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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
136/186

現役最強? 

「じゃあいつでも良いよ」

「分かった」


 世界最強軍団との一対一での訓練。その中で俺は与えられた課題をクリアした。しかしその課題は一つの項目に過ぎなかったようで、次なる課題へ向かうため、一時俺は最強を自負するラクリマと戦う事となった。


「じゃあ行くぞ?」

「それは言わなくても良いよ。好きなタイミングで始めて。それに別にそれ使わなくても良いし、私のおっぱい揉んでも良いよ。好きなようにしていいから」


 一応スポンジの棒を武器として与えられていた。だがラクリマは相当自信があるようで、自分に何をしても良いという。

 もしこれが、初めからラクリマとの訓練だったら、あんなことやこんなこと、それこそあんなことまでしたかもしれないが、達人たちと命がけで訓練した今の俺に対しては余りにも舐め腐った発言だけに、思い切り脳天をカチ割るには十分に価した。


「うおりゃっ!」


“バコンッ!”


「あおっ!」


 勝負開始僅か数秒、ラクリマ敗北。


 超弱かった。そりゃもうびっくりするくらい弱かった。


 ラクリマは棒を構えず不敵に棒立ちしていて、脳天はガラ空きだった。だから爺さんたちのような強者感はヒシヒシと感じたのだが、やっぱり弱かったようで、思い切り頭を叩きに行くと、全く何もできず俺の一撃をモロに喰らっていた。


「…………」


 あまりの弱さに、『ほら言った通りだろ?』とも『大丈夫か?』なんて言葉さえ出て来なかった。寧ろ何しに出て来たんだと思うほどで、出来ればもう一発くらい殴ってやりたかった。


「ちょっとタイム! やっぱり本気出すわ」


 本気の意味が分からなかった。殴られた頭を触り痛がるラクリマの、本意気が何処にあるのか分からなかった。


 でも何処かには本意気があったようで、ラクリマはバイオレットさんの所に向かい何かモチャモチャすると、目を瞑って戻って来た。


「もう一回よリーパー。今度はもっと本気で掛かって来て」


 もう止めた方が良い気がした。今度は目も瞑っているし、鼻血なんて出ようもんなら俺が怒られる。もしかしてそういう意味で勝とうとしているんじゃないのかとさえ思ってしまった。


「な、なぁ? 本当にやんのか?」

「当然よ」

「じゃ、じゃあさ、せめて目を瞑んのやめてくんない?」

「開けたらリーパー勝てなくなるよ? 本当に良いの?」


 じゃあさっき何で目を開けてて負けたんだよ! ラクリマにあるリリアみたいな性格は、一体何なのか不思議だった。


「とにかく一発打ってみて? もしまた私に一発入れられたら、あんなことやこんなこと、リーパーが言う事なら何でも言う事聞くから」

「本当か?」

「ええ」

「じゃ、じゃあ! もももし! 俺が勝ったら! パン……」


“パコンッ!”


「はい私の勝ち」


 今のはズルい。あんなこと言われれば、いくら人知を超えた存在となった俺でも、性に囚われる。その瞬間を狙っての攻撃は反則だった。


「今のは無しだろ?」

「冗談よ。じゃあそろそろ本気で行くわよ」


 そう言ってラクリマは目を開けた。


「なっ、なんだよその目⁉」


 黄色く透き通る瞳。ラクリマの瞳は赤い色をしていたはずだが、その瞳の色は人の目の色をしていなかった。


「私の目ね、直接見ると色々見え過ぎちゃうの。だからいつも特別なコンタクト入れて見えないようにしてたの」

「それって、聖刻のせいか?」

「そうみたい。だから気を付けてね、リーパーが何を考えてるかも分かるから」

「まじか⁉」


 ラクリマは生まれつき聖刻を保持していた。天性のその力はおそらく前英雄であるじいちゃんたちにも匹敵するだろう。しかし本当に心まで読めるとは思ってはおらず、下手をすれば現役最強かもしれないラクリマに驚いた。


「じゃあ始めるよ?」

「ちょちょっ!」

「はいっ!」

「えっ⁉」


 神眼まで使い出したラクリマの力には計り知れない脅威を感じたのだが、どうやらそれとこれとは別なようで、ラクリマが振り出す攻撃はさっきと全然変わらないへなちょこショットだった。


「攻撃してこないとドンドンいくよ~」


 全く活かしきれない聖刻の力。それなのにどこから湧いて来るのかラクリマは自信満々。

 こういう所が、ガブリエル様が七英雄から外された理由だと勘違いしてもおかしくない過剰っぷりには、身の程を知った方が良いと思ってしまった。

 だからもう一発思い切り頭に打ち込み、世界の広さを教えてやる必要があった。


「ほらほらほらほら」


 俺が距離を取ると、ラクリマは増々調子付いてポルナレフ並みのラッシュを繰り出す。しかしその攻撃は遅く雑で、しかも手打ちで、まだ蠅叩きを持たせたリリアの方が強そうだった。

 そして体力の無さで、既に息切れ。


「ハァ、ハァ、ハァ……ほらどうしたの……かかっておいでよ……」


 良くこの体たらくで『自分はこの中で最強だ』なんて言えた。そのくらいラクリマは弱く、全く使えない神眼は必要なかった。

 そんでも一発入れなければ終わりが見えない状況に、とにかく形だけでも一本を取ってやらなければならなかった。

 そう思い攻撃に転じようとすると、ここで不思議な事が起きた。


「え?」

「はい一本」

「えっ⁉」


 ハァハァ息を切らしていたラクリマ。体力も尽き最早スポンジ棒すら構えていなかった。そのはずなのに、俺がいざ行こうとした瞬間、いきなりスポンジ棒を持つ右手首を斬りつけられた。


「今のは無しだろ? たまたま当たっただけ。俺が油断しただけだよ」

「そう?」

「当たり前」


 本当にたまたま。今のはただタイミングが良かっただけ。それもたまたまラクリマが振ったのが俺の手首に当たっただけで、威力も全くなかった。これで良いのなら遊びにしかならない。


「それじゃあ、いつでも良いよ、リーパー。ちゃんとやろう?」


 偶然でも俺から一本を取ったことが嬉しいのか、ラクリマは余裕を見せる。その脳天をカチ割らなければならなかった。


「じゃあ行くぞ。今度は本気だ!」

「いつでもどうぞ?」


 ここからが本意気の戦い。もう油断やラッキーなど一切無い。真の強さが求められる。ラクリマには悪いが、ここで死んでもらうしかなかった。


「行く……」


“トンッ”


「ぞ……え?」

「はい私の勝ち~」


 またあり得ないことが起きた。今度はまさかの首を突かれた。それも突かれるまで気付かないタイミングで。


「い、いや、今のも無しだろ……ほ、ほらっ! 今のは俺が行くぞって声出したから!」

「え? そうなの?」

「そっ、そりゃそうだろ! 今のは俺がタイミング教えちゃったから!」

「そうか~……まぁ別に私は良いけど。じゃあもう一回やろう?」

「あ、ああ! もちろん!」


 油断していたわけじゃないし、今のなら俺自ら刺さりに行っているから間違いなく一本。だけどやっぱりたまたまじゃあ意味が無い。


 このままラクリマのまぐれ勝ちで終わってしまっては、折角訓練に付き合ってくれたバイオレットさんたちにも悪く、深呼吸をして集中力を高めて再度挑むことにした。


「じゃあ、試合始め」

「…………」


 今度こそ本意気。ラクリマはまぐれ勝ちの連続で余裕を見せているが、こっちにはもう容赦なんてものは存在していなかった。


 しっかり距離を取り、間合いを詰める。そして呼吸を読まれないよう、モーションも読まれないように無駄な動きは見せない。

 ラクリマは依然スポンジ棒を右手に下げたまんまで、簡単に俺に間合いを取らせる。後は読みも利かせないようにして狙いをギリギリまで定めず、俺のタイミングでこの状態から最も打ち込みやすい箇所へ打つのみ。


 これでもう偶然なんて起こる事などあり得なかった。もしこれで起こるのなら、奇跡に近い運以外ない。

 ラクリマは確かに運は強いかもしれない、だけどガブリエル様は決して幸運の天使ではない。これを覆せるのは神しかいなく、その神の力を持つ俺に対しては絶対にあり得ない。

 奇跡など起きるはずも無かった。


“一点集中! 狙うは首!”


「フ……」


“ぽすん……”


「ッ……ぇ……?」

「はい私の勝ち」

「…………」


 行こうとした瞬間、首を斬られた。それもぬる~んと滑るように。何が起きたのか全く理解できなかった。


「どう? まだやる?」

「え……い、いや! い、今…え?」


 そこまで言った瞬間、気付くといつの間にかラクリマが突き出すスポンジ棒が、俺の首先にあった。


「分かるリーパー? これが私の力。私は別に凄く早く動けたり、凄く力がある訳じゃないけど、誰よりも早く先に相手に攻撃を当てれるの」


 スポンジ棒を突き付けたままラクリマは言う。そこには少しでも動けば首を斬られるような“予感”があり、全く動けなかった。


「バイオレットたちはこれを“先先の先の先”って言うんだって。これが出来ればどんなに速く動ける相手でも、どんなに力の強い相手でも、何もできなくなるんだって。まぁ、私はそうは思わないけど」


 ここでようやくラクリマはスポンジ棒を下ろした。するとまるで金縛りが解けたように体に自由が戻った。


「まだやる?」

「い、いや……俺の負けで良い」

「そう?」


 カラクリは分からないが、これを狙ってやっていたことが分かると、今の俺には攻略は不可能だった。


「で、でも、どうやってやったんだ?」


 まるで動かす前から腕を掴まれていて、無意識にでも少しでも動かせば即座に強く握られる感じ。それが体中にあって、全ての動きが常に読まれている。それも全ての攻撃が意識の外からやって来ていて、文字通り何もさせてもらえない。

 ほぼ神の力だった。


「この目……ガブリエル様の力。私の目ね、コンタクト外すと少し未来も見えるの」

「マジでっ⁉」

「うん。その未来が見えるから、後はその動く場所に剣を置いただけ。そしたらリーパーが勝手に当たってくれるから」


 聖刻は強さではなく使い方。運動能力ウンチのラクリマに全てを掌握された事実は、この言葉を痛感させた。

 

「覚えておいた方が良いよリーパー。どんなに強い力持ってても、相手を倒せなければ意味が無いの。リーパーは自分の不死の力じゃ相手は倒せないって思ってるけど、相手に負けを認めさせるだけなら出来るでしょう? 戦いって、結局は相手に負けを認めさせる心理戦なんだよ」


 今俺は、間違いなくラクリマには勝てないと思った。それはこの戦い方においてはのはずなのに、気付けば全てにおいて勝てないとまで感じた。

 如何に相手を自分の土俵に引きずり込み、効率良く負かす。そしてそこから思考力を奪い、全てにおいて勝てないと思わせる。


 この訓練は時間潰しの基礎訓練だと思っていたが、きちんと戦いの本質を教えてくれていた有難い物だと分かると、たまにはバカンスも悪くは無いのだと思った。


 ラクリマの聖刻レベルは、18相当です。

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