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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
184/186

 ルーベルトを仲間にするために始まったマフィア編。それはなんか色々あって大変だったけど、なんとか目処が立った。だが、そこへアレックスの組織が絡んだことでまた面倒臭い事になり、なんか父さんとか出て来て、キリア達と戦う事になった。それでもここを乗り越えれば無事マフィア問題も解決し、やっとマフィア編も終わるはず。

 ルーベルト一人に何日無駄にしたのかは分からないが、とにかくなんか最終局面へと突入していた。


 父さんが提示してきた、一対一の団体戦。先に二勝すれば俺たちの勝ちが確定する変則ルール。その第一試合は、俺VSキリアの対戦だった。


「まさかこんな所でキリアと戦うなんてな。不思議なもんだぜ」

「そうでもないさ。俺はいずれお前とは戦う運命だとは思っていた」

「運命ね。まぁいいや、さっさと始めよう」


 キリアとは、女子のパンツから始まり、深い友情を築いてきた関係。ある時は二人っきりで、またある時はウィラとエヴァたち四人でエロを語り合った。その中でもキリアは一番の親友、いや、それを超えた同志。

 その二人が今正に聖刻に関係なくぶつかり合うのは、漫画だとかだと、正に宿命のライバルの激突だった。


 それをキリアは運命を感じていたと言った。それは……悟空、ベジータ。ナルト、サスケ。ケンシロウ、ラオウ。ドモン、東方不敗。様々な名作漫画を愚弄している、真の愚の骨頂で、出来れば誰の記憶にも残らないで欲しい争いだった。


 そんでも今この場においては、俺とキリアは主人公。目くそ鼻くその背比べだが、闘いの火蓋が切られた。


「それでは第一ゲーム、始め!」


 いつの間にか審判に任命されていた能面女は、意外と大きな声が出せるようで、なんか勝手に試合開始を告げる。

 それと同時にキリアはウリエル様の聖刻を発動し、いきなり盾と剣まで装備した、フルアーマーを全身に纏った。


「おいおい。随分と卑怯じゃねぇか」


 鏡のように輝く白銀色の剣と盾と鎧。それも顔まで完全に隠れる完全武装。一対一の戦いで、キリアのこういう空気を読めない思考には相変わらずだと落胆した。


「これは戦いだ。勝つために最善を尽くすのは当然だ。負けた後に言い訳をする事こそが卑怯というものだ」

「なんだ? それはまるで俺が負けたら言い訳するって言いたいのか?」

「お前が生きていたのならの話だ」

「フゥ~……上等だよ」


 本当にキリアは良く分からない。キリアは元々周りの空気に惑わされやすい性格だとは思っていたが、まさか自分から皇太子さまたちの味方になって、悪役を気取っている。

 キリアはキリアなりに何か共感するところがあって皇太子さまの組織に入ったのだろうが、悪なのだと分かっているのなら何故加入したのだろう?

 

 あの頃は、“あ~こいつは正義漢に憧れがあるのだろう”と思っていただけに、意味が分からなかった。


 まぁそれでも、こうなってしまってはキリアは止まらない事を知っているだけに、こちらもある程度本気で相手をするしかなかった。

 そこで俺も、魂で日本刀ほどの長さのただの棒を作った。


「それがお前の武器か?」

「そうだよ。本当は素手で殴り合いたかったけど、オメェが鎧着るから出すしかねぇべよ」

「そうじゃない。お前は大きな鎌を使うと聞いていただけだ」


 この言葉には、眉を顰めた。

 俺が死神の鎌を使ったのは、フルとの戦いだけだったはず。それも孤立した船の上で。それをキリアが知っていたというのは、間違いなくあの場にいた誰かが情報を流していた。

 

「それ、誰に聞いたんだよ?」

「……さぁな」


 やっぱりキリアは全然成長していない。普通に失言で俺に情報を流し、それを突かれると一瞬だが、鎧を着ていても“あっ! やべぇっ!”みたいなリアクションを見せた。


 一体何が彼をそうさせたのかは知らないが、いつまで経ってもサスケ君劣化版であることは否めなかった。


 大体鎧を纏う事で俺に余計にアズ様の力を使わせ、自ら不利になる方を選ぶとは、流石のクオリティーだった。


「っていうか、お前本当にそれで良いのか?」

「何がだ?」

「別にサービスってわけじゃないけど、アズ様の力で造った武器って、物理的なもんは全部すり抜けるんだぞ? オメェがどんなに鎧着たって意味ねぇから」


 キリアは結構勉強は出来た。それこそ三年一組では、テストで一位こそ無いがトップスリーに入ることもあるくらい成績が良かった。

 それなのに、まさかアズ様の力に付いて全く勉強していないとは、これもまぁ、相変わらずだった。


 そんなキリアへの親友としての忠告だったのだが、もう彼は完全に悪役気取りのようで、全く聞く耳を持たない。


「試してみろ。世の中全て、お前の思い通りになると思うなよ」

「はいはい。とにかくかかって来い」


 超強気。だけど全身鎧。言っている事とやっている事の矛盾は、小者感満載だった。


 そこでただ殴るだけの棒だけに、全力でぶっ叩いても死にはしないだろうと思い、とにかく一撃だけ全力で相手をすることにした。


 俺が構えると、キリアは盾を前に出し、全身鎧の癖にさらに守りを固めて近づいてきた。それも地味にすり足でゆっくり。


 キリア君は、俺から見ても清潔感があり、知的で、お金持ちで、スポーツも出来て、イケメンで、純粋で、基本優しく、カリスマ性もある。

 おそらく学友程度であれば、彼の事を漫画とかで見る超エリートの王子様というイメージにぴったりだ。

 しかしそんな人間など存在しない。深い仲になればなるほど真実が見える。


 基本キリアは前述の通りだが、実は勉強はできるが地頭はそれほど良くなく、様々な運動には秀でるが実はただ身体能力が高いだけで、実はお洒落についてもブランドは知っていてもそれほど詳しくは無い。特に雑学にはめっぽう弱く、どんなに説明してもプラモデルも良く分かっていない。

 その上実はエロく。パンティどころかブラジャーという単語でも喜ぶ。だけど絶対エロ本は買えない小心者。正義漢ぶって人に注意するが間違っていたり、注意しといて自分でできてなかったり、欠点だらけ。

 だけど真面目で、下らない事でも真剣に考え、熱心にしてくれて、俺を気遣ってつまらない遊びにも付き合ってくれる良い奴。特に気に入らないのが、主人公になれるスペックを有しているのに、いくら注意しても自分を貫くところ。

 まぁ結局、向こうは勝手に絶縁だと思っていても、奴は間違いなく俺にとっての親友だという事。


 だからこそ、何だかんだ言っても俺としてはこの戦いは待ち望んでいたところもあり、それなりに本気だった。


 全身鎧なのに、さらに盾で体を隠すように守りながら近づいてくるキリアは、右手にはきちんと剣を構えており、地味でも戦術としては完璧。これではどう打ち込んでも盾で防御され、剣で突かれる。

 そのうえジュニア世界三位の実力者。聖刻無しでも俺よりは強い。


 だがしかし、こちらには物理防御不可能な魂の棒がある。


 ここは先手必勝で間違いなかった。


「行くぞキリア!」


 本来なら、多分掛け声とかは必要無い。だけど俺はこういった戦いはしたことが無いため、用意スタートの掛け声代わりに声が出た。


「うおりゃっ!」


 キリアは盾で体を隠しているせいで、態勢は完全に後手。そして盾を構えている以上絶対盾で防御してくる。

 こんな分かりやすいキリアなら、迷うことなく大振りの一手しかない。そうすれば俺の攻撃は盾も鎧もすり抜け、勝負が決まる。


 完全に見えた勝利へのロード。親友だからこそ全てをぶつけても問題ないと、ピッチャーのように振りかぶり思い切り魂の棒を振り抜いた。すると……


「えっ!」


 振り抜いた棒が盾に当たると、不思議な事に“カンッ!”みたいな金属音が響き、何故か棒が弾かれた。

 そこへ空かさずキリアの反撃。


「えっ⁉ ぬわぁっ!」


 超びっくり。アズ様の力で造った魂の棒が弾かれた事も、親友が迷うことなく俺の左太ももを突き刺した事も、刺したら刺したで追撃してこない事も、全てが超驚きだった。


「おわぁっ! いてぇ! 何すんだよっ!」


 俺は痛みのコントロールができる。しかしまさか親友が本気で足を刺してくるとは思ってはおらず、油断から来た痛みは久しぶりに超痛かった。


「お前が不死なことは知っている。いい加減真面目にやれ」


 キリアは余程俺の事が好きなのか、今までの俺の行動は全て調べている。一体どこまで知っているのかは知らないが、気持ち悪かった。


「真面目にやれって言っておいて、自分は全身鎧かよ? お前本当に卑怯って言葉知ってんのか?」

「お前は相変わらず劣等生か」

「なんだと?」


 結局キリアはどこまで行っても成績が全てだと勘違いしているエリート。だけどやっぱり良い奴なのか馬鹿なのか、なんでか知らんがいきなりネタばらしをする。


「こいつはただの鎧じゃない。全て銀でできている」

「銀?」

「銀はこの世で唯一魂の干渉を受けない鉱石だ」

「えっ⁉ そうなのっ⁉」


 これには超びっくりだった。俺は今まで魂は魂でしか干渉できないものだとずっと思っていた。だからこそアズ様の力は神の力だとカスケードたちに威張っていられた。それが突然、銀が弱点だったなんて教えられたら、もう俺のアイデンティティは崩壊したも同然だった。


「やはり知らなかったようだな。お前が書物など読まない事など分かっていたが、まさか仲間もそれを知らなかったとは、お前らしいチームだ」


 その言葉を聞いて、思わずカスケードたちの方を見てしまった。すると、カスケードは絶対知っていたようで、速攻で目を反らした。


「これで分かっただろう? お前は俺には勝てない。いい加減ふざけるのも止めて、さっさと死に物狂いで掛かって来い」


 どうやらキリアは、俺に勝ちたいわけではなく、俺に負けを認めさせたいだけのようだ。


 俺とキリアは、互いが持たない性質を持っていたからこそ親友になれた。それは憧れでもあり、助け合いにも似た関係で、言ってみれば俺たち二人は光と影。表裏一体。

 しかしそんな光と影でも、人間社会という枠組みの中に入れば、どうしてもどちらかが持つ能力の方が有利になる。

 キリアは勉強、スポーツ、容姿という、目で見てすぐ分かる要素に優れていたが、友達、家族、コミュニケーション能力は俺の方の要素だった。


 そういった能力は、共存しなければいけない人間にとっては絶大な力を持ち、気付けば俺とキリアとの間には大きな差が生まれていた。


 肩を並べて歩いているように見えても、いつの間にか地に映る影はキリアが一歩後ろにいた。それをキリアが心の奥底では遅れとして感じている事は気付いていた。特に好きなヒーが俺の事を兄と慕っているというのは、キリアにとっては大きな壁となっていたのも気付いていた。


 エリックが大人に成長するために壁を越えたように、キリアにとっては俺を超える事が成長に必要なのだろう。恐らくそれはキリア自身も気付いているはず。


 キリアが何故俺との戦いを望んでいたのか、親友だからこそ『俺には勝てない』という僅かな言葉で心の内まで分かった。

 

「いいぜ。相手になってやるよ」


 分かってしまったからこそ、親友だからこそ全力で応える。俺はそう思っていたからこそ、そう感じていたからこそ、ここからは本気の戦いだった。


 俺が応えると、その想いは伝わったようで、キリアはただ黙って静かに構えた。しかし先ほどよりも深く構えた。


 その姿勢からはキリアの本気が伝わり、戦いは死合へと変わっていった。



 正確には、銀と呼ばれる物が魂を跳ね返します。そのため、昔は水銀が使用されていた鏡も弱点でした。

 ちなみに、金は魂は乗り移りやすいですが、より悪意のある魂が宿りやすいです。そして銅は、落ち着かないため魂が嫌います。ただ、酸化によって緑色になると嫌悪感はなくなります。ですが宿るとやっぱり落ち着かないために直ぐ離れます。

 そういう設定です。

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