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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
三章
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最重要人物

 ――午前四時。


 この日、俺たちは法女様に会いにアルカナへ行くため、まだ朝日が昇る前のこっぱやい時間に起こされ、空港へと向かっていた。


「…………」


 黒塗りの超高級車に二人ずつ乗せられ走る車は、大統領並みの長い車列を作り、白バイどころか装甲車まで護衛に付き、空にはヘリが飛ぶ。道路はこの時のために規制線が張られ、沿道のところどころには特殊部隊な人たちが警備までしている。


 なんなのこれ⁉ 頭おかしいんじゃないの⁉


 超びっくりだった。朝は法女様の都合もあるからこんな早い時間だとは聞いていたし、一応俺たちは世界を救う救世主だから、何かあったら大変だから警備は付くと言っていたが、この異様なまでの光景には、眠気も一気に引いた。


「おぉ。なんか凄いね師匠? なんか偉い人でも来るのかな?」


 一緒に乗っていたパオラも、さすがにこの景色には眠気も飛んだようで、誰のためにこんな大変なことになっているのかなど知る由もなく、珍しそうに外を眺める。


「さ、さぁ? だ、誰だろうな……?」

「誰だろうね?」


 誰が何番目の車に乗るかなど既に分からないが、クレアとキリア、リリアとヒー、エリックとスクーピー、フィリアとジョニー、俺とパオラ、そしてアドラとフィオラさん、という感じで配車されていた。何故俺がパオラと一緒に乗っていたかというと、アドラとパオラが一緒に乗れば、途中で勝手に降りてどこかへ行く可能性があるらしく、保護者としてフィオラさんが同行していた。


 それで俺は運よく、クラスでは一番かわいいと思うパオラと一緒の車だったのだが、この異様さにそれどころではなかった。


 そんな車列は朝日が昇り始めた頃に空港に到着したのだが、空港もまさかの軍の空港で、それも飛行機の真横に車を停めてそこから直接飛行機に乗るというイカれた待遇で、もう勘弁してもらいたかった。

 そしてさらに飛行機も無駄に贅沢で、そこで護衛に付く戦闘機を眺めながら超リッチな朝食を食べさせられ、“これで俺たちが加護印すら発現させられなかったら殺されるんじゃないか”というほどの扱いを受けたせいで恐怖を覚え、終始俺とリリアとヒーはずっと無言で青い顔をしており、吐き気すら感じる勢いだった。


 そんなこんなでようやっとアルカナに到着すると、そこから再び長い車列で移動して、最後は生きた心地がしない状態でやっとアルカナ城へと入城した。


「ど、どうしましょうリーパー……私のせいで大変なことになってしまいました……」


 自分が法女様に占ってもらうと言ってしまったせいで大変なことになってしまったと思っているリリアは、既に遠くを見つめたまま呆然と言う。


「だ、大丈夫だリリア。悪いのは、ああ、あんな阿保みたいな事考えたキャメロットの人だから……」

「で、ですが……これでもし、法女様が……私たちは違うと言ったら……」

「そそそ、そうなったら、たっ、ただ俺たちは帰るだけだよ……」

「でで、でも……」

「おお俺たちは、何も悪くない。来いって言ったのはキャキャ、キャメロットの人だし、かか勝手に俺たちが英雄になるって思ってたのはあっちだから……」

「ほ、ほ本当に、大丈夫、なんですか……?」

「あ、あぁ。だ、だってほら! 三年一組は、自分たちで考えて判断を下すって決まりだろ! だからこれは皆で決めた事なんだぜ? だからリリアは関係ない!」

「そ、そうですよね! そうでした! これは私たちで決めたんでした!」

「そ、そうだリリア! だからこれは誰のせいでもない!」

「そ、そうですよね!」

「そ、そうだ!」


 危うく首を吊ってしまいそうだったリリアだが、クラスのスローガンを思い出し、何とか元気になった。


「そ、それにあれだ! おお、俺たちだってここ、この三日間、地獄のトレーニングしたんだ! 絶対俺たちは大丈夫だって言ってもらえる!」

「そそそうでした! あれだけやったら大丈夫なはずです!」

「そそそうだ!」


 法女様に会いに行くと決まったあの日から、俺たちは居ても立っても居られず、急遽授業を変更して過酷なトレーニングを始めた。

   

 フィジカルトレーニングという踊りみたいな運動。ライザップ並みの筋トレ。低酸素を利用した高地トレーニング。疲労を取るためのセラピー。どれもこれもほとんど……いや、全部やる気みなぎるクレアやフィリアたちがフィジカルを鍛えるために決めたものだが、そのどれもがゲロを吐きそうなほど過酷で、俺とリリアは『キツイっす、キツイっす』と独り言を言うほどキツかった。


 そんな地獄を越えた俺たちだからこそ、動揺こそしていたが結構自信があった。だが、フィジカルフィジカル言っていた割に、フィジカルの意味が分からないままで、結局何の意味があったのかは未だに分からず仕舞いだった。


 そんな感じで時間を潰していると、法女様の準備が整ったのか、いよいよ俺たちは法女様と面会する。


「法女様がいらっしゃいました。これよりご入室致します。ご準備をお願い致します」


 ええっ⁉


 控室と呼ぶにはあまりにも豪華な部屋で待機していると、やっと来たと思った案内人が突然訳の分からないことを言い始め、全員が驚いた。


 えっ⁉ 今この人ご入室致しますって言わなかった⁉ えっ⁉ ここで会うの⁉


 確かに今いる部屋は超豪華だ。しかし今までキャメロットでの経験から、こんな場所では絶対にそんな偉い人と大切な話などすることは無いと思っていただけに、一気に俺たちはざわつき始めた。


「では、私は廊下にて待機しておりますので、準備が整い次第お声掛け下さい。それでは」


 当然法女様がこんな場所……と言えば失礼だが、正式な場以外で例え第一英雄候補の俺たちが来ても会うわけもなく、案内人が部屋を出るとドッと疲れたような重たい空気が一気に抜ける感覚に襲われた。


 これには、あれだけ丁重な扱いを受けたにも関わらずどっしり構えていたクレアやキリアたちまでホッとした表情を見せ、貴族でもやはりかなりのプレッシャーを感じていたのだと思うと、なんだか少し安心した。


「さぁ皆。準備は良いか? 良いのなら行くぞ」


 法女様が入室すると聞いたとき最も大きなリアクションを取ったのはクレアだった。それこそ肩を窄めて一瞬ひょっとこみたいな顔になったあたりから、一番ビビっていたと思うが、それでも流石は学級委員長。一瞬の迷いなどすぐさま振り払い俺たちを引っ張る。


「よし! では行くぞ皆!」


 流石アテナ神の聖刻を与えられる予定の娘。あんだけ動揺していた事など微塵も感じさせぬ堂々とした声を上げる。それこそまだ何も始まっていないのに、まるで魔王との最終決戦にでも向かうかのような声を上げ、先頭を切る。そしてそれに続くキリア、エリック、スクーピーの後ろ姿。

 それは正に英雄の後ろ姿のような頼もしさがあったが、何故かそれを見た瞬間、俺たちが法皇様の儀式を受けたときのような感覚がし、何か物凄い予期せぬ事態になるんじゃないかと不安になった。


 それでも、まさかそんな事あるわけ絶対にないとちょっと不安を感じつつ、いよいよ法女様と面会する。


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