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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
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コーヒータイム

 カルロスとの戦いを終え、大幅にレベルアップしたカスケード。この勢いに乗り次なる目的地を目指す俺たちは、まさかのカルロスの店から最寄りのホテルに滞在していた。


“ちゅん! ちゅん! ちゅん!”


 最上級ではないが、それなりに高価なホテルで向える朝は、雀の鳴き声の中、街を見下ろしながらのコーヒータイムで始まった。


 秋空に広がる青空は、例え異国であっても爽やかな空気を伝え、穏やかな今日という日の始まりを祝福する。そこには平和が広がっており、時代は正に日曜日午前八時という感じだった。


「今日で何日目だ?」

「多分三日目だ大将」

「そうか……」


 読めんだか読めないのか知らないが、外国の新聞を広げながらタバコを吸うカスケードは、今日も朝のお父さんだった。


“なぁダンナ。俺たちは後幾つここに居れば良いんだ?”


「さぁ? 知らねぇ」


 チンパンジーの主食は一体何なのかは知らないが、今日も果物で朝食を摂るチンパンは、今日も飼育されたチンパンジーだった。


“やっぱりあの人、あてぃしたちとは行けないんじゃないの?”


「フォイちゃんもそう思う?」


“うん”


 三日も経てば小さな巣も完成して、いよいよこれから本格的な工事が始まるフォイちゃんは、今日も親方だった。


「どうするんだ大将。待つのは良いが、これ以上バカンスしている訳にもいかない」

「そんなことは分かってんだよ。だけどファウナがいんべ。誰かラクリマの所へ行った方が良いって言ってくんねぇか?」


 そう言うと、だ~れも返事をしなかった。


 俺たちが三日もホテルに滞在しているのは、クレアのせいだった。っと言うのも、カルロス戦は相当なストレスを与えたようで、戦いが終わるとクレアは高熱を出した。そこでファウナが急遽ホテルを手配して今に至る。

 まぁこれは別にクレアが悪いというわけでもなく、雰囲気の悪い店、命がけのギャンブル、俺の聖刻、フォイちゃんの虐殺、そしてカルロスの自殺という事が一度に起こり過ぎたのが原因で、元々鬱を発症していなくても普通の人なら当然。

 だから俺たちはファウナが怖いという前提もあるが、待つしかなかった。


「まぁとにかく待つしかねぇべよ。オメェとチンパンは毎日美味い酒飲めっから問題ねぇだろ?」


 ホテルに滞在してから、やることの無いカスケードとチンパンは毎日カルロスの店に足を運んでいる。


「まぁな。一応あの店は俺の物だ。毎日美味い酒が飲み放題だ。それにギャンブルも出来る。いつでも遊びに来ると良い大将」


“そうだぜダンナ。カスケードの店にゃあ、別嬪とは言えねぇが女もいる。ダンナも来ると良い”


「行かねぇよ!」


 この二人は、どんだけハードボイルドに憧れてるのか知らないが、最初は要らないとか言いながらも今では隠れ家的な感覚で通い詰めている。特に鬱陶しいのが無駄にサングラスを掛ける姿で、クレア以上にこの負の環境に憑りつかれていた。


 そんな感じで、今日も朝からくっだらない話をしながら過ごしていると、流石にこの場に留まり過ぎた影響でも出たのか、異様な気配が漂ってきた。


「――ん?」


 コーヒータイムも終わり、後はカスケードとチンパンが今日も飲みに出かけるまでの緩やかな時間の中、意味を成さない談笑をしていると、突然の気配に全員が眉を顰めた。


「なんだこれは?」

「あぁ、多分前にファウナが言っていた、謎の紋章を持つ奴らの気配だ」

「聖刻を模した、黒い紋章というやつか大将?」

「あぁ。聖刻を貰った時、一度だけ会ったことがある。そん時は貰ったばかりで良く分からなかったけど、多分これがそうだと思う」

「どうする?」

「別に俺たちには関係ねぇよ。所詮聖刻を模した雑魚だ。構うな」


 確証は無くても、確信はあった。だが所詮雑魚。気配を感じた所で俺たちには全く関係ない話だった。


「それよりさ、さっきの話だけど。フォイちゃんよりオニヤンマの方が強いって本当?」


“うん、本当だよ隊長。アイツらマジでヤバイから!”


「マジで⁉ だってさ、フォイちゃんたちってさ――」


 黒い紋章を持つ組織。彼らは魔王復活を企む、俺の親父が所属する組織。既に世界中の国々にまで勢力を伸ばし、裏社会の組織まで傘下に加えている。リーダーであるキャメロットの皇太子は瘴気の研究まで行っており、黒い紋章はそこから生まれた可能性もあった。

 だけど俺たちには全然関係ない話。何故なら、俺たちの目的は魔王討伐だから。だからこの話はここで終わるはずだった。


 ――それからしばらくして。


「――でもそれってさ、チンパンの歯が異常に硬いってだけの話し……チッ!」


 チンパンは木なら嚙み千切れるという話題で盛り上がっていると、鬱陶しい黒い紋章の気配がトラブルでも起こしたのか、今度は無駄に争い始めた。

 まぁそれでも、奴らが誰と争おうが俺たちには関係ない話。かなり目障りではあるが、チンパンの歯の硬さの真偽に比べれば、取るに足らない出来事だった。


「いやでもさ、流石にそれは言い過ぎじゃないの? 歯が硬くってもさ……」


 ――数分後。


“バコ~ン!”

“……ピピピッ! ピピピッ!”

“プゥゥゥ~!”


「チッ!」


 黒い紋章の奴らは、相当頭がおかしいのか、それとも俺たちへの当て付けなのかは知らないが、街中でも派手にバトっているようで次第に爆音を轟かせるようになり、遂には緊急車両まで動き出す大騒ぎを起こし始めた。


「どうする大将?」

「決まってんだろ! 皆! ぶん殴りに行くぞ!」

 

 さすがに我慢の限界だった。ただでさえあの胡散臭い気配には苛立っていたのに、奴らは俺たちの気配には気付いているはずなのにわざわざこんな所で騒ぎを起こした。こいつはもう、完全な挑発だった。


「おい準備しろカスケード! 行くぞ!」

「もう準備は出来ている」


 奴らの気配にはどうやらカスケードたちも苛立ちを感じていたようで、全員の腰が軽かった。

 そりゃもう待ってましたと言わんばかりで、ファウナに一声掛けると俺たちは急ぎ足でホテルを出た。


 ホテルを出ると、奴らは相当派手にやっているようで、ここからでも焦げ臭さが分かり、建物の奥の空には黒煙が立ち上っていた。

 道路は異常を察知した人々が立ち止まり黒煙の方を眺め、車もあちらこちらに停止しており異常事態だった。少し遠くからは爆発音と緊急車両のけたたましい音が響き渡り、街は完全に災害に包まれていた。


 そんな街を、苛立ちに包まれて俺たちは野次馬の如し勢いで進んだ。


「くそっ! どっちだ! どっちが近い!」


 しかしだ。知らない街となると、例え相手の位置が分かっていても建物が邪魔でなかなか辿り着けない。特に日本と違い、碁盤の目のような造りをしていない道路はT字路が多く、次の交差点までの中間くらいに出される。

 これが余計に俺をイライラさせた。


「そうカリカリするな大将」


“そうだぜダンナ。最近のダンナは少しイライラし過ぎだ。そろそろ煙草デビューの時期なんじゃないのか?”


「やかましい!」


 最近イライラしていたのは、クレアのせい。なんかある度にファウナが過保護にするから足が止まり、俺たちのリズムを狂わせていた。だけど今イラついているのは、道に迷っているせい! これで奴らに逃げられようものなら、今日はチンパンの頭が禿げるくらい毛を毟る可能性は大だった。


 そんなチンパンの頭を、フォイちゃんの一言が救う。


「どうなってんだよこの街は! 何でこんなに迷路みたいな道になってんだよ! 家が邪魔だ!」


“じゃあさ隊長。あてぃしみたいに飛んでいけばいいじゃん?”


「飛ぶって……ナイスフォイちゃん! おい! 二人とも付いて来れるか?」


 空を飛ぶのはちょっと無理。だけど聖刻の力を使えば、目の前の建物を蹴上がって乗り越えていける。

 

 この問いに流石は二人。あの憎たらしいニヒルな笑みを浮かべる。


“派手にやっても良いんですかい、ダンナ?”


「行けんのか行けないのか聞いてんの!」


“あっしらを誰だと思ってるんですかいダンナ? ダンナが行くとこどこまでもお供するのが俺たちですぜぃ。なぁ相棒?”


「当然だ。大将、死ぬ気で走った方が良い。俺たちは大将よりも速いぜ」


 多分二人はこういうのが大好き。久しぶりのうぜぇキャラの登場に頬が引き攣った。


「上等だよ! ぶっちぎってやっから、オメェらこそ死ぬ気で付いて来いよ!」


 最近派手な戦いも無かったし、まともな運動もしていなかった。特に暇があればクレアとファウナが洋服を買いに行ったりとかあったしで、俺も久しぶりに派手に暴れ回りたかった。

 二人のキャラは鬱陶しいが、たまのイベントには心が躍った。


「フォイちゃんもしっかり付いて来てよ?」


“任せて隊長。多分この中じゃあてぃしが一番速いから、足引っ張んないでね?”


 フォイちゃんも久しぶりの運動にはワクワクしているようで、大分声は荒れていたがチームとしての雰囲気は悪くは無かった。


「上等だよフォイちゃん。んじゃ行くぞ!」


 リーパーがイラついているのはクレアのせいもありますが、黒い紋章が原因です。これは聖刻の模写というのが関係しており、聖刻者は漏れなく嫌います。聖刻に対し強い敬意を抱いているリーパーは、特にこの気配を嫌います。

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