VSレジェンド
昼休みを挟んでの四時限目。一通りの基礎訓練を終えた俺たちは、力量を測るために先生との手合わせの授業へ入った。っと言っても、先生と手合わせするのは経験者であるクレアたちで、ピストル組の俺たちは見学組だった。ちなみにスクーピーはお昼寝により残念ながら脱落。
「それでは、よろしくお願いします」
「お願いします!」
早速始まった手合わせ、先頭バッターはクレアだった。クレアはファルシオンとかいう片手剣が得意なようで、なんかフェンシングのような中腰の構えを取る。それに対して先生は、ツーハンドソードとかいう二メートルくらいある大きな剣の達人のようで、しっかり両手で剣を持ち、美しく構える。
どうやらこの先生。ジョニーの話では、世界大会のツーハンドソード部門で三連覇を成したほど凄い先生で、他にもなんちゃらとかいうリーグで、剣の重さや長さで決まるジュニアミドル、ミドル、ジュニアウェルター級の三階級を制覇しており、その道ではレジェンド級に凄い人らしい。
現在は引退してここで指導者として活躍しているようで、同じ剣種を扱うジョニーから言わしたら、ほぼ世界タイトルマッチに挑戦している気分らしい。
そんなすごい先生に、流石はキャメロットと感心していたが、クレアとの対戦を見て“俺たちって本当に必要?”と逆にやる気が無くなってしまった。
試合が始まると、最初は間合いの取り合いが始まった。っというか、先生とのレベルに差がありすぎるのか、先生は全くその場から動かないのに、クレアは近づけないようでぐるぐる先生の周りをまわる。そして時折ちょっかいを出すように踏み込もうとするが、やはり駄目なようで、周ってはちょっかい、周ってはちょっかいで一向に試合が進まない。
そんな状態がしばらく続くと、今度は先生がちょっと踏み込むように前へ出た。するとクレアは足元にいきなりウンコでも見つけたかのように派手に驚き、大きく間合いを開ける。
ん~……多分クレア負けるね!
別にクレアの事が嫌いでそう思ったわけではなかった。それほど先生と力量の差があるようで、素人の俺が見ても駄目だと分かるくらい、完全にコントロールされていた。
それでもクレアにも意地があるのか、超ビビってはいたが、突然意を決したように飛び込んだ。そして……あっという間に負けた。
しかし肩に一撃入れられ倒れるクレアを見ても、仕方が無いと思った。
クレアが仕掛けると、先生はクレアの何倍もある大きな剣を、クレアよりも後に動いたはずなのに先に打ち込んだ。それも、俺の目からでもはっきりと分かる程クレアの間合いの外で仕留めており、かなりの速度で突っ込んだクレアの剣は振り抜く事さえ叶わなかった。
恐らくこれが真剣であれば、クレアは真っ二つにされていただろう。
やっぱ先生すげぇや……先生が魔王倒しに行った方が良いんじゃね?
剣術など世界陸上よりも見た事が無い俺だったが、初めて生で見る超一流の剣術には脱帽だった。そしてここまでの技術は、もはやエンターテイメントの域にも達しているようで、気付けば見学していた全員が大きな拍手をしていた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
負けて頭を下げるクレアも、勝ち誇ったような素振りも見せずに頭を下げる先生も、格好良かった。それこそあのクレアに“良くやった”と想いを寄せるほどで、授業など忘れ感動していた。
「凄いですねクレア!」
「あぁ。あのヴィニシウス先生とあそこまで戦えたんだ。クレアは思っていたよりも素晴らしい女性のようだ」
「おぉ! ジョニーがそこまで褒めるとは、なかなかやりますねクレアは!」
「あぁ。ジョニーがそう言う気持ち俺も分かる」
「そうだろう?」
「あぁ」
駆け寄って『凄い!』と褒めることはまだ出来ないが、それでも俺たちはクレアに対する評価を一変させた。
そんな声が聞こえていたのか、クレアはキリアの元へ戻ると少し恥ずかしそうにむくれた表情を見せ、なんだか少し俺たちは仲良くなった気がした。
そんなクレアに続き、次にステージへ上がったのはジョニーだった。
「ヴィニシウス先生。思い切り行かせて頂きます。よろしくお願いします!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
次のカードは、長さこそ違えど、同じツーハンドソードを使う戦いに、見学組は盛り上がった。
「ジョニー、勝てますかねフィリア?」
「無理でしょうね。剣速が違いすぎます。踏み込みの速さならそれなりにジョニーも戦えるかもしれませんが、あの速さでは防ぎきれないでしょうね?」
「でも! もしかしたら一撃入れるかもしれませんよ! なんたってジョニーは世界大会で十六位に入ったくらいですから!」
「そうなんですか⁉ 凄いですねジョニーさん!」
「はい! 実はジョニーは凄いんですよエリック!」
リリアは余程ジョニーに期待しているようで、フィリアが駄目そうだと言っても熱い眼差しを向ける。
確かにリリアが期待する気持ちは分かる。ジョニーはリリアも言った通り、十八歳以下のツーハンドソードというかグレートソードとかいう、なんか長い剣の世界大会に出場している。リリアが言った順位は負けたときに、勝ち残った人がまだ十六人いたからそう言っているだけで定かではないが、それでも世界大会へ出ているだけでも凄い事は確かなので、俺もジョニーなら少しはやれると期待していた。ちなみに、ジョニーが世界大会に出場したとき、残念ながら俺たちは応援には行っていない。
それでも孤独ながらに頑張ったジョニーは、俺たちの期待を背に先生に挑む。
試合が始まると、先生はクレアの時同様、両手で剣を持ち、真っ直ぐ背筋を伸ばしたまま腰を落とす。その姿はとても安定感があり、ここからでも射程距離がとても広いと分かる。
それに対してジョニーは、斜に構え、先生よりも長い剣を右手で持ち、肩に担ぐ。それは正に威風堂々としており、RPGとかでめちゃめちゃ頼りになる重戦士のようで、挑戦者というよりも先生と互角という印象を与えた。
それが俺たちをヒートアップさせる。
「行けっ! ジョニー!」
「頑張ってくださいよジョニー!」
「頑張ってくださいジョニー!」
あまりの格好良さに、ヒーまでもが声援を送る。そんな期待に応えるように、ジョニーが先に仕掛ける。
相変わらず待ちの姿勢を保つ先生に、ジョニーは姿勢を保ったまますり足で近づく、そしてある程度近づくと、恐らく間合いの一歩外なのだろうか、そこでピタリと足を止めた。
ジョニーの持つ剣は、先生のよりもニ十センチほど長いらしい。本来ならルール上、この長さでは自分が有利過ぎて試合は出来ないとジョニーは言っていた。それでもそんな物を物ともしないほど先生は強いのか、ジョニーは足を止めると、そこからなかなか踏み込めないでいた。
そこからしばらく、形は違えどクレアと同様に間合いの取り合いをしているようで、二人は睨み合ったまま動かない。
もしかしてジョニー行けるんじゃないの⁉
二人がどういった駆け引きをしているのかは全く分からなかった。だが、クレアのようにチョロチョロ動き回らずどっしりと構えるジョニーに、先生もなかなか踏み込めないように見えた。
しかし流石はレジェンド。突然仕掛けると、それを捌こうと出したジョニーの左手を打ち落とし、体勢を大きく崩した。それでもまだ下半身は残っていたジョニーが強引に反撃を試みると、そんな暇さえ与えずあっという間に剣を首元に持って行った。
その速さは圧巻で、ジョニーの左手を叩いてから首元に持っていくスピードは、まるで剣に重みが無いのかと思うほどで、長い剣をジョニーの首元でピタリと止まる様は、華麗と言わざるを得なかった。
「参りました」
あまりに見事な剣捌きに、ジョニーも素直に負けを認めた。それこそ未だ肩に残る剣に、完敗と言っても過言ではなかった。
それでもジョニーは満足のようで、深々と礼をすると、笑顔を見せながら俺たちの元へ戻って来た。
「惜しかったですよジョニー! もうちょっと練習すれば先生に勝てそうでしたよ?」
「そうです! 惜しかったですねジョニー!」
リリアもヒーも大興奮。それだけジョニーの戦いは素晴らしかった。
「いや、惜しくもなんともないさ。全く入って行けなかった」
「そんなことありませんよジョニー! 一発目はガード出来てたじゃないですか!」
「そうです! あれが見えているのなら、次は対処出来るはずです!」
「いや、あれはガードさせられたんだ。俺が剣でガードしながら踏み込むのを分かっていたんだ」
「そうなんですか⁉」
「あぁ。だから先生は突きをチラつかせて、俺が呼吸を止める一瞬を待っていた」
やっぱ先生はすげぇ! そこまで分かって誘ってたんだ。でもそこまで読み合えるジョニーもやっぱすげぇ!
いつも頼りないが、この時ばかりはジョニーが幼馴染であることが誇らしかった。だが……
「ジョニー。私と戦うときの癖を直さないと駄目ですよ? 剣を相手にするときは剣先を必ず相手に向けて壁を作る。お父さんにいつも言われているでしょう?」
「あ、あぁ……すまない姉さん……」
フィリアだけは納得していないようで、あれだけ素晴らしい戦いをしたにも関わらず説教する。
「ヴィニシウス先生の踏み込みは姉さん以上と思っていて、つい受けに回ってしまった……」
「そんなんだからいつも私に腹を叩かれるんですよ」
「あぁ……面目ない……」
決してジョニーが悪いわけじゃない。フィリアは良くジョニーと手合わせをするらしいのだが、フィリアはとにかく人の脇腹を叩くのが大好きで、驚異的な突っ込みのスピードで毎回ジョニーをサンドバック代わりに使用しているらしい。
そんな目に合わされるジョニーが、先生を相手に受けを選んだのは、ほぼフィリアのせいである。
「今度から気を付ける……」
かなり良い戦いをしたジョニーだが、フィリアが余計な説教をしたせいで、結局ジョニーはいつもの頼りないジョニーに戻った。
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