卑怯者たちの戦い
「行くぞこの野郎!」
「来いっ!」
キリアとの一対一の戦いは、遂に全力のぶつかり合いへと変わった。アズ様の力を防ぐ銀の鎧を纏うキリアに対し、力を封じられたことで何もなくなった俺。
とても公平な勝負とは言えない構図だが、しかしそこには親友としてのプライドが激しくぶつかる。
先手を打ったのは勿論俺。キリアは盾で体を隠すほどの守りを見せており、当然の展開だった。
「喰らえっ!」
猪突猛進。真っ直ぐ行って盾を殴る。
放たれた拳は見事に盾にヒット。そして同時に俺の拳は砕かれる。
この攻撃に対しキリア。全く無傷。それどころか体勢さえ崩れない。ただ盾がちょっとゴンと鳴ったくらい。そしてさっきと同じく、攻撃を受けてから無言で俺の左足を突く。
「うわっ!」
足を刺された俺。さっきよりは痛みには驚かないが、さっきと同じように転がる。そしてさっきと同じようにキリアは追撃してくるわけでもなく見ているだけ。
「このヤロウ! もっかい行くぞ!」
「来いっ!」
「いてっ!」
再び猪突猛進。そして拳を砕かれ、足を突かれて転がる。キリアは勿論追撃して来ず。
「くそっ! もう一度だ! ……痛ぇ!」
キリアは本当にどうしようもない奴だ。こんだけ俺が打ち込んでも一切鎧や盾を外さないし、ずっと左足ばかり突いて来る。普通ならこれだけ差があれば手加減くらいするものなのに、そんな気遣いさえ一切見せない。
本当にキリアは駄目な奴だった。
「くそっ! お前ズルいぞ! こっちは素手で戦ってんのに盾とか鎧とか着やがって! お前恥ずかしくないのかっ!」
「この程度も攻略できない分際で良く言うな。今までどうやって生き残って来たんだ?」
あんな全身を鎧で包んだ奴には言われたくなかった。多分キリアは、攻略本通りに攻略すれば満足するタイプのようで、別にハマっているわけでもないゲームでも攻略本を買うダメな奴。それどころか漫画なんて絶対読んだことないタイプで、これだけ人が見てても確実に勝てる地味な戦法を崩さない。主人公失格だ!
こんな奴を親友だと思う俺は、やっぱり同じ穴のムジナ。俺も全然主人公なんて務まらないが、キリアはやっぱりクソ野郎だった。
「この野郎ぶっ飛ばしてやる!」
「何度やっても同じだ! かかって来い!」
何度やっても、何回やってもキリアは盾で守る。それもなんも学習しないのか全く同じ姿勢で待ち構える。そのくせ俺が何もできないと分かると勝ち誇ったような態度を取り、腹が立つ。
この時、俺の怒りはピークに達していた。その怒りが戦況を変える。
「死ねぇ!」
怒りの臨界点に達した俺は、先ほどと同じように大きく右拳を振りかぶり襲い掛かった。当然キリアも先ほどと同じように盾で構える。だが今回はマジで怒りが限界突破し、盾に対し肩からキリアをぶっ飛ばすつもりでタックルをかました。
このタックルはキリアも予想外だったようで、見えない位置でまたパンチが来ると思っていたキリアは、大きく体勢を崩した。
それでも怒りが治まらない俺は、そのままキリアにタックルをかまし、見事にテイクダウンを取った。
そうなるともう怒りが爆発した。
キリアに馬乗りになるとヘルメットをぐっとずらし視界を塞ぎ、そこからヘルメットを目掛け両手によるオラオララッシュを炸裂させた。
「うおおおぉぉぉー!」
カンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッ!
物凄いラッシュ。骨が折れようが血が噴き出そうが俺の怒りのラッシュは止まらない。それもヘルメットの上からでは全然ダメージを与えられない事でさらに火を噴き、騒音による攻撃、百八煩悩ラッシュが完成した。
この必殺技には流石のキリアも大いに苦しんだようで、最後は剣を捨てて力任せに体を捻り逃れる。そして直ぐにヘルメットを直す姿には焦りと怒りが溢れ、戦いは一気に激闘へと様相を呈し始めた。
「随分とふざけた真似をするな。これは遊びじゃないんだぞ」
百八煩悩ラッシュには相当頭に来たのか、キリアは声を荒げず、沸々と煮え滾るように静かに言う。
「遊び? お前には今のが遊びに見えたのか?」
「子供のような事をしやがって。次は確実にお前の心臓を貫く。いくらお前が不死の力を持っていても、心臓を貫けば大きなダメージは回避できないだろう?」
そう言いキリアは、また銀の剣を作り出した。
やはりキリアは優秀。俺がいくらアズ様の力で回復できても、銀での攻撃はダメージが蓄積される。実際体の傷は癒えていても、傷を負うごとに心なのか魂なのかは分からないが、重さやだるさに似た疲労が蓄積されている。
これが本当に銀による物ならば、急所への大きな傷を負い続ければ最悪死ぬことだってあるだろう。
力を通さないだけではなく、きちんとアズ様の力に対しての弱点として勉強してきたキリアは、どこまで行っても優等生だった。
だけどこちらもただ無駄に攻撃しているわけじゃなかった。
「もう勝った気でいるのか?」
「何だと?」
「いい加減その鎧取れよ。じゃないと負けるぞお前」
これは計算したわけじゃない。ただ単にぶちぎれてキリアのヘルメットをタコ殴りにしたお陰で見つけた秘策。
そうとも知らないキリアは、また俺が負け惜しみを言っていると勘違いしていた。
「だったらやってみろ。俺にはお前にそんなことが出来るとは思えない。さっさと拳の傷を癒せ」
「そうかよ」
本当にキリアは優等生。百八煩悩ラッシュで血みどろになった俺の拳を見ても何も気付かないようで、また平然と同じ構えを取る。
「ったく、いい加減気付けよ。俺の手がこんだけ血まみれなんだぞ? お前が着てる鎧にべったり付くくらいに」
「だったらなんだ。例えお前の血に聖刻が込められていても、この鎧は絶対にアズ神様の力を通さない」
「あぁ、そうだ。だけどよ、その血を経由してお前の鎧の中に入ることは可能だ。オメェのヘルメット、こっち見んのに隙間あんだろ?」
「⁉」
ヘルメットをズラした時、一瞬だがキリアと目が合った。それは視界を確保するためにどうしても開けないといけない穴という存在を教えた。特にヘルメットは百八煩悩ラッシュで俺の血がべっとり付いており、下手をすれば数敵は中に入り込んだ。
銀自体はアズ様の力を通さないが、俺の血を経由すれば通れる。それこそ俺の血ならそこを駅として力を集約する事も可能で、その状態なら直接とまでは言えないが、かなり強い力を保持できる。
俺の言葉に、キリアは大きな動揺を見せた。その隙をついて、キリアの鎧に付いた俺の血へ一気に力を送り込んだ。
送り込んだ力は、案の定鎧の中にまで入り込んでいた俺の血まで届き、簡単にキリアの体にまで侵入した。しかしやはり神と天使であっても聖刻者相手には容易には体の支配は奪えず、力の押し合いが始まる。
「諦めろっ! キリアー! お前の負けだー!」
「舐めるな! この程度で負けるか―!」
かなりの押競饅頭。お互い息を止めて押し込み合う。
「うおおおぉぉぉー!」
「このやろうー!」
例えるのなら、キリアという城の城門で、多くの俺と多くのキリアが『入れろ!』『出てけ!』で押し合いをしているような状態。そう例えるとまるで歴史的な大きな戦いだが、実際はさっきの百八煩悩ラッシュよりも幼稚な、子供の喧嘩だった。
そんでも俺たちは本気。キリアん家にはどんだけエロ本を隠しているんだか知らないが、一歩も俺を入れたくないようで格下聖刻の癖にやたら必死。下手をすれば押し返されかねない勢い。
だけど所詮は格下。俺が距離を縮めれば縮めるほど力は増し、徐々に押し返す。それは近づけば近づくほど大きくなり、直接触れれば勝ちは貰ったも同然だった。
だが流石はエロ師匠。余程知られたくない物でも隠しているようで、後三メートルという所まで近づくと突然銀の鎧を解き、両手を俺に向けまさかの魔法攻撃をして来た。
「喰らえっ!」
「お前ずるいぞぉぉぉー!」
放たれた魔法は、水魔法。だけど決してカッコい物ではなく、余程必死だったのか消防車の放水みたいなぶっ飛ばすだけの魔法。
それでもこのパワー! 胸にヒットするとまるで鉄の棒で突かれたかのような衝撃を受け、軽く二、三メートルはぶっ飛ばされ、挙句は寝そべったまま押された。
なんたる卑怯者。普通ああいう場合、根性で肉弾攻撃をするのが戦いというもの。なのにキリアは、わざわざ詠唱してまで魔法攻撃をして来た。それもウリエル様の聖刻の力まで使って。
そのうえ何とか危機を脱した後に、“どうだ”みたいな素振り。
キリアのこういう、追い詰められた時にまで見せる潔癖みたいな性格は、本当に駄目だった。
「くそっ! お前本当にズルいぞ! そういうとこだぞお前の悪い所!」
「戦いにズルいもクソも無い。お前が聖刻を使ったから俺も使ったまでだ」
「な~にが聖刻だ! びちょびちょにしやがって!」
放水攻撃だけならまだしも、びっちょびっちょのおまけ付き。俺は傷は治せても、濡れた体は乾かせない。この後は全身びちょびちょで戦わなければならなかった。
それだけならまだしも、ここでキリアは聖刻での戦いでは勝てないと分かったようで、また勝手な事を言い出す。
「これでもう下らない遊びは懲りただろう? ここからは聖刻も武器も鎧も、全て無しの素手で戦ってやる。それならもうお前は、ズルい、卑怯などと言わないだろう?」
マ~ジでキリアは卑怯だ。正直身長では俺の方が五ミリほど勝っている。だが、体重も身体能力も筋力も動体視力も、運動に関する能力は全てキリアが勝っている。
それをさも俺が負け惜しみばかり言うから素手で戦ってやるみたいな感じで言いやがって、こいつは今までズルい事ばっかり練習していたのかとさえ思ってしまった。
こんな奴は……
「上等だよっ! ぶん殴ってやるっ!」
ぶん殴ってやらなけりゃ気が済まなかった。
「分かっていると思うが、傷を治せば聖刻を使ったと見做すぞ」
「使わねぇよっ!」
どんだけアズ様の聖刻が怖いのか、まさかの念押し。大体傷が直ぐ治れば聖刻以外あり得なく、それを見做すとほざく様には小者感しかなく、情けなかった。
「さっさとかかって来いやっ!」
「言われなくとも直ぐに楽にしてやる」
そう言うとキリアは、一丁前にボクシングのアップライトのような構えを取った。だけどキリアは剣術ばかりやっていて護身術程度にしか身に付けていないようで形だけ。
俺が一体今までどれほどの達人の御指南を受けてきたのか、奴は知らない。奴には身の程を……
「うおおおぉぉぉ! ぶっ殺してやるっ! 死ねぇぇぇ!」
こうして素手での第二ラウンドが始まった。
最近、某小説投稿サイトでは、AI作品の大量投稿が問題になっているようです。これによりサーバーに負荷が掛かるという理由らしいです。
AIというのは最早人間と同等の創作が可能のようです。それも人間よりも速く書けるという凄さもあります。さらに言えば、AIは膨大な情報から小説の良し悪しの判断も出来るようで、もう小説は人間では勝つことは難しいのではと思います。
しかしながら、私自身の作品を読んでみると、AIは私と同じような作品は描けないと言い切れます。何故なら、作者自身も訳が分からないからです。
将来、AIが小説家と呼ばれる時代が来た時、逆に私が書くような小説が評価されるような事があるならば、多分その時は文明の終わりです。




