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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
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眩い光

「おっ」


 黒い紋章を持つ奴らを懲らしめ、苦労へ感謝するために孤児院へと俺たちは戻った。するとそこにはカスケードたちも到着しており、全ての役者が揃っていた。


「なんだ、来てくれてたのか。悪かったな」

「構わないさ大将。どの道俺たちは合流しなければいけなかったからな」


 久しぶりに会う仲間は、当たり前だがいつも通りだった。だけどその何も変わらない感じが、長い時間離れていたような気にさせた。


「あっ……建物とか直してくれてたのか。ありがとう」

「なぁに、練習ついでさ。直した所の色は違うが、強度にだけは気を付けたから安心してくれ」


 直した箇所はさすがに汚れや日焼けまでは再現できないようで、継接ぎ、斑模様になっていて貧乏臭さが出ていた。しかし強度といい造りは完璧で、将来カスケードは建設会社を経営できそうなくらい良い仕事をしていた。


「十分だよ。やっぱすげぇよカスケードは」

「建物は良く壊したからな。そのお陰だ」

「そうか……」


 カスケードが過去に何をしていたのかは知らない。だから……本当に何をしていたのか物凄く疑問が沸いた。だけど……


「それに、子供たちにも優しくしてくれてありがとうな皆」


 カスケードも凄いが、チンパンも、フォイちゃんも、ルーベルトも、ファウナもクレアも、子供たちには一切ストレスを与えていなかったようで、寧ろ子供たちはあんな目に合っても一層元気な笑みを見せていた。特にチンパン、フォイちゃん、ルーベルトは懐かれていて、俺が操って連れてきた黒い紋章の奴らを見た時には三人の影に隠れるほどで、頼もしさも完備していた。


「この子供たちは大将にとっても大切な存在なんだろう。それは皆分かってる。ただそれだけだ大将」

「そうか……皆本当にありがとう」


 まぁ当然。俺たちは聖刻で引き付け合った仲。そんな俺たちが大切なものを共感できるのは当たり前だった。それでも、今から戦おうとしているルーベルトまで優しい空気を纏っていてくれている事には、本当に感謝しかなかった。


「それよりも大将。作戦はどうする?」


 子供たちには本当に気を使っているようで、多少表情を強張らせたが、カスケードは嫌な空気を出さずに本題に入った。


「それなんだけど。もうちょっと待ってもらえないか?」

「俺は構わないが……」


 そう言い、カスケードはルーベルトの顔を見た。それを受けてルーベルトが応える。


「私は構いませんよ陛下。私としてもここでは闘争という事はしたくはありません。私は子供が好きですから」

「そうなんだ?」

「はい」

「ありがとうなルーベルト」

「いえいえ。感謝を頂けることは致してはおりませんよ、陛下」


 格好良い。ルーベルトの言葉は、どこぞのハードボイルド気取りとは違い、正に漢の格好良さがあった。


 あの巨体でマフィアをやっていて子供好きとは、ルーベルトはやはり俺たちとの相性はとても良かった。


「じゃあ皆、今だけは楽しく頼むよ」

「最初から俺たちは敵じゃない。そうだろう大将? 俺たちは空気くらいは読めるさ」

「そうだな」


 聖刻者は聖刻を争う仲だが、魔王を倒すという同じ目的を持った同志。ルーベルトとカンパネラの姉さんは例えマフィア間で敵であっても、聖刻者としては仲間だった。


「まぁとにかく、今俺たちは、子供たちを守ってくれたヒーローにお礼しなければいけないんだ。わりぃけどさ、それが終わるまでもう少しだけ待っててくれ」

「構わないさ大将。大切な事は先に済ませた方が良い」

「ありがとう」


 カスケードたちが仲間で本当に良かった。こんだけ大掛かりな作戦を決行していても、感謝を最優先に考えてくれる。馬鹿ばっかりのチームだが、このチームに誇りを感じた。


 これでひとまず一時的だが停戦状態を作れた。後はカンパネラの姉さんがどう判断するかは分からないが、声を掛けた。


「姉さん、聞こえましたよね。とりあえず先ずは苦労へのお礼をしましょう」

「あぁ、そうだな……」

「え?」


 そう言うと姉さんは、固い表情をしたまま何故かカスケードに近づいた。それはまるでボクシングの試合前の睨み合いのような感じで、苦労へのお礼が先と言っていたのにも関わらず、今にでも戦闘が始まるかのような緊張感があった。


 固唾を飲むとは正にこの事。近づかれたカスケードたちも突然の事に表情が強張り、事情を知る俺や苦労、クレア、外野組はオロオロするだけだった。


 そんな緊張状態だったのだが、ここでいきなり姉さんが頭を下げた事で空気が一変する。


「寛大な心、感謝する」


 この瞬間、数、戦力で圧倒するはずの俺たちは、完全に敗北した。それくらい姉さんの感謝、その心は強力で、今までチメチメ根ちっこく、陰湿な作戦をしていた俺たちの器の小ささは全て吹き飛ばされた。

 そう思ってしまうくらいの眩い光を放っていた。


「ふっ。構わないさ。ただ単に俺たちは、子供が好きなだけさ」

「私はカンパネラという。名は?」

「カスケードだ」

「良い名だ」

「お互い様さ」

「……そうだな」

「あぁ」


 対応を迫られたカスケードは、何とか姉さんの輝きに耐えた。しかし文字にすれば互角には見えるが、実際は手や膝がガクガク震えており、敗者だった。

 そんな敗者でも、意地はあった。


「彼への感謝には、俺たちも加わっても良いか?」

「構わないが、“彼ら”は一応ブラービの捕虜だ。手出し無用で頼む」


 捕虜とした黒い紋章の奴らを、姉さんは敢えて彼らと言った。それは間違いなく子供たちの前では汚い言葉は使いたくないという配慮。

 いついかなる時でも一切隙を見せない姉さんは、最早ファウナさえ超えていた。


「分かっているさ。奴らには俺たちも困っていたんだ。そちらには余計な迷惑を掛けてしまった。その感謝さ」

「そうだったのか。それならば問題無い。皆の食事も用意しよう」

「ふっ。そこまでは必要無いさ。俺たちは迷惑を掛けた側だ」

「感謝の前では皆平等だ。それに、食事は大勢でした方が良い。付き合ってくれるな?」

「フッ……ここが禁煙でなければな」

「ここに煙草の煙を気にするような軟弱者はいない。吸い殻にさえ気を付けてくれれば好きにしてくれ」

「そうか……ならば遠慮なく甘えさせてもらうよ」


 姉さんがタバコを吸っている姿をほとんど見た事が無い。それはおそらく子供たちへの影響を懸念しているからだろうが、それでも構わないという寛大さには、喋れば喋るほどカスケードのメッキが剥がれて行くだけだった。


 まぁとにかく、これで何はともあれ苦労へのお礼が優先されることになり、準備が始まった。


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