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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
134/186

仲間

 優しいスズメバチのフォイちゃんとの出会いは、俺に新風と活力を与えた。ただ少し恥ずかしがり屋な一面を持つフォイちゃんは人見知りが激しく、繊細な一面も持っていた。

 本来ならフォイちゃんは、野蛮なカスケード達には会わせられなかったのだが、まだまだ続く旅。いつフォイちゃんの身に危険が迫るとも分からず、身代わりアンド盾は絶対必要だったため、フォイちゃんを彼らの元へ連れて行くのだった……


「喜べお前ら。新しい仲間は別嬪だぞ」


 煙草を吹かしながら、またどうせ下らない話でもしていたカスケード達の元へ行くと、開口一番吉報を届けた。

 それを聞いた彼らは、ニヒルなのかムッツリなのかは知らないが気持ち悪い笑みを見せた。


“本当かダンナ! そりゃ今日一番の吉報だ!”


 どうやらチンパンにとっては、今朝俺が勝利した事など些細な物でしかなかったらしい。流石はチンパンだ。


「やっと俺たちも華が持てるのか。ふぅ~……少しはこの旅も楽しくなりそうだ」


 紫煙を燻らせるサングラスカスケードは、やはりここまでの旅路は糞だったらしい。泣き言一つ言わず、今までこの糞みたいな旅に付き合ってくれていたカスケードもまた、流石だった。


“で、ダンナ。そのべっぴんさんはどこにいるんですかい?”


 ですかい? ここに来てさり気なく口調で優しさをアピールするチンパンは、既に臨戦態勢らしい。


「そう焦るな相棒。今の主役は俺たちじゃない」


“そうだったな相棒。わりぃわりぃ”


 落ち着いた口調で大人の余裕をアピールするカスケードは、やっぱり既に臨戦態勢に入っているらしい。


 所詮こいつらも男。いや、こいつ等だからこそ別嬪というのはそれほど偉大な存在なようで、己を崩さず限界まで男前を演出する姿は、見ていて心苦しかった。


 まぁそんな事などはどうでも良いのだが、逆にこんな気持ち悪いのなら余計にフォイちゃんに近づけたくなかった。それでも紹介しなければ折角来てもらったフォイちゃんにも悪く、とにかく紹介だけでもするしかなかった。


「んじゃ……先ずはこっちの……この……」


 先ずは順番的にカスケードをフォイちゃんに紹介しようと思った。しかしカスケードには特に目立った特徴は無く、分かりやすい表現が見当たらなかった。


「これがカスケード。一応ウリエル様の聖刻を持ってるんだ。そしてこっちの猿がチンパン。チンパンはミカエル様の聖刻を持ってる。ほらお前ら、挨拶しろ」

「……よろしく別嬪さん」


“よ、よろしく頼みますぜ……”


 二人の紹介はこれくらいで良い。二人が何処に対して挨拶すればさえ分からない状況だが、この二人はこれくらいで良かった。


「じゃあフォイちゃん、自己紹介して?」


“は、はいっ! ……わ、私は……フォイ、です……よっ、よろしくお願いします……”


 フォイちゃんは本当に人見知りが激しい。俺の髪の毛の中で一切動くことなく、小さな声で自己紹介する。

 カスケード達がいきなり聞こえた声に周りを見渡す素振りを見せるほどで、その臆病さは最早愛嬌と言えるレベルだった。


「フォイちゃんは恥ずかしがり屋なんだ。特にお前らみたいな奴らなら余計だ。別にフォイちゃんに悪気がある訳じゃないから、気にすんな」

「そういう事なら問題ないぜ大将。それくらいじゃなきゃ別嬪とは言えないしな」


“声だけでも分かるぜダンナ。これほどのべっぴんを引っかけるたぁ、ダンナに選ばれた甲斐があるぜ”


 まぁそうだろう。今まで女性にモテた事など無い二人にとっては、例え姿は見えなくとも女性が仲間になっただけで十分だろう。何より元より礼儀が出来てない二人。ここで姿くらい見せろとほざけば、そこで彼らの旅は終わる。

 寧ろこのくらいの距離感が俺たちのチームには丁度良かった。


「だが大将。本当に大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「確かに気配は感じるが、俺には彼女が何処にいるのか分からない。旅の途中ではぐれたり、戦闘の際に援護できない可能性がある。ゴーストのままではあまり都合が良いとは言えない」


 カスケードの言う通り、それは確かにある。俺だけがフォイちゃんを認識していても、全責任を負えるわけじゃない。やはり姿くらいはカスケード達にも認識させておくべきだった。


「そうだな……フォイちゃん、やっぱり姿くらいはカスケード達に見せてあげてくれない? じゃないと何かあったときフォイちゃんを守れないかもしれないから」


“…………わ、分かりました”


 これが友達なら一生姿をカスケード達に見せなくても良い。だがいつ誰が死ぬかも分からない旅。甘えや油断が僅かでもあれば、それだけでバッドエンドは当然になる。やはり両者の認識は絶対不可欠だった。


“……いっ、行きます!”


 フォイちゃんにとっては、人前に姿を見せるのは相当な勇気がいるようで、ただ姿を見せるだけなのに、アムロ並みの気合を入れた。

 そしてモソモソと俺の髪の毛の中で動くと、やっと姿を見せたようだった。


「た……大将……?」


“だ……ダンナ……それ……”


 彼らは、フォイちゃんが想像以上に別嬪だったことに驚きを隠せなかったようで、カスケードは咥えていた煙草をポロっと落とし、チンパンは口がワナワナしていた。

 それでも直ぐに冷静さを取り戻したのか、カスケードは落ちた煙草を拾い、手を振るわせながらニヒルに『フッ』と笑い、チンパンは口を開けたまま後ずさりして、悲鳴と両腕を上げながら木の影へと逃げてった。


「どうしたよ二人も? そんなにフォイちゃんが美人でビビったのか?」

「い、いや……フッ! あぁそうだ。こんな美人は見た事が無くてな、き、緊張するぜ」


“ダンナ! 俺には無理だ! ほほ、本当にそいつがそうなのか⁉”


「おいチンパン。フォイちゃんにそいつはねぇだろ? お前そんなんだからモテないんだぞ?」


“そそそうかもしれないが、それはいくら何でも……”


「おいチンパン! お前それはどういう意味だよ! お前フォイちゃんを馬鹿にしてんのか!」


 二人の気持ちは分かる。だけど姿形で判断するのは命への冒涜だ。何よりフォイちゃんは仲間。仲間への侮辱はこのチームにおいてはご法度。それを受け入れないのなら、例えチンパンでもここで置いて行くしかない。


 フォイちゃんだって二人の態度にはショックを受けたようだったが、それでも受け入れている様子に、こういう面ではチンパンよりも圧倒的に頼もしかった。


“そ、そういうわけじゃないダンナ! ただ……”


「チンパン。お前いつから目でしか物見られなくなったんだ? 俺はゾンビ、カスケードは左足と指が無い、お前はチンパンジー。そしてフォイちゃんは蜂だ。俺とお前、カスケードとお前、フォイちゃんとお前、何が違う?」


“そ、そうだがダンナ……”


「フォイちゃんはお前の相棒でもあるんだぞ? テメェは気に入った相手しか相棒と認めない猿なのか?」


“…………”


 今の猿発言は、何も考えられない馬鹿という侮辱を込めた悪口。俺は認めた相手にしか馬鹿にした発言はしないが、今のは完全に侮辱するために使った。その違いが分かっているチンパンは、相当今の俺の発言にはショックを受けたようで、ションボリしながら木陰から出てきた。


“すまねぇダンナ……”


「俺に謝っても意味ねぇだろ」


“あぁ、そうだった……すまねぇフォイさん。俺はあんた……俺はフォイさんの事を姿だけで判断していた。フォイさんは優しく強い。ダンナが選んだほどの相手だ。それを分かっていながら俺はフォイさんを姿だけで判断した。許してくれとは言わない。だけど、もう少しだけ俺に時間をくれ。必ず俺は、フォイさんに相応しい相棒になる。だからそれまで、俺が傍に居ても良いか?”


 この腐れチンパンジー。俺が思っていたよりも遥かに男前だった。まだチームとして戦ったことは無かったが、自分たちのチームが予想以上に強いと分かると、それだけで一丸となれた気がした。


 当然別嬪のフォイちゃんにはそんな事など初めから分かっていたようで、あれだけ酷い目に合いながらも全く気にする様子もなく、素直にチンパンの謝罪を受け入れる。


“も、もちろんです! わ、私は……私は小さいですけど、皆さんの相棒になれますか!”


「フッ! もう相棒だよお嬢ちゃん。だから隠れていないでここへおいで。本当にお嬢ちゃんが俺たちを相棒と呼ぶならな」


 そう言いカスケードはここに止まれと指を出した。それを受けてフォイちゃんは、逡巡したが俺の頭を飛び出し、カスケードの指に止まった。


「思ったよりもずっと美人じゃねぇかお嬢ちゃん。これからよろしく頼むぜ」


“はっ、はいっ! お願いします!”


 こうして俺たちは新たな仲間、フォイちゃんと出会った。


「お嬢ちゃん、煙草は吸うかい?」


“た、たばこ、ですか……?”


「これだ」

「おいやめろカスケード! オメェ何してんだ! 指ちょん切るぞ!」


 やはりカスケードだけは、糞だった。


 フォイちゃんは、加護印を生まれ持った普通の働きバチです。リーパーたちが来るまでは、普通の見張り蜂として生きていました。家族とも仲が良く、旅立つ際には温かく見送られています。加護印が無ければ、フォイちゃんは一生この家族と共に生きたいと思っていました。家族環境はこのチームにおいては最も恵まれていたと言えますが、蜂の寿命は短いです。自ら手放さなければならなかったという点では、下手をすれば、このチームにおいて最も恵まれていなかった娘でもあります。


 ついでにチンパンについて。


 チンパンは、三十頭ほどの群れの、次期ボスに最も近い地位に生まれたチンパンジーです。しかし幼い頃に人間の手によってその群れは壊滅しました。その後生き延びて成長したチンパンは、別の群れのナンバー2になりました。しかしその群れも、他の群れとの縄張り争いで壊滅しました。その時にチンパンは、ボスを失い、恋人も失っています。そしてその争いで加護印を発現させています。ちなみに聖刻は、きちんと自分の足で貰いに行っています。

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