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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
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宇宙は広大

 ルーベルトを仲間にするために始まったマフィアへの潜入。カスケードはカポンへ、ファウナはサルーテへ、そして俺はブラービへ。しかしやっぱり俺にはこういったことは出来ないようで、折角カスケードたちが立てた作戦も俺のミスで全てが水の泡になった。

 それでもやっぱりカスケードたちが考えた作戦はそれすらも考慮していたようで、こんな状況でも何とか俺たちの計画通りに進んでいた。


 何が決め手になったのかは不明だが、その場しのぎの取引に応じてくれた姉さんのお陰で、俺たちはルーベルトの元へと向かっていた。


「すまんカスケード。俺のせいで全部無駄になった。折角ここまで来たのに本当にごめん」


 姉さんをルーベルトの元へと連れて行く道中、今する話ではなかったのだが、どうしても自分のミスが許せず謝罪を口にした。


「気にするな大将。結果的には上手く行ったんだ」

「でも……」


“そうだぜダンナ。ダンナのお陰で俺たちはそれなりに楽しめた。上手く行かないのが人生なんだ、楽しめただけでも十分な成果さ”


「チンパン……」


 久しぶりに会った仲間は、いつもの仲間だった。だけど二人もそれなりに苦労したようで、相変わらずの口調だがどっしりとした成長を感じさせた。


 この二人のいつもの調子は俺に安心感を与え、なんか色々と大変な事になってしまったが全て上手く行くような気持ちにさせてくれた。


 だが、どっしりとした成長を遂げていても中身まではそう簡単に変わる訳では無いようで、カスケードはここに来て嫌な事を言う。


「それに大将、俺たちも大将に謝らなければいけないことがある」

「謝る? 何を?」

「実はこの作戦には、黒い紋章の奴らも絡んでいる」

「え? どういう事だよ?」

「あいつらは相当ここのマフィアを傘下に加えたいらしい。俺たちはここを拠点にしたいだけだと伝えると、奴らは何を勘違いしたのか協力すると言ったんだ」

「この間とは違う奴らか?」

「いや、懲りずに同じ面子で来た」

「舐めてるな」

「あぁ」


 三つのマフィアが持つ資産や権力は強大だ。ブラービだけでも千人を超える構成員がいる。もっと言えば、横や縦の繋がりを考えれば三つのマフィアは一国の権力にも匹敵する。

 その全てのマフィアを傘下に加えれば皇太子たちは大きな戦力を手に入れられる。


 元々カポン以外は拒んでいただけに、皇太子たちがこれをチャンスと見て俺たちに接触して来るのは当然だった。

 ただ、この間懲らしめたはずの奴らをまた使わせる辺りには見下している感があり、やっぱり信用は出来そうになかった。


「ほっとけよ。どうせこれが終わったら俺たちには関係ない話だ」

「そうかもしれん。だが、どうも奴らは余程俺たちに恩を売りたいのか、何か画策しているようだ」

「何をだよ?」

「それは分からん。だが俺たちには何も伝えず今も勝手に動き回っている。俺たちの邪魔にならなければいいが……」

「今も?」

「あぁ」


 カスケードたちの計画からは大きくずれたが、作戦上は計画通り。邪魔になるようなことは無いとは思うが、カスケードたちでさえ分からないという行動には不信感を覚え、気配を追った。すると……


「え?」

「どうした大将?」

「奴らはこの作戦に絡んでるんだよな?」

「あぁ。ただ絡んでると言っても、大将たちが“騙された”車に乗る俺たちの影武者を作ったくらいだ」


 騙されたは余計な一言だった。この辺は相変わらずだった。


「他には?」

「そうだな……強いて言えば、陽動くらいは自分たちが受け持つと言っていた」

「陽動?」

「あぁ。奴らは、俺たちがルーベルトとカンパネラを一騎打ちさせたいことくらいしか知らない。だからおそらく大将の陽動の事だと思う」

「あいつらは俺が潜入しているの知らないのか⁉」

「あぁ。大将は人間の問題には興味がないと言って、先にフィーリア様の聖刻者を一人で探しに行ったと伝えた」

「はぁ? じゃあ奴らは俺がブラービにいる事知らなかったって事か⁉」

「そうだ。それだけ大将の変装は完璧だったという事だ」


 これは本当に予定外だった。俺はてっきり奴らは知っていると思って気にする必要は無いと思っていたが、もし奴らが本当に俺の陽動を企てているなら大問題だった。


 この緊急事態に、直ぐに立ち止まり姉さんを止めた。


「姉さん! 孤児院の方向はどっちですか!」

「……そんな事を聞いてどうする気だ?」

「すいません姉さん! どうやらこの件には皇太子たちの組織が絡んでいるみたいなんです! そんで奴ら、姉さんと俺を引き剥がすために陽動するって!」


 全く上手くは伝えられなかった。しかしこれだけの情報だけでも姉さんは直ぐに何が起きているのかを理解したようで、表情がさらに険しくなった。


「モチロン・マックス、取引は中止だ」

「分かっています! 俺たちも手伝います! 孤児院まで案内お願いします!」

「なっ……分かった。ただし、付いて来れたらの話だ」

「勿論です! とにかく時間がありません! 直ぐに行きましょう! カスケードでもチンパンでも良い! ファウナたちに伝えてくれ! 急用が出来た! 俺の聖刻を追って来てくれって!」

「分かった」

「行きましょう姉さん!」

「付いて来いモチロン・マックス!」

「はい!」

 

 孤児院の場所は分からない。だけどこの農道は見覚えがあるような景色。そして黒い紋章の奴らの気配。確証は無いが奴らが俺を陽動するために孤児院を襲う可能性は高かった。何よりも俺の直感がそれを告げており、もう少しで作戦成功まで漕ぎつけていても子供たちの安全を優先させなければならなかった。


 そして姉さんも俺の事をモチロン・マックスの名で呼んだことで、その直感は確信的な物に変わり、敵も味方も関係なくやるべき事をしなければならなかった。


 今回も姉さんのスピードは尋常なく速かった。しかしこのピンチでは、付いて行けないなんて通用しない。姉さんからは離れはしたが、意地でも背中だけは見失わない覚悟で追走した。


 その覚悟と意地が功を奏したのか、ギリギリ姉さんの背中を見失うか見失わないかの距離で、何とか孤児院近くまで辿り着いた。だがその時には遅かったようで、既に孤児院の方向の空が赤く染まっていた。


「くそぉぉぉっ!」


 この時はマジでキレた。既にあの子供たちは、俺にとって大切な存在だった。それだけじゃない、ジェーンさんもカンパネラの姉さんも、あの場所も、全てが俺の大切な物になっていた。

 それを傷付けられた事は今まで感じた事が無いくらい怒りを感じさせ、文字通り奴ら全員皆殺しにしてやると心の底から殺意が沸き上がった。


 その怒りにさらに速度を上げて孤児院に着くと、意外な事に建物の一部が燃えているだけで、未だ遠くで戦闘をする爆発音のようなものは聞こえるが、カンパネラの姉さんもいるし、子供たちも無事そうで大した被害は無かった。


「ジェーンさん! 皆大丈夫ですか!」

「……うん」


 流石人生経験豊富なジェーンさん。黒い紋章を持つ奴らの奇襲を受けながらもきちんと子供たちを安全な場所に運び、守り抜いていた。だけど顔や体は煤だらけで、あちこちに火傷を負っていた。


「今怪我を治します。怪我の酷い子供はいますか?」

「え? う、ううん。少し汚れちゃったけど、子供たちは大丈夫」

「そうですか。それは良かった。じゃあ、ジェーンさんの傷を癒します。手を出して下さい」

「え?」


 余程怖い思いをしたのだろう。言葉はしっかりしているが、ジェーンさんはまだ困惑しているようで反応が鈍かった。 


 そこへカンパネラの姉さんの一声で、あることに気が付く。


「モチロン・マックスだ」

「え?」

「こいつはカポンのスパイだったんだ」

「えっ?」


 この緊急時で忘れていたが、俺は今元の姿に戻っている。それを忘れて馴れ馴れしく声を掛けたせいでジェーンさんは困惑していた。だけど姉さんが俺の正体をバラしたことで、それ以上に嫌な困惑が生まれた。っと思ったのだが……


「だけど安心しろジェーン。この男は私たちが良く知るモチロン・マックスだ」


 これだけ関係が拗れれば、もう姉さんは俺の事を敵だと認識していると思っていた。しかし俺の知る姉さんは、やっぱり俺が信じた姉さんだったようで、こんな時でも俺の事をモチロン・マックスと呼んでくれた。


 こんなに自分が嫌になる日と、こんなに自分が好きになる日が来るなんて、なんだかとても悪くは無かった。


「ジェーン、手を。モチロン・マックスに怪我を治してもらうんだ」

「う、うん。お願い、マックス君」

「え? ほ、本当に良いんですか? こんな俺で……」

「お前が治すと言ったんだろ?」

「で、でも……」

「ここではお前はモチロン・マックス。そうだろ?」


 そういうこと。俺がどんな風に思っても、姉さんたちにとっては、俺はモチロン・マックス。元々名前なんて物なんてどうでも良いと思っていたが、モチロン・マックスという名前だけは特別な物になった。


「分かりました。ジェーンさん、手を出して下さい」

「はい。よろしくね」


 ジェーンさんは、カンパネラの姉さんの言葉を一切疑うことなく手を差し出す。それを見て、この二人を姉さんと認めた自分が誇らしかった。


 ジェーンさんの傷は、火傷だけではなかった。かなり強く物を掴んだのか、指の一部も骨折しており、その傷からどれほどの恐怖を受けたのか想像もできなかった。にも関わらず、ジェーンさんは優しい言葉を掛けてくれる。


「こっちのマックス君の方が格好良いね」

「え?」

「こんなに若かったなんて、凄いんだね」

「そんな事ありません。今めっちゃ後悔してます。本当にすみませんでした。俺たちが関わらなければジェーンさんたちは怖い思いしなくても済んだのに……」

「そんなことないよ。マックス君が来なくても、いずれはこうなっていたんだと思うから。だけど、マックス君が来てくれたからこそ、子どもたちは全員無事だったんだよ」

「そんなことありません。ただ仲間が欲しいだけで何も考えず、ジェーンさんも子供たちも、カンパネラの姉さんだって裏切った。今自分が一番嫌です」

「それで良いんだよマックス君。自分が嫌いだからこそ誰かに好かれようとするんだから。そうやってちょっとずつ自分が好きになっていくんだよ」

 

 ジェーンさんは本当に凄い。ここまでの事が起きた元凶が目の前にいるのに、まだ俺を信じてくれている。自分が如何に子供だったのかを痛感ばかりさせられた。


「さぁ手を放してマックス君。もうどこも痛くないよ。マックス君のお陰で元気になっちゃったから。ありがとう」

「…………」


 優しく手を添えて気遣ってくれるジェーンさんには、一生勝てない気がした。そして、いつまでもくよくよしている俺に、活を入れてくれるカンパネラの姉さんにも、勝てない気がした。


「さぁモチロン・マックス、これからが私たちの仕事だ。火を消したら奴らを追うぞ」

「え? でも、ここの修復は?」

「ジェーンと子どもたちを舐めるな。誰が育てたと思っているんだ。私たちには私たちにしか出来ないことがあるだろう。それが家族というものだろう?」


 子供たちの無事とジェーンさんのお陰で、奴らへの怒りは消えた。そして奴らのお陰で俺たちの当初の目的もどうでも良くなった。

 今あるのは姉さんたちへの感謝と尊敬だけ。俺のやるべきことは簡単な事だけだった。


「行きましょう姉さん。ここが誰の家なのか分からせなければいけませんからね」

「そうだ」


 怒りは消えた。だけど奴らにけじめはつけさせなければ気が済まない。


 空も明るみ始め、間もなく朝日が昇る。まるで今の心のような空に、俺たちは駆けだした。


 サブタイトルが、良く分かりません。

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