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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
三章
36/176

二人の関係

 この辺ではもう誰しもが就寝するような時間。俺たちを乗せた汽車は、実家の最寄りの駅に到着した。


「おぉ~! 帰ってきましたよ~!」


 改札を潜り駅を出ると、街頭の一歩外は真っ暗だが、久しぶりに見る景色はとても広く、漂う風と地元の匂いに、思わずリリアの言葉に頷いていた。


「じゃあタクシーで帰るか。丁度二台あるし、一、二、三、四……七人乗れるだろう?」


 ほぼ終電を迎え、改札には駅員すらいなくなった夜闇。そこに二台ほど止まるタクシーは寂れていて、なんだか家に早く帰りたい気分だった。だがリリアたちはまだまだ遊び足りないのか、もう少しで実家という場面でも、元気な声を上げる。


「では、ゲオに寄ってゲームを買って、それからコンビニに寄ってから帰りましょう!」

「はぁ? ゲオだってもう閉まってんぞ? 早く帰ろうぜ? 俺家帰りてぇよ」

「何を言ってるんですかリーパー? まだ終わりじゃないですよ? 今日はこれから家に集まって、色々と打ち合わせするんですよ?」

「打ち合わせ? 何のだよ?」

「一応私たちは目的があって帰って来たんですから、これからどうするのか考えなければいけないじゃないですか?」


 絶対嘘! こいつおばさんがいないから、これから朝までパーティーでもしようとしてる! 俺早く家帰りたいんだよ! 


 この良く見慣れた景色と匂いは、今まで我慢していたホームシックを爆発させるには申し分なかった。それなのにリリアは全くそんな気も起きないのか、これからまだまだ遊ぶぞ的に言う。


「ですよねラクリマ? 今日は私の家は私たちの貸し切りです。そこでお菓子を食べながら今後について話し合いましょう!」

「そうそう! ビックリマンチョコ、マイクラ、スマホ、エ~ンド、ポケモン! あるんでしょう!」

「はい! ストⅡもあります!」

「イエス!」


 ゲーセンの後、マクドナルドに行って、地下街行って、カードショップ行って、ゲーセン行って、駿河屋行って……あの後色々やっているうちに楽しくなり、命を狙われているとは思えないほど活発になった俺たちは、もう護衛の人など関係なく法女様の名目を借りてやりたい放題遊びまくった。その結果、一時はもう札幌に泊まろうとか言い出す始末で、さすがにバイオレットさんが止めなければ、俺たちは今日家に帰って来れなくなりそうだった。


 それに時差ボケの影響もあり、俺やジョニーはなんか汽車の中で眠くなるわでもう疲れたのに、すっかりラクリマと仲良くなったリリアたちは、まだまだ元気に遊ぶつもりでいる。そんで驚くのは、バイオレットさんもフィリアも意外とタフで、眠りを知らない化け物みたいに賛成する。


「じゃあそういうわけで、先ずはタクシーに乗ってゲオに行きましょう!」

「あ、ちょっと待って。一応君たちは護衛対象だから、車はこっちで用意しているからタクシーは使わなくていいよ」

「本当ですかバイオレットさん!」

「うん。だからちょっと待ってて」

「はい!」


 そう言うとバイオレットさんは、耳に付けている小型の無線で、暗号を使い車を呼び寄せた――


「じゃあこっちに四人、あっちに三人乗って」


 ――パトカーにサンドされた、黒塗りの高級車四台の車列。そこから降りて来たSPみたいな屈強な黒服サングラスの外国人たち。中には小柄な女性までいて、パトカーに乗る警察官が普通の人に見えるほどの異様な光景。俺たちは今、命を狙われている。


 ……バカッ! これじゃあ家帰れないよ!


「あ、この人たちは私と同じ、全部ラクリマの直属の護衛だから安心して。皆無口だし、ちょっと強面だけど、君たちは今ラクリマと同じくらいの立場だから、敬語なんて使わないでバンバンこき使っても良いから」


 大物ヤクザの組長でも来たかのような車列に、俺たちが呆然と立ち尽くしていたのを見て、多分バイオレットさんはSPの人たちに驚いたのだろうと思い、安心させようとしたのだろうが、田舎の、それも地元でこんな事をされ、あのリリアでさえ開いた口が塞がらなくなっていた。

 

 そんな気持ちなど知る由もないラクリマは、やはり法女様だけあってこんなのには慣れっこで、普通に荷物をSPに渡すと、普通に車に乗り込んだ。


「リリア、ヒー、早く乗って。二人は私と一緒に乗ろう?」

「え……あ、はい! 乗りましょうヒー!」

「あ……はい」


 リリアとヒーはすっかりラクリマのお気に入り。そして俺たちはただのおまけ。それを証明するかのように、ラクリマの方にバイオレットさんも乗って、結局俺、フィリア、ジョニーは、マフィアみたいなSPの人だけの車に乗って買い物がてら帰路に就いた――


「おわっ! どうしたこのピザ⁉」

「あ、リーパー。ビックリマンシールとポケカと遊戯王持ってきましたか?」


 家に着くと、俺たちの車は一旦停まった。そこで俺はもう寝ているじいちゃんなどお構いなくビックリマンシールやらポケカやらを持ち、ラクリマもあれだし、打ち合わせをするとか言うからリリアたちの家へと向かう羽目になった。そこは既に朝までパーティー会場と化しており、今日は死を覚悟した。


「持ってきたよ。ほらラクリマ。ビックリマンシール」

「オウ! ありがと~!」


 ラクリマは、何故かビックリマンシールが大好きで集めているらしい。だがアルカナもそうだが、法女としてそう言った物は厳しく制限されているらしく、普段はバイオレットさんを通して密輸して隠しているらしい。そのためなかなかコンプリートすることは難しいらしく、今回日本に来た目的の一番とも言える理由は、俺たちが集めたビックリマンシールらしい。


「おお~! ……おお~! クゥ~!」


 シールをまとめてあるファイルを渡すと、ラクリマはまるで子供のようにそれを床に広げ、楽しそうに眺める。そしてコンプリートしてあるけものフレンズのページを開くと、クリスマスプレゼントでも貰った子供のように、顔いっぱいに表情を広げ言葉を零す。


「サンキュ~リ~パ~」


 本当に欲しかったのだろう。ラクリマは同い年には見えないくらい幼く見えた。それを見て、法女としての生活はそれほど辛い物なのかと思うと、ラクリマがとても愛おしく感じた。


「ラクリマ。これもあげる。これ、俺が当てたピカチュウのSR」

「リアリィ⁉」

「うん。あんまり高いやつじゃないけど、一応俺の宝物」

「ありがとうリーパー! リーパー良い人!」


 ラクリマはポケモンも大好きだ。しかしこれも当然法女のラクリマは手に入れられない。

 俺たちにとっての普通がラクリマにとっては特別だと思うと、せめて日本にいる間だけは、ラクリマの好きな事に付き合ってあげようと思った。


「これ、私が当てたやつですラクリマ! これは一番当たりづらいやつで、私だけが当たったんです!」

「ワッ! ……ヒー、リアリィ?」

「はい。それはリリアだけが当たりました」

「じゃあこれはリリアがコンプリートしたんだ!」

「そうです!」

「ワ~ォ」


 それでもすっかりリリアたちと仲良しになったラクリマは、本当に普通の少女と変わらないくらい明るく、俺なんかが心配しなくてもあの二人がいれば大丈夫な気がして、俺たち年配組は静かに見守っていた。ただ、リリアの性格と、ラクリマのすぐ切れて暴言を吐く性格というのは非常によろしくない気もしており、要観察は外せなかった。


 そんな三人が仲良くビックリマンシールに夢中になる中、余された俺たちはバイオレットさんにラクリマに付いて話を聞いた。


「何故ラクリマは、英語がその……何と言うんですか……」

「あぁそれ。フィリアが言いたいことは分かる。ラクリマの英語って汚いって事でしょう?」

「え……まぁ……はい……」


 ラクリマはビックリマンシールに夢中になっているから、俺たちの会話は耳に入らないだろう。それでもフィリアが口を濁して何とか伝えようとするのに、バイオレットさんは普通に失礼な発言をする。


「ごめん、私も良く分かんないの。私ラクリマと出会ったの五年位前だから」

「そうなんですか?」

「うん。だけど多分あれなんだと思う。多分だけど、ラクリマって法女になる前、そういう家庭にいたんだと思う」

「そ、そうなんですか……」


 どんな家庭⁉ ラクリマってロスサントス出身なの⁉


 超失礼! 仮にもラクリマは法女様で、バイオレットさんは法女様の召使い兼護衛。なのにこの失礼極まりない発言には、さすがのフィリアも開いた口が塞がらなかった。


 そこでジョニーが話題を変える。


「では、バイオレットさんとラクリマの関係はどんな感じなんですか? 話を聞いていると、まるで姉妹のような関係に感じるのですが」


 バイオレットさんは、俺たちからしたら完全な大人の女性。バイオレットさんは気にしている様子は一切ないが、ジョニーでもやはり目上に感じるのか、丁寧に敬語で話す。


「え? あ~それ? まぁ色々あって……面倒臭いから簡単に言うけど、私ラクリマの暗殺者なの」

「暗殺者……? ですか?」

「うん」


 バイオレットさんは日本人並みに日本語が上手だし、俺たちもストレスを全く感じないくらい柔らかな空気を出す人だ。そのうえ話し上手だし、ラクリマにも遠慮もしないから、こういった冗談を言われても誰も驚かなかった。


「実は私、元殺し屋だったの」

「えっ⁉」


 嘘か本当かは分からないが、冗談にしてはあまりに唐突過ぎて思わず俺たちは声を零した。


「え? でも、それじゃあなんでバイオレットさんは、今はラクリマのメイドみたいな仕事してるんですか?」

「ラクリマにスカウトされたから」

「スカウト?」

「うん。ラクリマってあれじゃん。予知とか読心術とか、そういった能力持ってるでしょう? だからラクリマがそういった人間集めて、自分の部隊作るのに呼ばれたの」


 えっ⁉ マジで⁉ ラクリマって人の心まで読めるの⁉


 バイオレットさんは本当に凄い人だ。サラリとあのラクリマの秘密を話してしまう所に、二人の間にどれほど強い絆があるのか分かってしまった。


「え、それって言っちゃって良いんですか?」

「え? 大丈夫だよ? 他の十六人も私と似たような人だから」

「いや……ラクリマが読心術使えるってやつです……」

「あ~そっち? 大丈夫大丈夫。知られたって相手はどうしようもないから」


 いや、読心術もそうだけど、あのSP全員元殺し屋だったの⁉ なんでラクリマ生きてるの⁉


 言っている事は多分本当なのだろうが、バイオレットさんの軽いノリのせいで、それが本当か嘘か全く判断できなかった。


「まぁでも、そんなこと気にしなくていいよ。私たちは味方だから。だから今はリーパー君たちもラクリマと遊んであげて。生まれや育ちは人それぞれだけど、君たちはそれを気にしない性格なんだって聞いてるよ?」


 誰に聞いたのかは分からないが、少なくとも俺はそう。何故なら俺自身小魔王みたいな存在だし、超貧乏育ち。だから俺に対してはどうなんだろう? と思う事はあっても、他人に対してどうだとかはほとんど感じた事が無い。

 それこそバイオレットさんの、『生まれや育ちは人それぞれ』という言葉は俺に対しての言葉のようで、なんだかこの時、俺とラクリマは似たような存在なのかもしれないと思った。


「だから仲良くしてあげて。ラクリマはああ見えて寂しがり屋だから。口は悪いけど」


 なんだかんだ言って、バイオレットさんにとってラクリマは大切な人であるようで、ちょっと皮肉交じりにラクリマを一番に考える優しさに、二人の絆は家族同然なのだと思った。


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