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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
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つまらん勝負

 ウリエル様の聖刻を賭けた戦いは、今回は異例のチップ三十枚を失った時点で終了するポーカー勝負だった。

 この勝負には、何故か全然聖刻の関係ないファウナまで参加して始まった。


 ゲームが始まると、ディーラーは新しいトランプを開け、マジシャンのように絵柄が見えるようにテーブルに広げる。

 トランプは本当に新品のようで、絵柄は一から順に綺麗に揃っている。


 この時点では俺から見てもトランプに仕掛けがあるようには見えず、ディーラーもカスケードたちに確認させると手馴れた手つきで集めシャッフルする姿に不自然さは無かった。

 それに箱にはキチンとシールで封までされており、トランプは本物で間違いなさそうだった。


 ディーラーはプロのようで、トランプをシャッフルする手際とスピードは、テレビで見るマジシャンのようで、見惚れてしまうほどとても華麗。だがその手さばきのせいで、いつどこでイカサマを仕掛けて来てもおかしくはなく、トランプからは一切目を離せなかった。イカサマされても全然分かんないけど。


 その手さばきは物凄く、とにかく切るは切るはのシャッフルは何回切ったのか分からないくらい速く、ショットガンシャッフルみたいに切ったり、野菜をスライスするみたいに切ったりして、アズ様の聖刻を持つ俺が全く分からんうちに切り終わり、バーテンダーのようにサッと華麗にカスケードに差し出す姿には、こいつは異星人かと驚愕してしまうほどだった。


 そんな異星人からのパスを受けたカスケード。イカサマ対策に一回切らせろと言ったからには、それこそギャンブラー伝説哲也並みの返しを見せるのかと期待させるが、出来る事と言えば磁石を使ってパチンコ玉を操作するくらいしか出来ないのか、トランプのデッキを渡されると、片手で半分くらい取って降ろし、その上に残りを乗せるだけという誰でもできる簡単なシャッフルを披露した。


 しかし今のでも十分……なはず。本当はなんか燕返し! みたいな技でも見せて欲しかったのだが、これではどこから分けられたのかは分からず、一生懸命積み込んだはずのディーラーの仕込みは消えた。

 どうやらここからは、逆境無頼な展開になりそうだった。


 カスケードのシャッフルが終わると、ディーラーはデッキを手に取り、一切混ぜることなく三人に配り始めた。

 その手さばきも素晴らしく、ポイポイ投げているように見えても高等技術のようで、雑に投げ捨てられたはずのトランプは三人の手元に綺麗に並び、俺が手で配るよりも遥かに美しかった。


 どうやらこの勝負、一番の敵はディーラーに間違いなさそうだ。


 そう思い、いよいよ始まる戦いに目を移すと、ここでまさかの出来事が起こる。


 ゲームが始まるとファウナはきちんと手に持ち、交換するカードを選ぶ。それに対してカルロス、カスケードは、世界大会とかでよく見るアレをやり始めた。


 カードの端だけを折り、自分だけ何が配られたのかを確認する。それもほんの一瞬。当然そんな事をすればカードの端は曲がり、下手をすれば角欠けが発生する。


 こいつらは間違いなく悪だった。現代社会において、カードの角を折るなど重罪だった。それも新品のカードともなれば極刑に値する。

 もしこれが遊戯王の世界大会だったのなら、二人は間違いなく滅びのバーストストリームの刑だった。

 

 それでも、ポーカーにおいてはギリ許される行為だったらしく、ディーラーも一切咎める事も無くゲームは進行する。


「最初のゲームだ、先ずは二枚から始めよう」


 そう言い、何故かまだカードの交換もしていないのに、カルロスはチップを二枚賭けた。


 俺は、ポーカーはたまに友達とやるくらいで、役くらいは知っている程度だった。だからチップの掛け方は良く知らない。ただ友達とやる時は交換した後にチップ代わりのお菓子を賭けていたから、ここでもチップを賭けるのは違くない? と思った。

 だが正式にはこれが正しいようで、隣に座るファウナも普通にチップを二枚出す。


「そうですね、ゆっくり楽しみましょう。コールです」

 

 ギャンブルとは恐ろしい物だ。まだ手役も確定していない状態でお金を賭けるとは、海水パンツも持たずにプールに行くような物だ。もしこれで交換した後手役が作れなければ、マジでプールに何をしに行ったのか分からない状態と変わらない。

 こんな状態で“先ずは”程度にお金を賭けられるとは、サイコパス以上にサイコパスだった。


 そんな世界には、所詮似非ギャンブラーのカスケード程度では踏み入ることは出来ないのか、いきなり降りる。


「ドロップだ」

 

 カスケードは裏向きのままカードをディーラーに返した。その仕草はとてもカッコ良く、サーっと滑るトランプはギャンブルぽかった。だけど負けは負け。無駄に一枚持ってかれた。


「おや? 随分と弱気じゃないか? 挨拶くらいはするものだよ?」

「俺はスロースターターなんだ。温まればいくらでも勝負に行くさ」


 そんな事を言いながら、カスケードは煙草に火を点けた。


「まぁそう焦らずとも、こういう物は自分のペースが大切です。私が勝負しますから楽しみましょう」

「おやおや、これはウリエル様の聖刻を賭けた勝負だったのですがね」

「まだまだメインイベントにはお早いですよ?」

「まぁ良いでしょう。お付き合い願いますよ、レィディー」

「あら~!」


 な~にが『スロースターター』なのか知らないし、な~にが『あら~!』なのかも知らないが、この二人は本当にこれが命がけの戦いなのか分かっているのか不明だった。


 そんでもまだまだ序盤。カスケードがいなくてもゲームは進む。次はカードの交換。


「私はドロー不要だ」


 カルロスは余程手が良いのか、それとも様子見という感じだからなのか、交換は必要無いと言う。


「では私は、二枚交換させていただきます」


 ファウナは、マジで運だけでポーカーをしているようで、普通に二枚交換する。そしてちょっと良い手でも出来たのか、パッと表情が明るくなる。

 もうちょっとちゃんと戦って欲しかった。


 そして最後のベットに入る。


「随分と良い手が出来たようですね。だが私もそこそこ良い手が入りました。ですが、最初ですからそう熱くならず、ここも二枚と行きましょう」

 

 マジでカルロスは様子見らしく、小さくベットした。


「では、私も二枚。コールです」


 ファウナもマジで何がしたいのか、普通にちょこんと二枚チップを賭けた。


 マジでつまらん勝負だった。暇はしないと思っていたが、いきなりカスケードは降りるし、カルロスは仕掛けてこないし、ファウナも普通に付き合うしで、聖刻無しで友達として他所でやって欲しいくらいつまらん勝負だった。


「ではショータイムだ。私は三のスリーカードだ」


 初めに見せたのはカルロス。これまた何の変哲もないスリーカード。多分イカサマ無しでたまたま引いた役。


「あら! 流石にお強いですね? 私はツーペアでした。残念」


 ファウナ。クィーンと九のツーペア。なかなか良い手。だがつまらん。

 そしてカスケード。無情にもゲーム代の一枚を取られ、『フッ』と笑うだけ。非常につまらん。


 これならまだ、殺意剥きだしで三人でバチバチ殴り合う戦いを見ている方が楽しかった。本当にこんな感じで三人でチップを奪い合い、三十枚無くなったら負けという勝負を続ける気なのか。

 もうチンパンとフォイちゃんが『ねぇねぇ隊長。あの二人何してるの? いつ戦うの?』となっているほどポーカーを知らない二人まで暇をしている状況には、やっぱりこういう展開が許されるのはアニメだけなんだと痛感した。


 そんでもルールはルールのようで、まだ続けるらしい。


「では次だ」


 Next!

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