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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
三章
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思春期

 俺たち英雄候補には重要な、初めての魔法の実技授業。魔法を扱えなければ折角与えられた聖刻の力も使えず、ただの持ち腐れとなる。そのため俺たちにとっては必修科目の一つとなっており、全く魔法を使えない俺は、予想通りスクーピーと二人のスクーピー班でのスタートとなった。


「それでは、魔力を感じるところから始めたいと思います。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「よろしーお願い、しますっ!」


 他の上級者コースのリリアの班とフィリアの班は既に魔導衣を身に着け、魔導士さながらの格好で授業を開始しているのに、スクーピー班の最初の授業は、基本中の基本、小学一年生がやるようなところから始まった。しかしスクーピーはとてもやる気があり、授業も簡単なことから、俺はそれほど嫌ではなかった。いや寧ろ逆に楽しいくらいの気持ちだった。というのも、何とこの班にはあの超可愛いフラヴィ王子が参加してくれるようで、俺のような愚者が、我らがアイドルスクーピーと、高嶺の花のフラヴィ王子という両手に花の状態に、最高潮のイベントだった。


 来てるっ! 俺は今モテ期が来てるっ! まさか魔法を使えないことがこれほど素晴らしい事だったとは……現代科学万歳!


 スマホ、パソコン、インターネット。さらにはEV車、AI、“フロンガス”などなど、今の文明は魔力に頼らない科学が発展し、最早魔法は太古の文明。今や若者はテレビ以上に魔法から離れ、ギターくらい当たり前に使えない。

 そんな時代に、今時魔法なんて必死に覚えようとするなど、スポーツ選手か魔療医者を目指す者、またはヨウツベでバズりたい人くらいだろう。

 こんな最高のイベントが待っているとは思いもよらず、自分が普通であることに感謝した。


「それでは、眼鏡を掛け、自分の手のひらをご覧ください。魔力と呼ばれる生命エネルギーが見えると思います」


 俺たちの担当になった先生は日本の女性の、それも若い先生で、優しくてとても美人だ。そして、日本人やアジア人は魔力があまり多くないと言われている人種なのに、ここキャメロットで講師を出来るほどの腕前という、正に幸運の女神だらけとなり、なんか今日の俺は色々運に恵まれていた。


「こちらを感じ取って下さい。感じるといってもなかなか難しいかもしれませんが、先ずは触れてみたり、匂いを嗅いでみたりして、魔力というものがそこにあると感じて下さい」


 この先生は本当に素晴らしい。俺が日本で教えられた時は男の先生で、見えもしないのに感じろだとか、集めろだとか言っていて、全くためにならなかった。

 これならすぐにでも魔法が使えそうな気分になり、ますます授業が楽しくなった。


「スクーピーどうだ? なんか感じる?」

「お母様の匂い!」

「お母さんの匂いがするのか? ちょっと嗅がせて?」

「うん!」

「ほんとだ!」


 スクーピーはセンスがあるようで、俺には赤ちゃんの匂いしかしなかったが、もう魔力の匂いを感じ取っている。その姿はとても可愛く幸運を呼び、先生とフラヴィ王子まで笑みが零れ、スクーピー班はどんどん絆を深める。


「アルバインさんは何かお感じになられましたか?」

「いえ。自分の手の臭いしかしません」

「ウフフッ、そうですか?」

「フラヴィ王子はどんな匂いがしますか?」

「私はアップルの匂いがします。どうぞ」

「えっ⁉」


 意外とフラヴィ王子はフレンドリーな方のようで、そう言うと匂いを嗅いでも良いよと手の平を差し出した。

 当然俺は有難く頂戴し、小さく柔らかそうなフラヴィ王子の手の平を堪能させてもらった。


「どうですか?」

「確かにリンゴっぽい甘い匂いがします」


 果たして魔力の匂いなのか、はたまた女性の匂いなのかは分からないが、とても良い匂いに我は満足だった。

 そこへ今度は先生までもが参戦する。


「では私の匂いも感じて見て下さい。魔力には人それぞれ匂いがあると言われているので、たくさんの人の魔力を嗅ぐことでさらに効果は高まります」

「で、では……」


 こっ、これが女性の香りか! あんま~い! これは正真正銘大人の女性の香りだ! 豊潤で艶があり、それでいて最高の香りだ!


 正に天国。先生の教えに従い授業を受けているだけで天にも昇る気持ちだった。しかしそれだけではこの天国はまだ天国とは言えないようで、俺が先生の手の匂いを嗅ぐとフラヴィ王子も嗅ぎだし、最後は全員が俺の手の臭いを嗅ぐというハーレムが生まれた。

 

 満足だ! 俺は満足だ! あ~こんなに満たされたのは初めてだ!


 ただ手の香りを嗅がれるというシチュエーションだが、まだ高校生の俺には刺激が強く、あまりの幸福に天にも昇る気持ちだった。ところがそれがいけなかった。どうやら魔力というのは興奮すると直ぐに表に出るらしく、フラヴィ王子たちに心中を悟られる。


「さすがアルバインさん、もう既に魔力の扱いを覚え始めたようですね?」

「え? そ、そうですか?」

「はい。先ほどよりも随分と放出される魔力の量が増えています。そのまま放出を続けて下さい。その感覚を覚えると、上達は早いです」


 そう言われ自分の腕を見ると、熱湯風呂から上がったんじゃないかという感じで魔力が暴れ狂っていた。


「そ、そうですか……ありがとうございます」


 とんでもねぇぜ魔力! 早くコントロールする術を覚えなければ変態って呼ばれる! 


 フラヴィ王子は絶対気付いているだろうが、優しさで褒めてくれた。しかしこれは超危険な物だと認識すると、一刻も早く気持ちを落ち着かせなければならないと必死になった。

 しかしこの状況。そう易々と気持ちを落ち着かせるなど夢のまた夢で、強引だが先生に魔力の抑え方を御教授願った。


「あ、あの先生。魔力ってどうやってコントロールするんですか?」

「それは人それぞれによります。魔力は感覚でコントロールすると言われる物質なので、人によって違います。ですが、よく言われるのが、皮膚の周りにある水分をコントロールするイメージというのが広く知られています」

「あ、ありがとうございます。やってみます」


 流石キャメロットの先生。今まで、魔力は汗の出る穴から昇る湯気をコントロールするイメージだと、漫画や今まで教えられた先生のせいで勘違いしていた。しかしどうやら魔力は水のような感じらしく、そう言われるととてもしっくりきた。

 そして先生の言う通り水をイメージして流れに集中すると、今までは全くできなかったのに、上手くできたようだった。


「そうです! とてもお上手です!」

「さすがはアルバインさんですね。とても上達がお早い。これならすぐにでも中級者へなれます」

「本当ですか⁉」

「はい」


 二人は褒め上手のようで、こんな変態でも蔑まず認めてくれる。だが実際二人の言う通り、それなりにはコントロールできているようで、自分の腕を見ると先ほどよりもだいぶ立ち昇る魔力の量が減った。しかし!


「アルバインさん。魔力は脳で生成され、心臓の裏にあると言われる器官で蓄えられてから体の隅々へ運ばれます。ですので、心臓を意識してください。鼓動を感じることが最も重要です」


 そう言うとフラヴィ王子は、あろう事か俺のような愚者の胸に手を当て、鼓動を感じさせてくれた。

 そんなことをすれば当然俺の魔力は暴れ狂う。


「落ち着いて下さいアルバインさん。鼓動を収めるイメージです」

「は、はい」


 おおおっ! これはヤバいぜ!


 フラヴィ王子の柔らかく温かい手のひらに、俺の心臓は落ち着くはずもあろう事もなく脈打つ。しかしこのままでは本当にマズい。この時俺は、人生で初めてじゃないかというほどのピンチに瞳を閉じてしまうほどピンチで、それがまるで漫画の主人公の如く俺を覚醒させた。


「そうです。とてもお上手です。その調子で続けて下さい」

「はい」


 正に覚醒と言える進化だった。窮地に陥った俺は、この時死を覚悟した。その想いが電撃の如く覚醒させある境地に達した。それは、今胸に当てられているのはフラヴィ王子の手ではなく、ウンコだと思う事だった。


 これにより俺は、暗い視界の中、胸にあたる感覚が生まれたてのホカホカウンコだと悟ると、何も感じなくなった。それにより魔力は安定しピンチを脱した。それどころか、それがウンコだと思えば思うほど胸に意識が集まり、それを洗い流そうとするように体中の水分が集まるイメージを掴んだ。


 我思う、故に我あり。

 

 こうして俺は猛烈な勢いで魔力の流れを感じるコツを掴み、一気に基本的な感覚を物にした。


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