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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
180/186

悪巧み

「さぁ遠慮しないでもっと食って。姉さんの料理美味いだろ? これは全部苦労への感謝なんだから」

「い、いやもういい……こ、これ以上は本当に勘弁してくれ……」

「なぁに言ってんだよ。子供たちを助けてくれた俺たちの感謝の気持ちはまだまだこんなもんじゃないよ。この後ケーキだってあるし、他にも欲しい物あったら何でも言ってくれ。なんだって用意する」

「もう帰らせてくれ……」


 苦労へのお礼のために始まったパーティーは、子供たちからの感謝、俺たちからの感謝から始まり、何でも良いから価値のありそうな物、子供たちの宝物の押し付け、子供たちの歌へと続き、カンパネラ姉さん、ジェーン姉さんの手料理へと大盛り上がりを見せていた。


 この間ルーベルトもカンパネラ姉さんも全てを忘れ、敵味方関係なく笑みを零すほど大盛況を収めていた。

 特に主役苦労への感謝は猛烈を極め、この時の俺たちは気付いてはいなかったが、その所業は正に悪魔の如し勢いだった。


「いや~本当に苦労に出会えて良かったよ。最初は色々あったけどさ、本当にありがとうな。これはほんの僅かながらの俺の気持ちだ。これも受け取ってくれ」

「も、もう何もいらん……だから帰らせてくれ……」

「そう言うなよ。コレ、一応凄い腕時計でさ、あのアルカナが常に位置を把握しているくらい凄い時計なんだよ」

「そ、それはお前が監視されてるための物だろ……俺は要らん」

「そう言ってもさ、もうこれくらいしか渡せるもの無いし……あっそうだ! じゃあこれ。今拾った石になんか色々魂込めたからさ、これ貰ってくれ。多分苦労ならここからエネルギー取り出せるだろ? それ使えば傷とか治せるから」

「そんな気色悪い物はいらん!」


 楽しそうな笑みを零す子供たち、姉さんたちを見ていると、止めどなく溢れ出る苦労への感謝は尽きる事が無かった。それはもう今履いているパンツくらいしか献上出来る物が無い程で、まるで神様が隣に座っているかのような気持ちだった。


 そんな夢の中にいるような時間は、昼をちょっと過ぎた頃に終わる。


「さて、そろそろお開きにしよう。これ以上クロウの時間を奪うのは無礼になる」

『ええ~!』

「お前たちには仕事があるだろう? 折角クロウに助けてもらった命だ。クロウはお前たちを堕落させるために助けたわけじゃないんだぞ。分かったのなら最後にもう一度きちんとお礼を言うんだ」

『は~い! ありがとうございました!』


 苦労への感謝はこんなパーティー程度では全く足りない。しかし感謝だけしていても、姉さんの言う通りクロウに助けてもらった命が無駄になる。

 感謝とは相手へ尽くす事ではなく、その命を以て助けて良かったと苦労が思えるように生き様として語る事。


 まだまだ苦労への感謝は尽きないが、やはりこれ以上大切な時間を無駄にするべきではなかった。


「済まない苦労。今出来る御礼はここまでだ」

「い、いや……構わない。だから……早く解放してくれ……」


 なんという事だ。全然感謝は足りないのに、それでも苦労は子供たちを自由にさせてやれと神のような事を言う。

 彼は本当に素晴らしい、正に聖者だった。


 まぁそれよりも、もう苦労の腹はパンパンだし、なんか色々プレゼントされ過ぎてゴミの山にいるみたいだし、結局超迷惑だったのは心の底では分かっていたから、もう止めないと本当に俺たちは無礼者になる。

 感謝というのはとても難しいものだった。


 ――それから一時間後。


 子供たちと共に片付けをして、子供たちは自分のやる事に戻ってから、しばらく腹パンパンで動けなくなった苦労が動けるようになると、さっきの楽しい空気は一転して、重々しい空気の中いよいよ本題に入った。


「では、そちらの条件を聞かせてもらおう」


 孤児院から少し離れた野原。そこにカポン、サルーテのマフィアチームと、姉さんと人質の黒い紋章を持つ四名の陣営に分かれての対峙。そしてそこに、どっちに付いたら良いのか分からない俺と、ゲストの苦労が見守る。

 

 口火を切ったのは姉さん。それに対して代表してカスケードが応える。


「条件は一つ。カポンの聖刻者である俺。サルーテの聖刻者であるルーベルト。そして、ブラービの聖刻者であるカンパネラ。この三者は今後マフィアへは一切干渉しない。それだけだ」

「え……?」


 てっきり俺は、ルーベルトと戦えと言うと思っていた。っというか最初からそういう話だったし、そう思って俺は動いていた。だから今の今までかなり悩んでいた。なのにカスケードから出た言葉は全然違っていて、今日海に遊びに行くって言っていたのに、いきなり家で勉強会するって言われたくらい唖然とした。


 そんな風に唖然としているから、どんどん話が進む。


「その条件は呑めない。確かに私たち聖刻者が干渉を止めればバランスは整う。だが、カポンにはアレックスの組織が付いている。仮に私たちが去っても同じことだ」


 姉さんの言う通り。現在マフィア間は、聖刻者がいるから争いが酷くなっている。しかしだからと言ってその聖刻者がいなくなっても、カポンはいくらでも聖刻者の補充が可能。

 カスケードたちの答えは争いたくないという事だけは分かるが、それでは自分たちの都合だけを考えたその場しのぎにしかならなかった。


 ただ、やはりカスケードはそこまで馬鹿ではなかったようで、きちんと次なる一手を持っていた。


「ではこうしよう。カポン、サルーテ、ブラービで同盟を組もう」

「同盟だと?」

「カポン、サルーテは今同盟状態にある。ならそこにブラービも加われば良いだけの話だ。そうすれば話し合いが使えるだろう?」


 なかなか良い案。しかしやはりその案にも穴があった。


「それはカポン、サルーテのボスが認めた話なのか?」

「いや」

「ならば無理だ。私たちは所詮構成員だ。いくら聖刻を持とうが、ファミリーはボスのものだ」

「話くらいは通せるだろう? 構成員と言っても、俺たち聖刻者はファミリーにとって大きな力を持つ。あんたなら多少強引でも話を付けられるだろう?」

「ボスが納得しても、全ての幹部が納得するわけじゃない。そんな事をすれば歯止めが利かなくなって、増々荒れるぞ」


 姉さんの言う通り。各ファミリー、数えきれないくらいの構成員を持つ。それこそこの地域だけじゃないくらい広大に。

 そんな組織が今まで争っていたのに、いきなり仲良くするのは無理なのは考えなくても分かる。

 

 カスケードたちが何を思っていきなり作戦を変更したのかは分からない。だけどそこには間違いなく思いやりや優しさが込められていて応援したいが、無理なものはやっぱり無理だった。


 それでもカスケードは諦めない。


「ならこれならどうだ。三つのマフィアを一つのマフィアにする。これなら全ての問題は解決する」

「そんな事が出来るのならこんな事にはなっていない。昨日今日始まった事ではないんだぞ」


 もう無茶苦茶。何とかしようと頑張って考えたようだけど、煮詰まり過ぎてリリアが考えそうな話になっている。

 これでは全く交渉になっていなかった。


「出来るさ」

「何だと?」

「俺のボスは大将だ。そしてルーベルトのボスも大将だ。後はあんたが大将をボスと認めれば良いだけの話だ」

「何を言っている?」

「あんたが勿論MAXっと呼んでいた男。その男をあんたがボスだと認めれば良いだけの話だ」


 もう訳が分からなかった。それでは家のチームに姉さんが来るだけで、結局何の解決にもなっていない。

 やっぱり知能が無い奴が三人集まろうが四人集まろうが、文殊の知恵なんて物にはならなかった。


 そう思っていたのだが、何か知らんが姉さんは突然口に手を当て何かを考え始めた。


「……なるほどな。だが、戦争になるぞ」

「戦争? 紛争の間違いだろ。こう見えても俺は色々やっていてな、そういう事には詳しいんだ」

「傭兵上がりか」

「上がっちゃいない。俺は出来が悪いからな、失業中だ」

「フッ。随分と面白い話だな。いいだろう、手を組んでやる。だがこの問題が解決するまでの一時だけだ」


 えっ⁉ 


 超驚きの展開。なんか知らんが姉さんはマフィアを一つにするという提案を呑んだ。それこそがっちり握手するくらいで、文字通り手を組んだ。

 

 このよう分からん状況は何が何だか分からず、本当に訳が分からなかった。だが本当に姉さんはカスケードたちとマフィアを一つにするつもりらしく、良く分からんが全て丸く収まったようで、とにかくなんかハッピーエンドで終わりそうだった。がっ! やっぱりそんな簡単な話じゃなかったようで、この同盟のせいでマフィア編はとんでもない事態へと進展していく。


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