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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
二章
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三年一組クラス会

「それではこれより、三年一組の会議を始めます」


 キャメロット聖法学院のある講義室。この日俺たちは、急遽授業内容が変わり、朝からこの国会議事堂みたいな半円形の椅子がずらっと並ぶ講義室に連れてこられた。

 っというのも、これは先日、クレアたちと仲直りするためにエリックに頼んだことが原因で、『一応先生にも協力してもらう』という事を俺たちが承認したことでこうなった。


「それでは、発案者であるエリックさん。経緯の詳細についてご説明下さい」

「はい」


 この学校では中規模の講義室だと言うが、会場は二百人は座れるんじゃないかというほど座席が多く、天井はまるでクラッシック会場のように独特の形をしている。さらに広い会場には不測の事態に備え多くの警備員が配置され、クレアの暴挙により負傷者が出ないように俺たち一人ひとりに警護者が付く。他にも書記官みたいな人まで付き物々しい。

 そして先生も何故かノリノリのようで、何故か裁判官みたいな黒い服を着てハンマーを持ち、堂々と一番目立つ席に座る。


 そんな会場で、クレアたちと仲直りという名目なのに、何故かクレア率いる国際チームと俺たち日本から来た日本チームに分かれ座り、まるで争うかのような構図で睨み合う。


 なんか違くない⁉ 確かにエリック『先生に協力してもらって皆で解決しよう』とか、『もしクレアが暴れたら大変だから、城に言って少し警備員付けてもらう』とか言ってたけど、これ全然違くねぇ⁉ ただの仲直りだから! なんでこんなに仰々しいの⁉ 


 エリックは俺にとってはもはや親友と呼んでも過言ではないほど信頼できる友だった。しかしエリックが超金持ちだったことはすっかり忘れていて、この事態に発展して初めてエリックに頼んだことを後悔していた。


 そんなエリック、一応国際チーム側にいるが、責任をもって仲介役を務めてくれるようで、本日に至る経緯を話し始めた。


「本日、このような形で皆様方にお集まり頂いたのは、先日ある方から、クレアさんとリーパーさんが言い争うという、非常に由々しきお話を頂いたことに始まります」

 

 書類まで作って来て、真剣に俺たちの仲直りに協力しようとするエリックは、なんか違った。それでもエリックなりに一生懸命考えて何とかしようとしてくれる姿に、やっぱなんか違うと思った。

 そしてこんな場でもきちんと椅子に座り、真面目に授業に参加するスクーピーは、それはそれでまた違った。


「私たち三年一組は、来るべき魔王の復活に備え、聖刻、加護印を発現させ、人類が魔王へ対抗するために、絶対的に必要不可欠な存在です。そしてそこへ至るには、私たち三年一組全員の力の集結が最も重要とされます。そんな中、まだ間もないとはいえ、未だに私たちが一つにまとまれていないという事は、非常に由々しき事態です。この先、私たちには多くの困難が待ち受け、さらには犠牲もやむを得ない事もあるでしょう。しかし! 今ここで私たちが一つの意思、一つの目的を持つ生命体とならなければ、そこへ至ることも叶いません。そこで、本日、アニー・ウォール先生の協力も得て、この場を設けさせて頂きました。どうか皆さま、来るべき魔王復活、人類の未来のために、お二人の、いえ! 私たちの志を一つにするためにご協力願いたいと思います」


 エリックの熱の入った演説に、会場にいる警備員や先生から拍手が上がる。そして何故かクレアやフィリアたちまで拍手しており、もう訳が分からなかった。


「ありがとうございますエリックさん。それでは皆様方、この議題に付きまして討論を開始して下さい」


 いや、して下さいって……これっていったい何なの?


 金持ちの世界では、ただの高校生の仲直りもここまで厳かに行われるのかと、ただただ驚くばかりだった。そしてアドラとパオラは既にリタイア状態なのに、まだ真剣な眼差しを向けるスクーピーには感服だった。


 それは金持ちの間では当たり前だったようで、フィリアが当然という感じで手を上げる。


「はい」

「どうぞフィリアさん」

「はい」


 一応俺たちはクラスでこんな感じじゃないが、こんな感じの事をするとはエリックから聞いており、一応言いたいことをメモにでも用意しておけとも言われていて準備はしていた。だがそれはちょっとという意味ではなかったようで、指名されたフィリアは、眼鏡を掛け、書類レベルの紙の束を持ち立ち上がった。


 おいおい⁉ これ裁判じゃないよね⁉ 俺スーツ着て来てないよ⁉ 何? この世界ではこれが普通なの⁉ クラスで問題ある度に本当にこんなこと毎回してるの!


「先ず、この度は私たちのためにこのような場を設けて頂いた先生、並びにご協力頂いた方々にお礼を申し上げたいと思います」


 そう言うとフィリアは、先生、書記官、警備してくれてる人たちに頭を軽く下げ、お礼を言った。


 国会⁉ なんかこんなの国会中継のニュースとかで見たことある!


 厳かに行われる儀式に、ただただ驚愕だった。


「この度、私たちは、クレア・シャルパンティエ様はじめ、各国からお集まりのクラスメイトに多大なご迷惑をお掛けしたことをお詫び申し上げます」


 ここでフィリア、書類を置き、少し深めに頭を下げた。それに合わせるようにジョニー、ヒー、も頭を下げ、慌ててリリアが頭を下げると、それ以上に慌てて俺も頭を下げた。


 もうなんなん⁉ これなら直接クレアに電話して謝った方が良かった!


 そんなことを思いながら頭を下げていてもこれは普通のようで、フィリアは普通に続ける。


「私たちは、去る〇月〇日に行われた、法皇様による願懸の儀にて不義理を働き、その場に居合わせた、クレア・シャルパンティエ様、並びにキリア・レオンハルト様に多大なご迷惑をお掛けし、さらにこちらの都合で帰国する事で三年一組の発足を引き延ばし、ほか、エリック・ポロヴェロージ様、スクーピー・ポロヴェロージ様、アドラ・メドゥエイーク様、パオラ・メドゥエイーク様にも大幅な予定の変更を余儀なくさせてしまいました。そして、教室を私どもの我儘で、皆様方に許可なく日本式に変更するなどの、勝手極まる愚行を働きました」


 とても堅苦しく、とても長々と俺たちが行ってきた非礼をフィリアは説明するが、あまりにも仰々しすぎて、もうどこかのお偉いさんが起こした不祥事のように感じ、それが本当に俺たちの事を言っているのか分からなくなってきた。しかしやはり俺たちの事を言っていたようで、フィリアがそこまで言うと突然ジョニーとヒーが立ち上がり、それにつられてリリアも立ち上がり、俺も慌てて立ち上がった。

 それを音で確認し、全員が立ち上がっているかを気配で感じ取ったのか、僅かな間の後フィリアが謝罪を口にした。


「この度は、大変申し訳ありませんでした」


 これには直ぐに反応できた。フィリアが『申し訳ありませんでした』と言うと、それとほぼ同時に頭を下げた。そして後は感覚をフル稼働させ、全員が頭を上げるタイミングを探り、それに合わせて頭を上げ、申し訳なさそうに座った。


 一体どれくらいだろう。三十秒? 四十秒? そのくらいは行ったんじゃないかというほど長々と頭を下げた。

 これには、俺的には全く謝罪の気持ちは籠っておらず、はたして本当にこれで良かったのかどうか分からないが、一応形式的な謝罪は済んだようで、フィリアは腰を下ろした。


「はい、ありがとうございました。では、これについて意見のある方は挙手をお願いします」


 どうやらこれで本当に良かったようで、先生は淡々と次へ進む。


 やべぇや。謝罪会見とかでよく見るけど、あれほとんど嘘だったんだ。だってこんな状態で本当に申し訳ありませんって思えないもん。もし本当に悪いと思ってるんなら、あんな長々と説明しないで速攻で土下座してるもん!


 ちょっとした社会勉強に、ちょっとだけこんな裁判みたいなクラス会に意味はあったなと思った。

 そんなことを思いながらこの後どうなるんだと次の展開を待っていると、これは予想していなかったのか、エリックとキリアが国会中継とかで良く見るコソコソ話を始め、それが終わると今度はキリアが横のクレアにコソコソ話は始めた。


 この時何の話をしているのかは分からなかったが、最後にクレアの『任せる』という言葉だけは口の動きで分かり、話がまとまったのかキリアが手を上げた。


「はい」

「はい、キリアさん。どうぞ」

「はい」


 もうだいぶ慣れたが、毎回手を上げて指名されてから話すという制度は、こういった場では混乱を避け、スムーズに議会を進める意味があるのだとは分かったが、今これはただのクラス会だと思うと、やっぱりどうなのかと思った。


「そちらの謝罪は有難く頂戴致します。ですが、私たちが聞きたいのはそこにはありません。皆様方のお気持ちは伝わりましたが、その謝罪に対してどのような贖罪を行うのか、それを明示して下さい」


 書類を見ないで話すキリアの言葉は、これがクレアたちが納得いっていない本音なのだと直ぐに分かった。

 これにすぐさまフィリアが反応する。


「はい」

「はい、フィリアさん」

「はい」


 これはフィリアには想定の範囲内の質問であったようで、眼鏡を直しながら書類を読むように答える。こいつは正にプロ。


「お答えします。その件に付きましては、私たち加害者側が自らに罰を科す場合、そこには忖度が生まれ、とても恣意的な物となってしまいます。これではとても罰とは呼べず、贖罪とは甚だかけ離れたものとなります。依って、私たちに科す罰は、三年一組の生徒自ら考え判断するに則り、被害を受けた国際チームにより決定して頂くのが妥当だと考えます」


 どんだけ物々しいクラス会なんだよ! これ裁判じゃないよね⁉ 


 フィリアが答弁を始めた途端、さっきまで国会のようだったクラス会が突然裁判に早変わりし、なんか途轍もなく嫌な感じがした。

 するとここが勝機だとでも感じ取ったのか、ここでいよいよクレアが手を上げた。


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