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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
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訓練

 広い広い大海原。快晴の空に半袖が丁度良い気温。風も程よく、煌めく海面は船首に白い飛沫を上げる。

 俺たちが次に目指した先は、フォイちゃんを待つラファエル様の祠だった。


「選手交代じゃ。傷を癒せ」

「くそっ!」


 フォイちゃんが目指す祠は、ポイントネモと呼ばれる滅茶苦茶遠い海だった。

 そこは地球上で最も大陸から離れた地点らしく、到達不能極とも言われているくらいの海のど真ん中らしい。

 

 既にリリアたちが、エリックとスクーピーの聖刻獲得のために行ったらしく、フォイちゃんが貰える聖刻も分かっているため、俺たちはアルカナが用意してくれた豪華客船でそこを目指した。


 この旅には今回暇……というか、聖刻の争奪戦が始まったことで色々と危険が迫っているという理由でラクリマも同行することとなった。これで警備も万端となり、忙しかった旅も久しぶりの休暇となるはずだったのだが、貧乏には暇が無いようで、俺たちの暫しのバカンスは、夢のまた夢となった。


「ぐわっ!」


 片道二週間以上もある船の旅。つまりその間俺たちは、豪華な船で悠々自適に過ごさなければならない。美味いもん食って、ゲームして、プールで遊んで、ボウリングして、映画見て、プラモデル作って、ギターなんか始めちゃったりしたりして、人間らしさを失わないように努めなければならない。なのにそんな事を当然のようにじいちゃんたちは許さなかった。だからラクリマ一行が同行した。


 それは勿論、その時間で修行すれという事だった。


 実際リリアたちもポイントネモを目指す際にはみっちりしごかれたらしく、フィリアに関してはそこで同行していた自分のじいちゃんから、引き継いだのか奪い取ったのかは知らないが、とにかく聖刻をパワーアップさせたという。


 そんな話を聞いたもんだから、俺たちも何もしないというわけにはいかず、現在終了チャイムギリギリに必死こいてテストを解く学生のように頑張っていた。


「攻める事よりも、もっと守る事に集中せい。訓練の目的を忘れるな」

「分かってるよそんな……のわっ!」


 現在俺が受けている訓練は、ラクリマ直属部隊の化け物たち相手に、実戦形式の一対一で守りの技術を身に付ける事を目的とした訓練。

 

 俺の戦闘記録はじいちゃんにも伝わっているらしく、どうやら俺は、身体能力とか知識とか以前に、不死の力に頼りすぎているのが駄目らしい。そこを治さなければ、いずれはカスケード達だけじゃなく、近くにいる者なら誰からでもお構い無しに命をガンガン奪うようになってしまうらしく、下手をすれば魔王と間違えられて討伐される可能性もあるんだとさ。

 俺的には攻撃面に関しての知識や技術が足りないと思うのだが、プロから見ても防御は基本中の基本らしく、やっぱり自分の身を守る術は絶対不可欠なんだとさ。


 そんなわけで、武器は使わない。対戦中は聖刻の力は使わない。傷の治療は勝手に行わず、渡された薬を飲んでから。のルールに加え、一切休憩は無しで、相手がクリティカルヒットを受けたと思うまでの条件で、守りを意識しながら既にもう何日過ぎたのか分からないくらいぶっ通しで訓練が続いていた。それも化け物たち相手に。


「常に重心を意識せい」

「おわっ!」


 ラクリマ直属部隊は、疲れたら交代して俺の相手をする。俺は聖刻の力があるから、大怪我をしても疲れても、それこそ飲まず食わず眠らずでいくらでも行動が可能。にも関わらず、この人たちは聖刻者以上に強く、未だに全く歯が立たない。

 特に今相手をしている殺し屋一家の頭みたいな爺さんは異常に強く、パワー、スピードに加え、合気道まで達人クラスで、ほぼイジメだ。

 一応みんな手加減はしてくれているようで、まだ即死は二回くらいしか無いのだが、いつまで経っても進歩は無く、いっそ聖刻の力で皆殺ししてしまった方が早いんじゃないかと、近頃思うようになっていた。


 そんな日々を……あ、一応カスケード達にも訓練はあるみたいで、多分チンパンはバナナの皮を剥いて食べる訓練をしていたり、カスケードは煙草も吸えず誰かがパチンコをしているのをひたすら見る訓練をしたり、フォイちゃんは巣の作り方や蜂蜜の取り方を練習していると思う。

 

 そんな日々を過ごしている今日この頃も続いていたある日。いや、そんな日々が続いていたからこそ、遂に俺は壁を突破した。


 “むにゅ”


「はっ!」


 その日俺は、遂にやり遂げた。


 その瞬間の相手は、バイオレットさんだった。俺が『遠距離攻撃に対しても戦い方を覚えたい』なんて言っちゃったから、その気になったバイオレットさんは鎖分銅みたいな刃物をブンブン回して俺を殺そうとしていた。そんな中、数々の暴力を受け続けてきた俺は見事にその殺意溢れる刃を躱し、懐に入った。そして遂に俺は、ガラ空きとなったバイオレットさんの胸を鷲掴みすることに成功した。


 布越しでも分かるブラジャーの感覚。それでも尚両手一杯に伝わる柔らかい弾力。

 クリティカルヒットを与えろというルールだったが、殴るわけにも傷つけるわけにもいかず、それでいて確実なクリティカルヒットを強者に与えるには、申し分ない一撃だった。


「っしゃぁぁぁ!」


 達人の攻撃を躱した事、達人に一撃入れた事、おっぱいを触れたこと。それはスポーツ漫画で、全国大会出場を賭けた試合で決定打とも言える一点をもぎ取った瞬間のようで、まるで自分が登場人物になったかのような錯覚さえする偉業だった。


「さすがリーパー君ね。こんな短期間でここまで出来るようになるなんて、やっぱり良いセンスね」

「ありがとうございます!」


 バイオレットさんのおっぱいも触れたし、訓練もこれでやっと終了。酷く辛い訓練だったが、やっと解放されると思うと様々な喜びが溢れ、久しぶりに生きているという実感を得た。

 そんな喜びも、実はまだ終わりではなかったようで、いよいよ黒幕が登場する。


「じゃあ、そろそろ私の番ね」


 おっぱいの余韻に浸る時間も与えないのがこの訓練。やっと終わったと思い油断していると、まさかのラクリマが道着姿で立ちはだかった。


「おい、ラクリマもやるのか? ラクリマって格闘技とかできるのか?」

「何言ってんのリーパー? この中じゃ私が一番強いんだよ?」

「まさか~?」


 ここまで達人たちと相対した今の俺だからこそ、立ち振る舞いで分かる。ラクリマはクソ雑魚。

 背筋は伸びてないし、重心も高い。おまけに軸も通ってない。リリアたちよりは強いだろうが、下手をすればエリックにさえ勝てなさそうな弱弱しさだった。


「本当にやるのか? 悪いけどこんだけ爺さんたちと戦ったんだぞ? ラクリマじゃ無理だろ?」


 手取り足取り何かを教えられたわけじゃない。だけど実践形式の訓練はそんなもんじゃ得られないほどの経験値で俺を成長させた。それもこんな短期間でも、アズ様の力のお陰で飲まず食わず寝ずに加え、常に万全の体調で挑めた。今の俺はナルトの影分身の比じゃないくらいの勢いで経験値を得ている。

 悪いけど、今のラクリマ相手じゃ練習にもならなかった。


「分かってないねリーパー。力や技術を学ぶのがこの訓練じゃないから」

「どういう事だよ?」

「私と戦ってみれば分かるよ。少なくとも私に一発でも入れられないと、次の訓練いけないから」

「次の訓練⁉ いや! もう俺バイオレットさんに一発入れたじゃん! もうこれ以上は無いだろ⁉」


 これ以上になると、それこそ聖刻を使って殺さなければならなくなる。そんなのはもう訓練じゃない。

 まだ何かやらせようと考えているラクリマには、怖さを感じた。


「何言ってんの? バイオレットたちはまだまだ本気じゃないよ?」

「ええっ⁉」


 あれで本気じゃない⁉ もしラクリマの言う事が本当なら、多分爺さんたちは普通に聖刻者に勝てる。そんなはずは絶対に無かった。


「まぁ、私をクリア出来たらその意味が分かるから、とにかくやってみよ?」


 そう言うとラクリマは、俺にスポンジの棒を渡した。


「一応怪我したら五月蠅いから、これ使って。これで私に一発入れたらリーパーの勝ちね」


 渡された棒は、叩いても怪我をしないおもちゃ。“怪我をしたら五月蠅い”はラクリマがという意味だが、いくら何でも今更こんな物でチャンバラしても全く意味はなさそうだった。


「言っとくけど、聖刻は絶対に使わないでね!」

「わ、分かってるよ……」

 

 アズ様の聖刻の力は、やっぱり怖いらしい。こんだけ俺が部下たちにボコられているのを見て、それでも最強だと自負するラクリマでも怖がるアズ様の力は、やっぱり神がかっているらしい。


 まぁそれでも、これだけ訓練したんだし、いくら弱いとはいえ成果を試すには良い機会だと思い、最強を自負するラクリマと少し遊んでやろうと対戦することにした。


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