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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
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世界は嘘で固められている

 マフィアの屋敷にいたルーベルという男。スラリとした体形をしているが、身長は優に二メートルを超えており、放たれるオーラは間違いなく裏の世界の住人だった。しかしその体躯に似合わずとても謙虚で礼儀正しく、それでいて賢い。もっと言えば俺の事を“陛下”と呼ぶほど慕っており、最早彼は唯一無二の存在だった。


「なぁルーベル?」

「はい、何なりと」

「なんでルーベルはこんなとこにいるんだ?」


 それぞれの自己紹介が終わると、早速本題に入った。


「大変申し訳ありませんでした陛下。本来であれば、私自らが陛下の元を訪れなければいけませんでした。この罪は、必ず成果へと変えて陛下へ献上致します」

「いやいや! そういうことじゃないから! 俺は別にルーベル“ト”がなんで来ないなんて怒ってないから!」

「大変申し訳ありませんでした陛下! どんな罰でもお申し付けください! 必ずや応えます!」


 俺を陛下と呼ぶほどだから、ルーベル“ト”にとってこの質問は怒りに感じられたのだろう。それも俺が声を荒げたから余計にプレッシャーを与えてしまったようで、あの巨体のルーベルトは立ち上がり、深々と頭を下げた。

 ここまで来ると、逆に俺が悪い組織のボスにさえ見えた。


 そこへやっぱりカスケードは余計な事を言う。


「気にすることは無いルーベル“ト”。大将は旅をするのが好きなのさ。だから俺たち“も”誰一人として大将が来るまで待っていた」


 もうこいつは完全に俺を敬っていない。その証拠が『誰一人として待っていた』という無理矢理な言葉から滲み出ていた。


 そこへチンパン、フォイちゃんが続く。


“そういう事だルーベル”ト“。ダンナは掟さえ守れば無礼も非礼も気にしない大きな器を持っている。過剰な礼儀はかえってダンナに失礼になるぜ”


 掟って何⁉ 寧ろ無礼非礼は俺の中じゃルール違反だから!


“そうだよ。隊長はあてぃしたちを迎えに来てくれるくらい優しんだよ。だからあてぃしたちは隊長を隊長と認めてるんだよ?”


 本来ならお前たちから来なければいけないの! なんでこいつらはそれを理由に無礼を働き続けてるの⁉ 大体大将、ダンナ、隊長って、いい加減統一すれよ!


 ここに来て改めて分かった、こいつらは全く俺を尊敬していないという事実。三人が口を開いたことで、ルーベルトの陛下もまた俺を馬鹿にしている本心なのではないかと疑いさえ湧いてきた。

 こいつは最悪、他のチームとのトレードも考えておかなければならない事実だった。


 それでもやはり聖刻で引き付け合った仲なのか、どうやらルーベルトはこの三人とは気が合うようで、俺は全く納得していないのにも関わらず、“そうですか”みたいな感じで勝手に腰を下ろした。

 判決。死刑!


 まぁとにかく、元よりもうまともな仲間など期待していなかっただけに、ここは諦めて話を戻す。


「まぁいいや。とにかく、ルーベルトはなんでここにいたのか教えてくれ。聖刻を貰ってるんなら、ここに留まる理由は無いだろう? 大体その強さだ、それなりに聖刻者倒して来てるんだろ? あちこち歩きまわった方が早いだろ?」


 ルーベルトの聖刻のレベルは、俺やカスケードと同じくらい高い。もしかするとここで待ち構えている事で有利に戦っていたのかもしれないが、それでもいつまでもこんな所にいる理由が分からなかった。


「もうお気付きだと思いますが、私はサルーテファミリーの一員です。サルーテファミリーは、カポン、ブラービというファミリーと争っている状態です。これは長年続いており、現在では各ファミリーは聖刻者を抱えました」


 一人いれば軍隊並みの力を持つ聖刻者ともなれば、やはりマフィアは権力を維持するために欲しがる。ルーベルトがここを離れられない理由にはマフィアが絡んでいるとは分かっていたが、予想以上に面倒な話にはため息が出た。それなのにまだ続く。


「特にカポンのカルロスという聖刻者が、マルコという男と入れ替わったという報告もありました。カルロスは闘争を好む男ではありませんでしたが、マルコという男はかなり好戦的な者のようで、各ファミリーはさらに緊張状態となりました」


 カルロスは、間違いなくカスケードが倒したカルロスの事だろう。しかしその後カスケードはカルロスからは何も引き継いではいない。

 あれから僅か三日ほどでマルコという新たな聖刻者を抱え込んだマフィアの力には、脱帽だった。


「サルーテは家族です。陛下の心中はお察ししますが、それでも尚家族のために問題を解決したいと思っています。大変おこがましいですが、どうか陛下、今一時私にお時間をお与え頂きたいのです。全てが解決した時、必ずや陛下の元へ馳せ参じます」


 そう言うとルーベルトは椅子から立ち上がり、胸に手を当て跪いた。かなり遠いが。


 ルーベルトの話から、大体の経緯は理解した。そして手伝えとは言わず、問題が解決するまで待ってくれという姿勢にも納得した。しかし三つのマフィアが聖刻者を抱えて争っているという話は、解決するのにかなりの時間を要する。


 俺たちは決して急ぎ足で旅をしているわけではないが、人間の揉め事で時間を潰しているほど暇ではない。

 やっと見つけた仲間だけに、ここはかなり慎重な判断が必要だった。


 そこへ登場するのが、期待を裏切らない男、やはりカスケードだった。


「一つ良いかルーベルト」

「何でしょう?」

「ブラービの聖刻者は誰の聖刻を持っている?」

「私と同じ、ルキフェル様の聖刻です」

「相手は黄泉返りか?」

「そうです」


 これまた面倒な話。少なくともルーベルトは同じ聖刻を持つ相手を潰したいはず。いや、仮にマルコという男も同じ聖刻者であれば、三竦みとなり増々身動きが取れなくなる。

 聖刻者同士でのぶつかり合いなら何とかなるが、マフィアまで絡めば話はさらにややこしくなり、こいつは手伝わざるを得ない状況になってきた。


 そこを解決するのが、やはり出来る男、迷探偵カスケードだった。


「そうか。それならば話は早い」

「話は早い? どういう事だよカスケード? なんか良い事閃いたのか?」

「別に閃いたわけじゃない。簡単な話だ。ルーベルトがその同じ聖刻者を倒せば良いだけだ」

「それが出来ないからルーベルトはずっとここにいんだろ? もし下手にルーベルトがそんなことすれば、マルコって奴が弱ったとこ狙ってくるだろ?」

「それは問題ない大将」

「何がだよ?」

「何故なら、マルコというのは、俺だからだ」

「はぁ?」


 どうやらカスケードは、遂に自分の名前も分からなくなってしまったようだ。いや、もしかすると本名がマルコかもしれないが、それでもここでそっちのマルコとこっちのマルコが分からなくなってしまうとは、末期だった。


「あれから店で飲むようになっていたら、カポンのボスが挨拶に来てな。俺は断ったんだが、聖刻者がいなくなるとどうしても困ると頼まれて、レオネの事もあり仕方なく引き受けた」

「ええっ⁉」

「だが安心してくれ大将。俺とチンパンは名前だけを貸してるだけだ。もちろん偽名だ。それに俺たちはあくまでただの最高顧問だから、特にこの件に関係がある訳じゃない」


 名前を貸していても最高顧問であれば、間違いなく関係性はある。それにしれっとチンパンまで取り込まれており、完全な裏切者だった。


 このいきなりの敵の襲来には、抗争が勃発してもおかしくはなかった。しかしルーベルトは先輩よりもかなり賢い男で、この全く空気を読めないカスケードの発言に対しても穏やかな空気を変えなかった。


「流石は我が陛下。既に策をご用意なさっておりましたか。私めの未熟さのために大変ご迷惑をお掛け致しました」

「いやいや、違うから! っというか大丈夫なのかよルーベルト⁉ こいつら敵方のスパイだぞ⁉ こんな所にいれたらヤバいだろう⁉」


 俺だったらぶっ殺す。それが例え陛下の僕であっても。大体こんな所をカポンの奴に見られたら大変なことになる。これはしばらくルーベルトの件には関わらない方が賢明だった。


 それをカスケードは分かっていないのか、能天気な事を言う。


「何を言っている大将? これは逆にチャンスだ」

「どこがだよ⁉ お前、こんな所をカポンの奴らに見られたらどうする気だよ⁉」

「問題ないさ。そうなれば俺たちは最高顧問を辞める。奴らは、聖刻者がバックに付いているという後ろ盾だけが欲しいんだ」

「そ、それはそうかも知んねぇけどさ……」

「俺たちの目的はルーベルトを仲間に加える事。今優先されるのは、この件をまとめてルーベルトが心置きなく旅立てるようにすることだ。俺たちにマフィアのごたごたは関係ない」

「ま、まぁ……それはそうだけど……」

 

 だからと言って、名前だけ最高顧問として貸すのは、人としてどうかと思う。


「俺たちだけが今、三竦みではない事を知っている。これを利用すればルーベルトはブラービの聖刻者と一騎打ちが出来る。そこが終われば、後は俺とルーベルトで上手く話をまとめられる。本来なら数年掛かりそうな問題だったが、これなら数週間もあれば片が付くだろう」


 言っている事はかなり理にかなっている。だがどう考えてもその後のごたごたは簡単に片付かなさそうで、最悪この地を地獄と化しそうな気がしてならなかった。


「本当に上手くいくのか? 下手したらデカい抗争になるんじゃないのか?」

「そのために俺たちがいるんだろう大将? いざとなれば聖刻の力でなんとかなるだろう」

「ならんだろ」


 結局最後は力任せ頼り。下手をしたらこの地に俺たちの悪名だけが刻まれる。俺としては正直人間社会がどうなろうと知ったこっちゃないが、真面目に生きている人にまで迷惑をかけるのは気が引けた。


「とにかく俺たちを信じてくれ大将。責任は全て俺が取る」

「責任取るって言ったって……」


 疑いの目を向けてもカスケードは何も言わなかった。それはまるで俺を試しているかのようで、カスケードは俺の事を信じているという強い意思が伝わった。


「分かった。そん時ゃ俺も……」


 そこまで言うと、チンパンとフォイちゃんの物言わぬ視線を感じた。


「俺たちも一緒にここに残って、全部解決するまで手伝う。それでも良いか?」

「あぁ。構わない。その時は頼むぜ大将」


 結局そういう事。俺たちはチーム。五人合わせて一つのチーム。ここで仲間一人の悩みも解決できないようではどの道生き残れない。

 第八研究所編を何とか逃れたとしても、やっぱり神の力を持つ作者には敵わないようで、結局俺たちはマフィア編へと突入する羽目になった。


 ルーベルがルーベルトへ変わったのは、リーパーが焦ったときに名前を間違えた事と、リーパーにとってはルーベルでは呼びづらかったからです。これは、道産子特有の、棒っこや子供を表すこっこなどの、何でもこを付けたがる習性が影響しています。そして、それを楽しむかのようにカスケードたちがルーベルトと呼んだことで、もうリーパーの中ではルーベルトになってしまいました。

 さらに、ルーベルもこれは陛下のお怒りの表れだと受け取ったため、ルーベルトになりました。

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