いつもの四人
「……っていう感じだった……」
クレアに説教を受けたその日の夜。俺はリリアたち四人を集めて、その日あった事を全て話した。
「なるほど……何とも言えませんね……」
クレアがぶちぎれた事を話すと、誰もが静まり返り、フィリアでさえどうしようもないと言う感じで声を漏らした。
「えぇ……確かに悪いのは私たちの方です。今からでも遅くは無いので、明日の朝一番で皆で謝りに行きましょうか?」
「う~ん……それもどうなんでしょうかヒーちゃん? リーパーの話を聞く限りでは、今私たちが謝りに行っても、逆に火を着けることになるんじゃないですか?」
「たしかに……」
ヒーも自分たちが悪い事を自覚しているようだが、俺の話を聞いてフィリアでさえビビるクレアに、言葉を濁した。
「一体どうすれば良いですかね~? このままでは私、一生クレアと仲良くできる気がしません……」
「そうだな……どうすれば良いんだ……」
人の負の感情は天敵のジョニーとリリアは、一層暗い顔をし、今にでも不登校になりそうな勢いだった。
「落ち着けよお前ら。言われたのは俺なんだし、別にお前らが気にする必要ねぇよ?」
「そういうわけにはいきませんよリーパー。確かにクレアが怒ったのは、リーパーが今日も部活をさぼったからかもしれませんが、それでも私たちが我儘を言ったことに怒っているのは事実なんですよ?」
「そうだ。俺たちも直ぐに謝らなかったのも悪い。確かに今日もリーパーが登山の授業をさぼったのが悪いのかもしれないが、それでも俺たちに落ち度があるのは間違いない」
何こいつら怒られたのは俺のせいみたいに言ってんだよ! 寧ろ俺が代表して怒られたんだから感謝しろよ!
クレアが超切れていたと言ったのが余計に悪かったようで、いつもならなんだかんだ言いながらも突破口を開くリリアが沈黙してしまい、俺たちは路頭に迷った。
「どうすれば良いんだよ……やっぱ俺たちが帰るのが一番良いのかな?」
特に魔王を倒して英雄に成りたいだとか、世界的に有名な名門校を卒業してステータスにしたいだとかは、俺にはなかった。強いて言えば何でも買って貰えるし、誰も俺たちに指図できないという優越感を失うというくらいで、日本に戻り、平凡な高校だが、気の知れた友達と居心地の良い地元で、楽しく人生を謳歌出来ることに比べれば、左程変わりなかった。
しかしフィリアたちは違ったようで、これに反対する。
「それは駄目ですよリーパー?」
「そうですよリーパー! 私たちはここへ来てまだ何も成してはいないんですよ!」
フィリアに賛同するように言うリリアは、俺が思っていた以上に真剣に英雄の子孫という立場を受け止めているようで、とても良い事を言う。
「そうだけど……でもよ、クレアがああなっちゃったんだし、悪いのは俺たちなんだぞ? 俺たちが去るのが普通だろ?」
「確かに悪いのは私たちです。しかし私たちがいなくなれば困るのもクレアたちなんですよ?」
「そうだけどよ……でも他の候補生もいるんだぞ? やる気の無い俺たちよりも、そっちの方に任せた方がよっぽど良いんじゃねぇの?」
聞いた話では、リリアの従妹たちも他に召集されており、場所は違うが俺たちと同じような訓練を受けているらしい。他にも、加護印が出そうな才能ありそうな人達を集めて選抜チームのような物を作っているらしく、俺たちの知らないところで色々とやっているらしい。何より、加護印を持つのはフィリアとジョニーだが、一軍はフィリアたちのおじさんやリリアのおばさんたちで、俺からしたら俺たちは二軍。
ちなみに、それでも俺たちが最も優遇されているのは、どうやら加護印が最も出やすいのは長男長女と最初に生まれた子供らしく、その中でも最も出やすい時期が、魔王復活の影響もあるらしいが、十代らしい。そのためウンチみたいな俺達でも周りからしてみれば最も聖刻を与えられる可能性が高く、成長性も考えれば一軍に見えるらしい。
「まぁ……それは……確かに……」
物凄いやる気を見せていたリリアだが、俺の一言で途端に口を濁した。というのも、リリアとヒーの従妹はかなりの魔術師のようで、あまり好意は抱いていないが勝てる気はしないらしい。それもそのはず、おばさんが家督を継がなかったからあっちは本家。
そんな分家のリリア。従妹の実力は認めている物の、それでも何か強い意志を持っているのか、諦めない。
「しかしやっぱり私たちが帰るのはダメです! 私はまだキャメロットを堪能していません!」
やっぱりか! こいつやっぱりやる気ねぇ!
「それにまだ扇子も届いてません! 今帰られたら私は困ります!」
「……そ、そうか……?」
「はい!」
自信満々に言うリリアには、全員が脱帽だった。しかし理由は違えどこのまま帰る事には賛成できないフィリアたちは、何か良い手は無いかと考える。
「まぁリリアの言う事も一理あります」
あんのかよ!
「それに私たちは一度逃げ出しています。にも関わらずまた同じような事をすれば、今度こそ許されないでしょう。そう簡単に帰ることはできないんですよリーパー?」
「う~……ん」
確かにフィリアの言う通り、あれだけの事をしておいて戻って来て、また同じ事をすれば許されないだろう。やはりクレアたちに謝り、何とか怒りを収めてもらうのが一番の解決策だと思った。
「だけどどうすれば良いんだよ? あんだけ切れてたんだぞ? どの道謝ったってぶちぎれられて終わりだぞ?」
「そうですけど……」
あの怒り方は尋常じゃなかった。クレアは元々短気のような性格に見えていたが、それでもあそこまで怒るのはただ事じゃない。あれはもはや怒り狂うとかいう次元じゃなくて、使徒を喰らうくらい暴れ狂う暴走モードに近かった。
フィリアもこれには完全に行き詰ってしまい、言葉が出てこなかった。そこへヒーが良い提案をする。
「では、エリックに仲介役を頼むというのはどうですか?」
「エリックに?」
「はい。エリックは、幼い頃からクレアたちとは付き合いがあると言っていました。それに、これだけ私たちと仲が悪い状態でも、エリックだけはあちら側にもこちら側にも自由に行き来しています。もしかしたらエリックなら協力してくれるかもしれません」
「確かに」
エリックは家の繋がりで、昔っからクレアたちを良く知っていると言っていた。それに普段は俺たちと居る事は多いが、たまにクレアたちと飯を食ったり、雑談する事もある。
このヒーの案には、突破口のような物を感じた。
「じゃあ俺ちょっとエリックに電話してみる」
「お願いします」
プラモデルの件もあり、エリックとは仲良くなり電話番号を交換していた。
“プップップッ……プルルルル……プルルルル……はい”
「あっ、エリック?」
“はい、どうしましたリーパーさん?”
「あのさ、実はさ……」
“ィアー!”
「ん? なんだ今の声?」
“あ、いえ……ィヤー! 今電話中ですスクーピー。タイムです」
おそらくエリックはスクーピーと遊んでいたようで、電話口から聞こえる可愛らしい叫び声に心が温まった。
“あ、申し訳ありませんリーパーさん。それで御用……ィアー”
サムライごっこでもしているのか、聞こえてくるスクーピーの声はとても元気があり、活発に叫ぶ掛け声は録音しておきたくなるほど可愛らしかった。
“ちょっとやめて下さいスクーピー。ィアー! この! ビシビシビシビシッ! キャハハハハッ! ちょっとお母様の所へ行ってなさいスクーピー! あ~い”
相当幸せな家庭のようで、エリックが反撃し、それを受けてスクーピーが楽しそうに笑う声は、見えなくとも素晴らしいと思った。
“あ、すみませんリーパーさん。それで御用件の方は如……なんでしょう?”
エリックは最近、言葉遣いを気にするようになった。これは特に俺たちがどうこう言ったわけではないのだが、どうやらエリックにも思う所があるようで、良いんだか悪いんだか知らないが心境の変化を起こしている。
「実はさ、今日クレアに会ってさ、結構凄い勢いで文句言われたんだよ」
“……文句……ですか?”
「うん」
一瞬間があり、エリックは何となく何があったのか想像できたようで、一気に声が暗くなった。
「それでさ、エリックってクレアたちと仲良いじゃん?」
“え……えぇ……”
頭の良いエリックは直ぐに俺が何を伝えたいのかを理解したようで、返事からもう無理だと分かる程覇気が無くなった。それでもここまで言った以上一応最後まで伝えなければならないと思い、ダメもとで言うだけ言う事にした。
「それで悪いんだけどさ、俺たちとクレアたちが仲直りするの手伝って欲しいんだよね?」
“仲直り……ですか……”
「うん」
俺たちが仲直りすること自体はエリックも賛成だろうが、クレアの短気さを知るエリックとしては、絶対に関わりたくない話なのだろう。答えを聞かずとも絶対無理なのが分かる程エリックの声は暗かった。
それでも一応礼儀として、念を押すことにした。
「なぁ? ダメかな?」
“う~……ん”
「…………」
“…………”
人の良いエリックはなかなか嫌だとは言えないようで返事がない。それは答え待ちのヒーたちでさえ駄目だと分かる辛気臭さがあり、これ以上友を困らせるわけにもいかず、こちらから断ることにした。
「悪いエリック。なんか困らせたみたいで。やっぱ俺たちで考えるからいいわ」
最悪だが、部屋にある電話を使えば内線でクレアに直接連絡出来ることを思い出し、そこで直接謝るしかないと諦めた。しかし流石は我が友。困った素振りを見せながらも快諾してくれる。
“ちょっと待って下さいリーパーさん。私は困ってはいませんよ? どうすれば上手くいくのか少し考えていただけです”
「えっ⁉ じゃあ協力してくれるの?」
“はい。私としても、リーパーさんたちとクレアさんたちが仲良くするのは賛成です。ただ、私も良い案を考えたいので、お時間を頂けませんでしょうか?”
「ほんとに! うん! それで良いよエリック! ありがとう!」
“いえ。では後日こちらからご連絡差し上げますので、今しばらくお待ちください」
「分かった! じゃあ連絡待つわ! ありがとうねエリック!」
“いえ。では後ほど”
「うん! じゃあね!」
“はい。おやすみなさいま……おやすみなさい”
「おやすみ!」
丁寧に、そして頼もしく告げると、エリックは電話を切った。
「おお! エリック良いって!」
「本当ですか!」
「あぁ! なんかちょっと良い案考えてくれるらしくってまた電話するって言ってたけど、エリックなら上手くやってくれるよ!」
「良かったですねリーパー。これで私たちも安心です」
「あぁ。よしっ! じゃあそれまでまだ時間あるしさ、折角だから皆でゲームしようぜ!」
「良いですね! じゃあストリートファイターをしましょう! 今日こそヒーを倒しますよ!」
「よしやろう!」
この日俺たちは、意外な展開に発展するとも知らず、エリックのお陰で難題が解決したと安堵し、夜遅くまでストⅡ大会に明け暮れた。
ストックが無くなりました。続きはある程度完成後投稿します。