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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
一章
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英雄の証

「え……」


 夕食時に現れた三人の来訪者。スーツを着て礼儀正しそうで清潔感があり、とても悪い人には見えなかった。しかし家にある借金四十一億のせいで、逆にその人たちが余計に怖く見え“もしかしたらじいちゃん海に捨てられるんじゃない”かと戦々恐々だった。しかしその人たちは借金取りなどではなく、寧ろ良い人たちだった……のだが……


「断る」

「えっ⁉ あ、あの……アルバインさん? お話はお分かり頂けましたか……?」

「分かってる。だが断る」

「えっ⁉」


 じいちゃ~ん⁉ 話し聞いてた⁉ っていうか『だが断る』って言う人本当にいた!


「も、もう一度お話ししますよアルバインさん。近い将来……」

「それはもう聞いた。だが何度言おうが断る」

「そ、それは、何を言っているのか分かっていますかアルバインさん⁉ これは……」

「分かってる」


 じいちゃ~ん! あんたが行かんでどうすんだよ! 


「アルカナ法皇直々のご命令なんですよ⁉ 承諾してもらえなければこちらも困ります!」


 スーツを着たこの人たちは、日本のWSOの職員で、魔王が近々復活するらしいから、それに備えて元英雄や時期英雄になれる可能性のある子孫たちを招集するために、なんか偉い人から連れて来いって言われて家に来たらしい。


 それはつまり、俺たちはこれからキャメロットという外国にVIPとして行き、そこで貴族みたいな人しか入れない学校に入るという事であり、海外の文化を学びながら、毎日超高級なホテルに泊まり、毎日超高級な食事を食べ、超高級な人たちに囲まれて、超贅沢な生活を体験できるという事だ。その上経費は全てあちらが持ってタダだし、何より俺が行くという事は、当然元英雄である子孫のリリアやフィリアたちも行くわけだから、他の友達とかにはしばらく会えなくなるけど、それこそ一向にかまわんくらいの勢いで「お願いします!」しかないじゃん!


 なのに何故かじいちゃんは、テーブルに並べられた映画とかでしか見た事も無い赤い封がされた封筒を前にしても『だが断る』の一点張り。


「何故ですか! アルバインさんは魔王を倒した英雄じゃないんですか! あの惨劇を知っているアルバインさんなら、これがどれほど重大な事か分かっているはずですよね!」


 前期、つまりじいちゃんが魔王を倒したときは、丁度第二次世界大戦が終わるころに魔王の復活の兆しがあり、その影響もあって対応が早かったらしく、歴史的には魔王に圧勝したくらい被害が少なかったらしい。それでも世界中でT―ウィルスに感染してゾンビみたいになった人や殺された人は三千万人ほど出たらしく、英雄やその守護者にも多数の死者がおり、俺から言わしたら十分辛勝。


「それを何故断るんですか! というよりこれはご命令なんですよ! 分かっていますかアルバインさん!」


 WSOの人も、というより、常に魔王から世界を守ろうとする仕事をしているだけに、これがどれだけ大変な事が起きているか分かって必死にじいちゃんを説得しているのだろうが、歴史的にも後四百年以上復活するわけが無いと思っている俺からしたら、ドラマみたいに顔を真っ赤にして熱くなるこの人たちにちょっと引いた。

 おそらくじいちゃんも『だが断る』って言っている感じからそう思っているのだろう。と思ったのだが、じいちゃん遂に面倒くさくなったようで、本音を漏らし始めた。


「これを見ろ」


 そう言うとじいちゃんは右手を握り、甲を見せた。そしてそこに世界に七名だけが神から与えられる英雄の証、聖刻又は聖印と呼ばれる紋章を浮かび上がらせた。


「こ……これが聖刻……す……すごい……」


 じいちゃんがゴッドフィンガーを撃つガンダムのように聖刻を浮かび上がらせると、その神々しさにWSOの人たちは驚いたような表情を見せた。

 

 じいちゃんが持つ聖刻は、名前の無い神様みたいで、AZとかあんとか、とにかく名前が始まりと終わりを現す神様で、その国々によって呼び方が違う神様らしく、生と死を司る英雄三大神の一人……一柱らしい。分かりやすく言えば死神のような神様なんだって。

 そんで、英雄たちの中では一番強いわけではないけど、仲の悪い他の二人の……二柱の神様や、他の守護者である四大天使のつなぎ役的な立場から、リーダー的な存在なんだって。


 実際じいちゃんもその力の一部を使えるらしいけど、今まで見せてくれたのは弱った野菜に触れて、しばらくしたら元気になるっていうおまじない的な物しかなく、俺からしたら嘘か本当かは不明のまま。


 それでもWSOの人たちからしたら物凄い物らしく、じいちゃんがちょっと本気を出したら一気に大人しくなった。


「この通り、もう“俺”には魔王を抑えられるほどの力も無い」


 光り輝く聖刻を見せそういうじいちゃんだが、何がこの通りなのかさっぱり分からんし、普段は歯が少ないせいか“おらゃ”となる自称をきちんと俺と発音できたことに感心したせいで、何を伝えたいのか良く分からなかった。


「もう“おりゃ”も齢だ……」


 あ~残念!


「君らはまだ若いから分からないだろうけど、この齢になるとこんな聖刻を出すだけでもやっとだ」


 え~そうなの? 確かに手は皺皺でおじいちゃんだけど、聖刻は綺麗に出てるよ? でも確かにじいちゃんが戦うのは無理だ……でも魔王復活するの四百年くらい後だよ? どうせ何も起こらないよ? 三か月くらい超リッチな海外生活送って帰ってくるだけだよ? ねぇ~行こうよじいちゃん?


 聖刻についてかどうかは分からないが、これを聞いたWSOの人には意味が通ずるようで、先ほどと打って変わって静かに応える。


「で、ですが……それでも知識や経験という面で、お孫さんや他の候補生にアドバイスを出来るはずです」


 確かにもう戦う事は出来なくても、知識や経験を与える指導者としてはありだ。じいちゃんは凄くて、野菜を育てるだけじゃなく、大工も出来るし、自分で水道も直せるし、腐って見える野菜とかキノコでも一口噛めば食べれるかどうか分かるくらい凄いんだぜ。


 しかしそんな経験豊富なじいちゃんは、どうしても行きたくないようで、頑なに拒む。


「無理だ。それに、今の世代はおらゃたちの時よりもずっと役に立つ。今のおりゃが行くより、今の世代に任せた方が良い」

「そ、それはそうかもしれませんが……それでも魔王を倒したアルバインさんの存在は、それだけでも大きな力を与えてくれます。どうか今の時代を、この先を担う未来の世代のためにお力をお貸し下さい!」


 魔王を倒した英雄。確かにじいちゃんはもう戦えるような齢じゃないが、本当に魔王が復活するならその存在がいるだけで人類の大きな心の支えになる。

 遂に土下座までして懇願するWSOの人たちを見ていると、それほどじいちゃんは偉大で重要な人物なのだと実感した。

 なのにじいちゃん、それでも『うん』とは言わない。


「頭を下げられても無理な物は無理だ」

「そう言わず、どうかお願いします! このままでは私たちは帰れません! お願いします!」


 必死な姿にこの人たちは本当に困っているのだと思った。しかしじいちゃんは頑固だから、絶対に『うん』とは言わない。それどころか、あまりのしつこさにそのうち怒鳴るんじゃないかと不安になった。


「お願いします!」

「いい加減頭を上げなさい。何度頼まれても無理な物は無理だ」

「いえ! アルバインさんが承諾してくれるまで頭は上げません!」


 ここでじいちゃん遂に堪忍袋の緒が切れたのか、呆れたようなため息を漏らした。


 その瞬間、俺はいよいよゴッドフィンガーが炸裂するのか⁉ と嫌な感じがしたのだが、さすがは元英雄。むやみやたらにシャッフル同盟の力を使う事はせず、優しく諭した。


「落ち着きなさい。俺は行かないとは言ったが、手を貸さないとは言ってない」

「えっ⁉ ……じゃ、じゃあ……」

「あぁ。代わりにおりゃの孫のリーパーを行かせる」

「えっ⁉」


 えっ⁉ じいちゃん⁉


「リーパーはまだ加護印も出てないが、おらゃよりもずっと才能がある。おらゃが行くよりリーパーが行った方が世界は救われる」

「…………」


 いや、まぁ……そんな見られても、俺は一人で行っても良いけど、戦わないよ?


 じいちゃんのまさかの生贄発言に、茶の間には静寂が訪れた。


「お……アルバインさんは、この時を見越してお孫さんをお育てになられたのですか?」

「いんや」

「…………」


 あっ! 今この人たち“こいつじゃダメなんじゃね?”って思った!


「だけど、リーパーにはアズ様の加護が一番強く出てる」

「お……おぉ……」


 えっ⁉ そうなの⁉ どの辺に⁉


 WSOの人たちも俺も“ほんとに⁉”みたいな空気になったが、あの英雄が自信満々に言う姿に、何とも言えない説得力があった。


 加護印とは、聖刻をもらうためには絶対に必要な、神様の予選に選ばれた的な人や動物に現れる刻印らしい。それは体のどこに出るかは人それぞれで、神様に選ばれるとそれが聖刻になるらしい。


「リーパー、両手の手のひらを見せてあげなさい」

「え? ……う、うん」


 じいちゃんに言われ、自分の手のひらを見た。すると、俺の唯一の自慢である升掛線という、手のひらに一直線に走る超珍しい手相に、まさかこれが英雄の証なのかと驚いた。そしてやはり珍しいようで、それを見たWSOの人たちも驚いたような表情を見せた。


「こ、これは……?」

「升掛線だ」

「ますかけせん? ですか?」

「そうだ。この手相は、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康にもあった手相で、天下取りの相と言われている」

「おぉ!」


 この手相、両手にある人はかなり珍しいらしく、持つ者は掴んだ運を離さないと言われるほど強運の持ち主らしい。


「さらに親指の第一関節を見なさい。そこに目のような手相があるだろう?」

「は、はい……」

「それは仏眼と言って、強い霊感がある者に現れるらしい」

「おぉ!」


 確かに言われてみればある。だけど人の手相なんてほとんど見た事も無いから、これが珍しいかは良く分からなかった。


「つ、つまり! それはアズ神様の聖刻が宿る手相という事ですか!」

「いんや。アズ様とは関係ねぇ。おりゃにはねぇもん」

「え……」


 ちげぇのかよじいちゃん⁉ なんで今この話した⁉


「だけど、こいつにゃ間違いなくアズ様から授かったおらぁの血が流れてる。間違いなく次に聖刻を与えられるのはリーパーだ。この聖刻がそう言っている」


 全く、全然説得力は無いが、最後の聖刻が言っているが効いたのか、その後WSOの人たちはなんか凄い的な感じでじいちゃんの話を信じ、結局俺は生贄として三日後にキャメロットへ旅立つこととなった。


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