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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
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理想の世界

 カンパネラの姉さんの散歩に付き合いやって来た孤児院。そこにはマフィアの殺伐とした空気は無く平和に溢れていて、黄泉返りの子供たちと、ジェーンさんという素敵な女性がいた。

 この孤児院は、カンパネラの姉さんが資金を提供するお陰で維持できているようで、将来的にはカンパネラの姉さんもマフィアを引退して、この子たちを育てていくつもりらしい。

 

 そんな幸せ溢れる孤児院で、カンパネラの姉さんが作った夕飯を頂き、楽しいひと時を過ごした――


「姉さんは毎日ここへ来てたんですか?」


 夜も更け、子供たちが寝静まると、俺、カンパネラの姉さん、ジェーンさんの三人は、綺麗な夜空を眺めながら大人の時間に入った。


「毎日は無理だ。たまに嫌な事を忘れたくなったら来るようにしている」

「そうなんですか……」


 これはただのお疲れさん会みたいな、今日の締めのような時間。だけど姉さんたちにとっては、また明日から始まる戦いを少しでも忘れたい時間。

 楽しさよりも寂しさを感じさせる姉さんたちの雰囲気からは、この世界の辛さを知った気がした。


 それは夜空のせいもありより寂しさを増し、言葉よりも自然の音の方が多かった。


「…………」


 おそらく姉さんたちは、何かを考えているわけでも、思いに耽ているわけでもない。ただこの夜空、この空気、この時間の中にいる間だけでも嫌な事を忘れたい。とても寂しい時間だった。


 そこで、眠るまでの残り僅かな時間をこんな寂しいままではいけないと思い、逆に今聞かなくても良い事を訊くことにした。


「カンパネラの姉さんは、いつまでこんな事……いつまでマフィアなんてするつもりなんですか?」


 この質問に姉さんたちは、“何故今聞く?”とも“答えたくない”とも何の反応も見せず、静かに答える。


「ブラービがある限りだろう。私はブラービに救われた。だからこの件が終わっても続けていくだろう」

「別に姉さんがいなくてもブラービは大丈夫でしょう?」

「そういう意味じゃない。家族は家族だ。辞められないだろう?」


 カンパネラの姉さんがどういった経緯でブラービに入ったのかは知らない。だけど家族と聞くと、多くの愛情を注がれたのだと想像できた。


「でも姉さんは、子どもたちをもっと安全な場所に連れて行きたいんでしょう? ブラービにいる限りそれは難しいんじゃないんですか?」

「それはジェーンがいるから大丈夫だ」

「そういうわけにはいかないでしょう?」


 姉さんがそれほどジェーンさんを信頼しているのは良く分かる。しかしそれはカンパネラの姉さんが一方的に思っている事で、子どもたちの事も考えると身勝手な考えだった。


 この答えには納得がいかなく、ちょっと説教が必要だった。そう思っていると、ジェーンさんが思わぬことを言う。


「大丈夫だよマックス君。カンパネラは十分お金も残してくれてるし、こう見えても私結構強いんだから」

「何を言っているんですかジェーンさん? ここだってカンパネラの姉さんもいて家族なんですよ?」

「そうだけど、子育てってそんな簡単な物じゃないんだよ? 確かにカンパネラがいなくなれば私たちは困る。けど、それはたま~にこうやって車で色んな物を持って来てくれる人がいなくなるくらいだよ?」

「そんなわけあるわけないじゃないですか?」


 今のは冗談。だけど半分は本気。冗談にしてはセンスが悪すぎて、マフィアというのは冗談が苦手なのかとさえ思ってしまった。


「あまりそういう冗談は言わない方が良いですよ?」

「冗談じゃないよ。私たちは冗談でこんなことしてるわけじゃないから」

「でも……」

「私たちは本気だよ。だからどちらかがいなくなっても良いようにしてるの。そりゃ二人がずっといられるのならそれが一番良いけど、あの子たちが大人になれないのなら意味ないからね」


 この二人は想像以上に凄い。血の繋がった子供でもないのに、どんなことをしてでも命がけで自分たちの使命を果たす覚悟を持っている。

 人は、生まれや育ち、学歴や肩書き程度では何の指針にもならないが、この二人の生き様を見ていると、マフィアというのは本当は素晴らしい職業なんじゃないかと思ってしまうほどだった。


 ここまで言われてしまっては、もう俺にはカンパネラの姉さんをマフィアから引きはがすことは不可能だと知った。


「じゃあもし、他のマフィアとの問題が解決して平和になったら、姉さんはこの子たちと暮らしますか?」


 カンパネラの姉さんがブラービに固執するのは、おそらく恩があるから。仮に本当の家族だと思っていても、平和が訪れれば自分の選んだ道を進めるはず。

 俺としてはどうしてもカンパネラの姉さんには、子どもたちと幸せに暮らして欲しかった。


「それは無理だろ」

「何故です?」

「マフィアとはそれが仕事だ。平和なんて物は我々にとっては一番の職業敵だ」


 マフィアにとっては確かに争いこそが本職。俺の言っている事は確かに間違っていた。


「じゃ、じゃあ、理想の話だったらどうです?」

「理想の話?」


 この質問には、二人は顔を合わせ意味深な笑みを見せた。


「……そうだな。もし、そんな世界が来たのなら、私はジェーンと一緒に、ここで農場でも開くさ。そして小さな学校も建てて、教会も建てたい」


 俺の理想という質問は、二人にとっては何も分かっていない人間の戯言なのかもしれない。それでも一切馬鹿にせず夢を語ってくれる姉さんには、聖刻者以上にこの世界に必要な存在だと俺に思わせた。

 

「じゃあ、服屋も建てようねカンパネラ」

「そうだったな。だけど何度も言っているが、ブランド名に私の名を使うのは駄目だ」

「いや、それは絶対使うよ。だってカンパネラの名前は私が付けたんだから」

「名付けたのはジェーンじゃないだろ?」

「いいや。私が付けた。だって、カンパネラの意味は金じゃなくて、福音なんだから!」


 全然二人の会話の意味は分からない。だけど二人にも色々夢や願いがあるようで、この時間はとても祝福に溢れていた。


「あっ! そうだった! ちゃんとトレーニングジムも建てるよマックス君」

「え?」

「だってほら、マックス君トレーニング好きでしょう?」

「え、えぇ、まぁ……」

「そしたらさ、ジムでも稼げるし、もしかしたらここからスポーツ選手だって出るかもしれないでしょう?」

「それは……どうかな?」

「大丈夫! マックス君ならきっと良いトレーナーになれるよ?」

「そ、そうですか?」

「うんっ!」


 俺としては、トレーナーよりずっと現役で筋肉を鍛えていたい。っというか、二人の理想の中には俺もちゃんと含まれていて、嬉しさと一時のスパイという状態が複雑な感情を抱かせた。


 そんな感情のせいもあり、その後の二人の楽しい会話も少し上の空で、二人が眠りについても俺は一人で夜空を見上げていた。


 ただその時間はぼ~としていたわけではなく、ルーベルトを仲間にするだけの作戦だったが、どうしてもカンパネラの姉さんたちを幸せにしたくて、俺なりに何が出来るのかを考えていた。



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