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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
151/186

心の病

 三日三晩、昼夜問わずぶっ通しで行われたパオラの治療は、過酷を極めた。

 他人の治療という難度に加え、初めて体験する失われた手足の修復、さらにアックンによる監視と、起きてる間はほとんど同じことを繰り返しながらずっと喋り続け、自由気ままに寝たと思えば二時間もしないで起床して、そこからまたひたすら真実に辿り着かない会話を続けるパオラという難関は、正に過酷そのものだった。

 良かったことと言えば、パオラのパジャマ姿は可愛らしく、漂う香りは想像通りの女の子。時折見えるへそとパンツの端が希望を与えた事だった。


 特に腕とついでの両足の復元はセンスを問われ、DNAから図面を拾っても世界地図クラスに膨大で、そこから詳細を探すだけで嫌になった。そんで見つけても、パオラの体から再生させるには問題だらけで、先ずはパーツを別に作っては修正して、治して治してくっ付けてまた修正しての繰り返しで、もう人間は全部プラモデルになった方が良いと思いました。


 それでも多少の医学知識があるカスケードのお陰でパオラの怪我を完治させることに成功し、俺の治癒力のレベルアップや新しい聖刻の使い方も発見できるという良い経験となった。

 ついでにパオラはうっせいし、アックンの鼻息うっせいし、もう腕とか千切れたやつは今後一切修復などしないと誓いました。

 

 まぁとにかくパオラの体の修復は無事完了し、最初の難関はクリアできた。するとそれも束の間、ファウナが来て、次はパオラたちに何があったのかよりも先にクレアの問題について話し始め、ブラック企業とはこういう事なのかと思い知った。


「なるほどね。じゃあお薬出しときます」

「リーパー。これは大切な話なんです」

「そう言われてもファウナ。それはクレアの心の問題であって、俺医者じゃないから」

「何を言っているんですかリーパー! クレアは貴方の妻になるんですよ!」

「…………」


 クレアはどうやら、鬱になったらしい。


 アテナ神様の加護者という重責。聖刻を貰いに行くという不安。どんどん強くなるフィリアや聖刻を持つ新たな仲間たちとの出会いによる焦燥。まだ聖刻を貰ってもいないのにそれでも全く気にする様子もなく元気な五十嵐姉妹の能天気さ。そして一番の原因は、手下であったキリア、エリックがいなくなったことで、リリアたちの班で威厳を失い、また発言力が低下した事。

 すなわち、今まで我儘し放題だった環境を失ったことでストレスを抱え、自信を失ったことで鬱を発症したらしい。

 これも全部、甘やかして育てた祖母であるファウナがいけない。


 それを今さら俺にどうこうすれと言われても、『お薬を出しておきます』としか言えないのは仕方がなかった。っというよりも、もう俺たちは聖刻争奪戦という殺し合いの中にいるのに、訳の分からん理由でしょげているクレアなんて構っていられるほど暇では無かった。


「だけどファウナ、俺は体は直せても心までは無理だよ。ラクリマの所に行けば?」

「何と無責任な事を言うんですかリーパー! クレアは今もこうやって貴方を愛しているんですよ!」


 愛と鬱に何の関係性があるのかはさっぱりだ。寧ろ俺のラクリマの所へ行った方が良いという考えの方が正しい。

 

「愛しているとは言うけどさ、実際クレアはどうなんだよ? お前ならもっと色々な人にあって来ただろ? 実際俺、何番目何だよ?」

「そ、それは……」


 クレアほどの大金持ちなら、金を持った多くの男性といくらでも出会って来てるはず。一時の隔離された教室で好き程度の好意を抱くのは、当たり前だった。


「…………」


 クレアは相当重い鬱に罹っているらしい。もしくはマジで何番目か。

 いつもの勝ち気で、強気な活発さは全くなかった。


「もちろん一番に決まってるじゃないですかリーパー! 貴方は私から見ても素敵な男性です!」

「…………」


 多分クレアが鬱を発症させたのは、ファウナに原因があるらしい。クレアの意思を無視して婆ちゃんがあることない事ガンガン言えば、そりゃ嫌にもなる。

 

「今からでも遅くないからさ、もっかいリリアたちの所戻って、また船に乗って考えた方が良いんじゃないの?」

「な~にを言ってるんですかリーパー! これからクレアはずっとリーパーと共に行きます!」


 ファウナ大興奮。クレアは俺と結婚したいのではなくて、ファウナが結婚させたいせいで、ごちゃごちゃになっている。


 現在リリアたちは、アメリカ大陸でウリエル様の聖刻者とラファエル様の加護者を仲間に加えたらしく、エリックがいなくなったことで、またあの長い船旅をしてラファエル様の祠を目指しているらしい。


 どうやらエリックはキリアと合流したようで、これは聖刻同士の導きのせいで別にエリックが悪いわけじゃない。実際スクーピーも戻った時点でリリアたちの元を離れているらしく、悪いのはエリック兄妹を信じたリリアたち。

 ちなみにウィラは船に乗る前に離脱し、スクーピーも、お父さんやお母さんたちと共に自分の道へ進んだらしい。


「そんな事言ってもさ、俺たちもそれなりに襲われたり戦ったりしてんだよ? 寧ろ半分くらいは襲われてんだよ? それに、俺たちは全員聖刻持ってるんだよ? 次いきなり襲われたりしたら、俺たちじゃクレアを守れないよ? 俺たちあんま強くねぇし」


 一般人、パチンカス、チンパンジー、蜂。聖刻のレベルうんぬんの話じゃなかった。


「そのために私がいるんですよリーパー。私たちの時代と比べて、他の聖刻者の成長速度は目を見張るものがあるのは確かです。で・す・が、元とは言え、私も英雄。まだまだ私の足元にも及びません。もし何かあれば、全て私が対処します」


 それはそれで困る。なんだかんだ言っても、そういう戦いは全て俺たちの成長に必要な物。それを全てファウナが解決してしまっては、聖刻のレベルは上がっても、俺たちは間違いなく生き残れない。


 ファウナが怪物級の実力を持っているのは確かだが、本当に一瞬で終わりそうなこのチートキャラを戦わせるのは、是が非でも避けたかった。


「落ち着いてファウナ。要はクレアがアテナ神様の聖刻を授かれば良いだけの話だろ? そうすりゃ自信も取り戻せるし、俺とだって結婚出来るわけだろ?」


 これ以上ぐちぐち言っても話は進まない。それどころかこれ以上雑に扱えばそのうちファウナに斬り殺される。出来るだけ簡潔に話を終わらせるために、敢えて結婚という言葉を使った。

 するとやっぱり、直ぐにファウナの表情がパッと明るくなった。


「そういう事ですリーパー! やはり分かっていたのですね! 私は最初から分かっていましたよ! リーパーの気持ちに!」


 もう帰ってくんねぇかな?


 ファウナが前英雄とか抜きにしても、この強さを持っていなければ絶対関わり合いたくない。所詮この世は弱肉強食の世界だった。


 でも、これでようやく面倒臭い話がまとまった。本当はここからルキフェル様の聖刻者を探しながら全員のレベルアップを目指し、ある程度になったらいよいよアテナ神様かフィーリア神様の聖刻者を探そうと思っていたが、ちょっと順番が変わったで済みそうだった。


 そう思っていたのだが、お婆ちゃんにはそれでは駄目だったようで、また話の流れが変わる。


「じゃあ先ずはアテナ神様の祠を目指そう? それで良いだろクレア?」

「ちょっと待ってくださいリーパー」

「何?」

「確かに今のリーパーのチームには、アテナ神様の祠を目指すための聖刻者は揃っています。ですが、まだまだ全員の熟練度は足りません。全くと言って良い程」

「え? そうなの? まぁ確かにフォイちゃんは貰ったばっかりだし、カスケードもまだ一回も聖刻レベルアップしてないけど、それでもカスケードはかなり器用に聖刻使えるよ?」

「ウリエル様の聖刻者の汎用力が高いのは、とても良い事です。それは十分に必要です。ですが全員の聖刻の力、分かりやすく言えば、強さが全く足りません」


 パワー⁉ ヤー! って事⁉


 ファウナが言いたいのは、聖刻のレベルという事だろう。だが、ただ祠を目指すのにそこまで強さが必要だというのには疑問を抱いた。


「祠に行くだけでしょう? ……敵っていう事?」

「違います。確かに聖刻を奪おうとする者と出くわす事もあるでしょうが、アテナ神様の祠は、辿り着くだけでも困難です」

「どういう事?」


 結構色々な祠へは行ったが、ラファエル様以上に困難な祠があるとは思えなかった。


「アテナ神様の祠は、地球上で最も過酷な場所にあります。そこは聖刻者なしでは未だに到達不可能となっており、数々の冒険者が挑みましたが誰も到達できていません」

「えっ⁉ そんな場所あんの⁉」


 地球上では、海底以外はほぼ人類が到達しているとかなんとか、ヨウツベで言っていたような気もする。もしそれが本当なら、仕方が無いからクレアには自分で何とかしてもらうしかなかった。


「あります。そこへ辿り着くには、自然の猛威に耐え忍び、生物としての限界を乗り越えなければなりません。そこを聖刻を持たぬクレアを守りながら進む必要があり、何日にも渡り夜を越さなければなりません。食糧、テント、防寒、進むための道具。その全てを聖刻者が補い、さらに何日も維持しなければなりません。今のリーパーのチームで、聖刻の力を常に維持できるものはいますか?」

「い、いや……俺くらい……」


 俺は集中力さえ切らさなければ、魂を補給し続けて半永久的に聖刻の力を維持できる。それは魂さえあればの話で、肉体的な補給元を持たない今のカスケードたちでは無理だった。


「でもそれなら、俺が肉体の維持は出来るから、何とか何じゃないの? 怪我しても治せるし」

「いいえ。そこはアテナ神様の聖域。地球上で最も生命や魂が少ないと言っても過言ではない場所です」


 アテナ神様は、高貴で厳格で、秩序を重んじるとも言われる神様だ。まぁつまり、怒らせるとマジで怖い神様。そこに生命や魂が少ないのは、納得だった。


「ですが、最も困難な理由はそこにはありません」

「な、何?」

「そこへ辿り着くために最も必要なアズ神様の聖刻者、つまりリーパーが行きたがらない場所にある事です」

「どういう事⁉」


 俺が行きたがらない場所⁉ そんな場所があるとすれば……まぁ無かった。


 アズ様の聖刻を手に入れてからは、死が無いことで痛みに対する恐怖もなくなり、対人的な圧力も全く意に介さなくなった。寧ろ人間なんてその辺の石と変わらないくらいの感覚で、俺に指図できる奴でもいようものなら大したものだった。

 そんな俺が行きたくない場所があるとすれば、行くのが面倒だな~ってなってる気分の時くらいしか無かった。


「そんなとこあんのファウナ⁉」

「はい。そこは……」

「そこは?」

「全てが凍り付き、未だに回収できない遺体が腐敗もせず、生前の姿のまま残り続けている場所です」

「そんなとこ行きたくねぇ!」


 パソコンがブラックアウトして動かなくなりました。これは新しいパソコンが必要かとなりました。しかし小説を書いて投稿するくらいしか使いません。そこで、この機に小説投稿を辞めるのもありかと思いました。そうすればまた新しい夢も見つかり、もしかするとそっちの方が自分には向いているとか、成功するとか色々考えました。

 ただ、そうなってもやっぱり戻って来そうな気がして、パソコンも直ったしで、まだ負け犬になるには早いようでした。


 結局自分は、人生の暇つぶしに小説家という夢を追いかけているという事に気付かされた出来事で、それと同時に、書くのは嫌いだけど自分の小説は読むのが好きというケシゴムファンだったという話です。

 

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