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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
163/186

人材

 突然始まった黒い紋章を持つ組織の戦闘。多くの人がいる街中での戦闘は大きな被害をもたらし、大パニックを引き起こした。

 この騒ぎに俺たちは、ヒーローとしてではなく、ただの挑発と受け取り粛正するために多くの犠牲を払い、現場へと急行した。


「このまま突っ込む! 付いて来い!」


 力の使い方を何とか掴み、カスケードたちに付いて行けるようになった俺はそう言うと前へ出て、勢いもそのままに地上へと降りた。

 

 奴らの位置も、今どのような状態になっているのかも、既に領域内に収めており全て見えていた。だから迷わず飛び降りると、戦う黒い紋章の奴らと高貴そうな制服を着た人間との間を目掛けて着地した。


 おそらく普通の人間では反応できない速度での突入だった。しかし黒い紋章を持つ奴らも制服を着た人間も相当な実力者のようで、全員が無傷で回避する。

 この反応速度には、世の中にはまだまだ強い人間が存在する事を教え、意外と脆弱ではなかった人間に少し感動を覚えた。


「なんだお前たちは?」


 黒い紋章を持つ奴らは六人。それに対して制服を着た男女は六……六人か七人くらい。その中でも特に黒い紋章を持つ金髪のツンツン頭をした男は攻撃的な性格のようで、聖刻者の俺たちに対しても怯むことなく生意気な口を利く。


「テメェらに名乗る必要はねぇよ。加護印すらもらえなかった落ちこぼれ共には」

「何だと?」


 多分相性なのだろう。黒い紋章が聖刻を模写した物であるせいか、間近に来れば来るほど苛立ちのような感情が沸いた。


「テメェらにだって俺たちが近くに居たことくらい分かるだろ? それともそれすら分からないくらい低能なのかよ、その紋章は?」

「聖刻者っていうのは、どいつもこいつも勘違い野郎なのかよ? うんな猿共を連れて」

「殺すぞテメェ」


 随分とまぁ自惚れていらっしゃるようで、俺だけでなくチンパンたちまで馬鹿にするツンツン頭には、マジで粛正が必要だと思った。

 しかしどうやら馬鹿はツンツン頭だけだったようで、後ろにいた能面みたいに表情が変わらない女が止めに入った。


「止めろ。相手は我々よりも遥かに強い。死にたいのなら我々を巻き込むな」

「何だと! 大将が死んだおまけで副リーダーになったくせに、何か勘違いしてねぇか! 俺はお前を認めてはいねぇぞ!」

「認めるか認めないかは好きにしろ。この事態を招いたのはお前だ。お前がこの責任を取れるのなら問題ない」

「責任? それを取るのがお前の責任だろ」

「ならば少し黙っていろ」


 能面みたいな女がどういった経緯で今の役職に就いたのかは知らない。ただ、奴らの中では礼儀を心得ているようで、話が通じそうだった。


「部下が失礼を致しました、申し訳ありません。我々は、皆様方に危害を及ぼす考えは御座いませんでした。ご容赦くださいませ」


 かなり礼儀は出来ているようで、物凄く敬いを感じた。だが、表情が変わらないせいか、表面上だけなのか本心なのかは全くの不明だった。

 それでもまぁ、悪い気はしなかった。


「なんでこんなとこで暴れた?」

「これもひとえに私の管理不足です」

「なるほど」


 礼儀も出来て、自分の非も素直に認める。黒い紋章を持っているが、優秀な人材だった。表情は変わらないが。

 

「じゃあ、なんでこの人たちと戦っていた?」


 学ランなのか軍服なのかは分からないが、高貴そうな服を着た、俺よりも少し年齢が高そうな男女。なんかゲームやアニメに出てきそうな彼らは何者なのか。多分悪の組織と戦う何かそういうアレなのだろうが、一応聞いておきたかった。


「聖刻者様と言えど、我々の口からはお伝えする事は出来ません。お察し願います」


 多分もっと偉い人から言うなと言われているのだろう。こんないつ殺されるかも分からない状況でも忠実に命令に従う姿勢には、是非うちのチームに引き抜きたいくらいだった。


「分かった。それは後でこの人たちから聞く」

「ありがとうございます」


 視線を外さず軽く会釈をする女は、礼儀だけじゃなく戦闘経験も豊富なようで、一切隙を見せない強さも合格だった。


「まぁ、ただ、このままって訳にはいかないよな? こっちにも色々事情があるんだ。そこの、生意気な口を利く金髪野郎は置いて行け。それで不問にしてやる」

「何だと!」


 別に黒い紋章を持つ組織にも皇太子さまの組織にも興味は無い。あるのはクソ生意気なクソ野郎をぶっ飛ばしたいだけの事情。本来なら皆殺しだってあり得たが、礼儀正しい能面女に免じてそれで許すことにした。

 まぁそんな簡単な話ではないとは分かってるが。っと思っていると……


「分かりました」

「おいちょっと待て! 俺を裏切るつもりか!」

「言ったはずだ。この事態を招いたのはお前だと。我々の全滅とお前一人の犠牲。どちらが有益か分かるだろう?」 

「テメェ……」


 おそらく奴らはそれほど統率性がある組織ではない。簡単に仲間一人を犠牲にしてもチームを生かそうとする思想を有している姿に、聖刻の偽物を選んだだけの素質は十分だった。


「大変ご迷惑をお掛け致しました。寛大なお心に感謝致します」


 アイツらの話はまとまっていない。だけど女は今の状況から最善を選んだようで、勝手に話を決めると有無を言わさず話をまとめ始めた。


「我々は此れにて引き上げます。ありがとうございました」


 あのツンツン頭以外は相当な実力者揃いのようで、女が話をまとめると有無を言わさず退散を決め込むようで、あれだけ礼儀正しくしていたはずなのに、女の話が終わると勝手に何かの力を発動させ、ツンツン頭だけを残して消え去った。


 その流れるような手際の良さは完璧すぎて、俺が『ちょっと待て』と止める間なく逃げ去る姿は、逆に無礼と言わざるを得なかった。

 特に今まで戦っていた制服の男女プラス、俺たち聖刻者のチームを目の前に残されたツンツン頭という置き土産は悲惨で、俺の方が気まずかった。


「…………」

「くそっ! いいぜ。相手をしてやるよ。くそ桃太郎が」


 この状況でも息巻くツンツン頭。こいつは……凄い奴だ。


「くそ桃太郎? あんた何歳だよ? 俺より年上に見えるけど。礼儀ってもん知らねぇのかよ?」


 挑発するから挑発するような言葉を返したが、内心は仲間に見捨てられた彼を可哀想だと思っていた。だから今は、彼の言葉に苛立ちは一切感じなかった。

 そんでもって、こんな色々と沢山の人が見ている手前、彼の威厳のためにもきっちりと落とし前を付けてやる必要もあった。


「まぁいいや。とにかくかかって来い。身の程を教えてやるよ」


 彼女たちがツンツン頭を置いて早々に逃げたのは、表情に出ていないだけで相当焦っていたからです。それは彼女たちはリーパーの父親の影響で、かなりリーパーを恐れていたからです。勿論ここでは口に出しませんでしたが、彼女たちはリーパーを知っています。

 リーパーの父親であるルーカスは、組織においてはアレックスでさえ逆らえない影の支配者的な立ち位置で、かなり傍若無人で絶対の上下関係を重んじる人物です。特にルーカス独自の法で容赦なく部下を粛正する姿は恐れられており、その息子もまた同じような残虐な人間だというイメージが持たれています。そのイメージは組織内だけではなく、これまでの行動からの報道もあり、世間的に広がっており、一部の者は、神の力に自惚れた殺戮者だとさえ恐れています。

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