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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
二章
22/159

席替え

「このように、天法に分類される聖刻の力を使用するには、魔力を扱う技術も必要になってきます」


 クラス会が終わっての二時限目。

 公約通り直ぐに席替えを実行したクレアにより、教室は今までとは打って変わって静かになり、授業はスムーズに行われていた。


「特に三大神である、アテナ神、フィーリア神の聖刻を与えられる者は、その大いなる力を使用するにあたって膨大な魔力を必要とし、潜在許容量、放出量ともに増やさなければなりません」


 クレアはこういう事には才能があるようで、アドラとパオラを俺から離すことによって教室に安定をもたらした。しかしあくまで標的は俺のようで、前列窓際から、ヒー・キリア・俺・クレア・スクーピー・エリックと並び、後列窓際から、アドラ・フィリア、一個席を空けて、リリア・ジョニー・パオラという感じで、完全に俺は、先生とキリアとクレアによる魔のトライアングルの真ん中に配置され、ロックオンされていた。


「中でも、アテナ神の大いなる力は、時間や重力までもを操れるほど強大で、そのお力を想像するだけで容易に術者の負担が想像できると思います」


 超居辛い。席自体は離れている物の、両脇にはキリアとクレアという二大貴族が並び、正面にはこれまた貴族っぽい先生が構える布陣。おそらくクレアはリリアもそれなりにロックオンしているようで、その術中にはまったリリアも、俺同様重圧を受けている感があった。


 そんな重力十倍の界王星にいるような鍛錬を積んでいる状態で、何とか二時限目を耐え抜くと、授業が終わると直ぐ珍しくクレアから話しかけて来た。


「どうだ。授業の内容は頭に入ったか?」

「え? ……う、うん……まぁ……」


 自分で決めた席順によって、スムーズに授業が行われたことが満足なのか、クレアはとても落ち着いていた。実際俺も予想以上に先生の説明が頭に入り、悪い気はしておらず、クレアがいつも不機嫌そうにしていたのは、俺たちに原因があったと反省するほど授業は上手くいっていた。


「そうか。ならその調子で頑張れ」

「あ……うん……」


 そう言うクレアは、表情は固いままだがさっぱりしていて、どこか頼りがいのありそうな逞しさがあり、後輩や他の同級生に慕われる理由に納得がいった。それにクレアは元々学級委員長タイプのようで、俺たちが毛嫌いしていたから誤解していただけで、これから全てクレアに任せておけば三年一組は上手くいきそうな感じがあった。


 そんなクレアに、少し俺たちは勘違いしていたと思いながらも、三時限目に入った。するとクレアを理解したと思ったことで、今度はいつもクレアの後ろを歩いていたようなキリアが気になり始めた。


 キリアは、忍者の兄に両親共々一族を殺され、その復讐を誓う弟のような闇を抱える雰囲気があり、クレア以上に超近寄りがたい存在だった。

 その上剣術で世界三位と、ガンダムみたいなレオパルドとかいう貴族の肩書を持ち、クールな感じから先輩とか後輩とか女子からモテそうで、それが余計に彼を遠い存在にしていた。


 しかしクレアが寄り添う姿勢を見せ始めたからには、これからは俺たちも反省してクラスの全員と仲良くしていかなければならない。何より彼もまた俺が勝手に勘違いしているだけかもしれず、もしかしたら彼もプラモデル好きかもしれない。そう思うと少しだけ考えが変わり、昼休みに入るとキリアの情報を集めることにした。


「なぁエリック?」

「はい」

「キリアってどんな奴なんだ?」

「キリアさんですか?」

「うん」


 いつものようにクレアとキリア以外の全員で集まり、昼食の雑談の中で訊いた。すると皆も同じようなことを思っていたのか、キリアについての話題になった。


「それは私も気になります。エリック、教えてもらえませんか?」


 隣の席のヒーもキリアの事は気になるようで、珍しく他人についての情報を求めた。


「え? 構いませんよ」

「ありがとうございます」

 

 エリックが承諾すると、トマトの話で盛り上がっていたアドラ、パオラ、リリアも話を止め、エリックの話に耳を傾ける。


「キリアさんは、真面目で優しい方です。成績も優秀のようで、交友関係も広いようです」

「へぇ~、そうなんだ」

「はい。キリアさんの家は、代々続く医者の家柄らしく、ドイツでも有名な病院を経営していて、このような事が無ければ将来はキリアさんも医者になると言っていました」

「そうなんだ。さすが金持ちだな」

「お金持ちと医者は関係ありませんよ」

「そうか?」

「えぇ」


 でもなんか分かる気がした。キリアは俺たちよりもずっと頭が良さそうで、なんかプライドが高そうな感じがあり、エリックの医者というワードがぴったりとハマった。まぁただ、エリックの金銭感覚はやはり狂っているようで、代々続く医者の家系=金持ちとはならない感覚に、こいつには一度遊戯王のカードを自分で作る貧乏の境地を教え込みたいと思った。


「それで私の家が製薬会社“も”やっているので、キリアさんとは幼い頃から顔馴染みなんですよ」


 も⁉ エリックの家ってどんだけ金持ちなんだよ⁉ こいつら傭兵雇って魔王倒しに行ってもらえばそれで済むんじゃね⁉


 エリックの余計な一言で、キリアの話のはずが、気付けば俺たちはエリックに蔑む視線を送っていた。特にフィリアの視線は恐ろしく、穏やかさの中に業火のような灯を宿すほどだった。


「では、クレアとは何故馴染みがあるのですか?」


 純粋なヒーは、俺たちが憐れむ視線を送っていても、キリアの情報を集めようと真面目に話を聞く。


「クレアさんとは、祖母同士仲が良かったこともあり、従姉のような関係です。それにクレアさんの家は銀行や証券会社を経営していますから、私たちが生まれる前からお付き合いがありました」

「そうなんですか」

「はい」


 聞けばただの金持ちの話。フィリアの家も金持ちだが、想像を絶する話に、絶句の一言だった。

 そんな俺たちを他所に、ヒーは真面目にキリアと仲良くなる方法を探しているのか、金持ちの戯言など無視して訊く。


「キリアはどんな性格をしているんですか? 私たちが気軽に話しかけても問題ありませんか?」

「はい。キリアさんはとても親切な方です。特に女性には紳士的で、社交性も高いですから、話しかけても問題ありませんよ。ただ、気さくな方であっても冗談などは苦手なようで、そこに少し近寄りがたさは感じるかもしれません」

「そうなんですか」

「はい。しかし安心してくださいヒーさん。キリアさんも英雄の孫であることを誇りに思っておりますから、必ず友好関係を大切にしてくれます」


 キリアの話のせいか、エリックはだんだん言葉遣いが固くなっていく。その上会話の内容がまるで国同士の話のようになり、余計にキリアに話しかけ辛くなった。それでも真面目なヒーはなんだかやる気が出て来たようで、前向きな返事をする。


「分かりました。ありがとうございますエリック。これからは私たちの方から声を掛けてみます」

「いえ。ですがそちらの方が良いかもしれません。キリアさんはあまり饒舌な方ではありませんから、ヒーさんたちからお声を掛けてあげればより心を開いてくれると思います」

「分かりました」


 ヒー本当に行けんのかよ? だってお前リリア並みに人見知りするじゃん?


 ヒーもリリアも人見知りが激しい。顔を合わせてからかなり経つが、それでもヒーが本当にキリアに話しかけられるのかは疑問だった。そこでこれからは俺から少しでも距離を縮められるよう、キリアに声を掛けて行こうかと思った。

 そう思い、四時限目が始まる少し前にキリアが席に着くと、ちょっと声を掛けてみた。


「あ、あの……」

「ん?」

「あ、あのさ~……キ、キリア君ってさ、プラモデルとかやる?」

「は? プラモデル?」

「そう。プラモデル」

「なんだそれは?」


 知らねぇのかよ⁉ 


 結局この日、俺の勇敢な行為は空振りとなった。しかしキリアは意外と良い奴だったようで、『俺の事はキリアで良い』と言われ、少しだけ距離を縮めることに成功した。


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