ニュース
なんか知らんが、突然鬱に罹ってしまったクレア。そしてなんか知らんが、それを俺に相談に来たファウナ。なんか知らんが、なんとかしないといけないらしい。
そこで適当に聖刻でも手に入れれば治るんじゃねぇの? 的な話になったのだが、俺たちでは力にはなれなかった。
「やっぱりリリアたちの所に戻った方が良いんじゃない?」
「何を言っているんですかリーパー⁉」
「先にリリアたちの聖刻手に入れた方が良いって。フィーリア神様の聖刻って、何でもできるんでしょう?」
フィーリア神様の聖刻は、法則さえも変えられるほどの力を有していると言われるほどで、聖刻最強。もしそれが本当なら、多分ワープも不可能ではなかった。
「それはいけません。祠へ自らの足で向かう事も試練の一つなのですよリーパー?」
「そうかもしれないけど、今の俺たちじゃ力が足りないし、クレア自身も鬱に罹ってるんじゃ、どうしようもないよ? 先ずはラクリマの所へ行って、心の病を治してから来てもらわないと」
「これも試練なのですよリーパー。クレアはリーパーに惹き付けられてここへ来ました。アテナ様の加護者を惹き付けることがどれほど幸運な事なのか、リーパーは分かっていません!」
そうなの? 現在あり得ないほどのお荷物感しかないんだけど……
フィーリア神様、アテナ神様の聖刻者は非常に少ない。それは、あっという間に世界を滅亡させられる強大な力を持っていることが原因らしい。
そのため見つけるのも大変らしく、実際リリアたちは、スカウトと称してかなり襲われているほどらしい。
それほど重要で強力な力を持つアテナ神様の加護者であるクレアを仲間に加えれるのは、ファウナの言う通り確かにラッキーかもしれない。だが、どう考えても今のクレアはお荷物以外の何物でもなかった。
「そう言われても……」
「とにかく、リーパーとクレアは、常に共にいる事が大切なのです」
「そうなの?」
「そうです! 私を信じなさい。そうすればリーパーには必ず幸福が訪れます!」
どんだけ孫を結婚させたいのかは知らないが、いよいよ宗教勧誘的な事を語り始めたファウナ様は、もう手に負えないレベルだった。
「それに、アルバイン家の借金は全てシャルパンティエ家が肩代わりしました。いつまで経っても返ってこない借金。そこへ付く利息の免除。それでも尚、求められれば応える借入。少しくらい恩は返すものですよ?」
遂にお金の話まで出されては、白目をむくしかなかった。っというか、どんだけクレアの事が可愛いのかは知らないが、地位、名声、権力、金、その全てのカードを使ってまで俺に何とかさせようとするファウナの姿には、哀れささえ感じてしまった。
「わ、分かったよファウナ。俺たちがどこまで出来るかは分からないけど、やれるだけはやるよ」
「ありがとうございますリーパー!」
ファウナはこう見えても、後の少ないお婆ちゃん。生きているうちに可愛い孫に幸せになって欲しいのだろう。そのために必死になり、積み重ねてきた徳まで腐敗させる姿にはさすがに居たたまれなくなってしまった。
そこで少しでも俺の心が傷つく前に、優しさで乗り切るしかなかった。
「ではリーパー。クレアの手を握り、『俺がいるからもう大丈夫だ』と言ってあげて下さい!」
「…………」
これだ。やはりファウナは、既に引退した老兵だった。
「とにかく、クレアの話は先ずは一旦置こうかファウナ」
「何故です⁉ まだクレアは、リーパーの愛の言葉を受け取ってはいません!」
もうため息しか出なかった。こっちはクレアよりも、パオラたちに何があったのかが重要だった。
だけど一回言ったらやるまで利かないのがファウナ。仕方が無いから、ファウナが望むことをしなければ終わらなかった。
そこでクレアの手を取った。
「クレア、もう大丈夫だ。頑張ろう」
「……ありがとう……リーパー……」
絶対クレアもこれは望んではいなかった。やっても一切笑みを見せず、言葉も超軽かった。
それでもやることには意味がある。一応ファウナはこれでも満足したようで、一人ハッピーエンドを迎えていた。
「で、パオラたちに何があったの? ファウナたちなら知ってるんでしょう?」
パオラは現在怪我が治ったことで、勝手にどっかに行った。しかし屋敷から離れたというわけではなく、屋敷のどこかにはいる。それに、パオラに聞いてもやっぱり話が分からず、三年一組よりもいっぱい敵がいたとか、キリアがいたとか、エリックがいたとか、俺だけど俺じゃない奴がいたとか、お父さんの一発でほとんど死んだとか、いきなり真っ暗になったとか訳が分からず、分け分からんままだった。
この質問に、クレアが答える。
「どうやらパオラたちは、皇太子であったアレックス王子たちに襲われたらしい」
「アレックス王子? 誰?」
「キャメロットの皇太子様だ」
「キャメロットの皇太子様? 誰~?」
「……イーサン王子たちの兄だ」
「イーサン王子……? あぁ、フラヴィ王子のお兄さんの事か」
「そうだ」
クレアに言われ、久しぶりにフラヴィ王子を思い出した。フラヴィ王子は、可愛かった。
「なんでフラヴィ王子のお兄さんにパオラたちが襲われたんだ? 聖刻のアレか?」
「リーパー……“お前”話を聞いてないのか?」
「話? なんの?」
結構重要な話らしい。俺が何も知らないと言うと、クレアとファウナは見合わせ、逡巡した。
「リーパー、ニュースは見ていますか?」
「いや」
「そうですか……」
ニュースどころか、最近ではスマホさえ触っていない。世界では何かが起きているらしい。
「では、今回の魔王復活は、自然現象ではなく、誰かが意図的に起こしている事は知っていますか?」
「あ~……それはなんか、聞いたことがある。でもここまで来たらどうせやらなきゃなんないんだし、別にどうでも良くね?」
聖刻者がバンバン生まれ、既に俺たちでさえ殺し合いを何度も経験している。大体俺はもう何回も死んでるし、もう元の生活には戻れないから今更の話だった。
俺の言葉を聞いて、二人はまた顔を見合わせた。
「良いですかリーパー、良く聞いて下さい。今回の魔王復活は、キャメロットの皇太子である、アレックス・ウリエル・アーサー・キャメロットの仕業です。彼は既にウリエル様の聖刻を授かり、大きな組織まで作っています」
「そうなの? でも結局、早かれ遅かれ魔王は復活するんだから、それは別に問題無いんじゃないの?」
「ふ~……全く。アルバイン家、いえ、リーパー・アルバインという男は、本当に素晴らしい殿方です。クレアが認めるのは当然です」
「え? 何の話?」
「いえ、何でもありません」
ここまで来て、今更魔王がどうとか考えてる方が無駄。やることは決まっているのに、未だに犯人捜しをしていても何の意味も無かった。
「それで、それがパオラたちと何の関係があったの?」
「彼らは、パオラの父であるモルドルの抹殺を計画していました。そこにたまたま行動を共にしていたパオラたちが巻き込まれたのです」
「なるほど。つまり、フラヴィ王子のお兄さんのチームが、モルドル様の聖刻を狙ったってわけだ」
前英雄であるファウナたちは、物凄い聖刻を持つ。それを奪うことが出来れば、英雄候補として大きなアドバンテージを得ることが出来る。
フラヴィ王子たちのお兄さんが、確か魔王を自分たちで復活させて倒して、英雄になろうとしているとか何とか聞いていたが、それならパオラたちはただ運が悪かったというだけの話だった。
「違います」
「違うの?」
どうやら違ったらしい。それならそういう複雑な話はしないで欲しい。何故なら、俺たちはメインストーリーには一切関係しないチームなのだから。
「彼らの狙いは、魔王復活に際して、邪魔となる前英雄の始末です」
「えっ? じゃあそれって……」
「そうです。前英雄である、私や貴方の祖父であるエドワードの抹殺です」
それならこっちに来るんじゃねぇよ! 関係ない俺たちまで巻き込まれるじゃん!
衝撃発言にはマジでビビった。俺たちはあくまで自分たちのやれる範囲で頑張ろうとするチームであって、決して争いが好きなわけでも、手柄が欲しいわけでもない。
最終的には英雄チームをバックアップするとか何とか言って聖刻を渡し、戦場には赴かず事なきを得ようとさえ考えているのに、この人たちは俺たちを巻き込もうとしている。
こいつは下手をすれば、俺たちの存在を守るために戦わなければならない話だった。
「でででもさ、ファウナたちはモルドル様より強いじゃん? “ひっ、一人でも”大丈夫だよね?」
「そうとも言えません」
一人でも大丈夫って言ってよ! そうすりゃ適当な理由付けて離れられるじゃん!
この疫病神どもは何としてでもどこかへ行かすしかなかった。でなければ、俺たちもパオラの二の舞になってしまう。っというか、それが分かっていて何故じいちゃんの元を離れたのか疑問しかなかった。
「や、やっぱリリアたちの所に戻った方が良いんじゃないの? 流石にじいちゃんとファウナが一緒にいればやられないでしょう? それにフィリアだっているしさ」
「私たち二人がいれば、負ける事は無いでしょう。ですが、やはりクレアに重きを置かなければなりません」
やっぱり疫病神はクレア。このままでは俺たちのリタイアは必至だった。
「ちょちょちょ待って! それは分かるけどさ、でも俺たちじゃクレアを守れないよ! だってパオラたちもいたのに、あのモルドル様をやっつける奴らだよ⁉ 無理じゃん!」
「それは、しばらくは大丈夫です。彼らもモルドルを倒すのにかなりの被害を受けました。立て直すのにはかなりの時間を要するでしょう」
「でもモルドル様の聖刻奪った奴いるんでしょう⁉ そんなのが来たら、ファウナは大丈夫でも俺たち死んじゃうよ!」
「それも安心してください。モルドルの聖刻は、パオラが受け継いでいます」




