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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
二章
16/176

キリアの実力

「それでは、次はキリアさん。よろしくお願いします」

「はい」


 クレア、ジョニーが、全く歯が立たずに敗北したヴィニシウス先生の次の相手は、キリアだった。


 キリアが得意とする武器はサーベルで、左手には盾を持つ。その佇まいは独特な物があり、全く剣について知らない俺は、独自の剣技なのだと感じた。


「ほぉ~。なかなか面白いスタイルだな」


 やはり我流か何かなのか、キリアを見てジョニーは感心したように言う。


「そうなのかジョニー?」

「あぁ。サーベルは本来馬に乗って戦うために、片手で扱えるように軽く作られた剣だ。だから基本的に片方の手は手綱を持つか、地上なら使わない手を切られないよう背中に回す。それにサーベルは軽いからこその利点があって、前へ出し構えれば防御にも優れる。盾を持って戦うとそれが邪魔になり剣速とリーチを悪くするから、切ることが得意なサーベルは、鎧を着た戦いではほとんど意味を成さないんだ」

「へぇ~そうなんだ」

「あぁ」


 流石世界大会に出場しただけあって、ジョニーは色々な剣について良く知っている。


「だが、あのスタイルはとても実践的だ」

「そうなの?」

「鎧を作るよりも盾を作った方が安値だから、昔はほとんどの兵士は盾を持ったあのスタイルが基本だったらしい。もしかしたらキリアが習っていた剣術は、実践を意識したものなのかもしれない」

「へぇ~……でもあの曲がった剣と盾っていうのは、なんか違和感あるよな? 普通盾には両刃の剣じゃないのか?」

「そうか? そう感じるのは、ゲームのし過ぎだからじゃないのか?」

「…………」


 ちゃんと宿題もしてます~。


 何かチクリと刺してきたが、相当キリアのスタイルには興味があるようで、ジョニーは期待するように明るい表情を見せる。


「まぁでも、この試合は見ものだぞ。何せあのキリアという男、U-20の片手剣世界大会で三位の実力を誇る男だからな」

「そうなのか⁉」

「おお! 凄いですね!」


 マジでっ⁉ なんかいつもクレアの機嫌ばかり気にして、貴族の主従関係みたいな感じなのに、あいつ意外と凄い奴だった! 


 この言葉にはリリアたちも驚いた表情を見せ、ちょっと舐めてたキリアの実力に、今までスネ夫みたいに見えてたキリアが全く別人に見えた。


「あぁ本当だ。去年俺が世界大会に出たときレポーターが、『同じ英雄の子孫のキリアが三位になりました。コメントを下さい』としつこく聞いて来ていたから間違いない」

「あ~……そうなんだ……」

「そうだ」


 それあれだよね。ジョニーが負けたときに聞かれたんだよね? だってお前のインタビュー、ネットで見たの、負けて悔しそうにしてる時だったもん……それにジョニーがそんな事言うのって絶対根に持ってる時だもん……。


 貴重な情報だったが、敗戦後にそれを聞かれてイライラしたジョニーの気持ちが手に取るように分かり、それ以上の追及はしないで大人しくキリア対先生の試合を観戦する事にした。


 そしていよいよ始まった試合は、礼から始まり、先生の受けの姿勢で静かな立ち上がりとなった。


 キリアは、俺たちが教えられた、盾を前にして斜に構える基本的な構えを取る。しかしその姿は俺たちに教えてくれた先生以上に慣れた美しいフォームをしており、伊達に世界三位の肩書を持つだけはあると感心させられた。

 さらに凄い事に、盾を持つ有利性か熟練度の差か、どんどん先生に近づくと盾で先生の剣先をチョンチョン触れるほど間合いを詰めた。そしてなんか剣道の凄い人同士の戦いのようなコチョコチョを先生と始めた。

  

 おぉ! やるなキリア!


「おぉ! 凄いですねキリア!」

「はい! 何と言っても流石世界三位ですからねヒー!」 


 この戦いに特にヒー大興奮! それもそのはず。ヒーは職人気質のような性格をしており、クレアやジョニーはどちらかと言えばエンターテイメント性の方が強かったが、この戦いは地味だけど正に玄人好みの戦い。そんな戦いは、ヒーには堪らない物があるらしい。


 そんな玄人好みの戦いは、盾と剣での主導権争いから始まり、次第にエスカレートしていった。


 最初は、小競り合いのような感じで互いに嫌がるように突き合っていたが、キリアがさらに近づこうと先生の剣を弾くように叩き出すと先生も力を入れ出し、ぶつかり合う音が激しくなる。するとキリアが益々ヒートアップし始め、地面を音がするほど強く踏み鳴らし、威嚇するように勢いよく入ろうと体を前へ揺する。


 それは正にプロ同士の戦いで、これには見学する俺たちも熱くなる。


「おお! 行けキリア!」

「行けますよキリア!」

「頑張って下さい!」

「もう少しですよキリアさん!」


 今まで静観していたエリックまでもが声を上げる。その瞬間は、俺たち三年一組がクラスとしてまとまった感があり、最早キリアは俺たちを代表して先生を倒す味方だった。


「やりますねキリア。どうですかジョニー? 貴方でも厳しいのではないですか?」

「そうだな。だが俺は姉さんに鍛えられてるからな。踏み込んでからの動き次第だが、剣と盾がある分姉さんよりも遅いだろうから、逆にこちらから懐に飛び込ませればいい勝負が出来るかもしれない」

「良い判断ですねジョニー。キリアが剣には頼らないタイプであれば、面白い戦いが見られそうです」

「あぁ」


 格闘家一族だけあって、ジョニーとフィリアは、まるでアニメとかで出てくる、最初は超強いみたいなライバルのように、静かにキリアを分析する。しかしあの少し上から目線のような感じに、多分こいつらはそのうちやられて、後に解説キャラになるのだろうと思ってしまった。寧ろ全く興味なさそうに欠伸をするアドラとパオラの方が強そうだった。


 そんなことを思っていると、ここでいよいよクライマックスを迎えるのか、キリアが先生の剣先を弾き、大きく踏み込むことに成功した。が、やはりレジェンド、踏み込まれるとそれに合わせるように剣を盾にして勢いよく前へ出て、振りかぶりガラ空きになったキリアの胸を押し飛ばした。

 カウンターのような形で押されたキリアは、大きく後ろに下がり、先生の剣が首元で止まるまで完全に姿勢を崩されたままで、善戦はしたが明らかな完敗だった。


 それでも今までで最も見ごたえのある戦いをしたキリアに、俺たちは拍手喝采だった。


「惜しかったですよキリア!」

「よくやったなキリア!」

「ドンマイです!」


 相当満足な戦いを見れたのか、ヒーも珍しく大きな声で『ドンマイ!』とエールを送る。その声が届いていたのか、曇るフェイスガードで表情は良くは見えなかったが、キリアは恥ずかしそうに視線を反らす。


 この時俺たちは完全にクラスとして一つになった。そう思える瞬間だった。そして礼を終えて戻るキリアと、それを受け入れるクレアたちとの少し離れた距離は、まだまだ打ち解け切れていないという感じで、なんか淡い青春真っ只中という感覚だった。


 そんな素晴らしい青春を恵んでくれたキリアの戦いが終わると、また一つ青春を彩ってくれそうなアドラとパオラの番が回って来た。


「それでは、次はアドラさん、パオラさん。どちらが先でも構いませんので、お願いします」

「…………」

「ほらアドラ、パオラ、呼ばれてるぞ?」

「え?」


 この二人、練習中もなんか色々問題があって先生を困らせていたようで、どっちでも良いから先に来いと呼ばれても、全く自分たちには関係ないような感じで眠そうな目をしている。


「先生と試合すんだよ。どっちでも良いから早く先生の前に行けよ?」

「え~?」

「え~? じゃなくて、とにかくどっちでも良いから先に行けよ?」

「え~!」

「え~じゃないよ。とにかく武器持って早く行けよ」

「ん~……分かった……」


 二人は戦いたくないのか、それとも天然だから本当に意味を理解していないのかは分からないが、“なんで?”という表情を見せる。

 しかしこう見えて不良じゃない二人は、実は根は凄い純粋で、良く分かっていないようだが、俺が声を掛けると二人してとにかく先生の元へ向かった。


「あ……」


 いいねぇ~! この不良感。本当は意味分かってなくて二人して行っちゃったけど、なんか波乱を起こしてくれそうなその感じ、正に青春って感じで良いよ~。


 クラスがまとまり始め、やっと良い雰囲気になった矢先、そこにトラブルを巻き起こす不良。そんな感じ満載の二人の行動には、ハラハラするエリックやヒー、戸惑うリリア、訝しげなクレアとキリア、そしてお手並み拝見という感じで後に解説役になりそうなライバル的存在のフィリアとジョニー、というそれぞれの感情が重なり、なんか自分が今学園物の物語の中にいるようなワクワク感があった。


 そしてこの二人。流石は問題児だけあって、なかなか凄い仕事をする。


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