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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
三章
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久しぶりの家族水入らず

 町から少し離れた山奥にある温泉。そこは町が運営するこの町唯一の温泉で、併設されるスキー場が潰れてしまったことから、今やほとんど地元の人しか来ない。

 温泉には宿泊施設も、飲食店も、小さなゲームコーナーもあり、正面の野原には鹿やキツネも良く来る娯楽施設であり、たまに来るには良い場所だ。


 そんなこの町唯一と呼べる温泉は、貸し切りと久しぶりに来たというのもあって、なんだか観光に来たかのような気分にさせた。だが、大切なコレクションを失ってしまったショックを未だに引きずる俺は、観光というより傷心旅行にでも来たかのような気分の方が強く、湯船ではしゃぐリリアたちとは違い、とても楽しめるような気分ではなかった。


「あ、そうです! ちょっとこれを見て下さい!」


 水着を着てプールにでも来たかのように遊ぶリリアたちは、楽しそうだ。そしてそれにつられてさっきのミスを忘れたかのようにはしゃぐラクリマも、楽しそうだ。


「おぉ!」

「ぷはぁっ! どうですか?」

「クラゲみたいに光ってましたよリリア!」

「本当ですか⁉」

「はい! 次は私がやってみるので、見ていて下さい」

「……おぉ!」


 リリアとヒーは、自分たちの加護印が頭のてっぺんにある事を思い出し、湯船に潜って加護印を発現させる。すると、髪の毛のせいでそれほど強い光は発しないが頭が光り、漂う髪の毛と合わさり、クラゲのようにやんわり光る。


 加護印は発現させると光る。だけど光ると言ってもスマホの画面ほどの明るさで、昼間なら光ると言うより白い色が濃くなるという感じだ。だから銀色っぽい髪色のリリアたちが生まれながらに加護印を持っていたとしても、暗闇やこういった条件で発現させたことが無いから、今まであるとは誰にも分からなかった。

 それに、加護印は所詮聖刻を受ける資格があるというだけで、あっても魔王が出す瘴気に抵抗があるくらいしか恩恵はない。そのためほぼ普通の人と変わらず、おばさんでも分からなかったのだろう。

 特に俺に関しては体内にあり、光すら発しないという特異体質は、ラクリマクラスでなくてはほぼ判別が不可能だろう。


 そんなことを思いながら、クラゲと化した五十嵐姉妹を眺め、黄昏ていた。ただ、じいちゃんが、『リーパーにはアズ様の加護が一番強く出ている』と言っていた事を思い出すと、もしかしたら聖刻を持つ者には何かしら分かるのかもしれない。だからじいちゃんはあの時……


「リーパー、見て下さい! この水着可愛くないですか?」

「……そうだな」


 しばらく一人傷心しながら考え事をしていると、そろそろリリアが話しかけても良いとでも思ったのか、ヒーと申し訳なさそうにするラクリマを連れて俺に話しかけて来た。


「どうですかこれ? お尻も可愛くないですか?」


 リリアは赤い水玉、ヒーは水色の水玉、ラクリマは白。ラクリマのは普通だが、リリアとヒーのはフリフリが付いていて確かに可愛いデザインをしていた。そして余程機嫌が良いのか、リリアだけでなくヒーまでお尻を向けて、俺に『可愛い』と言って欲しいのか、ケツを振りながらアピールする。


「……なんか臭そうだな」

「臭くありません!」


 俺たちはほぼ兄弟と言っていいほど、幼い頃からずっといた。それに俺には両親も兄弟もいなかったから、俺からしたらこの二人は本当の妹と言える。そんな二人だからこそ、なんか小便臭そうに感じた。特にケツが。


 そんな俺の言葉にかなり苛立ちを感じたのか、リリアは威嚇するように鼻で大きく息を吐くと、不機嫌そうに二人を連れて離れて行った。


 ――昔、リリアたちが小学生の時、おばさんが入院した事があった。そん時はフィリアのおばさんが色々面倒を見ていたが、もちろん俺たちも毎日変わりばんこにリリアたちの家に泊まり、リリアたちが寂しくないように皆で面倒を見た。


 フィリアのおばさんも忙しく行けない時は、フィリアが飯を作ったり、俺たちが家事を手伝ったりもした。そんなある日、たまたまフィリアもジョニーもおばさんも来れない日があって、夕食はお金を渡されて何とかなったが、その日は俺が洗濯をしなければならない事があった。

 もうその頃には全員がリリアの家と自分の家がごっちゃになるような時期で、それこそ洗濯機の中はリリアとヒーだけでなく、フィリアやジョニーや俺の下着まで混じっているような状態だった。


 今思えば、その年頃の女の子は下着を一緒に洗われるのを嫌がるはずだが、もうそのころには俺たちはそんな事も気にもならないくらい兄妹だったのだろう。俺も実際洗い立てと言えど、兄弟と言えど、誰かの下着など触りたくない年頃だったが、リリアたちを本当の妹だと思っており、少しでも二人のストレスが無くなるように必死だった。

 

 そんな俺は、洗濯を終え、いよいよ干さなければならなくなった。すると、意外と男だからなのか、ジョニーの下着は全く気にもならなかった。そして次にリリアたちの下着は、興奮することなく、う~んっと少し考えるだけで慣れると普通に触れ、リリアはなんか小便臭そうで、ヒーのは性格が出ているのかとても綺麗に感じた。だがしかし。フィリアの下着の番が来ると、何故か無性に触りたくなく、それでもやらなければならず持ち上げると、本当に『おえっ!』と声が出るほどえずいてしまった。それこそ干すまでに三回は猛烈な吐き気に襲われ、これが生理的に受け付けないという事なのかと知る程だった。


 その時、本当の姉弟ならどうなのだろうと疑問を抱き、俺たちはやはり本当の姉弟ではないのだと思った。だが、フィリアのパンツが二枚三枚と出てくると、後五回ほど洗っても火挟みを使わなければ触りたくなく、それが逆に俺たちは本当の姉弟以上に姉弟なのだと思わせた。っという話を、傷心のせいか何だか急に思い出していた。


 そんな俺たちだからこそ、リリアは汗臭いし小便臭そうで、フィリアは半径一メートル以内には近づかないで欲しいしで、折角ラクリマとバイオレットさんの水着姿を見れても、なんの感情も抱かなかった。寧ろ俺たちと一緒に警護として入ったドゥエインジョンソンみたいな人と、殺し屋一家の当主みたいな体中傷だらけの爺さんの方が気になり、傷心のせいか、ずっと二人のバキバキの腹筋ばかりを見ていた気がする。


 そんな感じで体だけを癒し黄昏ていると、サウナや湯船の中ではしゃいでいたリリアたちはあっという間にのぼせ、俺たちは風呂を出た。そして小休憩を挟むとちょっと豪勢な夕食を食べ、その後にリリアたちはキャメロットで買った扇子を振り回しながら、浴衣姿のままゲームコーナーでラクリマの『ファックファック』を聞きながら遊び、午後八時には疲れのせいか、そのままそれぞれの自宅に直接帰宅して今日は終わった。

 

 帰宅すると、今日はいつもより早いため、じいちゃんが茶の間でいつものように酒を飲みながらテレビを見ていた。

 

 日本に帰って来てからは、毎日リリアの家に呼ばれ、朝の八時から夜の十時過ぎまで帰宅することは無く、起きても電話で起こされ飛び出して行くため、じいちゃんとはほとんど会話が無かった。

 そこで今日くらいしかまともに話が出来る機会は無いと思い、何気なくコーラを冷蔵庫から出し、いつもの場所に腰を下ろし、何気なく一緒にテレビを見ることにした。


「今日は早いな」

「あぁ……うん。今日は温泉行ったから、もう終わり」

「そうか」


 じいちゃんもなんだかんだ言って寂しかったのだろう。久しぶりのゆっくりした時間でも、いつものように話しかける姿にそう思った。


「あ、そうだ。じいちゃん?」

「なんだ?」

「俺にも生まれたときから加護印あったらしいけど、じいちゃん知ってた?」

「いんや。リーパーに生まれたときは無かった」

「え? そうなの?」

「あぁ」


 ラクリマは、生まれたときか、ラクリマが感知できるようになるまでの間、と言っていたが、どうやら俺はその後者らしい。ちなみにラクリマは現在十六歳で、感知できるようになったのは四歳から五歳くらいだと言っていたから、俺は六歳くらいまでに加護印を発現させたようだった。


「え? じゃあじいちゃんは、俺が加護印を発現させた時知ってたの?」

「……いんや」

「そうなんだ……」


 おそらく嘘。答えるとき、たまたま酒を口に入れようとコップを持った時だったが、じいちゃんは一瞬何かを考えるように酒を口にした。それを見て、じいちゃんは俺が加護印を発現させた事を知っていたのだと分かった。それこそ発現した瞬間を。しかし何故じいちゃんが嘘を付いたのかは分からないが、何か言いたくないような雰囲気があったのでそれ以上突っ込まなかった。


「でもじいちゃん。俺の加護印心臓か血か分からないけど、体内にあるんだってラク……法女様が言ってた。そんな事ってあるの?」


 一応ラクリマは由緒正しきアルカナの法女様。例え俺たちは友達のような関係でも、他の人には高貴な法女様として見せなくてはならない。


「いんや。それは知らん。おりゃたちの時は、皆ちゃんと見えるところにあった」

「そうなんだ。あ、でも、リリアたちは生まれたときからあったらしいけど、髪の毛に隠れてて分かんなかったらしいよ? そういう人もいなかったの?」

「あ~……そういんやいたな」

「いたの?」

「あぁ。ち〇このとこにある奴がいた」


 オウッ! ……それは駄目だろ? 何を加護してんの?


「そ、そうなんだ……」


 ち〇こという言葉が出たせいで、あまりの悲惨さにそれ以上加護印に付いて話すのは無理な状況だった。しかし逆にそのお陰で込み入った話は無くなり、そこからはいつもの親子の雑談となり、久しぶりにとても良い時間を過ごすことが出来た。


 そんな感じで九時を迎え、じいちゃんが寝ると俺もなんだか眠くなり、いつもの日常のように俺もその日は就寝した――


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