的中率ほぼ百パーセント
「ふっ! ふっ! ふっ!」
帰国して三日目。加護印があることが分かった俺たちは、特に何もすることが無く、ただ無駄に毎日リリアん家に集まって、お菓子をボリボリ食べながらゲームをして過ごしていた。
「どうしたリリア?」
「ふっ! ふっ! ふっ!」
マイクラ、ポケモン、ポケカ、遊戯王、アニメ、ストⅡ、動画、ボードゲーム、トランプ。警護上出歩けない俺たちは、家で出来る様々な遊びをやり尽くした。それでもまだ遊び足りないリリアたちは、遂にスマホのイライラゲーム、壺男に手を出した。そんなゲームをラクリマと熱中してやっていたリリアだが、突然発作でも起こしたかのように息を荒げ立ち上がった。
「ふっ! ふっ! ふっ!」
「なしたのよ?」(どうしたんだよ? という方言)
発作、というより、肩を大きく上下させて息を荒げるリリアは、呼びかけても返事をしない。ただこれは異常事態というわけではなく、完全にイライラが限界に達しただけのようで、開始三十分で我慢が出来なくなったリリアは、イライラをどう発散して良いのか分からないようだった。
そして立ち上がってもどうしようもないようで、少しその場で右往左往すると、部屋を飛び出して行った。
「…………」
――三分後。
息を荒げ出て行ったリリアは、トイレのジャーっという音の後戻って来た。
ウンコか……
これだけ不毛な時間を過ごすと、自分たちが命を狙われているという感覚は麻痺し、例えリリアが急に発作のように息を荒げても誰も驚きもしない。それどころか、あれだけ興奮して結局ウンコをしたかっただけというコントみたいな状態でも、俺でさえリアクションを起こさないくらいで、皆はそれぞれ勝手に好きな事をやるくらい廃人と化していた。それくらい今の俺たちは凄かった。
「オゥッ! オゥッ! オゥッ!」
「ん?」
リリアが戻り、暫くすると今度はラクリマが発作を起こした。そしてリリア同様立ち上がり、低い声で激しく苦しそうな声を上げる。
「オゥッ! オゥッ! オゥッ!」
「…………」
どうやらラクリマも限界を迎えたようだった。だがこの頃にはあのバイオレットさんも廃人と化しており、ラクリマが苦しんでいても誰も声を掛けず視線を送るだけ。
「オゥッ! オゥッ!」
イライラが最高潮に達したラクリマは、その場で右往左往する。そしてやっぱりリリア同様部屋を飛び出した。しかし他人の家だと勝手が違うのか、扉が閉まったと思ったらすぐに扉が開き戻って来た。そしてスマホを持ちゲームを再開するのかと思ったら、やっぱりまだ駄目なようで、また立ち上がって部屋を出て、またすぐに戻って来て座った。
…………
こんな感じで、今の俺たちは駄目だった。しかしそれも後二日で終わる。
俺たちが目的を果たしてもまだ不毛に日本にいたのは、クレアたちの班の帰国に合わせるためだった。
ラクリマの予知では、クレアたちは今日か明日辺りに、何の成果も無く帰国するはずで、その帰路で襲撃に合うらしい。そしてそこで、誰とは言わないが誰かが加護印を発現させるらしい。
ラクリマの予知は、写真のような感じで映像が脳裏を過るような感じらしく、それをラクリマが解釈して判断するらしい。だからクレアたちがどういった相手に、どういう状況で襲われるかはほぼラクリマの予想で、正確には分からないらしい。だがラクリマが見た予知は、派手な色のスタンドの能力みたいに必ず現実のものになるらしく、勘の良いラクリマの推察を合わせてもその確率はほぼ百パーセント当たるらしい。
まぁ結局、俺たちはいずれにせよ、加護印を全員が発現させなくてはならないのは事実で、既に俺たちはクレアたちとは遠く離れた日本にいるし、ラクリマも多分誰も死なないと言っていることから、とにかく俺たちに出来ることは無く、例えクレアたちに危険が迫っても法女であるラクリマの指示に従う他なかった。
「あ! やべっ! 俺風呂の道具持ってきてねぇ! 今何時だ?」
「もう十一時十分だよ。でも温泉は貸し切りだから、急がなくても大丈夫だよ?」
「そうですけど……だけどやっぱり今から取りに行ってきます」
目的を果たし、後はただダラダラと帰るまで時間を潰すという状態になった俺たちは、あまりの退屈さに今日はラクリマの思い出作りも兼ねて、地元の温泉に行くという予定を入れていた。
「そんな急がなくても、行くときついでにリーパー君の家に寄るから大丈夫だよ?」
「いや、でも、皆を待たせるの悪いし、ラクリマだって早く行きたいだろうし」
ラクリマにとっては、日本で過ごせる時間はとても貴重だ。例え今壺男をして時間を無駄に費やしていても、そのラクリマから俺の都合で時間を奪うのは申し訳なかった。
するとラクリマは、これも予見していたのか、意外な事を言う。
「ダイジョブだよリーパー。私リーパーの家に行く予定だったから」
「え? 俺ん家に来るのラクリマ?」
「うん。だってリーパーの家に開けていないポケカあるでしょう?」
「え? ……なんでそれ知ってんだ?」
最近のポケカは転売やら投資やらで、新弾なのになかなか入手し辛い状況だった。そこである時から俺は、いつか高騰したらメルカリで売ろうと考えて、開けないままいくつかのパックを秘密で保存していた。それを知るラクリマの力には、脱帽だった。
「リリアが言ってた」
オメーの力じゃねぇのかよ! っていうかなんでリリアそれ知ってんだよ! コイツに奪われないために秘密にしてたのに!
まさかそんなことまで! と一瞬驚いたが、まさかリリアがそれを知っていたという事実は、それ以上の破壊力を持っていた。
「それくれるんでしょうリーパー?」
「え!」
「それにマリィ入ってるから」
「ええっ⁉」
今や十万は下らない超高額カード。そんなカードが、たった三パックだがまさかいつか売ろうコレクションに入っているとは……マジでっ⁉
ラクリマ法女様の大いなる予言。それに従わなければいつ従う。驚くべき予言に、俺たちは生き急ぐように俺の家に向かった――
「…………」
「…………」
ラクリマの予言に従い、急遽俺の家に到着した日本チームは、その加護を得るべく早速俺のコレクションからお目当てのパックを剥いた。
「あの、リーパー……まだあるんですよね?」
「……いや」
ラクリマに取られるかどうかはさておき、あの超希少カードを自引き出来るというまたとないチャンスに、俺は貴重なコレクションパックを開けた。しかしそこにはマリィどころかSRなんて一枚も無く、あのラクリマの予言が外れるわけなど無いと、他の全ても開けた。なのに……
「え……ラクリマ……?」
「ファックミー!」
ラクリマの予言はほぼ百パーセント当たる。なのにここには予言のカードは無い。しかしラクリマの予言はほぼ百パーセント当たる。だからこれはどういうことかとラクリマに聞いたのだが、ラクリマは何があったのか突然叫び出した。
ファ、ファックミー⁉ ミーって事は自分って意味だよね⁉ えっ⁉ ラクリマ自分で何言ってるか分からないくらい取り乱してるってことは……まさか外れたの⁉ 俺全部剝いちゃったよ!
ラクリマが何を言いたいのかは全く分からなかったが、様子から完全に予言は外れたのだけは分かった。
「えっ! 嘘でしょうラクリマ⁉ SR入ってるんだよね⁉」
「お……オッォ~」
オッォ~⁉ こいつ完全にバカにしてない⁉ えっ⁉ ラクリマなんで嘘付いたの⁉
まだ一年くらいだが、それでも少ない小遣いでちょっとずつ貯めたパックコレクション。それが心無い法女様のせいで全てが無に帰した。これは最早衝撃を通り越して、超嫌悪を抱くほどだった。
そんな俺に対し、ラクリマは弁明する。
「ごごごめんなさい! リーパー! 外れちゃった! これリーパーが大切にしていたコレクションだったんでしょう⁉ ごめんなさい!」
ただの勘違いだったのか、ほぼ百パーセントのほぼで外れたのかは知らないが、ラクリマは申し訳なさそうに謝る。ただ、そこに英語が含まれない不思議に、ラクリマが本気かどうかは不明だった。
「あ……い、いいよ、別に……謝らなくても……」
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 私どうすれば良いの!」
「ハハハ……良いよ別に……これ……ただのコレクションだから……それより、早く風呂行こうぜ……」
「オウッ! ノー! ファックミー! どうすれば良いのバイオレット⁉」
「ハハハ、良かったじゃないラクリマ」
何が⁉
ただのパック。されどパック。いや、ただのコレクション。だけど、何故か急にこれを初めて集めようとした記憶が蘇り、新たなパックを買う度にちょっと開けて残してという自分の努力する記憶が続き、最後にさっきリリアん家で欲に溺れて無様にも喜ぶ自分の姿が見え、なんか開けられたパックが悲しそうに俺を見ているようで、ベリー哀しかった。
「今、風呂道具持ってくるから……皆先に車乗ってて」
「待ってリーパー! 本当にごめんなさい! まさか外れるとは思わなかったの!」
英語は出ないし日本語は異常に流暢だし、俺を掴んで縋り付くように謝るラクリマだが、本当に本気なのかは全く不明だった。そしてリリアたちは本当にマズい事態になっていると分かっているようで何も言わないし、本当にもうラクリマには何とも言えない感情を抱いた。
そんな状態の俺の扱いを良く知るリリアは、気持ちを汲んで静かに一言だけ声を掛けてくれる。
「リーパー。水着も忘れないで下さい」
「ああ……」
温泉は貸し切りだし、警備上俺たちは一緒に入る。そのため水着は必要だった。
「じゃあ皆は、先に車乗っててくれ」
「……分かりました。じゃあ皆行きましょう」
「え⁉ ちょっと待って! まだ私リーパーに許してもらってない!」
本当にマズいという事が分かる幼馴染たち。だから四人はもう忘れたかのように次に進む。それこそ行く手を阻む邪魔があれば、それをも除けてくれる。
「行きましょうラクリマ」
「えっ! ちょっと待って皆! まだ……」
「ラクリマ」
「えっ! ちょっと!」
俺たちは、血を分け合った兄弟と言ってもいいほどの仲だ。だからこそフィリアは静かに首を横に振り、静かにラクリマを連れて行ってくれた。その優しさに、その後俺は無残にも開けられたパックにカードを戻し、束にして静かにティッシュを被せることが出来た。




