勿論MAX!
結局なんだかんだ言って始まったマフィア編。いや、もしかするとカスケードがカルロスを選んだ時点で始まっていたのかもしれないが、とにかくやらん事には旅は一向に進まないため、何だかんだあって俺は、ブラービというマフィアへ単独潜入する事となった。
「終わったぞ。約束通り工場は潰してきた」
ブラービへ潜入するため、信頼の証として指示に従い、早々にカポンの偽札工場を火事にして任務は完了した。しかしそこからどこへ戻れと言われた場所を忘れ、仕方が無いから彼女の聖刻の気配を追って戻ったが、またチンピラに絡まれて結局ボコって、何だかんだあって、やっと最初の関門をクリアした。
あれから三日後の話だった。
「大口を叩いておいて随分と時間が掛かったな」
工場が火事になったのは結構な騒ぎになったから、彼女は絶対知っている。だけど報告までには三日ほど掛かっており、苦労してやっと来たのに彼女の機嫌はかなり悪かった。
「す、すみません……」
そりゃ全部、あんたが俺の事を仲間に言ってなかったから悪い! とは口が裂けても言えなかった。
事実、工場は従業員を操り、火を着けさせるだけで超簡単に終わった。それは一時間も掛かっていないし、俺の顔だって見られてはいない。寧ろここに来るまでの方が大変で、どれほど時間を無駄にしたか、何人ボコボコになったか、どれだけの器物が破損させられたかを考えれば、悪いのは全部彼女の方だった。
「まぁいい。次の仕事だ」
「えっ⁉ お、俺は言われた通り工場燃やしてきたんだぞ? 仲間に入れてくれよ?」
社会において、時間を守らない奴は信用されないとは良く聞くが、それでもこなしてきた仕事はデカく、その成果もデカい。それなのにまだ仲間に入れてくれない彼女には、もうほんと別のマフィアの所へ行こうかとさえ思った。
「何を言っている。こいつはお前が望む報酬だ」
「報酬?」
「時間は掛かったが、お前の仕事にはボスも満足している。暇があればそのうち会わせてやる」
「おお! マジか!」
実際時間は掛かってはいない。それなのにわざわざ時間が掛かったと言う彼女の嫌味には、今時の若者が直ぐに退職をするという理由が分かった。
まぁそれでも、初めての潜入で初めての報酬という言葉には新社会人になった気分で、普通に嬉しかった。
「それよりも次の仕事だ」
そう言い、彼女は書類をテーブルに乱暴に捨てた。
「それはお前が望む聖刻者の情報だ」
「情報? 誰の?」
「お前と同じアズ神様の聖刻者だ」
「そ、そうか……ありがとうございます……」
確かに俺は、設定で聖刻者の情報も報酬に入れていた。だけど今はそんな物よりもプロテインとかの方がよっぽど嬉しかった。そのうえ書類を見るととんでもない人物の情報が載っており、もうこの潜入は辞めようかと思った。
「リーパー・アルバイン。英雄エドワード・アルバインの孫だ。巷では桃太郎の通称で通っている。お前にはそちらの方が伝わりやすいだろう」
「あ、あぁ……」
伝わるも何も、己の事は己が一番良く知っている。唯一分からないことがあるとすれば、桃太郎という通り名だった。
「そいつは今、仲間と共にサルーテにいるらしい」
「そ、そうなのか……?」
そいつは今、サルーテにはいない。何故なら、今あんたの目の前にいるから。
「仲間には、ウリエル様、ミカエル様、ラファエル様の他に、あのアテナ神様の聖刻者も付いているらしい。単体で挑むには難しいだろうが、その男を殺せ。もちろんお前が望むのならこちらはいくらでも必要な物を用意しよう」
「そ、それはちょっと……」
「安心しろ。簡単な話ではない事は分かっている。どの道サルーテ、カポンの聖刻者は皆殺しだ。その中でお前のメインターゲットはその男というだけの話だ」
「そ、そうなのか……ありがとうございます……」
仮に相手が俺でなくても、そのメンツ相手に何とかすれは無謀過ぎる。最初は頭がおかしいだけかと思っていたが、意外と優しい一面に、もうちょっとここで頑張ってみようかと思った。
「特にその男は我々にとっては最重要人物だ。お前が家にいればそう簡単な動きは出来ないだろうが、かなりイカれた野郎だ。気を付けろ」
「そ、そうなのか? なんで?」
「そいつは家の幹部を殺している」
「マジか⁉ いつ⁉」
「ついこの間だ。街でドンパチやりやがって、その時に事務所ごと派手にやってくれた。お陰でこっちは稼ぎ頭と稼ぎ場を失った。地獄を見せて殺せ」
「……分かりました」
この間俺がやった建物破壊は、既に神の手によって定められた運命だったらしい。気付かぬうちに完璧に泥沼に引きずり込まれていたとは、神を超えた作者には怒りを感じた。
「それに」
「それに⁉」
どんだけ俺が嫌われているのかは知らないが、もうこれ以上俺をいじめるのは勘弁してほしかった。
「どうやら奴らはカポンとも繋がりがあるらしい」
「マジでかっ⁉」
俺の変装はバレてないのに、俺たちがカポンと繋がっていることがバレているという事には驚きだった。
「カポンのマルコという聖刻者とその連れは、奴らの仲間の可能性があるらしい」
「らしい?」
「あぁ。まだはっきりとは分かっていないが、奴らの元からウリエル様、ミカエル様の聖刻者、そしてリーパー・アルバインの姿が消えたらしい」
「消えたって?」
「これはまだ確定したわけじゃないから良く聞け。カポンにいるマルコという男も、サルーテのルーベルという男も、かなり頭の切れる聖刻者だ。もしかするとこれも奴らの企みかもしれん。あの二人が接触しているという情報も出ているが、最近の動きの煩雑さに加え、随分と脇が甘い。これはあくまで情報として得ておけ」
「分かった……」
どこからどこまでがカスケードたちの仕業なのかは分からない。それでもかなり上手に動いているようで、俺たちの“ミス”を利用しながら罠を張っている策略には感心だった。だよね?
「とにかくしばらくは情報収集に勤めろ。仕事があればこちらから声を掛ける。少なくとも勝手に向こうの聖刻者とは接触するな。こう見えても今我々はかなり危険な関係にある」
「そ、そうします……」
間違いなくその原因を作ったのは俺たち。なんで俺が桃太郎とか言われているのか、それが完全に馬鹿にされているのかは、彼女の言葉で何となく分かった。
「話は終わりだ。ここを出て向かいにあるホテルへ向え」
「え?」
「フロントにカンパネラの“連れ”だと言えば分かる」
「カンパネラ?」
「私の名前だ。そこへ行けばお前の部屋が用意してある。お前の名は何という?」
遂に彼女から名前を教えてくれた。これは俺を仲間と認めてくれたという証であり、なんだか嬉しかった。
「お、俺は! もちろんマックスだ! むんっ!」
マックスは、マッスル、マキシマムとか、とにかくマッスルムキムキを表した俺の偽名。
「そうか。これからよろしく頼む、モチロン・マッ・クスダ」
「お……おぉ……」
もちろんは、この体を見ればわかるだろう! 的な勢いから出た言葉で、決して苗字とか氏名ではない。だけどカンパネラには全部が名前に聞こえたようで、なんか説明するのもなんだし……分け分からん名前になってしまった。
それでもほんの少しだが、初めてカンパネラが優しい目を見せてくれた事に比べれば大した問題でも無く、何か……物凄く嬉しかった。
「そこからワンブロック裏の通りにあるジムも好きに使え。そこも家の店だ。私の名を出せばお前の望む物はほとんど手に入るだろう」
「あーざっす! これからは姉さんと呼ばせて頂きます!」
この日、俺はカスケードたちとは違う新たな仲間、姉さんを手に入れた。




