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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
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「出来たっ!」


 神様に授かった事も忘れ、己の力に過信していた俺は、いつもいたはずの友達たちとの間についていた大きな差に打ちひしがれた。


 彼らは慢心せず陰で日々精進を重ね続け、その努力でさえ一切見せなかった。それは明確な目的を持ち、基礎鍛錬を怠らず考え続け、小さくとも一歩ずつ、それでいてゆっくりと歩き続ける。其れだけではない。その歩みを一日も怠らず毎日確実に進め、これからも何度転んでも諦めずに繰り返していく。

 

 常に肩を並べ歩き続けていたと思っていた彼らは、いつの間にか俺の遥か先におり、その差は埋まらないだろう。


 皆言ってくれれば良かったのに! きちんと努力しないと駄目だって! それもさ、わざわざ俺に分からないように努力していてさ、それで俺の事リーダーみたいな感じで慕った振りしてさ、ズルいよ! 


 絶望の淵で芽生えた怒り。まるで俺を貶めるような事ばかりする彼らには、あのフォイちゃんですら裏切り者に見えた。

 しかしその怒りが俺を変えた。穏やかな心を持ち、激しい怒りによって覚醒する。そう、俺は今己の限界を超えた。


「こういう事だったのか……」


 激しい怒りにより友に助言を貰うという屈辱を乗り越えた俺は、遂に新たな境地クリアマインドの力を手に入れた。


 今までの魂の力を肉体への強化ではなく、エネルギーとして扱う。そして己もまたエネルギーの塊として認識することで、他者との融合。

 これにより肉体は魂の炎へと変換され、物質ではなく純粋なエネルギーへと変化。


 その力は強大で、溢れ出るエネルギーは人知を遥かに超越する。まぁ、実際はそんな簡単に行かなくて、今は移動するだけの足だけだけど……


 ま、まぁ、それでも、魂の扱いの本質が分かった事で、今までの肉体強化がうんちに見えるほどの力の扱い方を覚えた。これなら俺を散々貶めてきた友達たちを懲らしめるくらいは出来そうで、今はまぁ、これで勘弁するしかない。後々“暇”があったら努力して完全な扱い方を覚える事にしようと思います。

 まぁとにかく、これで頑張ります。


「良し。直ぐに追いつくぜ」


 カスケードたちは、もうマジで俺を置いて行ってもうマジで遥か彼方にいる。だけどこの力があれば十分。いざ友の元へ参上という感じで飛び出した。すると……


 その加速は、ミサイルというにはあまりにも速すぎた。


「おおおおおおおおおぉぉぉ!」

 

 一瞬だった。カスケードたちに追い付こうと勢いよく飛び出すと、あまりの加速に視界がグラグラになって何も分からなくなり、気付く間もなく音を置き去りにしてどっかにぶつかった。

 ぶつかっても速すぎて何が起こったのかも分からず、気付けばラピュタのエンディング曲をバックに黒煙を上げる何かを見下ろしていて、そこで初めて自分は死んだのだと気付くほどだった。


「…………」


 なっ、何があった⁉


 もし俺が蘇生の力を使えなかったら、ここで物語は終了だろう。っというか、黒い紋章を持つ奴らよりも酷い被害を出しているほどで、ちょっと区画以上を吹き飛ばしている状況に、このまま死んだ方が良いんじゃないかと思ってしまった。


「あ……あいつらめ~! 許さんぞー!」


 ここまで来ると不思議なもので、この甚大な被害も黒い紋章の奴らが暴れたせいだと思ってしまう。心とは本当に理解し難い物だった。

 

 そんな事を思っていると、流石にこの被害にはカスケードたちも戻らずにいられなかったのか、戻って来た。


「大将―! いるのか!」


“ダンナー! どこにいるんだ! 何があったんだ!」


“隊長―!”


 本当に優しい奴らだ。口裏を合わせて貶めたり、あっさり見捨てて行ったりするのに、俺を心配してわざわざ戻って来てくれた。それも、これをやったのが俺だと分かっているのに知らないふりまでして。

 姿を見せるのが超気まずかった。


「大将! どこに……何があったんだ?」

「い、いや……な、なんかさ、俺が行こうかと思ったらさ……なんか飛んできて、こうなった……た、多分、あいつらの攻撃の、流れ弾だと、思う……」

「そうなのか⁉」

「た、多分……」


 もう何人死んだのか分からない。もしこれを俺がやったと知られたら、カスケードたちは俺を許さないだろう。それどころか絶対ファウナにも言う。そうなったら俺はもう終わりだ。た、たまにゃ嘘を付いても罰は当たらない。それに賭けるしかなかった。


“なんて酷い奴らだ。力の使い方も知らないのか。こいつはちょっと許せねぇな”


“関係の無い人たちもいっぱい死んだ。家族も、親子も、兄弟も……こんな気持ちになるのは初めてだよ”


「フォイもチンパンも落ち着け。争いなんてこんな物だ。他人の死にいちいち感傷的になるな」


“でもカスケード。”あたし”たちはこんな事をするために聖刻を貰ったんじゃないんだよ?”


「分かっている。だからそれでいい。その気持ちは忘れるな。そうすれば自分の手は誰かを傷付けるためにあるんじゃない事を忘れない。感情は昂っても頭は常に冷静でいろ」


“……分かった”


 マジであいつらは許つぇねぇ! こんなのもう絶対俺がやったなんて言えない。こんな……こんな……


「ご、ごめん皆……コレ俺がやった……」


『⁉』


「言われた通りやったら上手くいって、み、皆に追い付こうと思って思い切り踏ん張ったら制御できなくてぶつかった……そしたら……こうなった……」

「…………」


 暗い沈黙が出来た。それほど俺が起こした事は許される事じゃなかった。


「殴ってくれカスケード。そうじゃなきゃ俺は……」

「いや。それは俺がする事じゃない」

「え……?」

「それが許されるのは、大将に殺された者、これによって全てを失われた者だけだ」


 いっそぶん殴ってくれた方が楽だった。それほど重い業を背負ってしまった。爆発現場はもうめちゃめちゃで、怪我人を救助するとかそんなレベルじゃない。それこそ悟空にぶっ飛ばされたベジータでも突っ込んで来たかのような惨状で、救えるものなど何一つ無かった。


 俺はこの世界はずっとギャグマンガの世界だと思っていたのに、まさかこんな事になるとは夢にも思わなかった。

 どうやらこの物語は、やっぱりここで終わりを告げたようだった。


「まぁただ、大将は命を司るアズ神様の力を持つ。何が正しいかは俺なんかよりもよっぽど知っているんじゃないのか?」

 

 カスケードの言う通り。確かに俺は命を司る力を授かっている。少しだが、気持ちが楽になった。


「まぁそうだな……仕方ないっか。これも運命だ」

「馬鹿野郎!」


“バチンッ!”


「おうっ!」


 カスケードが言ったから、それはそれでしょうがないと言ったのに、まさかの本気のビンタを喰らった。


「大将。命はそんなに軽い物なのか? そんな簡単なものなのか?」

「そんな事言ったって終わっちまったもんは仕方ねぇだろ! どうせ命はいつか尽きるんだよ! 大体これだってあいつらが悪いんだろ! アイツらが暴れなきゃこんな事にならなかったんだよ! 悪いのは全部あいつらのせいだ!」


“最低……”

 

 フォイちゃんの本気の最低発言は、めちゃめちゃ胸に刺さった。だけどここで止まる訳には行かなかった。


「良いか良く聞け! 俺はアズ様の力を持ってんだよ! 俺だってどうしようもないんだよ! 俺だってこんなことしたくなかったんだよ! なのに俺がアズ様の聖刻持ってるから殺された魂たちだって誰も俺に文句言いに来れないし、もうどうしようもないんだよ!」


 殺された魂だって、本当はめっちゃ文句がある。だけどアズ様の力のせいで誰も文句も言えない。そりゃそう、だって神の力だもん! こんな悪い事しても誰も責めず、ビンタしてくれたカスケードにはほんと感謝しかない。ほんとありがとうございますっ!


 俺の本気の魂の逆ギレ。それはほぼ神の言葉と変わらず、流石のカスケードたちもこれ以上俺を責める事は出来なかった。

 

「この業は必ず背負う。アズ様の聖刻者だとかそんなの関係なく、俺、リーパー・アルバインとして。だから……先を急ごう」


 おそらくここで出来た皆との溝は、この先の旅にも必ず響くだろう。だけどこんな所で立ち止まってはいられない。

 

 俺が静かに言うとそれ以上誰も何も言わず、先を急いだ。


 俺の人生において最悪の一日だった。


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