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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
148/186

“聞いたとは思うが、アドラが死んだ。そして父親のモルドルとフィオラも死んだ。この戦いでパオラが大きな怪我をしたらしい。今の医学でも治療ができないくらい大きな怪我を。だからリーパーはパオラの所に行って怪我を治してあげて欲しい。じいちゃんはまだリリアたちと一緒だから行けないから。パオラは自分の家にいるらしい。詳しくはアルカナの人に聞いてくれ。クレアとファウナもパオラの家に向かった。そこで二人と合流して話を聞いてくれ。     

                             じいちゃんより”


 アドラの死を告げられて一緒に渡された手紙。そこにはじいちゃんからのメッセージが書かれていた。

 

 手紙は遠く離れた船の上という事もあり手書きではなかったが、段落分けもされていないびっしりと書かれた文字は、不器用なじいちゃんを想像させ、そっくりそのまま手紙を写したようなパソコンの文字でも、じいちゃんの声を聞いたような懐かしい気持ちにさせてくれた。


 二人がルキフェル様の聖刻を授かった事は聞いていた。そして二人は父親のモルドル様と聖刻は授かれなかったフィオラさん他、数名の黄泉返りたちと共に行動していたらしい。


 本来同じ聖刻を持つ者同士は、聖刻の奪い合いにより行動を共にすることは難しいと言われている。しかし俺やマリア、カスケードとカマボコを見ると、全てがそうである訳でもないようで、やはりここにも相性があるらしい。


 家族を失ったパオラを想うと辛い気持ちになったが、家族と共に旅が出来たという事実は、ほんの少しだが俺の気持ちを楽にさせてくれた。


 じいちゃんの手紙からは、詳細は全く伝わらなかった。前英雄であるモルドル様だけでも相当な強者のはずなのに、そこにアドラとパオラ、フィオラさんの他に黄泉返りもいるパーティーが全滅した理由。

 まだ祠が開いてから間も無いのに、前英雄を凌ぐ聖刻者が既に存在出来るのか。

 そして……何故それほどまでの強者がもう現れているのに、わざわざじいちゃんたちから離れてクレアとファウナがパオラの元へ向かうのか。


 この船はおそらく、手紙の内容からパオラの元へと向かって出発しているから、俺がパオラの治療のために向かわないという選択肢は無いのだろうが、分からない事だらけだった。

 ただ、じいちゃんが向えと言っている事から、パオラの所へ向かう事は俺にとっても大きなメリットがあるはず。


 今はじいちゃんを信じ、又人間であるリーパー・アルバインの気持ちを落ち着かせるためにも、導きに身をゆだねるほかなかった。


 船の旅は、行きを考えると陸まで二週間は掛かる。その間はアルカナの人たちが受けた連絡以外で情報を得る方法は無い。

 仮にその方法で情報を得ても、今の俺に出来る事は殆どない。


 それに、俺自身がそれほど周りの動きに関して興味が無かった。


 確かにリリアたちの事は心配になることもある。だけどリリアたちにはじいちゃんが付いてるし、ジョニーは俺が心配するほど弱くは無い。

 マリアにだってフウラやツクモがいるし、他の同級生も俺よりはずっと強い。第一、考え出せば心配は尽きない。

 キャメロットで一番弱い俺がそんな心配をしている暇など無く、今まで情報を得ようとしてこなかったのは、結局興味が無かったわけではなく、自分の事で精一杯だったという言い訳だった。


 しかしアドラの死により、その言い訳も通用しなくなってしまった今、表の聖刻者の俺と本体のリーパー・アルバインとの葛藤をしなければいけない局面に立たされていた。


 とにかく考えがまとまらなかった。表の俺は冷静に事態の把握のために考察をしたがり、裏の俺は感情的な思想で自分に都合の良い事ばかり考える。その二つが入り混じるせいで、上手く心という物のバランスが取れなくなっていた。


 さらに悪い事に、命と魂。この二つさえ理解できればアズ様の力を発揮できると思っていただけに、心というものも生命には必要なのだと知ってしまった事がさらに頭を使わせ、やる気まで失わせていた。


 この混乱はしばらくの期間俺から時間を奪った。それは貴重な時間を費やし、結局結論は出ないままほとんどの船の時間を失う事になってしまった――

 

 

 

 早朝、やっと朝日が顔を見せた頃、船は港に辿り着いた。


「んじゃ、ありがとうなラクリマ。また何かあったらよろしく頼むよ」

「うん。リーパーたちも気を付けてね」

「あぁ」


 ラクリマとは道すがらたまたま行動を共にした仲。他にもラクリマは公務もあり、ここからはまた別行動だった。


「ラクリマたちも気を付けて行けよ。法女様って言っても聖刻者なんだから、油断するなよ」

「大丈夫。私には予言の力があるし。それに、カマボコもいるから」


 ラクリマとカマボコは、聖刻で引き付け合ったわけじゃなかった。だけど今のカマボコは、フルたちに裏切られたショックがデカかったようで、しばらくはラクリマと行動を共にするらしい。まぁそれも本当にしばらくの間という感じだろう。


「元気でやれよ相棒」

「あぁ。また会おう」


 長い船の旅の中で、カスケードとカマボコは、俺の言う通り喧嘩もせずに仲良く勉強をしていた。その中で二人は絆を強めたようで、まるで親友のように別れの挨拶をする。


「お前たちも気を付けて行けよ」


“あぁ。相棒も死ぬなよ”

“あてぃしあてぃしさ。カマボコの事忘れないから!”


「また会えるさ。それまで元気でな」


“うん!”


 どうやらカマボコは意外と面倒見が良いようで、すっかりチンパンとフォイちゃんも懐いていた。


 奪い合いもせず、聖刻についてカスケードと理解を深め、チンパンとフォイちゃんにも懐かれるカマボコは、ウリエル様の聖刻が被るという理由だけで一緒にはいられないが、もう俺たちの仲間と変わりなかった。


「じゃあ俺たちは行くよ。パオラが待ってる」

「うん……」

「どうしたラクリマ?」

「ううん。何でもない」

「そうだな」

「うん」


 おそらくラクリマは、この先俺たちに何が起きるのかを予見している。だけど俺は聞く必要は無いし、ラクリマも言う必要は無い。

 それを理解しながらも口を開こうとしたラクリマからは、愛情を感じた。


「じゃあまた会おうぜ! それまで元気でいろよ!」

「うん!」

「じゃあな!」

「バイバイ!」


 こうして俺たちの長い船の旅は終わった。これから俺たちは飛行機に乗り、パオラがいるエジプトを目指す。

 そこでクレアたちと合流し、パオラたちに何があったのかを知る。


 その旅は目的がはっきりとしており、今までのような行き当たりばったりのような旅とは違い順調そのものだったのだが、未だに俺の中では心の整理が付いておらず、モヤモヤは消えていなかった。

 友を失ったことによる心の認識。それはとても繊細で理解し難く、あれだけ時間を費やしても自分ではどうしようもなく、未だにほとんど投げっぱなしの状態に近かった。


 この先パオラと出会い話を聞き、どう感じどう変化していくのかはさっぱりだが、そこには大先輩である前英雄のクレアの祖母であるファウナがいる。

 

 今は分からない事をどうこう考えていても仕方がなく、気持ちを切り替えて一路パオラが待つエジプトを目指すのみだった。


 フィオラについて。


 フィオラは、モルドルとは血縁関係にありません。彼女は、アドラとパオラの教育係りとして養子に迎えられた黄泉返りです。

 聖刻を与えられなかったのは、加護印を発現させる際にエヴァに頼みズルをしたからです。 

 

 加護印は、遺伝ではなく、生き様の影響で発現率が上がります。フィオラもモルドルの影響により加護印がもう少し頑張れば発現しました。 

 それでもエヴァに頼んだのは、姉として二人を守ることを選んだからです。 

 

 そのため、仮にほとんど発現していても、ズルはズルのため、フィオラは聖刻を与えられませんでした。


 

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