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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
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苦労

「おい、大丈夫か?」

「う……」


 遂に始まった黒い紋章を持つ奴らへの粛正。それに先駆けて子供たちを助けてくれたヒーローの安全確保。もちろん俺はヒーロー救出班の方で、無事任務を完了していた。


「もう安心してくれ、後はカンパネラの姉さんが全部片づけてくれる」

「……くっ」

「まだ無理に動かない方が良い。危ない所は治したけど、完全には治してない」

「…………」

「勘違いしないでくれよ。俺も君……貴方には感謝しているんだ。だけど君、怪我治したら絶対いなくなるだろ? 悪い事したら罰せられるように、良い事したらちゃんとお礼をされなきゃ駄目なんだよ」


 彼は、子供たちを守る戦いで既に内臓に大きなダメージを受けていた。それが影響して姉さんのバカでかい銃の衝撃で気を失っていた。

 そのためか、俺と二人きりでも暴れることもなく落ち着いていた。睨みはするが。


「俺の事は放って置いて、さっさとお仲間を助けに行け。ああ見えても奴らは強い」


 どうやら俺は相当彼に嫌われているようだった。この言葉には、子供たちを救ってくれて彼の事が大好きなのに、超心が傷ついた。

 だけど……


「ふっ……俺が行かなくても大丈夫だよ」


 俺が彼を抱えて戦場を離れると、姉さんの攻撃が始まった。それは戦争なんていう言葉では足りないくらいの規模で、まるで完全体セルVSトランクス戦のような大地が震えるレベルだった。

 当然そんな戦いに俺なんかが参加して良いはずもなく、一緒に戦うつもりだったが、今はクリリンポジションで十分だった……っというか、こんだけ離れていても衝撃が大地を走るのが分かる程で、無理だった。


「とにかくもう少しだけ待ってくれ。直ぐに終わる。そしたらさ、君が救ってくれた孤児院に行こう。そこで傷も治すし、お礼もする。だから、もうちょっと待っててくれ」


 本当は姉さんの所へ行った方が良い。だけど何回戦場の方を見ても無理な物は無理で、もう絶対ルキフェル様の聖刻者とは戦わないと誓うほどだった。


 そんな衝撃の景色を眺めながら、惨めな俺と、ヒーローの彼は、会話も無くしばらく気まずい空気の中にいた。それが功を奏したのか、しばらくの沈黙が続くと、彼から語り掛けてきた。


「お前は父親の所へは行かないのか?」

「え?」

「ルーカス・アルバインの所には、お前の学友もいるんだぞ」

「学友? ……あぁ、キリア達の事か」

「…………」

「別に俺は、父親にも友達にも興味ないから。皆それぞれ考えがあるんだろう。誰が世界を壊そうが、誰が魔王を復活させようが、俺には関係ないよ」

「聖刻者だろ」

「まぁね。一応ね。だけど、やっぱ関係無いよ。直接的な敵ってわけじゃないし」

「…………」


 キリア達は知っているし、皇太子が何をしようとしているのかも知っている。だけど今の俺に直接影響はない。そんな事を気にするよりも、今はそんなどこで何をしてるのか知らない知り合いよりも、今手が届く誰かの方が大切だった。


「それにさ、俺、人類って多すぎるって思ってるんだ。世界中の人口なんて三十億人くらいが丁度良いって思ってるんだ。だからちょっとくらい減っても良いと思ってる」

「⁉」


 この言葉に、ツンツン頭の彼は一瞬目を丸くした。それを見て、なんか言っちゃいけない事を言ってしまった気がした。


「…………」

「…………」


 まぁ、元より彼は俺を嫌っている。たとえ彼が今の俺の発言に対して何を思おうが、また会話が切れる事は仕方がなかった。


 その間も姉さんによる攻撃は続き、遠くから聞こえる爆音が俺たちの沈黙を和らげる。っというか、それにしても凄まじい破壊力。戦争というよりもドラゴンボールと例えた方が合う爆発は止まることを知らず、それに耐え続ける黒い紋章の奴らもまた凄まじかった。


「なぁ? あんた……君もあのくらいの攻撃には耐えられるのか?」


 姉さんの実力にも驚いたが、あの攻撃に曝されても耐えられる黒い紋章の力は、正直想像を超えていた。一対多数だが、もし本当に戦えるのなら、今まで馬鹿にしていた黒い紋章に対しての考えを改める必要があった。


 その結構真剣な質問だったのだが、彼にはそれよりも気になる点があったようで、思わぬことを口にする。


「クロウだ」

「え? 苦労?」

「俺の名だ。いい加減その気持ち悪い呼び方を止めろ」

「え! あ……ごめん……」


 正直俺も“君”呼びは気持ち悪かった。感謝はしているがなんだか気を使いすぎていて、逆に馬鹿にしている気さえしていた。だが、多分こうでもしなければ彼は名前を教えてくれなかっただろう。これはこれで、名前を言わない奴には良い方法だと勉強になった。

 それにしても名前が苦労とは……彼は結構大物になりそうだった。


「俺はリーパー・アルバイン。よろしく」

「それはもう知っている!」

「あ、ごめん……」


 彼は苦労という名だけあって、余計な苦労をする必要の無さを知っている。自己紹介されたから反射的に応えてしまったが、今のは俺が悪かった。


「手加減されてるんだろう」

「え?」

「俺“たち”が聖刻者の攻撃に耐えられるはずが無いのは知ってるだろう。あれだけ派手にやってもまだ終わらないんだ。最初から簡単に殺す気なんて無いんだ」

「え? そ、そうなんだ……」


 彼は本当は根の良い人だ。口は悪いし暴力的で短気だが、きちんと俺の質問に答えてくれた。話が飛ぶから付いて行けなかったが、やはり彼は俺たちのヒーローで間違いなかった。


「馬鹿な奴らだ。いくら組織のためだと言っても関係ない子供たちまで狙った。丁度良い罰だ。地獄に行く前に地獄以上の恐怖を味わえばいい」


 彼はどんな命令をされても、自分の信念は曲げない強さを持っている。乱暴に見えても自分の正義を持っているからこそ、あのメンバーとは上手く嚙み合わなかったのだろう。だけど、本当に憎んでいるような口ぶりからは相当な恨みを感じ、今回の件はどちらかと言えばただの復讐だったのではと思ってしまった。

 まぁそれでも、結果的には子供たちのヒーローで、世の中というのは非常に複雑なんだなと知った。


 そんな彼の復讐も、肩代わりしてくれた姉さんのお陰で順調に進んだようで、最後の爆発を境に一気に辺りは静けさを取り戻した。


「どうやら終わったみたいだな。今傷を治す。姉さんの所に行こう、苦労」

「俺は行かねぇよ」

「何言ってんだよ? 折角姉さんがにっくき奴らを懲らしめてくれたんだぞ? 見に行かないのは勿体ないよ?」

「勿体ない……?」

「あぁ。まだ全員は死んでないみたいだ。姉さんに殺される前に行って、唾くらい吐かなきゃ勿体ないよ」

「……お前」


 彼は、相当奴らには苦労させられてきた。それも苦労なんて名前まで付けられてイジメられて。クソいじめっ子には、きちんとけじめを付けさせなければならない。


「とにかく急ごう。もう傷は治した。行けるな苦労?」

「…………」

「どうした? まさかアイツらに会うのが嫌なのか? それなら安心しろよ。もしアイツらが何か言ったら、俺が許さないから。なぁ? だから行こう。そうしなきゃ苦労だって終われないだろう?」

「…………」

「なぁ?」


 いじめは良くない。それに、きちんと解決しておかなければ、この先苦労にもいじめた奴らにも良くない。ここは絶対に白黒はっきりしておかなければならなかった。


「わっ、分かった! 行くっ! 行くよ! ただしお前はあいつ等に手を出すな!」

「分かってるって。苦労の件には手を出さない。だけど、子供たちの件に関しては約束できない。俺は俺でもケジメつけさせるから」

「…………」

「とにかく行こう。姉さんが待ってる」

「…………」

「どうした? やっぱり俺も手伝おうか?」

「い、いや良い! あいつ等の所に行くんだろ!」

「あぁ。行こう」


 こうして何の活躍も出来なかったが、一発くらいは奴らを殴ってやろうと、俺たちは姉さんの元へと戻った。


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