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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
三章
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緊急事態

 その日、いつもと変わらず登校し、一時限目を終えた。一時限目も普段と変わらず順調に進み、最後にいつものようにクレアに『ちゃんと覚えたか?』と言われ、正にいつもの一日だった。そして今日もいつも通り終わる、そのはずだったのだが……


 二時限目までの休憩時間、俺たちが次の授業に備えリラックスしていると、少し早く先生が教室に来て、席に着かせた。


「お休みの所大変申し訳ありませんが、緊急のお知らせがあります」


 アニー先生はいつもと変わらず落ち着いた様子だった。そのことから、俺たちは特に大きな問題がある知らせではないと思い、教室は静かだった。


「来年の三月以降に、魔人が出現する予兆があると報告を受けました」

「えっ⁉」


 アニー先生は落ち着いていた。しかし言っていることは途轍もない話で、一気に教室内がざわつき始めた。


「それに伴い、大変恐縮ではありますが、二時限目の授業を中止致しまして、急遽生徒会議を行ってもらいたく思います」

「えっ⁉」


 アニー先生は本当にいつもの感じで落ち着いている。だけど魔人出現の報告に対し、何故か俺たちに生徒会議をしろという訳の分からない指示に、先生パニックか⁉ と思ってしまった。

 そんな先生に対し、今や学級委員長とも呼べるクレアが質問する。


「ちょっと待って頂けますかアニー先生! 魔人復活の話は分かりましたが、何故そのような緊急を要する場面で、私たちが生徒会議をしなければいけないんですか⁉」


 流石自他ともに認める学級委員長。良く俺たちの気持ちを理解し代弁してくれる。それに対し先生。本当に自分で言っている意味を理解しているのか、落ち着いて答える。


「申し訳ありません。私の説明不足でした。このクラスは今まで、私の考えでゆっくり教育していく方針でした。そのため知識を蓄える授業を優先的に行い、それから身体的能力を伸ばす予定でした。しかし報告が確かであれば、時間的猶予は五か月も残されておらず、ここからは私たち教師の考えではなく、貴方達が何を必要とするかが重要となってきます。そこで、貴方達には来るべき魔王復活に備え、何が必要となるのか、何が今の自分たちに足りないのかを話し合って頂き、今後の授業の方針を決めて下さい」


 自分たちで考え判断を下す。三年一組のスローガンは先生も含め、授業の内容にまで適用される。何よりこの先戦うのは俺たちが前提のクラスは、当然俺たちの考えが何に置いても優先される。

 

 それが分かると、すぐさまクレアは会議を開く許可をもらう。


「分かりました先生。では席を立ち集合する許可を下さい」

「分かりました。ただ、最後で良いのですが、私には第一目標と、そこへ至る課題を明示してください。それを受けて私共教員の間で情報を共有し、今後の授業に役立てます」

「分かりました」

「では、会議を始めて下さい」


 一瞬、まさかこの前みたくまたあの講義室で裁判みたいな感じでやるのかと思ったが、さすがに緊急事態だけに、先生が許可をするとクレアの周りに全員が集まった。


「どうする皆、このままではマズいぞ」


 こんな俺でもマズいと分かる状況に、俺以上に危機感を持つクレアは、仲の悪い良いなど関係なく意見を求める。


「先ずは全員の加護印の発現が優先されます。それを第一目標にしましょう」


 こういう状況で頼りになるのは、やはりフィリアだ。そしてさらに頼りになるのがヒーだ。


「はい、今はそれが最も大切な優先事項だと思います。加護印が無い状態では魔人に近づく事さえ叶いません。加護印があれば最悪私たちだけでもピストルや戦車での魔人の足止めは可能になるはずです。先ずはそこを目指しましょう」


 魔人自体は、瘴気を纏う存在で倒すことは難しいらしい。だが瘴気に感染したホロウと呼ばれる生物は、感染しても一応生物らしく、生命活動を奪えば無力化できるらしい。

 加護印が無い者は近づくだけでも感染してしまう以上、感染しない加護印の発現は最重要となり、”周りのホロウを退治して、魔人を足止めして時間を稼ぐ”というのは、今の俺たちが残り五か月でたどり着くには、これが一番現実味があった。


「なるほど。他に意見のある者はいないか?」

「…………」


 クレア、フィリア、ヒー。三年一組のブレーンが話をまとめだすと、誰もが納得し異見は出なかった。


「よし。では先ずは全員の加護印の発現を優先させよう。しかしだ、そのためには何が必要だ? フィリア、お前……いや、すまん……」

「いえ。今はそんなことは気にしなくても良いですクレア。私たちは今、全員が味方です。揉めたり喧嘩したりするのは後で構いません」

「そうだった。済まなかったフィリア」

「いえ。続けて下さい」

「分かった」


 一か月半ほどしか経っておらず、正直俺たちは未だに仲良くなれていない。特にクレアとキリアに対しては友達と呼べるレベルじゃなく、未だに互いに顔色を伺う感じだ。それを気にしたクレアを一蹴するように話を逸らさせなかったフィリアは、さすが最年長という感じだった。


「では聞くが、フィリア、お前とジョニーは加護印を既に発現させている。それについては、お前たちは私たちの遥か先輩だ。加護印を発現させるために何か案をくれ」

「分かりました」


 こんな状況で言うのもあれなんだが、気にしなくても良いと言われたとはいえ、クレアが普通にお前お前言う姿に、クレアってどんな教育受けて来たの? と口には出せないが思ってしまった。

 でもそう思っていたのは俺だけだったようで、フィリアは全く気にすることもなく質問に答える。


「加護印を発現させるには、健全な肉体と健全な魂が必要だと言われ続けて、私たちはそれを信じて鍛錬を続けていました。しかし私たちが加護印を発現させたのは、ご存じのように、恥ずかしながら法皇様の前で逃げ出したいという、健全とはかけ離れた感情から来たものでした」


 健全って意味知ってる? 健康って意味だよ? 何俺たちが家に帰りたいって思ったのが悪みたいに言ってんの? 別に俺たち悪くないから……。


 フィリアにとってそれは健全とは呼べない感情だったようだが、俺からしたらそれはとても自分の気持ちに素直に向き合った素晴らしい心だと思い、それこそ健全そのものではないのかと思った。まぁそれは思っていても言えないが……。


「そのことから、どうやら私たちが祖父母の血を引くというのもありますが、加護印の発現には強い想いや意思が必要だと感じました。ジョニーはどう思いますか?」


 ここでフィリアは、より正確な情報を得るため、ジョニーに話を振った。


「俺もそうだと思う。さらに付け加えるなら、強い想いや意思というのは己の欲に対して忠実な心だと思う」

「忠実な心? それも己の欲? 自己中心的な思想が必要だと言うのか?」

「そうだ」


 クレアが疑問に思ったのは、無理は無かった。ジョニーの言い方だと、まるで自己中心的で邪な考えが必要で、そのうえそれがより強く叶えたいと思わないといけないと言っているようだったからだ。


「ちょっと待ってくれジョニー? それでは加護印の発現には、極論我儘になれば良いというのか?」

「あぁそうだ。それも、例え周りの人間をどれだけ不幸にしても構わない、というほど強く願い、望みを叶えようとする意志が必要だ」

「本当なのかフィリア?」

「それはジョニーの言い方が悪いです。しかしジョニーの言う事は私よりも的確です」

「そうなのか⁉」


 現在このクラスで加護印を持つのはフィリアとジョニーだけだ。そんな二人が強欲になれ、みたいなことを言い始めた事で、加護印とは穢れの無い純粋な心が必要だと思っていた俺たちは、訝しげな顔になった。


「ですけど勘違いしないで下さい。人類を救いたい、誰かを助けたい、お金持ちになりたい、有名になりたい。それは全て自己満足をしたいという同じ欲です。おそらく加護印とはその者の素直な心の在り方が必要とされるのであって、それこそ自分が死のうとも、誰かを例え殺すことになっても絶対に叶えたいというほど強く思わなければ発現しないのだという意味です」

「そういう事なのか……済まない、私は勘違いをしていたようだ」

「いえ。ジョニーの言葉足らずが悪いだけです」


 フィリアの説明で、どれほど強い心が必要かという事は理解できた。しかしあの時、俺もリリアもヒーもフィリアたちと同じくらい必死だったのに、加護印のかの字も発言しなかった俺たちは一体何だったんだろうと、なんか切なくなった。


 まぁでも、あの時フィリアとジョニーは、一人でも戦うからお前たちは逃げろと言っていたわけだし……まぁそういう事なんだろう……。


 それはリリアとヒーも同じ気持ちだったようで、あのヒーですら『では何故私たちは発現しなかったのでしょう?』的な追及も無く、話は続く。


「しかしだ。その状況を意図的に作ろうと思ってもなかなか難しいぞ? 一体どうすれば私たちは加護印を発現させられるんだ……」


 クレアの言う事は良く分かる。おそらくフィリアとジョニーの言った通り強い意志が必要ならば、それは人為的に作り出された状況では無理だろう。仮に作るとしても、知らされていない側からすれば命に係わる事態になるため、下手をすれば加護印を得る前に死ぬ可能性もある。

 予想以上に難しい条件に、会議は行き詰まりを見せた。しかしここで、リリアが口を開くことで突破口が見え始めた。


「あ、あの~……」

「なんだリリア? 何か良い案でも見つかったのか?」

「いえ。ですけど、クレアやフィリアたちは、英雄だったおじいちゃんやおばあちゃんと良く話をしているんですよね?」

「あぁ、そうだが。それがどうした?」

「ではおじいちゃんやおばあちゃんは何か言っていませんでしたか? 加護印には何か必要だとか、こういう人が出やすいみたいなことを?」


 リリアとヒーの英雄のおばあちゃんは既に亡くなっているし、元々おばさんが家を出て日本に居るから、リリアたちはおばあちゃんと話した記憶が無いと言っていた。だからリリアは、この質問が出たのだろう。思わぬ質問に、違う意味で一気に会話が弾み出した。


「そうだ! そういえば祖母が言っていた! エドワード・アルバイン! もし加護印や聖刻で悩んだら、彼の孫を見習えと!」

「えっ⁉」

「お前だアルバイン! お前が人類を救う鍵なんだ!」

「えっ⁉」


 本当に思わぬ展開に、会議は一気に進む。

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