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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
139/186

有名人

 拝啓 


 平素はひとかたならぬご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。私は増々の繁栄を目指し、日々精進しております。


 最近は、魔王復活に伴い世間は忙しないと思います。狂暴な爺さんも多々多く見られ、世は正に世紀末へと進んでおります。

 皆様方もご健康にご注意いただき、ご自愛くださいますようお願い申し上げます。

                            

                                  敬具


 ラファエル様の祠を目指す旅も、いよいよ後半へ入った。道中暇でやることが無かった俺の格闘訓練も終盤へと差し掛かり、俺のスーパーサイヤ人の限界を超える修行も残すところあと僅かとなっていた


「ほぉおおおわっ!」


 とても長く辛いボコボコにされる訓練。ここまで来ると俺もかなり成長し、今や北斗の拳並みの声を出し、投げ飛ばされるくらいの強さを手に入れていた。


「相手の重心をもっと意識した方が良い。起こりにばかり意識が行って、その後が軽すぎる」


 本気になった彼らは、マジで頭がおかしかった。おそらく彼らはこればっかり、いや、これしかしてこなかったからこんな事しか出来ず、全然訓練になっていなかった。


「体重、筋力では俺の方が遥かに上だ。そこを考慮して動かなければ、いくら懐に入っても同じだ」


 もう彼らはめちゃめちゃ強くて、今現在相手にしているドゥエイン・ジョンソンみたいな人にすら俺は全く勝てない。そのうえ彼らは、脳筋みたいな体してるのに滅茶苦茶技術もあって、やっとこさブロッキングやパーリングを覚えても、少し触れられれば合気道のように投げられる。

 彼らはもう、聖刻で倒してしまった方が楽だった。


「そう言われたってドゥエインさん」

「何度も言うが、俺はドゥエインじゃない」

「とにかくさ、次々新しい技出すのやめてくんないっすか? これ、俺の訓練ですよね?」

「それだけ君が強くなっている証拠だ。君はかなり優秀だ。三度も同じ技を見せれば対処してくる。俺も手加減できなくなっているんだ」

「いや、一回喰らったら死ぬような技なら、三度も受けてやっと対処してる俺は、センスねぇですぜ」

「あれだけ死んで、それだけ余裕がある人間は、十分才能がある」


 命がけのぶつかり合いは、俺たちの絆も深めていた。今では互いにジョークを言えるほどで、意外と楽しいが、本来ならピストルで撃ち合ってもおかしくない関係だった。


「さぁもう一度だ。相手の重心の意識を忘れるな」

「了解」


 こんな感じで、日を追うごとに彼らとの関係は良好となり、訓練は順調に続いていた。


 このままいけば、帰りも併せて船を降りた時俺はかなりのレベルアップが期待できる。ただ船に乗って時間だけを無駄に費やすはずだった旅だが、アルカナの援助には大いに感謝していた。


 そんな旅だったのだが、聖刻の旅とはそんなに甘いものでは無いようで、ラファエル様の祠までもう少しとなったある日、試練が訪れた。


 それは、いつも通り訓練している最中だった。


「ん? あの、ちょっと待って貰えますか?」

「え? うん、いいけど……どうしたの?」


 バイオレットさんとの楽しい訓練中だった。かなり訓練には集中していたのだが、そんな俺でも気付くほど、強い聖刻者の気配を感じた。それも四人も。


「おいラクリマ!」

「分かってる」

「えっ! どうしたの二人とも⁉」


 聖刻の気配はやはり聖刻を持つ者でなければ分からないらしい。これだけの強者が揃う中でも、この気配に敏感に反応したのは俺とラクリマだけだった。


「聖刻者です」

「聖刻者?」

「恐らく四人。この船に近づいてきます」

「え! 皆直ぐ動いて!」


 俺が状況を伝えると、さすがは直属部隊。全員が目を合わせると直ぐに訓練は中止となり、厳戒態勢に入った。


「ラクリマ! カスケード達にも伝えてくれ! 甲板で迎え撃つ!」

「二人ならもう行ってる。安心して」


 流石は我がチーム。普段はあんなんだけど、いざという時には頼りになる。


「じゃあ俺は行く。ラクリマは安全な所にいてくれ」

「いえ。私も行くわ」

「えっ⁉ で、でも……」

「私も聖刻者よ。何か問題でもある?」

「い、いや……でもよ、相手はラクリマには関係ないぞ?」


 ウリエル様、ミカエル様、ラファエル様、ルキフェル様。感じる聖刻の気配はこの四つ。俺は二つの聖刻には用はあるが、チームメイトでもなく聖刻も関係ないラクリマには、戦う必要がなかった。


「船が壊されたら大変でしょう? それに四対四なら私も参加しても良いじゃない?」

「良いじゃないって……戦う気かよ⁉」

「私、戦うの好きよ」


 なんか『ワタシ、タタカウ、スキ』みたいなロボットのような事を言うラクリマは、本当に戦うのが好きなようで、とんでもなく嬉しそうな顔を見せた。


「でもラクリマ法女様だろ? なんかあったらどうすんだよ?」

「それ、私に言ってるリーパー?」

「そうだけど……いや、済みません……」


 ちょっとラクリマの事を馬鹿にしていた節があった。それにカチンときたのか、ラクリマは言葉ではなく、聖刻の力で威圧するという態度で示した。

 その聖刻の強さ足るや、格上のアズ様の聖刻を持つ俺ですらビビる程で、間違いなく俺よりは圧倒的に強かった。


「とにかく早く行こう。もしなんかあっても私の責任だから。それに、船壊されたら大変だから」

「わ、分かった……」


 この圧倒的な聖刻の力は、いくら世界最強部隊と言えど、バイオレットさんでも口を出せるレベルではなく、法女様には誰も逆らえなかった。それに、こんなバカでかい船でも聖刻者同士の戦いなら簡単に沈没させられるため、守りとして参加して頂けるのはこちらとしても大変有難かった。


 そんな感じで、誰も逆らえるはずもない法女様にご同行頂き、俺たちは甲板へ出た。


 甲板に出ると、そこには既にカスケードとチンパンが煙草を咥え立っていた。その後ろ姿はまるでワンピースのゾロとサンジのようで、チンパンジーとニコチン中毒者だが格好良かった。


「フォイちゃんはどうした?」

「フォイは部屋にいる。まだ戦えるレベルじゃないからな」

「そうか。サンキューカスケード」


 この辺の気配りは完璧。フォイちゃんなら自分も戦うと言うのを宥めてくれた苦労を思うと、有難かった。


「相手は?」

「もう間もなく来る。多分もう見えてるだろう」


 船の甲板は海上から高いし、戦うには十分な広さがある程やたらデカい。だからここからでは相手の姿は隠れて見えない。だがもうすぐそこまで来ており、確認に行く暇が無かった。


“ダンナ。そのべっぴんさんも参加するのかい?”


「あぁ。船が沈没するのはマズい。基本的に戦うのはお前らだけど、守りは厚い方がいいだろう?」


“そりゃ相手次第だぜダンナ”


「それは分かってる。でもこの船にはフォイちゃんも乗ってんだ。船の安全は優先しろよ」


“了解だぜダンナ”


 相手が向かってくる以上、聖刻が狙いなのは間違いない。カスケードとチンパンの持つ聖刻が相手を引き付けたのなら、それ以外の無駄な戦闘は避けたかった。


「一応言っておくが、チーム戦になったらチンパン、お前はラクリマも守れ。ラクリマはあくまでゲストだが、そうなったら俺たちの仲間だからな」


“分かったぜダンナ”


 ラクリマはチームメイトではない。今はたまたま目的が同じで一緒に行動しているだけの共闘関係。船の心配が無ければ戦闘には参加させたくはなかった。

 

 そんな俺の気持ちとは裏腹に、ラクリマは楽しそうに言う。


「ゲストなんかじゃないよ。私も仲間として戦うよ。だから、よろしくね、チンパン、カスケード」


 意外とラクリマは俺たちのチームと気が合うらしい。ほとんど会話なんてしていないはずなのに、ラクリマが言うと二人は認めたように笑みを見せた。


 そのタイミングで、いよいよ相手チームが姿を見せる。


 相手チームは小型の船か何かで移動していたのか、突然船首に飛び上がって登場した。


 ファーの付いた革ジャンを着た、色黒の白髪の青年。僧侶みたいな服と杖を持った青年。お洒落な黒いロングコートを着た青年。そして最後に普通のジーパン姿の女性。

 全員俺と同じくらいの年齢の若者で、かなり戦い慣れした雰囲気を醸し出していた。


「よう。あんた知ってるぜ。エドワード・アルバインの孫だろ?」


 最初に話しかけてきたのは、ルキフェル様の聖刻を持つ、革ジャンを着た白髪の青年だった。


「なんで知ってんだ? どこかで会ったことあったか?」

「何言ってんだ? あんたネットとか見ねぇのかよ? あれだけ暴れ回って知らねぇ奴はいねぇよ」

「はぁ? 何言ってんだ? 俺がいつ暴れ回ったって?」

「ハハッ! あんた日本で沢山殺したんだろ? 大男と一緒になって」

「えっ⁉」

「会いたかったぜ」


 まさかと思った。だがそのまさかだった。俺が大阪でブロリーと戦った時、沢山の人を巻き込んだ。その時は写メを取っていた人も沢山いた。

 ニュースなんて見ないから気付かなかったが、今彼に言われて初めてネットの怖さを思い出すと、俺が有名人になっていてもおかしくなかった。


「お、おいおい……あ、あの~……そのネットの記事に、なんて書いてありました?」

「街壊して、五人くらい殺して、警察も沢山殺したって書いてあったぜ。それにあのキャメロットの生徒なんだろ? なぁ、サインくれよ?」


 全部バレてる⁉


 大変な事になっていた。どうりで最近リリアたちからメールこないなとは思ってはいたが、そういう理由らしい。


「ついでにあんた、死なないんだろ? 書いてあったぜ?」

「えっ⁉」

 

 おまけに俺の切り札まで公開済み。今まで必死こいて爺さんたちと訓練した日々が既に無駄だったと知ると、なんかバイオレットさんのおっぱい以外は意味が無かった。だが諦めるわけにはいかなかった。


「そ、そんな訳ねぇ~だろ。オメェは漫画の見過ぎだ。そんな奴いるわけねぇだろ。お、俺の通り名は不死身なんだよ」

「へぇ~。不死身のリーパーか。そいつは楽しみだぜ」


 やっべぇ! 変な通り名作っちゃった! 絶対そのうちゾンビになる!


「とにかくおっ始めようぜ。そっちの法女様とも戦いてぇし」

「はぁ? オメェらチーム戦がしたいのかよ?」

「当たり前だろ? 一対一じゃ誰も俺に勝てねぇだろ?」

「随分と自信満々だな?」

「自信じゃねぇよ、事実だ」


 このルキフェル様の聖刻者は、おそらくアドラと同じタイプ。口調や態度から同じ臭いがプンプンした。


「まぁ待てよ。この戦いは、ウリエル様とミカエル様の聖刻者が主役だ。先ずはそっちの挨拶が先だ」

「はぁ? 関係ぇねぇよ。全部殺せば済む話だ。とっとと始めるぞ」


 育ちの悪いアドラ。正にそんな感じ。全く人の話を聞かない彼は、そう言うと案の定大きな斧を作り出し担いだ。そして後ろにいる仲間を従者とでも勘違いしているのか、乱暴に首で合図を送った。


 その合図を受け、僧侶みたいな恰好をしたミカエル様の聖刻者は、仲間全員にバリアをダイバースーツのように着せた。と思った矢先、本当に育ちの悪いチームだったらしく、突然彼らは襲い掛かり、戦闘が勃発した。


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