたちってガブリエル様の代わりの悪魔の聖刻なの⁉ えっ⁉ どういう事⁉


 いきなり難しい話になり、もう訳が分からなくなった。その隙をついてラクリマは話を戻す。


「ねぇリーパー? だから私の聖刻見て?」

「いや、ちょっと待って!」

「見たくないの?」

「見たくないのって言われても……」

「私の聖刻、いつもは隠れた所にあるんだよ?」

「かっ! 隠れた所⁉」


 ガブリエル様の話で混乱して、すっかりラクリマの聖刻を見ることはマズい事だと忘れていた俺は、このいやらしい言葉に思わず食いついてしまった。


「か、隠れた所って……その……下の方……?」

「よ、良く分かったねリーパー」


 マジかっ⁉ 下の方にあって、いつもは隠れて誰にも見えない場所っという事は⁉ まさか⁉ そう言えばじいちゃんがち〇こにあった人がいたと言っていた! そそそ、そんなことが本当にあるのか⁉


 正直、正直ラクリマはタイプじゃないが可愛い。そして現在恥じらいのせいでとても可愛く見える。そ、そそ、そんなラクリマが、今まで誰にも見せたことの無い場所に聖刻があり、そそそそれを俺に見せたがっている。ここ、これは今見なければ一生後悔しそうな気がした。


「え? ちょちょ、ちょっと確認させて? そ、それって、前にあるの? そ、それとも後ろ?」

「前? う~ん……表?」


 表⁉


 おそらくラクリマには前という日本語が良く分からないのだろう。だが表と言った。それはつまり表で、後ろではなくて、そのなんだ……つまり恋人と二人きりになって、お、お風呂とかい、いい一緒に入らなければみみみみみ見えない場所という事だ。


 これは行くしかなかった。いや、行かないという選択はあり得なかった。そこで意を決してお願いする事にした。


「じゃじゃじゃ、じゃあ、みみ、見せて?」

「うん」


 今俺は、途轍もない境地へと旅立とうとしている。それこそ今の俺は加護印が猛烈に発現して、股間は光り体内は大変なことになっている事だろう。そんな俺を前にしてもラクリマは見せてくれるようで、雰囲気作りのためか両腕を床に付き、俺にセクシーに顔を近づける。

 それはもう恋人同士とかそういう次元じゃなくて、これからとてもいやらしい事をする前のようで、キスを望んでいるかのようにラクリマはどんどん顔を近づける。それこそもうラクリマの唇しか目に入らないほどで、甘い吐息すら感じ取れそうだった。


 その距離はさらに縮まり、あと僅か、もうこちらから行けばチューが出来るという距離。これはもう、俺は大人になったと思った。そう思った瞬間だった。

 突然ラクリマは口を大きく開けて、『べ~』っと舌を出した。


 え?


「ほう? ほれはわはひほせいほふ」


 ウエィトッ!


 目の前に突然出された舌。そこには聖刻が光り輝き、俺の顔を照らす。そしてあまりの近さに、ラクリマの甘い吐息が俺の鼻に香りを届ける。だが、顔は完全にバカにしたようなヒールで、完全に舐め腐っていた。


 もう最悪だった。例えるなら、表紙が物凄く好みのエロそうなエロ本をやっとの思いで買って、高ぶる気持ちを抑えながら家に帰り、準備万端で早速楽しもうと表紙を開くと、表紙だけがすり替えられていたボディービルダーの写真集だったくらい最悪だった。


 それほどの衝撃を体感し、正に百年の恋も一瞬で冷めるという言葉がぴったり合う感情を抱き、もうラクリマの口臭すら臭そうに感じるほどだった。

 そんな感情を、流石聖刻を持つだけあってラクリマは察したようで、急に大人しくなると、今度は勝手にショックを受けたような表情を見せた。


「……ごめんなさいリーパー……冗談だったの……」


 冗談というラクリマだが、それが仮にふざけたような表情や、そこに行くまでの含みのある言葉や行動だったとしても、聖刻という強大な真実を前にしては、もう何に対しての冗談なのか良く分からなかった。


「私の事嫌いになった?」


 そりゃとうぜ……いやいやそんなことあるはずないじゃん! あっぶねぇ! ラクリマって人の心読めるんだ……ちょちょちょ、今のは無し! まさかそんなはずある訳ないじゃん! ……それにしても……いやいや! あれはあれだから!


 ラクリマの態度の変化に、バイオレットさんの心が読めるという言葉を思い出した。しかしそうなると何を考えてもラクリマに分かってしまうと思うと、もう大変だった。


「いやいや、そんなはずないじゃん! 俺はラクリマが好きだよ!」


 こうでも言っとかないと……いやいや! 俺はそんな事思ってないから! 俺はラクリマが好きだし! 


「本当に?」

「ほんとほんと!」


 ほんとほんと! これは心から思ってる言葉だから! だからほんと、もう帰ってくんねぇ……あ、いやいや! もう少し……もっとラクリマと居たいから! もうあれだ……あれ……俺キモイから!


 俺大混乱! 建前と本音が全く使えず、このままやり過ごす事さえ困難だった。それは当然ラクリマにはお見通しのようで、どんどん表情が暗くなる。


「ごめんなさいリーパー。私もう帰る」

「え?」

「だってリーパー、本当は私の事嫌いだから……」

「いやいや! それは違うよ! ラクリマって人の心読めるんでしょう⁉ だからほら! 俺今気持ち抑えるのに嘘ついてるだけだから」

「そうなの?」

「そうそう」


 ラクリマの悲しそうな表情を見ると、とても心が痛んだ。かと言って、このまま本心を読まれ続ければラクリマは本当に辛い思いをすると思った。そこで背に腹は代えられず、最終手段に出た。


「お、俺、ラクリマの事好きだよ?」


 そう俺はラクリマの事が好きだ。肌も白いし、良い匂いもするし、口臭だって……ちち違う! 今の無しで……ほら! 肩だって柔らかそうで、お、おおっぱいだって柔らかそう。そ、それに今なら二人きりだし……あっ! そうだ! パンツくれないかな~?


 もう頑張った。ラクリマはタイプじゃないが、こうなってしまった以上もうエロい事を考えまくって、それをラクリマに読ませるしかない。そうすればラクリマは俺をキモがって帰るだろう。

 右脳と左脳をフル回転させ、同時に二つの事を考えながら明日への道を探した。

 

 すると想いが通じたのか、ラクリマはまた表情を変え、ちょっと俺から離れ始めた。


 よし! 良いぞ、じゃなかった! そうやって離れれば体全体が見えて、ラクリマの体が良く見える。あ~、何色のパンツ履いてんだろう? パンツくんないかな~?


「え? ご、ごめんなさいリーパー。やっぱり私帰る?」

「なんで? もうちょっと一緒にいようよ?」

「あ、あれなの……私の……あ、もう魔力切れそうだから、もう帰らないと駄目なの」

「そうなの?」


 よし! じゃなかった! パンツくんねぇ~かな? もう少し押せば帰……パンツ! パンツ何色かな~?


 厳しい戦いだった。これがもしパオラなら問題なかったのだが、なんか知らんがラクリマの事は好きだが、恋人にしたいという感情は無いため、かなり大変だった。


「そ、そう! だから帰るね! じゃあねバイバイ!」

「あ! ラクリマ!」


 傷付けたくないがために嘘を付いても、それもまた傷付ける。昔、エヴァか何かのアニメで、ヤマアラシのジレンマという言葉を知った。それはヤマアラシというハリネズミみたいな動物が、寂しくて寄り添っても針があるせいで互いを傷つけてしまうという悲しい話だ。

 それが正に今の状況にぴったりで、ラクリマを傷付けてしまった事や、あの力のせいでラクリマ自身も辛い人生を送っていると思うとその夜は全く眠れず、次の日俺は寝不足となり、ラクリマとの心の距離もとても離れてしまった。


 ここまでラクリマを掘り下げるように話が長引きました。しかし私の予定もそうだし、リーパーとしてもラクリマと恋人になるような展開はあるとは思っていません。ただクレアたちの方の話に合わせて何となく書いた話だったので、私としても疑問です。

 もしかしたらこの先、私が考えるプロットとは異なる展開になるのかもしれません。それでもまだ私としては、二人が恋人関係になるのはフィリアと付き合うくらい無いと思っています。やっぱりクレアと恋人関係になるのが一番無難かと感じていますが、全てをぶっ壊すのがケシゴムファミリーですので、今後の展開に期待です。ちなみに、ラクリマはリーパーの事が好きになったようです。

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