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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
168/186

アクセル全開

「どうも初めまして」


 ルーベルトを仲間にするために始まったマフィア編。それは三つのマフィアの争いを解決するというとても分かりやすいシナリオ。

 既に関連イベント攻略済みの俺たちには、気付けば二大マフィアとの繋がりという状態まで来ており、マフィア編はいきなり本イベントへと突入していた。


 そんなイベント。俺はゲームとかだと言われるがままストーリーを進めるため、全く何をすれば良いのか考えた事など無い。もちろん今回のイベントもゲームキャラの如し言われるがまま進行。

 その結果。よう分からんが、俺たちチームはそれぞれが三つのマフィアに属して、後はカスケードとルーベルトが何とかするという作戦で行くことになった。


 クレア、ファウナ、フォイちゃんの女性チームは、ルーベルトのいるテレサテンだかテレーサだとかいうマフィア。カスケードとチンパンは、アルカポネとかいうマフィア。そして俺は、単独でビンテージとかいうマフィアへ潜入することになった。


「随分とふざけた奴だ。一体何の用だ?」


 準備を含めて約三日。俺はルーベルトの情報を元に潜入を開始し、やっとお目当ての聖刻者の元へと辿り着いた。

 当然俺は聖刻の力で姿形を別人に変え、ファウナとかと一緒にキャラ設定も作り、完璧に変装。

 俺とは真逆のムキムキマンという変装は素晴らしく、この溢れんばかりの筋肉、はち切れそうなタンクトップはお気に入りで、鏡の前で何度も練習したポーズは最早自分でも惚れ惚れしてしまうくらい素晴らしい。何よりも体が軽く、何にでも勝てそうな調子の良さは世界の色まで変えた。


「ここでは聖刻者を求めているんだろう? どうだ、俺をお前たちの組織に入れてくれないか? ふんっ!」


 町の関連するチンピラをボコりやっと辿り着いた聖刻者は、想像とは全く違い、金髪ロングの少し肌の黒い女性だった。

 性格も正にマフィアという感じで、俺が作り上げた筋肉でアピールしても笑み一つ見せず睨むばかりで、俺にとってはここが一番の難関になりそうだった。


「目的はなんだ? 聖刻者がマフィアへ何の用がある?」

「聖刻者と言えど、所詮は人間だ。これだけ広い世界で色々探すには人手が欲しいんだ。ここにはたくさんいるんだろう? 力さえ示せば言う事を聞く奴隷が」


 この設定はファウナが考えた物。本来聖刻者たるもの、自らの足で欲しい物を手に入れなければならない。そんな聖刻者がマフィアを頼る怠惰さには、このくらいのずる賢さ、傲慢さで丁度良いらしい。


「俺には筋肉を鍛えるという使命がある。ふんっ! 見ろ、素晴らしい筋肉だろう? ふんっ! 特にこの背中を見てくれ。ふんっ!」


 ついでに、この筋肉キャラは俺が付けた物。っというか、やはり筋肉というのは素晴らしい物で、ここまで膨れ上がった筋肉になると、その見た目、その感触、その感覚には憑りつかれる物があり、今ではプロテインに頼ってまで筋肉を付けたくなるジョニーの気持ちが嫌でも分かる程憑りつかれていた。


 この完璧なキャラメイキング。さすがにここまですれば俺だとは分かるはずもない。


 なんか知らんが、俺は巷では結構有名になり過ぎているらしい。それは俺だけに言えた事ではなく、キャメロットに集められた三年一組全員は、英雄の子孫という事もあり既にネットに顔まで晒されている状態で、特に俺に関してはブロリーの件もあるが、チンパンジーやスズメバチを連れ歩いているせいで“桃太郎”とか“ジャングルの王者”とか変な異名まで付いていて、なんか、この間の建物の破壊も俺のせいにされてて、ネット民はいずれ皆殺しにしてやろうと思っている。

 ちなみに、マリアたちはアスクレピオス。パオラは女王。スクーピーはアルテミス。キリアたちは勇者とか付けられていて、リリアたちの軍艦は一番意味が分からなかった。


 そんなわけでここまでの変装が求められたのだが、どうやら変装にも適材適所というのがあるようで、ここまでの肉体美を見せても女の表情は険しくなるばかりだった。


「お前みたいな者を、信用できると思っているのか?」

「信用? そんな物は必要無いだろう?」

「何だと?」

「俺もお前たちの事は信用していない。お互い利用するのに信用など要らないだろう?」


 出来るだけ傲慢な人間をアピール。それでいて俺の目的は筋肉を鍛える事だけだと一貫性を持たせる。

 ふざけているように見えるかもしれないが、これでもしっかりとキャラ構築し、しっかりと練習だけは重ねていた。そして何よりも怯まない。こう見えても俺はガチだった。


「悪いが他を当たってくれ。信におけない者に要は無い」

「まぁそう言うなよ。これでもそれなりに調べてここへ来たんだ。お前たちは今、それぞれが聖刻者を抱えているんだろう? それにアレックスとかいう元皇太子様も絡んでいるのは知っているんだ」


 やっぱりというかやっぱりだが、どうやらカスケードたちのいるマフィアには、皇太子様の組織がバックに付いているらしい。実際この間戦った黒紋章の奴らはカスケードに挨拶をするために来ていたらしく、何だかんだ言ってメインストーリーに巻き込まれていた。


「なんなら俺は別のとこに行っても良いんだぞ? あんた、俺と殺り合う覚悟はあるのか?」


 結局この潜入は、最初から難易度は超低い。三者間で争っているのなら、新たな戦力はどこも欲しがる。この切り札がある限り、初めからこの作戦は俺たちの掌の上だった。


「ただの馬鹿ではないようだな。だから聞く。何故ブラービを選んだ」


 この質問は想定済みだった。俺はあくまで何も知らない部外者を装わなければならない。そのためファウナ、カスケード、ルーベルトによる徹底した設定を叩き込まれていた。


「そんなのは簡単だ。ここには素晴らしい肉体を持つ人間ばかりいる。それは男だけじゃない、もちろん女性のあんたもだ。だから俺は……ふんっ! ここを選んだ。ここなら間違いなく素晴らしい環境が揃っている。ふんっ!」


 筋肉を想像すると、どうしてもポージングを取りたくなってしまう。俺は今正に、心身共に完璧な変装が出来ていた。


「なるほどな……」


 やはり筋肉は最強だ。冷静に考えれば絶対無理な理由だが、女は納得したように頷いた。


「安心しろ。俺と同じアズ様の聖刻者、他の聖刻者の情報、食事、プロテイン……ふんっ! それと俺が求めるトレーニング機器さえ用意してくれれば、トレーニング……ふんっ! の邪魔にならない範囲で仕事は受けよう」

「それはどんな汚い仕事でもか?」

「俺の筋肉が最高に育つのなら……むんっ! 殺しくらいはお安い物だ。俺は命を司るアズ様の聖刻者だからな」


 命を司れるのなら、その力でいくらでも筋肉を育てればいい。当初俺の設定ではそう論破されたが、やはり筋肉とは己の力で育てていくもの。今の俺に矛盾は無い。ただあるとすれば、今得ている筋肉はその力で得た物という事くらい。


「いいだろう。ならば試してやる」

「試す⁉ 俺の筋肉を……むぅんっ! 俺の筋肉をかっ!」


 試されると言われると、余計に力が入ってしまう。全ての筋肉リストがその力強さを見せつけたがるのは、その言葉のせいなのだろう。


「お前の言う通り、今我々は力を必要としている。だがまだ私はお前を信用していない。だから一つ仕事を頼む。それをこなせばお前の求める物をいくらでも用意してやる」

「なんだ?」

「カポンがかねを作っている工場がある。そこを潰せ」

「金?」

「偽札だ。奴らはそれを使って外貨を得ている。本当はもっと働いてもらいたいんだがな、お前の顔は知られたくない。手始めには簡単な仕事だろ?」


 麻薬売って、偽札まで作って、皇太子たちと手を組んでいるとは、もしかするとカスケードたちがいるカポンが一番悪い組織なのかもしれない。こいつは事が済んだらぶっ潰さなければならないかもしれなかった。


 まぁそれでも、ここをクリアすれば俺の方はかなり話が進む。この作戦は俺が如何に早く潜入できるかで時間が変わるため、嬉しい提案だった。


「いいだろう。終わったらまたここへ来ればいいのか?」

「ドレーサという店に来い」

「そこはどこだ?」

「ここへ来た時のように、誰かに聞け」

「分かった。まぁ分からなくてもあんたの聖刻を追うから問題ない」

「分かっているとは思うが、くれぐれも顔は見られるな。もしお前の仕事だとバレればこの話は無かった事になる」

「見られたら全員殺すだけだ。とにかくその工場とやらの場所を教えろ」


 女はなんだかんだ言ってもそれなりに喜んでいるようで、場所を教えろと言うと一枚のメモをすんなり渡した。


「そこが工場の場所だ。さっさと行け」

「いやちょっと待て」

「なんだ?」

「俺はこの国の字が読めんし、住所も分からん。もっと分かりやすく教えてくれ」

「……一度工場まで送っていく。付いて来い」

「あ、ありがとうございます……」


 こうして、俺のマフィア編が始まった。


 今回のサブタイトルは、あまりにもリーパーの個性が爆発していたため、世界は喜びに溢れているから変更になりました。

 

 リーパーは私が作り上げたキャラのはずでした。しかし読み直して自分でここまで笑わせられた事には、最早命が宿っている別の生命だと感じました。”命を司れるなら、その力で筋肉を育てれば良い”は特に素晴らしかったです。そして、それが分かっていながらもゴリ押しを選ぶ辺りは、馬鹿としか言いようがありません。

 

 次回! 勿論MAX!

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