襲来
週末の土曜日。この日俺は、学校が休みという事もあり、朝から届いたばかりのゲームをして過ごしていた。
よし! いいぞ!
俺が今やっているのは、ドラゴンズアースという神ゲー。プレイヤーは小さな村人に指示をする事しかできないが、その村人たちに指示を出し、時折現れるドラゴンを倒すというスーパーファミコンのシュミレーションゲーム。なんと驚く事にこのゲーム、俺たちが生まれる遥か昔に作られたという、正にゴッドゲーム。
このゲームは、リリアのおばさんが言っていた『名作ゲームはスーファミにあり』という格言に基づき探し当てたゲームで、その格言に違わぬ面白さに、既に夢中だった。
ちなみに、一緒に頼んでいたスーファミのポピュラスだが、どうやらここの人たちは英雄の子孫様に中古など畏れ多いとでも思っていたのか、無いと言っていたはずなのにまさか一緒に新品を届けてくれた。これには俺も箱を開けたとき思わず歓喜してしまい、朝からテンションマックスだった。だが逆に新品だったせいでなかなか開ける事が出来ず、先ずはドラゴンズアースから良い休日を開始していた。
そんな感じで休日を過ごしていると、昼を迎える少し前に部屋のインターホンが鳴った。
“チャチャチャチャ~、チャ~ン!”
「ん?」
ちょっと高級そうなインターホンはまるでスマホの着信音のようで、同時にこの音は荷物が届く音でもあり、軽やかな足取りでカメラの元へ向かった。しかしカメラを見るとそこにはまさかのクレアがおり、物凄い嫌な感じがした。そこへ二度目のチャイムが鳴る。
“チャチャチャチャ~、チャ~ン!”
出るか出ないか超迷った。というのも、今日は一応休みだが、なんか聖刻をもらうためにはエベレスト登山が必要らしく、それに備えて土曜日は部活のような感じで授業が行われていた。だがこれは強制的な物ではなく、先生曰く“出れる人は出て“程度の物で、当然俺は一回も出たことは無かった。
それに未だにクレアたちとはまともに会話もしたことが無く、部活が終わったであろう時間に一人で俺の部屋を訪ねてくる辺りに、絶対不満をぶつけてくると思ったからだった。
それでもカメラ越しに見るクレアは怒っているようにも見えず、出ないとまた後で面倒なことになると思い、とにかく出た。
「はい」
「リーパー・アルバインさんですか?」
「はい」
「クレア・シャルパンティエです」
クレアはとても丁寧な言葉を使い、表情は明るくないがとても落ち着いていた。
「はい」
「お話があります。少しお時間を頂けないでしょうか?」
まさか告白! という感じは全くないが、何か相談がありそうな感じに、とりあえず話を聞いてみることにした。
「はい、分かりました。でも着替えたいので、少し待っててもらえませんか?」
「分かりました。私は迎賓館のラウンジにいますので、準備が出来たらそこへいらして下さい」
「分かりました」
そう言うとクレアはカメラの前から姿を消した。
これにはどうすべきかと考えた。もしかしたらクレアは、クラスで俺たちと仲良くなりたい事を相談しに来たのかもしれない。か、部活に一度も参加しない俺をぶん殴りに来たのかもしれないのどちらかだと思ったからだ。
もし前者であれば問題はなく、寧ろそれなりに可愛いクレアとお近づきになれる。だがもし後者であれば、直ぐにでもいつもの四人を招集しなければならない。
それでも感情が良く顔に出るクレアは怒っているような様子もなく、一人でここへ来たことを考えると、俺も一人で行くのが礼儀だと思い、一応制服を着てクレアの待つラウンジへと向かった――
部屋を出て、長い廊下を学校の方へ進むと、大きなステンドグラスがある広い空間に出る。ここは俺たちの部屋やそのほかの偉い人たちが泊まる施設のロビーのようなところで、俺たちはここを抜けて毎朝登校する。そして迎賓館と呼ばれるだけあって超豪華で、ただで飲み食いできる店やバーみたいなところが一杯あった。
もちろん俺たちも、学校帰りに良くここでケーキやアイスを食べて寄り道しているほどで、クレアを探すのには苦労しなかった。っというか、なんか執事みたいな人がいて、『こちらでお嬢様がお待ちです』って案内されたから、ほぼ一直線でクレアの元にたどり着いた。
「お嬢様。リーパー・アルバイン様がご到着致しました」
「ありがとう爺。後は任せてくれ」
「分かりましたお嬢様。では、失礼致します」
案内されたのは、レストランのさらに奥のVIPだけが入りそうな部屋だった。そこでクレアは一人だけで待っていた。
「とにかく座れアルバイン」
「う……うん」
「何を飲む?」
「あ……じゃあ、コーラで……」
相当クレアはこういう店には慣れているようで、俺に飲み物を聞くとベルを鳴らし、店員を呼んで自分の分と俺の分も注文してくれた。それを見て、悪い話ではないのだと少し安心し、クレアの話を聞くことにした。
「そ、それで……話しって?」
「あぁそれか。今飲み物が届く。それまでもう少し待て」
「あ……うん……」
怒っているようには見えないが、インターホン越しとは打って変わって言葉遣いが超乱暴で、超居づらかった。それでもこれが一応こういう所のマナーなのかと思うと、そこからしばらく重たい空気の中飲み物が届くのを待った。そして飲み物が届くと、やっとクレアが口を開く。
「話しというのはな、アルバイン」
「う、うん……」
「実はな……」
「うん……」
もったいぶるような感じに、言葉はあれだけと何か言い辛い相談なのかと思った。が……
「貴様なんで登山の授業に来ない!」
「えっ⁉」
突然ぶちぎれたクレアは、コーラが零れるほど強くテーブルを叩き、怒りを露わにした。
「貴様ふざけているのか! あーっ!」
超ぶちぎれるクレアは、最早チンピラだった。
「私たちは時期英雄として、名門であるここ! キャメロット聖法学院に集められたんだぞ! それなのに貴様は……自覚が無いのか!」
「え……あ……」
テーブルを叩き、テーブルナプキンを丸めて投げ捨て怒る姿は、チンピラというかヤクザだった。その怒涛の八つ当たりはとてもお嬢様には見えず、ただただ恐縮するだけだった。
「大体貴様ら! 子供のように駄々をこね法皇様に恥をかかせ! 挙句教室まで私物化して恥ずかしくないのか! 貴様らのせいで私たちがどれほど迷惑を被ったか考えた事があるのか!」
「そ……」
それはほんとすいませんっ!
「その上謝罪にも訪れず、我が物顔でよくキャメロットに来られたなっ!」
「あ……すいません……」
クレアたちがずっと機嫌が悪かったのそういう事だったの⁉ 確かにまだ謝ってもいない俺たちも悪いけど……ほんとすいません!
もう謝る事しかできなかった。っというか謝る事さえ許してもらえないほどクレアの怒りは凄まじく、まだまだ愚痴は続く。
「それだけならまだしも! 反省するどころか全く授業にも参加しない! 授業中ずっと喋りおって! 貴様先生まで馬鹿にして何が楽しい! ふざけているのかっ!」
そ、それはアドラとパオラのせいだよ! 俺だって先生に悪いと思ってんだよ! だけどあの二人ずっと俺に話しかけてくるんだもん!
未だに授業中、ずっと俺に体を向けてあの二人は“何食える? 何触れる?”ばっかり聞いてきて、こっちも困っていた。それでも反論できるような空気ではなく、黙ってクレアの怒りを聞いているしかなかった。
「貴様本当に英雄の子孫なのか! あー!」
テーブルは叩くは蹴とばすは、吠え狂うクレアは俺には手が付けられなかった。っていうか、よくそんなんで今までここに通っていられたと逆に関心するほどだった。
「それにあれだ! 貴様帰宅してからも全く鍛錬もしていないそうじゃないか! 剣もまともに使えない貴様がどう魔王と戦おうというんだ! それとも何か! 貴様天法や仙法のような高次元魔法でも使えるのか? あー!」
「い……いや……それは……」
「それは? なんだ! 言ってみろ!」
「いや~……魔法はちょっと……」
まだ魔法の授業はやっていないため、エリックやパオラは使えるとは言ってたけど、誰がどれほど魔法を使えるかは分からなかった。だけど俺が魔法を使えないのはクレアもお見通しのようで、さらに熱を帯びる。
「なら貴様は何が出来ると言うんだ! それとも加護印でも出てるのか? じゃなきゃ何故そんなにいつもふざけていられる! 何が目的だ!」
何が目的と言われても、俺たちは来いと言われたから来ただけで、それ以外の目的は無かった。そんなことは当然言えるはずもなく、この日クレアはずっとぶちぎれたままで、最後は熱くなりすぎてドアノブを壊して帰る程ぶちぎれたままだった。