表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
154/186

ギャンブラー

 雨。どんよりとした空に、しとしと降る雨。夏の暑さは去り、降り注ぐ滴は次第に体温を奪う。

 日本で言えば、これから山は紅葉に向けて準備を始める、初秋という感じだろう。これから寒さに向かう空には、少し寂しさがあった。

 

 そんな今日この頃。パオラの治療を終えた俺たちは、次なる仲間を探すため、もうどこか分からない場所にいた。


「ここか」

「あぁ」


 パオラとはやはり相性があるようで、治療を終えるとエジプトで別れた。というか、そもそもの話、これからどうするという感じになる前に、フィリアからパオラに合流するように連絡が入った。

 どうやらリリアとヒーが、ファウナとクレアが離れた事で守りが甘くなったスキを突かれ、ハムスターとインコに変えられてしまったらしい。それを治すためにパオラの力が必要なのらしい。


 リリアとヒーは、フィーリア様の加護印を持つため、常に様々な方々からちょっかいを掛けられていたらしい。今回もそれが理由らしく、簡単に言えば『呪いを解いて欲しければ仲間になれ』という脅迫行為らしい。

 その呪いは聖刻と魔法による物らしく、力を無力化できるパオラ、魔法の専門家フウラの力が必要らしく、それでまぁ、何かアイツらの方はイベントが発生していて、それでなんかまぁ、そういう事らしい。まぁ、そういう事。


 それで俺たちは俺たちでクレアの聖刻を目指しながらルキフェル様の聖刻者を探し、尚且つ全員のレベルアップを目指しながら、早一か月いつもの如くウロウロしながら今に至る。


「本当に合ってるのか? 向こうは随分と格上だぞ?」

「あぁ。間違いない」


 今回旅の道中寄ったのは、カスケードのお導き。ファウナの作戦、手あたり次第弱い奴からやっつけろ! を目標に旅を続けていた俺たちが色々探して、やっと辿り着いた最初の相手だった。

 そのはずだったのだが、やっぱり我がチームの導きセンサーはぶっ壊れているようで、相手はまさかの超格上の強者だった。


「大丈夫なのか?」

「戦いは常に勝つか負けるかの五十パーセントだ。そういうものだろ大将?」

「そういう意味じゃねぇよ。相手はかなり強ぇって言ってんの。分かるだろ?」

「分かっている。だけどそれは戦い方次第だ」


 そう言いカスケードは、聖刻の気配が漂う建物を見た。


「わざわざこんな所で俺たちを待っていたんだ。今回は聖刻の力の強さだけが物を言う戦いにはならないさ」

「だと良いけど……」


 今度の相手はかなりの曲者のようで、待ち受ける建物は黒スーツが門番を務めるカジノ。それもクラブと言った方が正しいような造りをした建物で、ギャングみたいな若者が出入りしていて、ひと悶着ありそうな雰囲気を醸し出していた。


「一応聞いておくが、ヤバくなったら助太刀に入るか?」

「それは相手次第だ大将。相手が決めたルールで戦っているのなら、助太刀は無用だ。出来れば俺は、自分の力で聖刻を手に入れたい」


 レベルアップできるのなら、手段など気にする必要は無い。だけど俺たちはそういうチーム。これはカマボコ戦のようなイレギュラーな戦いでは無いだけに、全てはカスケードに委ねる。

 それに“弱い奴から倒せ”とか“勝つことに卑怯は無い”とか言っていたファウナも黙っているし、この戦いにおいては、カスケードの主人公で間違いなかった。


「分かった」

「ありがとう大将。行こう」

「あぁ」


 約束はしたものの、今回の戦いも、何かあれば俺たちは必ずカスケードを助けるだろう。あくまでも正々堂々戦うのなら、例えカスケードが死ぬことになろうとも見守ろうとは思っていても、心の奥底ではそう思う自分に気が付いている。

 それは聖刻者としては間違いなのかもしれない。だけどそれはまだ出来ない。


 アドラの死から気付いた心という物。その未熟さの克服もまだまだ課題の一つだった。


 入り口の前に着くと、案の定黒スーツの男が立ちはだかった。


 カスケード以外我がチームは、未成年の男子と女子、チンパンジー、スズメバチ。黒スーツはただの人間で聖刻者かどうかなんて分かるはずが無い。寧ろ当然だった。

 そう思っていたのだが、どうやら向こうからの指示でもあるのか、入店拒否をしそうな雰囲気を醸し出してから道を開け、まさかの全員を通過させてくれた。


 これには正直ビビった。聖刻者である以上当然ちゃ当然なのだが、まさかチンパンジーとスズメバチまで通すとは、企業としてどうなのかと驚いてしまうほどだった。

 

 店の中は、案の定危険な輩がウロウロしていて、薄暗く、あちこちで煙草の煙がモクモクしていた。それぞれのテーブルでは様々なギャンブルが行われており、ゲームに参加しない者は薄暗いテーブルで酒を飲みながら時間を潰す。

 チンパンジーとスズメバチを引き連れる俺たちが入店しても誰一人見向きもしない店内には、多分ギリギリ非合法な店という感じだった。


 そんな中で、俺たちを呼ぶかのようにオーラを放つテーブルがあった。そのテーブルにはディーラーと紺色のスーツを着た一人の客だけが座っており、参加者待ちという感じだった。


「待たせたようだな」

「なぁに、気にする必要は無い。この時間も私は好きでね」


 カスケードがテーブルに近づき声を掛けると、客席の男が静かに答える。


「さて、勝負と行きたいのだが、私は暴力的な事は苦手でね、コイツで勝負したい」


 男はそう言いながら、十枚ほどのチップをカチカチと指で鳴らした。


 男は雰囲気のせいか、カスケードよりも年上の三十代に見える。髪の毛もきちんとセットされており清潔感があり、仕事が出来そうな医者や弁護士という感じ。だけど鋭い目つきをしており、漂う香水の香りは堅気とは違う世界にいるという臭いを放っていた。何よりもあのネクタイ。水色の生地に黄色のハートのデザインは常軌を逸していた。


「それはこの店に入ったときに承認済みだ。俺としても平和的に解決できるのなら問題ない」

「それは良かった」


 聖刻のレベルでは向こうはかなり上。下手をすれば俺と同等。それを考えれば聖刻をぶつけ合わない戦いは望むところだった。だが、ここで待つ以上相手は相当ギャンブルには自信があり、待ち伏せするくらいだから当然罠も張ってある。それに聖刻では有利な事を利用して、半強制的にゲームにも参加させている。

 好条件に見えても、やはりカスケードにはかなり不利な状況だった。


 それでも今のカスケードにはこの戦い方を飲むしかないのか、ただ単にギャンブルがしたいだけなのか、それともな~んにも考えていないのか知らないが、平然と席に着いた。


「ゲームに参加するのは君だけか? 他にも参加したい者がいれば、席についてくれ」


 この男、相当自信があるのか、まさか俺たちまで参加して良いという。まだ俺やクレア、ファウナだけならまだしも、チンパンとフォイちゃんがいるにも関わらず。っというかこの戦い方に俺たちまで参加する必要性は全くない。

 

 これは多分ギャンブラーの言う“揺さぶり”というやつなのだろうが、俺には全く意味が分からず、こいつは強敵だった。

 そう思っていたのだが、何故かファウナが席に着いた。


「では、私も」


 何でだよ⁉ 


 これには俺だけでなく、クレアもカスケードも驚いた表情を見せた。


“お、お婆様、これはさすがにいけないのではないんですか?”


 流石にこの空気を読めないファウナの行動には、クレアも“お婆様”と言い小声で注意するほどだった。


「あら? 何故です? あちらのお方は構わないと言いましたよ?」

「そ、そうですが……」

「ゲームというのは、大勢でやる方が楽しいのですよ?」

「そ、それは……」


 もう意味が分からなかった。多分こういう戦いは、絶対一対一で戦って、イカサマがあって、それを主人公側が見破って知的に勝利という感じなのに、ここで変なお婆ちゃんが参加するのは荒木先生でも困るはず。

 これはもう、敵の強さを引き立てるために、速攻で魂を抜かれて死んでしまうフラグでしかなかった。


「絶対止めといた方が良いよファウナ。大体ファウナってポーカーとか知ってんの?」

「勿論です。昔は私たちも良く嗜みました。こう見えても私、エドワードたちを裸にしたことがあるんですよ」


 おじいちゃ~ん! 


 どうやら過去の英雄たちは、そのほとんどがシャルパンティエ家に資産を奪われた経緯があるらしい。

 しかしこの言葉で何故ファウナが参加したのかが分かった。アテナ神様の聖刻は流れのある物なら何でも操ることが出来る。つまり運も流れ。ファウナはなんだかんだ言ってもカスケードを補助するつもりらしく、意外と協力的だった。


「しかしお婆様……」

「分かった」

「リーパー⁉」

「大丈夫だ安心しろクレア。こう見えてもファウナだ、目は良い。相手がイカサマしないように見ていてくれる」

「なるほど、そういう事か……ならば、よろしくお願いします、おば……ファウナ。私たちは見ています」

「分かりました。口出し無用でお願いします」

「はい」


 男にとっては、もうだが、ファウナは“ただの”アテナ神様の聖刻者にしか見えないはず。その驚異的な力は感じてはいても、トランプゲームという土俵上で戦うのなら取るに足らない相手のはず。

 それを証明するように男はファウナの参加を認める。


「では、ゲームを始めよう」


 こうしてウリエル様の聖刻を賭けた、ギャンブルが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ