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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
155/186

ポーカー

 カスケードのウリエル様の聖刻を賭けた戦いは、今回は異例のトランプゲームで行われることとなった。


「それではゲームを決めよう。ポーカー、テキサス、ブラックジャック、バカラ。君たちが決めてくれ」

「ポーカーで」

「私もそれで構いません」

「OK」


 今回のこの戦いは、聖刻が弱い分カスケードにはかなり有難いルールだ。しかし相手は歴戦のギャンブラーの風格。さらにディーラーも間違いなくグル。

 聖刻がぶつからない分かなり公平に見える戦いだが、実質不利だった。そのうえ何故か関係ないファウナまで参加するという戦いは、本当に先の見えない戦いだった。


 ゲームが決まると、男はテーブルを指で軽く二回叩いた。するとディーラーがそれぞれにチップの山を差し出した。


「チップは三十枚ある。全て失ったら負けだ。あぁ、安心してくれ。そのチップ代は支払わなくても良い。その代わり……」


 そう言い、男は指を鳴らす。すると僅かながらウリエル様の聖刻の気配を感じ、見ると暗闇からかなり血色の悪い色をした、天使なんだか化け物なんだかよう分からん、槍を持ったキューピーちゃんみたいな気持ち悪い人形のような物がパタパタと小さな羽を羽ばたかせながら登場した。


 キモっ!


「彼は公平なゲームを愛する天使だ。彼はゲームに負けた者、ズルをした者を嫌う。分かるかね。それぞれが持つチップはプレイヤーの命だ。負けた者は彼の槍で貫かれて死ぬ」


 まぁ分かっていた事だが、つまりチップを失ったら命を奪われるデスゲームという事。そんなことはカスケードたちだって分かっていた事だけに誰も……クレアくらいしか驚かなかったが、この男のなかなかの鬼畜っぷりには感心した。


「そいつはオメェの従者か?」

「おや。さすがはアズ神様の聖刻者ですね。やはりお気づきになられましたか?」


 あの気持ち悪いキューピー人形からは、ウリエル様の聖刻と魂の波長を感じた。あれは人形でもアンドロイドでもなく、間違いなく生き物だった。


「どうやって作った。ウリエル様の聖刻じゃ命は扱えないはずだ」

「流石にご存知でしたか」


 何が嬉しいのか、男は人形の正体がバレても自慢気で舐めた態度をとる。


「確かにウリエル様の力では、生命への変化は出来ません。ですが、生命を変化させることは可能なのですよ。キメラというやつです」

「……なるほどね」


 こいつはなかなか良い趣味をしている。ウリエル様の力で生命は作り出せないのなら、生命同士を変化させ、くっ付けて別の生き物を作り出すという発想は、稀に見る悪党だった。


「私はね、ギャンブル以外にも趣味がありまして、銅像が好きだったんです。ですがそれだけでは物足りなくなるようになりまして、動く像が欲しくなったんです。そんな時、運よくウリエル様のお力を授かることが出来まして、私なりに作ってみたんです。まだまだ試作段階ですが、良い出来でしょう?」


 命を司るアズ様の聖刻者であるこの俺に対し命の冒涜を解く男は、清々しい程腐っていて、逆に気持ちが良い悪党だった。


「まぁ、それでも彼を作るのにはかなり苦労しました」


 その男の言葉を待っていたかのように、ディーラーは後ろの赤いカーテンを開き、ライトアップされた二体の、人だった物の像を披露した。


「彼らは私に挑んだウリエル様の聖刻者です。失敗してしまったので、銅像としてこの店に飾らせてもらいました。あの奇妙な形は、なかなか良い雰囲気をこの店に醸し出しているとは思いませんか?」


 何と合体させたのか、奇妙な木のような形となり、あちこちから馬のような足を出す銅像。ケルベロスでも作ろうとしたのか、数本の様々な動物の脚で犬のように立ち、ヤギや犬、人に加え、鶏のような頭を付けた銅像。

 二体とも悪魔をテーマにした展示会にありそうな不気味な形をしており、特に人間の苦悶するような表情は、なかなか芸術点が高かった。


「アテナ神様の聖刻者である貴女は、美しい容姿もしており名残惜しいですが、二人が手に入れば、私の目指す動く像はより完成に近づきそうです」


 俺たちだけならいざ知らず、まさかファウナにまで喧嘩を売るとは、こいつは最高のパフォーマーだった。

 そんな男に対し、流石ファウナ。さらに盛り上げる。


「それはなかなかやりがいがありますね。久しぶりに楽しい遊びが出来そうです」


 流石歴戦の英雄。ここまでのプレッシャーを掛けられても穏やかな笑顔を見せ、楽しむかのように優雅な空気を放つ。

 それに負けず劣らず、やはりあんなんだけど本質は本物の男カスケードは、きちんと挨拶を返す。


「ゲームとしては十分だ。それよりも、ここは喫煙可能か? やはりこういうゲームにはこいつが必要でね」


 さ~すがカスケード。肝は座っているが、座り過ぎて煙草を吸えるかどうか気になっちゃう男気。決めようとしても決まらない感じは、所詮引き立て役という二枚目だった。


「ここはそういう場所だ。良ければ酒もサービスする」

「ならウィスキーをロックで」

「OK。お嬢さんは?」

「……そうですね……では、私は紅茶をお願いします」


 どうやらファウナは、喫煙OKが気に入らないらしい。何を飲むかを聞かれても構わず煙草に火を点けるカスケードを見る姿には、なんで参加したのか疑問しかなかった。


「では改めて、私はカルロスという。よろしく頼む」

「俺はカスケードだ」

「私はファウナです。よろしくお願いします」

「ではゲームを始めよう」


 それぞれに飲み物が渡ると、いよいよ命を賭けたポーカーが始まった。そう思った矢先、やはり無策で挑んではいなかったようで、ここでカスケードが止めた。


「始める前に一つ条件がある」

「公平性を欠くような事でなければ飲もう」

「カードを配る前に、一度だけ俺にカードをカットさせて欲しい。疑っているわけではないが、俺たちはディーラーとは初対面だ。もちろんカットは片手だけで行う」


 多分っというか、絶対カルロスとディーラーは手を組んでいる。そうなれば必ず奴らはイカサマをする。それに、公平などと言ってはいるが、あの天使だって元従者である以上カルロスのイカサマは絶対見て見ぬふりをする。

 

 彼らがどういったイカサマをするのかは分からないが、カードを配る前であれば彼らの積み込みは防げる。

 恐らくイカサマ封じにはこれが最も効果的だと思うと、伊達に、多分負けてばっかりだが、パチンコで生き抜いてきたカスケードのギャンブラーとしての実力は本物だった。


 このカスケードの提案に、カルロスは眉を顰めるかと思ったが、奴もまた本物のギャンブラーのようで、この程度は全く問題ないという感じで応える。


「その程度の事であれば構わない。ただし、分かっているとは思うが、ゲームに聖刻を使うのは駄目だ。使えばすぐに天使が命を奪う。それでは詰まらないだろう?」

「分かっている。公平でなければゲームは成立しない。互いにフェアに行こう。“実力で”」

「勿論だ。私はそういうゲームが好きだ」


 カスケードがどれほどポーカーが強いのかは知らない。だけど、今の不自然な実力発言がイカサマ合戦を挑む意味だとはすぐに分かった。


 日本にいてパチンコをしていたカスケードしか知らなかったが、実はカスケードはそういう世界の人間だったのかと思うと、この勝負には暇はなさそうだった。


「よし。じゃあ始めよう」


 承諾を得たカスケードはこれで準備が整ったのか、テーブルにチップを一枚放り投げた。

 チップはプラスティックの心地良い音を立て、それを見てカルロス、ファウナも続いてゲーム代を支払うと、いよいよゲームがスタートした。


 この戦い、チンパンとフォイちゃんは何が何だか分かっていません。そしてクレアは、命がけというルールに恐れ戦いております。リーパーは何も考えておらず、普通にショーとして楽しんでいます。

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